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『年忘れても、笑顔忘れず 』
アルヴィン = オールドリッチka2378)&藤堂研司ka0569)&ルナ・レンフィールドka1565)&沢城 葵ka3114)&ジュード・エアハートka0410)&エアルドフリスka1856)&浅黄 小夜ka3062)&ユリアン・クレティエka1664

 リゼリオ郊外にひっそりと佇む一軒家。
 そのリビングに佇むアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は、目の前に鎮座する背の低いテーブルを見下ろしながら満足げに頷いた。
 とても椅子に腰かけて利用するのには向いていない、低い足枠と天板の間に挟まれた真四角の布団の存在が、なんとも不思議な佇まいである。
「ごめんくださーい!」
「ハイハイ、開いてるヨー!」
 玄関口から響いた威勢のいい掛け声に、アルヴィンも思わず声を上げて返事をする。
 やがてぞろぞろと連れ立った人々が、リビングのドアに姿を現した。
「お疲れ様〜! あら、あたしたちが一番乗りかしら?」
「市場に寄るため少し早めに出ましたしね」
 手を振り振りやって来た沢城 葵(ka3114)の後ろで、大きな木箱と紙袋を抱えた藤堂研司(ka0569)が、冬なのに額にうっすら汗を浮かべながらキレの良い笑みを浮かべる。
「今日はお世話になります、隊長!」
「そんな、かしこまらなくてもいいヨー。ゆっくり楽しんでいってネ☆」
 先ほど玄関口からも響いた研司のハキハキした挨拶に、アルヴィンはにんまりと目を細めて笑い返す。
「それで、後ろの子が?」
「ええ。友達の小夜ちゃんです」
 その視線の先には、研司の大きな身体の後ろから覗く小さな女の子の姿。
 紹介を受けてちょこんと横に躍り出ると、ゆったりお辞儀をしてみせた。
「あ、浅黄 小夜です。よろしくお願いします」
「アルヴィンだヨ。小夜ちゃん、よろしくネ」
 そう丁寧にあいさつした浅黄 小夜(ka3062)へ、アルヴィンはニコニコと名乗り返して、優しく握手を交わす。
 そんな彼女の視界に件の不思議机の姿が映って、途端にやや硬かった表情がぱぁっと明るくほころぶ。
「お兄はん、みてみて。おこたがある……!」
「おおっ、本当だ! これが例の?」
 小夜に連れられて室内を覗き込んだ研司も、その佇まいに思わず目を見張った。
「オー、やっぱりリアルブルーの人はみんな知ってるんだネ!」
「う〜ん。というより、リアルブルーの私たち日本人は――って感じかしらね」
 パチンと手を叩いて喜んだアルヴィンに、葵が補足するように付け加える。
「しかし、よく探して来たわね。あんまり出回ってるものじゃなかったでしょう?」
「それはねネ……企業秘密ダヨー!」
 ちょっと勿体ぶるように溜めてから、大げさに答えるアルヴィン。
 驚いたように目を見張った小夜に、葵は「いつもの事だから、怖がらなくて大丈夫よ」と小声で言い添える。
「それじゃあ、水場お借りします。今日はガッツリ、料理人させていただきますんで!」
 そう自らにも気合いを入れて、家の奥へと消えていく研司。
 その後ろを、ぺこりと2人にお辞儀をしてから小夜がとことことついて行く。
「さーて、そろそろ時間だけど――」
 時計を確認しながら葵が口にしたところで、とんとんと軽やかな足取りがリビングへと近づいて来る。
 ルナ・レンフィールド(ka1565)が華やかな笑みで現れると、自然と周りにも笑みが零れた。
「こんにちわ、みなさん。えっと……私ちょっと早かったですか?」
「いえ、時間ピッタリよ。こんにちわ」
