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『ふんどしをはいたねこ 』
カーディス=キャットフィールドja7927)&矢野 古代jb1679


 むかしむかし……いいえ、今でもそうですが、久遠ヶ原島という小さな島にカーディス=キャットフィールド(ja7927)という一人の黒猫が住んでいました。
 猫は普通、一匹二匹と数えるものですが、この猫は二本足で歩いて言葉を話すニンジャ=キャットですから、一人二人と数えても間違いではないのです。

 猫には矢野 古代(jb1679)という仲良しのおじさんがおりました。
 二人はとても仲の良い友達で、猫はいつもおじさんに振り回されてはわりと酷い目に遭っているのですが、それがとても心地良く感じるのでした。
 それが「おとこのゆうじょう」というものなのです。
 ええ、決して「どえむ」ではないのです。

 さて、そんなふうにおとこのゆうじょうをえんじょいしている猫とおじさんは、季節ごとのイベントを楽しむことも欠かさないのでした。
「そう言えば、そろそろバレンタインですの(もふ」
 おじさんの家で優雅に午後のお茶を楽しみながらふと呟いた猫の言葉に、おじさんは「そうか、もうそんな時期か」としみじみとした調子で返します。
「ついこのあいだ正月が明けたばかりだと思ったんだが、月日が経つのは早いもんだ」
「ええ、あっという間ですの(もふ」
「俺もおじさんになるわけだな」
「矢野さんは出会った時からおじさまでしたの(もふ」
「それを言うならカーディスさんも出会った時から猫だった……いや、昔は人間だったか」
「今でも人間ですのよ(もふ」
 けれど、中の人はいません。
 それがお約束というものです。

 いえいえ、和んでいる場合ではありませんでした。
「娘にプレゼントするチョコを作らねば」
 使命感と共に、おじさんは立ち上がります。
 おじさんの娘はそれはもう甘い物が大好きで、おじさんときたらそんな娘がもう大大大好きで、目の中に入れても痛くないどころかむしろ目の中に定住させたいほどに溺愛しているのでした。
 そんなふうですから、誕生日やクリスマスのプレゼントは欠かしません――もちろんバレンタインにも。
 この国では、2月14日は女の子が男の子にチョコと一緒に愛の告白をする日とされていますが、その日は元々、大切な人に日頃の感謝を込めてメッセージを書いたカードを贈る日なのです。
 ですからその二つを混ぜこぜにして、お父さんが娘に愛を込めまくったチョコを贈るのは、ちっともおかしいことではないのです――ええ、まあ、程度というものはありますけれど。

 そんなわけで、猫とおじさんはチョコ作りを始めたのです。
 庭にカカオの木を植えて――というのはさすがに間に合いませんから、カカオの実を買ってきました。
 本格的な手作りチョコを作ろうという計画でした。
 それから、ああしてこうして色々やって(略)あっという間に甘くて美味しいチョコの出来上がり。
「後は型に入れて冷やせば完成だな」
「せっかくですから形も可愛くしたいですの(もふ」
 猫が選んだのは、大きな頭に丸っこくて小さなボディの付いた、二本足で立つ猫の型でした。
 チョコが冷えて固まったら型から外し、はみ出た部分をきれいに削り取って、ホワイトチョコで顔を描いて。
「可愛いく出来たな、これなら娘も喜んでくれるだろう」
 出来映えを見たおじさんも満足そうです。
 けれど、じっと見ているうちに何かが足りない気がしてきました。
「ふむ、何だろうな……何か大切なものが欠けている気がするんだが」
「大切なもの、ですの?(もふ」
 何でしょう、ヒゲはちゃんと描きましたし……おへそでしょうか。
「そうか、わかったぞ!」
 おじさんはポンと手を打つと、ホワイトチョコで何かを作り始めました。
「これをこうして、こうだ!」
 出来上がったのは、白く燦然と輝く――

 ふ ん ど し でした。

「よし、完璧だ」
 おじさんはそれをチョコ猫の股間にぴたりと貼り付けると、満足そうに頷きました。
「男たるもの、やはりここはキュッと締め上げねば落ち着かんだろう」
 心なしか、チョコ猫の表情もきりりと引き締まって見えました。
「ふむー、では私も少し手を加えて、もっとオシャレにしてあげますの(もふ」
 ピンク色のイチゴチョコで蝶ネクタイを作った猫は、それをチョコ猫の首元に貼り付けます。
 褌に蝶ネクタイ、人間がそんな格好で町を歩いていたら、間違いなく「おまわりさんこのひとです」になることでしょう。
 でも、可愛くデフォルメされたチョコ猫なら……、チョコ猫でも、やっぱり、へんたいちっくな空気を醸し出していました。
 けれども猫とおじさんは気が付きません。
 それどころか、可愛い可愛いとベタ褒めしています。
「こんなに可愛く作ってしまったら、可哀想で食べられませんの(もふ」
「いや、女の子というものはその点シビアでな」
 困った様子で眉を寄せる猫に、おじさんは言いました。
 彼女達は見た目がどんなに可愛いくても食べ物は食べ物と、割り切ることが出来るのです。
 可愛いヒヨコ型の菓子やタヌキ型の菓子を目の前にして「やだ〜こんな可愛いの食べられな〜い」と言いつつ美味しくいただくのが女の子。
「きっとこれも、頭からパックリ食われるんだろうな」
 とある魔法少女のように――

