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『因果の輪に作られた席』
アリア・ジェラーティ8537

 磯の香りが風に乗って、アリア・ジェラーティの鼻腔をくすぐる。
 ただ、無意識に歩いていただけなのに見覚えのある村に再び足を踏み入れた。
 ただ、前と違うのは地面に石ころの様に転がる屍と。
 人の形を成した黒いモノ。
 鼻につく程の磯のニオイに混ざって、生き物を分解する菌から発せられる何とも言い難い臭いニオイが脳を刺激する。
 『コレはダメ』と、脳が本能が命令を出す。
 しかし、そんな命令を無視しアリアは黒い人の形をしたモノへと近付く。
「うぁぁぁぁぁぁ……」
 生温い息を吐きながら、人の形をした黒いモノは牙を剥き出しにしながら、アリアの白い首に噛み付こうとした。

 キンッ

 凍る人の形をした黒いモノへ、アリアは手を伸ばし馴れた手つきで欠片を取り、ぽいっと口に放り込んだ。
 錆びた鉄の様でとても塩辛い味が口内を支配する。
「どんな、味がいいかな……」
 と、呟きながらアリアは、凍ったソレを台車の中にある鉄性のバケツに入れる。
 彼女が思う様な味に変え、色も変え、冷たいバケツに『アイス』として入れた。
「あの人……知っているかも」
 浜辺に以前来たときに村の歴史を話してくれた、若き当主でありアリアのコレクションとそっくりな少女が居た。
 長い髪が潮風に吹かれ、揺れるその背中に向かってアリアは柔らかい砂の上を歩く。

 暗き 入れ物に 仕舞う
 帰れ 帰れ 我が母の元へ
 消せ 消せ 忌み巫女名を
 呼べ 呼べ 忌み名を
 与え 与え 永遠を
 呼ばれれば 母の中へ
 呼ばれぬなら 破片となりて
 全て 全て 黒となりて
 門を 開き 黄泉から
 来る 我が 父

 若き当主から紡がれる歌。
 それに応答するかの様に、海が2つに割れた。
「アイス、いる?」
 アリアは若き当主にアイスを差し出した。
「……貰いましょう。でも、片割れを返して」
「それは、出来ない。私の、コレクション……」
 若き当主の返答に、アリアは小さく首を横に振った。
「そう、なら父の糧とおなり」
「糧?」
 と、アリアが問い返すも、若き当主は割れた海にへと足を進め始めた。
「まって」
 後を追いかけようとアリアは、柔らかい砂を蹴って駆け出すが。
 彼女が通りすぎると、壁の様になっていた海水は飛沫を上げながら道を塞いだ。
「……そうだ。依代家に行けば……歴史や、さっきの歌の意味も分かるかも」
 アリアは以前行った依代家へと向かった。

「何か、変な……」
 台車を引きながらアリアは首を傾げた。
 依代家へと進んでいるハズなのに、同じ様な道をぐるぐると歩いている気がした。
「っ!」
 1歩前へと進んだ瞬間、アリアは何かとぶつかり尻餅をついてしまった。
「何? 鳥居? 前にはなかった」
 アリアは突如現れた黒い鳥居を見上げた。
 風が吹くと、コォォォォと大きな人間が息をしてい様な低い音が辺りに響いた。
 そして、アリアが以前この村へと来たときに凍らせた依代家の片割れが、じっと無機質なその顔をぎょろっとした目で見つめた。
「どうして?」
 普通ならば動けないハズなのに、とアリアは思いながらも依代家の片割れを見上げた。
「おぉ、当主様……役目を果たしに帰られたか」
 鳥居の奥から僧侶の様な見た目の老人が現れた。
「これはアリアの、渡さない」
 近付く老人と片割れの間にアリアが立ち塞がり、訝しげな表情で見つめた。
「何を言う。私達の子孫を奪うなど許されぬ」
 と、老人が声を上げると、村全体から発せられているかの様に錯覚する程の『許されぬ』と言葉が響き渡る。
「でも、これはアリアの、コレシクョン」
「聞き分けのない……喰われるがよい、カカカッ!」
 意地でも離さぬ様子のアリアを見て、老人が大口を開け笑い声を上げた。
「逃げるぞ!」
 女性が老人を鳥居へ押し込み、お札を貼るとアリアの手を掴み走り出した。
「アナタは?」
「連絡しただろ。助っ人だ……これ以上は村に居てはダメだ」
 と、説明しながら女性は、道を塞ぐ黒いモノを倒しながら進む。
「でも、依代家の当主が海へ」
「村ごと、封印するらしい」
「らしい?」
 助っ人の言葉を聞いてアリアは首を傾げた。
「この村は海にある黄泉の門を封じ、その役目を果すという代償に繁栄を与えた」
「どうして、こうなったのです?」
「儀式が失敗し、お前が片割れをもって帰ったからだ」
 助っ人の言葉にアリアは、台車の中に居る片割れを見た。
「だから、今当主が海の中にある黄泉の門を己の命と……村を引き換えに封印する」
「何故、早く村から出なければいけないの?」
 アリアは黒ずむ海を見据えた。
「永遠に、この村をさ迷う屍になる。それだけだ」
「コレシクョンが、奪われずに済むなら」
 そっと、コレシクョンが入っている台車を撫でた。
「波?」
 浜辺に打ち上げては引く波が、海の方へと吸い込まれているかの様に引いていく。
「終わる……」
 村の外に着いた二人は、黒い海が村の異変を吸い込むかの様に渦を巻く瞬間を眺めた。
 入り江の真ん中が開き、黒いモノを吸い込む。
 ソレは
 人間ではなく
 黒いモノだけを
 呑み込む
 大きな口の様
 生き残った村人は、覚悟を決めたかの様にその光景を見に家から出る。
 とある者は拝み、とある者は絶望して泣き、とある者は喜び、そして逃げる者は……
「助けてくれよ!」
 村から出れば、黒いモノへと変わり果てアリアの手でアイスにされた。
 まだ、残された謎を頭の隅で考えながらもアリアは、黒いモノで作られた沢山のアイスを台車に詰め込むと村を後にした。
 もう、二度と入れぬ村。
 思い出すのは、当主が歌っていた不思議な童歌。
 少女は、凍った片割れが鼻唄を聞きながらアイスを売りに行く。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8537/アリア・ジェラーティ/女性/13/アイス屋さん】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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発注と続編の声をありがとうございました。
父は言った『人ではない我が娘よ。人に出来なくてすまない』と、門と一体化した魂は静にその灯火を消した。
東京怪談ウェブゲーム(シングル) -
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東京怪談
2017年07月25日

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