 人気の少ない部屋を心配そうに見渡した彼女は、その言葉を聞いてほっと小さく息を吐く。
「えっと、皆さんは?」
「研司たちは奥でごはんの準備だヨ〜。薬師組はちょっと遅れてるみたい?」
 窓の外をキョロキョロ眺めるアルヴィンだったが、あいにく彼らの姿はまだ見えない。
「まっ、そのうち来るヨ。それより、そろそろ温まったんじゃないカナ〜?」
 そう仕切り直すようにパンと拍子をうって、そそくさとこたつの布団をめくり上げる。
「これが、例の“コタツ”ですか?」
「そうよ。外、寒かったでしょ? ずっぽりと足を入れてごらんなさい」
 促されて、めくり上げた布団の中へ足先を忍ばせるルナ。
 はじめは置かなびっくりだったものの、やがてはっと目を丸くすると、次の瞬間にはとろーんと表情を歪ませていた。
「あったかぁい……」
「わぁ、すごいネこれ……!」
 冷え切った足と手を突っ込みながら、ほっと熱い吐息を吐く2人。
 端から楽しむように様子を見守っていた葵も、やがて自分のポジジョンを確保してゆったりと足を伸ばす。
 しばらく無言の溜息が響いたリビングだったが、しばらくしてどたどたと足早な足音がやってきて、ガチャリと扉が開け放たれた。
「――すまない、至急で解熱剤の調合を頼まれて遅れてしまった」
「遅くなりました〜! みなさん、こんにち――」
 白い息を弾ませながら飛び込んで来たエアルドフリス(ka1856)と、その手を繋ぎながら現れたジュード・エアハート(ka0410)。
 のほほんとだらけ切った部屋の空気に思わず面食らって、2人は思わずそのままの状態で硬直してしまった。
「師匠、どうかしましたか?」
 その後ろから不思議そうに顔を覗かせたユリアン(ka1664)の姿に、それまで頬を上気させていたルナは咄嗟に跳ね起きるように背筋を伸ばす。
「こ、こんにちわみなさん!」
「あ、ああ、こんにちわ。どうしたんだ……もう飲んでるのか?」
 訝しんで眉を潜めるエアルドフリスに、葵は満面の笑みで手招きをする。
「まぁまぁ、寒かったでしょう。こっちにいらっしゃいな♪」
「わぁ〜、すごい! 何これ何これ!?」
 音符にハートマークまで添えて呼び込む彼に、ジュードは飛び込むようにエアルドフリスの手を引いた。
 かれらが炬燵の周りに腰かけると、ユリアンはふと机を挟んで対岸になったルナと視線が合う。
「あっ……ユリアンさんこんにちわっ」
「こんにちわ、ルナさん」
 そう言ってほほ笑む彼に、ルナは炬燵の暖気に少しのぼせたのか、ほんのり頬を赤らめてみせた。
「この日のためにいろいろ調べておいたんだヨー。とりあえず、コタツと言ったらこれらしいネ?」
 アルヴィンが、傍らから手繰り寄せた丸籠をどんとテーブルのど真ん中へと置く。
 そこに大量に積まれたミカンが、ふわりと甘酸っぱい香りを漂わせた。
「お手軽で良いですよね。実は最近のお気に入りで」
「そうなんですね? 確かに、リンゴとか……あとメロンとか! こう、切らないと食べられないですし」
「そんなことないヨ〜。リンゴだって、こう、かぶりつけば」
 ユリアンの言葉に頷くルナへ、アヴィンが手にしたミカンをリンゴにみたてて皮ごとかぶりつく真似をしてみせる。
「アルヴィン、そういう下品な食べ方をする人間ばかりじゃないんだ」
「え〜、でもエアさんもお仕事が煮詰まって来ると、ご飯の時間も惜しいって片手間にかじってない?」
「確かに、近頃もよく見かけますね」
 キョトンとして口を挟んだジュードと頷くユリアンに、小さく咳払いをしながら眉間に皺を寄せるエアルドフリス。
 アルヴィンは愉快そうなニヤケ顔を浮かべながら、両の人差し指でこれ見よがしに彼の腕を突く。
「確かに少し痩せたわね〜。ちゃんと食べてる?」