 その時、不思議なことが起こりました。

 クッキングシートにぺたりと寝そべっていたチョコ猫が、むっくりと起き上がったのです。
 そして叫びました。
『いやにゃ、くびがもげるのはいやにゃ!』
 奇跡です。
 いえ、魔法でしょうか。
 叫んだチョコ猫は一目散に逃げ出しました。
 平べったい体で、ジンジャーマンクッキーの坊やのように。
 チョコが走るのは当たり前です、だってここは久遠ヶ原ですもの。
 けれども喋るチョコはちょっと斬新でした。
「これはきっと、褌のせいだ」
 おじさんは真面目な顔で言いました。
 思春期の女の子が魔法少女になれるように、男の子にも魔法使いになれる条件があります。
 けれども男の子は、その条件を満たしていなくても魔法が使えるのです――そう、褌を正しく締めていれば。
「褌は男の魂を優しく、だがしっかりと包み込み、揺るぎなく支えてくれるものだ。そこから得られる安心と安定は、男に無限の可能性を与えてくれる……だから、そう、魔法だって使えるさ。たとえそいつがチョコで出来ていようともな」

 そんな解説をしているうちに、調理台から飛び降りたチョコ猫は出口を探して駆け回ります。
 まだ固まりきらない足元には梅の花ならぬ、一本歯の下駄のようなチョコの足跡が点々と付いていきました。
「カーディスさん、そいつを捕まえてくれ!」
 ちょこまかとすばしっこく逃げ回るチョコ猫の動きに追い付けないおじさんは、猫に助けを求めました。
 猫はニンジャですから、追いかけっこは得意なのです。
「任されましたの(もふ」
 猫は畳返しならぬキッチンの床材剥がしでチョコ猫の行く手を阻みました。
 急にめくれ上がった床材でバネのように弾かれたチョコ猫は、ぴょーんと飛んでボウルの中にドボン。
 そこにはドロドロに溶けた熱々チョコがたっぷり入っていました。
 チョコ猫は親指を立てると、熱々チョコの海にゆっくりと沈んでいきます。
「ああっ、せっかくの力作が溶けてしまいますの!」
 猫は慌てて救い出そうとしましたが、チョコが熱くて手が出せません。
 何か道具をとオロオロ探しているうちに、チョコ猫の姿は完全に沈んでしまいました。
「残念だが作り直すしかなさそうだな」
 おじさんが溜息混じりに首を振った、その時です。

『われはよみがえる……なんとでも、そう、ふしちょーのごとく! にゃ!』

 ドロドロのチョコを纏い、ボウルの中からゆらりと立ち上がったのはまさしくチョコ猫の勇姿でした。
 チョコ猫は水滴を払うようにその身をぶるぶると震わせました。
『くらえ、ひっさつちょこましんがん! にゃ!』
 ドリルのように回転するチョコ猫、四方八方に飛び散る熱々のチョコ。
 おじさんはそれを調理台の下に隠れてやり過ごします。
 猫は忍法隠れ身の術で難を逃れました。
 攻撃が止んだ頃合いを見計らって、猫は剥がした壁紙の後ろからそろりと顔を出します。
 その目に映ったのは、ひとまわり大きくなったチョコ猫の姿でした。
 いいえ、ただ大きくなっただけではありません。
 Dがひとつ増えていました。
 2Dの平べったい体が3Dになっていたのです。
 立体化したことで、チョコ猫はますます可愛らしい姿になっていました。
「おお、これは是非とも娘にプレゼントしなくては!」
 おじさんは嬉しそうです。
 けれども、このままではプレゼントには出来ません。
「娘ならきっと、暴れるチョコでも平気で食べることだろう。しかし腹の中で暴れられては、さすがに厳しいだろうからな」
 きっと、このチョコ猫は首がもげても生き続けるに違いありません。
 その股間にきりりと締めた褌がある限り。

 そう、褌だ。
 あれを外せば、チョコ猫は魔法を使えなくなる。
 レディの前に裸を晒すのもどうかと思うが問題ない、猫だからな!
 
 そう考えたおじさんは、魔法少女に変身しました。
 ここは深く考えてはいけません、突っ込んでもいけません。
 とにかく、そういうことなのです。
「いくわよ、脱衣マジック――必殺ヤキューケンショットぉぉ!」

 はい、じゃーんけーん、ぽんっ!

 猫の手はパーしか出せません。
 そこにおじさんのチョキが華麗に決まり、チョコ猫のチョコにまみれても奇跡の白さを保つ褌が粉々に――

 なりませんでした。

「くっ、先に砕けたのは蝶ネクタイのほうだったか!」
 褌は最後の砦、考えてみればそう簡単に砕けるはずがないのでした。
「ならば何度でも試すまで! 当たりさえすればこの魔法は100%の効果を発揮するのよ!」
 命中率の高さは伊達ではないと、魔法少女おじさんはキラキラのステッキを構えます。
 けれどもチョコ猫も普通の猫ではありませんでした。
 ええ、どう考えても普通ではありませんでしたが、チョコ猫を作ったのはニンジャ猫です。
 つまり、チョコ猫もニンジャの血を引いているのでした。

 ニンポーを駆使して逃げるチョコ猫、追いかける猫とおじさん。
 おじさんの家のキッチンは、瞬く間にエントロピーが増大していきました。
 それはもう不可逆的に。



 それからどうなったか、ですって?

 そのお話は、また今度――



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja7927/カーディス=キャットフィールド/男性/外見年齢20歳/猫】
【jb1679/矢野 古代/男性/外見年齢40歳/おじさん】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました。

えー、なんだかわけわかんないものが出来上がりましたが……お納めください(そっ
その後チョコ猫はきっと、無事にお嬢さんの手に届けられたものと思われます。
めでたしめでたし。

誤字脱字、口調等の齟齬などがありましたら、リテイクはご遠慮なくどうぞ。
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エリュシオン
2017年03月15日

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