「薬師が栄養不足で倒れるなんて洒落にならないって、最低1食は無理やり食べさせてますよっ」
 そう言って胸をはるジュードの横で、眉間の皺をさらに増やしたエアルドフリス。
 それをさらに小突き続けるアルヴィン。
 そんな様子を見て、葵は思わず噴き出したように笑みをこぼした。
「まっ、元気そうならなによりよ。今日くらいゆっくりしていきなさいな」
「あ、ああ……そうさせて貰いたい――って、こらっ! いい加減に五月蠅いぞっ!」
 小さく頭を下げてからツンツン攻撃をウザったらしくあしらってもう一度、今度は大きく咳払い。
「あっ、そういえば俺、みんなで摘まめるもの持って来たんだ〜♪ 良かったら、お鍋までのつなぎにどうかな?」
 パンと手を合わせてから、傍らの小脇に抱えるサイズの包みを取り出したジュード。
 コタツの上でそれを開くと、中から色とりどりの野菜や海鮮料理を敷き詰めたお重が現れた。
 それを見て、ルナが惚けたように目を見張った。
「すごい! これ……1人で作ったの?」
「そうだよ〜♪ 昨日の晩から仕込んでさ。エアさん、お仕事で構ってくれないから時間は沢山あったし……」
 その言葉にすちゃりと指先準備をしたアルヴィンを、エアルドフリスは先んじて手の平ガードで制する。
「わ……私、お鍋の準備手伝ってきますね!」
 そんな中で、どこか焦った様子で部屋を飛び出したルナ。
 残された者達は、何事かとぽかーんとその背中を見送るほかなかった。
「……大丈夫でしょうか?」
 1人心配そうに眉を潜めたユリアンに、葵は優しくほほ笑み掛ける。
「問題無いわよ。なんなら、あたしが一緒に行って見てくるわ」
 そう言い残して、彼も後を追って部屋を抜け出した。

 炊事場の方では、メインメニューである鍋の準備が進んでいた。
 腕の太さほどはありそうな魚をまな板に抑えつける研司は、包丁の峰でそのウロコを大胆に剥がしていく。
 その傍らでは小夜が様々な野菜を洗っては皮をむき、やや大ぶりに切り分けていた。
「いやぁ、これだけの魚が一般向けの市場で手に入るとは。やっぱり、この辺はほんとにいい魚があるな!」
「お野菜も美味しそう……藤堂のおにいはん、このくらいで?」
「おおっ、さすが小夜さん! バッチリもバッチリだ!」
 研司がパッツンパッツンのロンTから覗く腕でサムズアップすると、嬉しそうに頬を染めて次の野菜を手に取る小夜。
 手際は流石の彼に負けるが、ゆっくり慎重に丁寧に作業するぶん、仕上がりはとてもきれいだ。
「こんにちわ! 何かお手伝いできることありませんか?」
「あ……ルナのおねえはん、こんにちわ」
 そんな中、半ば駆け込むように炊事場へとやってきたルナの姿に、小夜がニッコリと笑って頭を下げる。
「おっと、あたしもいるわよ。流石に2人で8人分の食事の準備は大変かと思って」
「ルナさんに葵さん、助かります! 俺、こいつの仕込みで手が離せないので……野菜から火を通して貰えませんか?」
 口を動かしながら、手も豪快にバツンバツンと魚を切り身にしていく研司。
 葵は指で「おっけー」と返事をして、小夜の切った野菜を煮えやすさごとに仕分けていく。
 ルナは小夜の隣に並んで、ひたすら山積みの野菜の処理だ。
「今日は、何のお鍋になるのかな?」
「ええと……研司のおにいはんは、『おでん』にするって言っとったよ」
「おでん?」
 聞き慣れない単語に、ルナは思わず聞き返す。
「えっと……どちらかと言えば煮込み料理に近いんだけれど、俺たちの国の家庭料理さ。ぶつ切りの野菜に魚の練り物、卵にこんにゃく――はこっちの世界にはないか。あと好みで肉や餅を入れる家庭もあったかなぁ」
「そういえば隊長が『コタツ“らしい”もの揃えたヨー』って、どっかからお餅仕入れてたわね」
「マジですか!? うおぉぉぉ、後で貰って入れよう! 出汁を吸った餅のうまいことなんのって――うぉっと!?」
 言いながら垂れた涎を慌てて啜り、研司は改めて目の前の巨大魚へと向き合う。
「ひとまず、今回は海鮮メインで行く予定です。葵さんって、串打ちできます?」
「串打ち3年、焼き一生――ってプロレベルではないけど、見よう見まね程度なら?」
「だったら、これを頼みます!」
 とボウルに入れられた貝類を手渡されると、傍に合った竹串を手繰り寄せた。
「どんなお鍋かまだ想像がつかないけれど、既に口の中がお魚の甘みでいっぱいになって来ちゃうね……」
「奇遇やね……私もなんよ」
 目の前で準備が整っていく食材たちを目の当たりにしながら、女の子達は思わずごくりと喉を鳴らした。
 だが、今は我慢我慢。
 そう心に言い聞かせて、それでも後で味見とかできたらなぁ――と淡い期待も寄せるものである。

「――はいっ、『モノポール』! 対象は『鉄』だよ〜」
「え〜!? ちょっとまってヨ! せっかく待ちに待った11鉄だったんだヨ!?」
「関係ナッシング。はい、没収〜♪」
 一方のコタツ待機組は……ジュードの持って来たお重を肴に、やんややんやとボードゲームに興じていた。
 タイル状のマップやコマの上で、阿鼻叫喚の嗚咽と共にカードの束が飛び交う。
「これで開拓地を都市にして……っと。これにカードの2点分を足して10点! 俺の勝ちー、イェイ♪」
 パチンと指を鳴らしてウィンクするジュードの周りで、他のメンバーは大きなため息を吐きながらぐったりと背をのけ反らせていた。
「8麦さえ止められなければ、勝ちの目があったのだけどね」
 疲れた表情を見せながらも、どこかやり切った表情のユリアンのはす向かいで、エアルドフリスは名残惜しそうに頭を掻く。
「5鉄だぞ、決して悪い目じゃなかったハズ……何故出ないんだ。何故……鉄……5……」
「まーまー、エアさん。そういう日もあるって」
 ジュードが苦笑しながら背中をさすって宥めていると、パタパタとルナがリビングへと戻って来た。
「お鍋の準備ができたみたいなので、テーブルを――って、ごめんなさいっ。お邪魔でした?」
 広げられたゲームを目にして恐縮した彼女だったが、ジュードが「大丈夫、終わったとこだよ」と優しく答えると、ほっと胸を撫でおろす。
「あっ、俺、お皿とか運ぶの手伝うよ」
「俺も行こうか?」
 続いて立ち上がったエアルドフリスに、ユリアンは大丈夫と小さく手を振った。
「あっちにあんまり人がいても、しっちゃかめっちゃかでしょうし」
「お鍋〜、早く早く!」
「お前は片付けるのを手伝えっ!」
 テーブルをパンパン叩いてせがんでいたところをエアルドフリスに焚きつけられて、アルヴィンはしぶしぶ駒の片付けを手伝う。
 やがてお椀やら取り皿やらが机上に運び込まれてくると、研司が大きな鍋を抱えてリビングへ現れた。
「あ〜、溢れそうだから気を付けて……よっと」
 慎重にテーブルのど真ん中に置いたそれをみんなが一様に見守る中、彼は一思いに上蓋を開け放った。
「おお〜!」
「うわぁ!」
「ほぅ!」
 同時に様々な感嘆の溜息と共に、口元に笑顔が浮かぶ。
「お待たせしました、特製『リゼリオ風おでん』でございます! どうぞ、腹いっぱいめしあがれ!」
 湯気の立つ琥珀色の汁に浮かぶのは、所狭しと詰まった具材の数々。
 根菜の数々に玉ねぎ、出汁も兼ねた結び昆布にほどよく色づいたゆで卵。
 円盤状の練り物は研司渾身の手作り揚げかまぼこで、水面から覗く串は葵が打った貝海老烏賊蛸の彩り海鮮串だ。
「凄いネ〜。美味しそうだヨ〜!」
「隊長隊長。その前に乾杯でしょ」
 傍らで泡ものの瓶を開ける葵に釘を刺され、アルヴィンは大慌てで人数分のグラスを準備する。
「飲めない方に、ジュースかお茶買ってきましたけど……何が良いですか?」
「乾杯用に、はじめくらいジュースにしておこうか」
 頷いたエアルドフリスの傍に、小夜がトコトコ駆けて行くと、「失礼します」とお辞儀をしてからグラスにリンゴジュースを注いでいく。
「小夜さん、本当にしっかりした子ですよね」
「だろう? 自慢の子――って言うと語弊があるけど、とにかくすごくいい子なんだ」
「妹もあれくらいお淑やかになってくれればなぁ」
 彼女の姿を遠巻きに眺めながら苦笑するユリアン。
 研司の保護者っぽい瞳も、ほほえましく頑張る小さな背中を追っていた。
「みんな、グラスは持ったわね〜? じゃあ、隊長から一言!」
「今日は来てくれてとっても嬉しいヨ♪ めいいっぱい楽しんで、また来年も楽しく過ごしたいネ〜。それじゃあ、乾杯!」
 思い思いにグラスを打ち鳴らし、宴の開始が告げられる。
「研司さん、さっそくいただきま〜す」
 ジュードのそれを皮切りに、箸やらフォークやらお玉やらが一斉に鍋の上を飛び交った。
「あっつ! 熱いヨ! これ熱すぎるヨ!?」
「いやいや、それが良いんですよ! こう、はふはふ息を吐きながら頬張って……あふっ……」
 言いながら研司は一口大にほぐした揚げかまぼこを放り込み、はふはふと口から湯気を立てながら実演してみせる。
「確かに……ほふぅ……こうするとおいしいです……はふふ」
「あっついのがお腹に落ちていくのが分かるのが、また楽しいんよ……でも、あふい……」
 ルナと小夜は女の子2人で涙目になりながらも、研司の言う通りに頬張って、それから口の中を癒すようにくぴくぴとジュースで喉を潤した。
「う〜ん、薄口なのにしっかり味付いてて美味しい〜。お酒にもあうあう」
「それはよかった。そういうのを聞くと、酒が飲めないのを残念にも思うな」
 卵とグラスとを交互に忙しないジュードを横から見つめながら、エアルドフリスは穏やかに目を細める。
「ポトフみたいなのイメージしてたのだけど、しっかり『おでん』に仕上げて来たわねぇ」
 葵が目を見張りながら出汁昆布を齧ると、すかさず小夜が開いたグラスにビールを注ぐ。
「ありがと、小夜ちゃん。でも、そんなに頑張らなくっても大丈夫よ?」
「ありがとうございます……でも、なんだか動いてないと落ち着かなくって」
「初めての大人の人ばっかりだものね……大丈夫、ちょっとずつでも慣れてってくれたら嬉しいわ♪」
「……はいっ」
 葵の言葉に、僅かに緊張の色を解いて見せる小夜。
 そんな様子を見守りながら、研司とユリアンは顔を見合わせて改めてグラスを交わしていた。
「それにしても、流石に8人も囲むとコタツも狭く感じるネー」
「そうだな……っと、すまないユリアン。もうちょっとだけそっちを詰めて貰えるか?」
「あっ、はい」
 言われてもぞもぞと位置をずらすユリアンだったが、その肩がとんと誰かの肩に触れて慌てて振り返る。
「ああ、ごめんなさい。ちょっと詰めすぎたみたいだ……」
「い、いえ、大丈夫です。むしろ私の方も、もうちょっと寄りますね」
 慌てたように小夜の方へ半身詰めて、ルナは取り繕うように卵を頬張る。
 が、熱々のそれを一口でいってしまい、顔をしかめながら慌てて冷たいジュースを喉へと流し込んだ。
「おでんと言えば日本の伝統芸能に『ニニンバオリ』ってのがあってね。こう、後ろで目隠しした1人が、胸に抱え込んだもう1人に熱々のおでんを食べさせるのよ」
「何それ、面白そうだネ〜!」
 葵の言葉に嬉々と目を輝かせたアルヴィンだったが、エアルドフリスがとりあえずハリセン1発喰らわせて、眉間の皺を指でつまんだ。
「頼むから、いらん知恵を吹き込まんでくれ……ツッコむのも体力を使うんだぞ」
「あら、でも2人の阿吽の呼吸とか、愛情の深さとかを確かめあう由緒正しき遊びなのよ?」
「何々? 愛情の深さだって!?」
 いじらしく目を細めて語った葵に、今度はジュードきらんと目を光らせて向き直った。
「そんな事言われたらやるしかないじゃん、ねぇエアさん〜?」
「わっ、ジュード。既にだいぶ飲んだな……?」
 真横から首筋に飛びついたジュードの勢いに気圧されながら、ほんのり上気したその表情を見つめるエアルドフリス。
 そう言えば、さっきから本当にノンストップエンドレスでおでんとお酒とを交互にやっていた気がする。
「ね、ね、葵さん、どうやるの? ちゃんと教えてよ〜!」
「良いわよ〜♪ とりあえず、こう彼に後ろから抱き着いて……そうそう」
「まてっ、一言もやるとは――」
 苦言を他所に、ジュードと葵は着々と準備を整えていく。
 目を覆って、エアルドフリスの後ろにぴったりと張り付かせて2人の身体を縛り、最後に半纏――の代わりに彼のコートをすっぽりとかぶれば――
「完成よ〜!」
 パチパチと拍手する葵に釣られて、苦笑いの彼の姿が公開となった。
「あっはっは! 何それ〜、面白いヨ〜!」
 この時点で大爆笑のアルヴィンに、エアルドフリスはあとでキツイ一発を喰らわせようと心に決める。
「い、良いじゃないですか……くっくっ……あ、俺、おでんよそいますね?」
 同じように笑みを堪えながらも、つゆたっぷりでおでんを取り分ける研司。
 ほかほか湯気立つそれを前にすると、エアルドフリスもいっそう顔をしかめた。
「さっ、愛しの彼にお腹いっぱい食べさせてあげてちょうだいね♪」
「わっかりました! はい、エアさん。あ〜ん♪」
 コートの袖から伸びたジュードのしなやかな腕がお椀の中の根菜をフォークで捉えると、ふわふわと位置を確認する様にエアルドフリスの顔の周囲を飛ぶ。
「あ、あつっ! そこはアゴ……今度はホホ……あっ、ふっ……ふおっ!?」
 必死に自分の方からもフォークの先の具を追うが、それが逆にジュードの目標を見失わせる。
 その結果として、ペチリペチリとあられもない場所を熱々の野菜が叩くのだ。
「あ……あはははっ! エアルドさん、顔、おかし……!」
「し、師匠、頑張ってください! ふ、ふふっ!」
 耐えきれなくなって噴き出したルナに釣られて、ユリアンも思わず口元を覆って笑いを隠しきれない。
「あっははは! 次はどれにしましょう?」
「じゃあ、これが良いネ〜」
 アルヴィンの提案で、今度はつやつやと綺麗な卵を盛り付ける研司。
「いや、まて……それはちょっと、マズいんじゃないか?」
 芯までホカホカのそれを前にすると、流石のエアルドフリスも戦々恐々として顔の血の気が引いた。
「なかなか難しいなぁ……エアさん、次はバッチリ行くからねっ!」
「えっ、あ、いや……」
 ジュードのフォークが卵を捉えて、湯気を立てたまま慎重に口元へと運ぶ。
「ま、まてっ、ジュード! 流石にこれは熱いぞ! もう少し冷まして……まて、何でこういう時に限ってバッチリ口元を狙えているんだ!?」
「今度は1回で行けそうだネ〜!」
「1回で行かなくていい! 今回ばかりは、少し外して冷ましてから……!」
「ああっ、おにいはん……危ない! 暴れるとフォークから落ちてまうよ……!」
 逃げようにも、身体はがっちり縛られて動く事ができない。
 その間にも的確に卵は眼前に迫り――否応なく、丸々口の中へと放り込まれていた。
「あっ、あふっ……あっつぅ――!?!?」
 口の中が大ダメージを受けている彼を他所に、部屋の中にはドっと笑いが弾ける。
 本人からすればたまったものではないが、それでもみんなの笑いにほだされると、思わず自分も笑ってしまうものだった。

 宴も酣を過ぎて、次第に大人勢がお重を肴にゆったりちびちびやりはじめると、リビングにもだいぶ穏やかで落ち着いた空気が流れ始めていた。
 そんな時間になると、子供たちはこっくりこっくり船を漕ぎ始め次第に安らかな寝息が聞こえる。
「隣に布団を敷いて来ましたよ」
「おお、ありがとう。助かるよ!」
 しばらく姿を消していたユリアンが戻って来ると、研司はすやすやと眠る小夜を抱えてゆっくりと立ち上がる。
「ルナさん、ルナさん。布団を敷いたので、どうぞ」
「うん……来年も良い一年にしたいですね」
 ユリアンがその肩をゆするが、ルナは寝言だけ口にして全く起きる気配がない。
 それどころかゆするその手をぎゅっと掴んで、離さなくなってしまった。
「えっ……ええと、困ったなぁ……」
 どぎまぎした様子で頭を掻くユリアン。
「えっと、そうだな……連れて行ってあげるしかないんじゃないか。うん」
 そんな彼にエアルドフリスがどっか別の方を見上げながら答えると、ユリアンはルナと彼との姿を見比べて、意を決したようにその身体を抱え上げた。
 そうして部屋を去って行く4人の姿を見送りながら、ジュードはまだ赤いままの恋人の頬を撫でた。
「ごめんね、熱くなかった?」
「いや、熱かったが……まあ、2回目は一発で口へ運んでくれたのは流石だ」
 その言葉にジュードは表情をほころばせると、こてんとエアルドフリスの膝の上に頭を預ける。
 そうして彼の表情を見上げるようにして手を伸ばすと、指先でその唇をなぞる。
「たとえ目が見えなくても、俺がエアさんのここを間違えるわけないでしょ……ね?」
 その言葉にエアルドフリスもふっと笑顔を浮かべて、触れる指先にキスを返した。
「それにしても、アルヴィンはどこに行ったのかしらね……って、あら?」
 先ほどから消したその姿を追うように辺りを見渡した葵は、ふと窓の外を見て目が止まった。
 雪の降りしきる中で、ぴょんぴょんと飛び跳ねる件の隊長の姿を見つけたからだった。
「今年も、良い年になったネ〜♪」
 子供のようにはしゃぎながら、ごろごろと丸めた大きな雪玉を2個ずつ積み上げていくアルヴィン。
 何をしているのかとしばらく無言で様子を伺っていた葵だったが、やがてその正体を理解すると目を細めてそっとワイングラスを傾けた。
「来年も、きっといい年にするヨ〜。頑張るからネ!」
 天に向かって約束するように叫んだアルヴィンの周りでは、楽しそうに寄り集まった7体の雪だるまが同じように年末の大空を見上げているのだった。
 
 
 ――了。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【ka2378/アルヴィン = オールドリッチ/男性/26歳/聖導士】
【ka0410/ジュード・エアハート/男性/18歳/猟撃士】
【ka0569/藤堂研司/男性/24歳/猟撃士】
【ka1565/ルナ・レンフィールド/女性/16歳/魔術師】
【ka1664/ユリアン/男性/19歳/疾影士】
【ka1856/エアルドフリス/男性/29歳/魔術師】
【ka3062/浅黄 小夜/女性/14歳/魔術師】
【ka3114/沢城 葵/男性/28歳/魔術師】
イベントノベル(パーティ) -
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2018年01月10日

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