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『天国よりも野蛮 』
グワルウェンaa4591hero001)&アークトゥルスaa4682hero001


 降誕祭の日。
 かねてより夕食を一緒にとろうと約束していたグワルウェンとアークトゥルスは、昼から教会を訪れていた。
 聖なる日の特別礼拝は、訪れる者たちにとっても特別な催し。
 パイプオルガンの旋律にのせてうたう聖歌も、いつもとは違う、格別なものへと変わる。
 数百の声音がとけあわさり、極上の響きが天へと昇っていく。
 眼前には、陽光に照らされたステンドグラス。
 天を仰ぐほどの巨大な色窓からは、極彩色の光が降り注いでいて。
 ――魂さえも浄化されていくような、特別な場所。
 しかし、『特別』は永遠には続かない。
 天国から現実へ引き戻すよう、鐘を打ち鳴らす教会を後にして。
 ふたりは、多くの一般人でにぎわう街を歩き始めた。

 待ちに待ったクリスマス。
 街は赤・緑・金のきらびやかな装飾にあふれ、ゆき過ぎる店からは、もれなく陽気なクリスマスソングが聞こえくる。
 すれ違う人々の表情もどこか明るく、その足取りは軽やかで。
 クリスマスマーケットを冷やかしながら歩くのも楽しく、気がつけばあっという間に日が暮れていた。
「今日行く店は、お前が予約していたんだったな」
「ああ。とっておきの店を探しておいたぜ」
 意気揚々と先をいくグワルウェンの背を追い、ネオンに輝く看板がいくつも連なったビルに入る。
 各店の呼び込みが、賑やかに声をかけるエントランス。
 こぢんまりとしたエレベーターに乗りこみ、店のある階のボタンを押して。
 エレベーターの扉が開いた、その先に広がっていたのは――。
「いらっしゃいませー、何名様ですか?」
「お待ちのお客様、こちらへどうぞ。ご案内いたします」
「本日のオススメメニューは、こちらの黒板をご覧くださぁい!」
「それでは、部の目標達成を祝してェ! かんぱーい!!」
 ところ狭しと並ぶ席に、煙のたちのぼる七輪。
 店内を満たす肉の匂いに、こちらの声がかき消されるほどの喧騒。
 そして、料理をついばむ、人、人、人。
 日中歩いた煌びやかな世界から、一変。
 庶民じみた光景を見つめるあまり、エレベーターから降り損ねたアークトゥルスの目の前で、扉が閉まりかけた。
「っと!」
 慌てて開くボタンを押して、店員を呼びとめていたグワルウェンの元に駆け寄る。
「予約、入れてたんだけど」
 店員へそう告げれば、すぐに席へ通されて。
 店奥のボックス席に、向かいあって腰掛ける。
 渡されたメニューには、至る所に『食べ放題!』の文字が踊っていて。
 思わず、正面に座ったグワルウェンの顔を見やった。
「食いでのありそうな店だろ?」
 ――『焼肉屋』。
 それこそが、サー・グワルウェンが愛しき叔父へ贈る、クリスマスディナーにふさわしきステージなのであった。


 慣れた手つきでメニューをめくるグワルウェンとは反対に、アークトゥルスにとっては初めての焼肉店だ。
 目に映るなにもかもが物珍しく、ハンガーにかけた上着近くの天井に、吸気口とダクトがあるのを見上げ、感嘆の声を漏らす。
「焼肉自体は、家でホットプレート? というものでやったことはあるのだが……。どうしてこの店に?」
 問えば、グワルウェンはあっけらかんと答えた。
「だって、チキンとかローストビーフとか、食った気しねえんだもん」
 続けて、いくつか料理の好みに関する質問が投げられて。
「そこの。丸いのを押してくれ」
 言われるまま、卓上にある、丸いつるっとしたモノを押す。
 ――ピンポーン♪
 店内に軽やかなコール音が響き、すぐに注文を聞きに店員が現れた。
「生ふたつ。料理はカルビ、タン塩、石焼ビビンバチーズ入り。あとは……わかめとタマゴのスープ。キムチ盛り合わせもいっとくか」
 ひと通り出揃った後、デザートにアイスも頼むと、グワルウェンが手早く注文を済ませて。
 その間も、アークトゥルスは目の前に置かれた七輪と網、タレの皿やお通しのキャベツに興味津々。
 金属製の箸を手にして重みを確かめたり、まるで玩具を与えられた子どものように落ちつかない。
「お、飲み物が来たぞ」
 汗をかいたジョッキビールが届いたところで、アークトゥルスが改めて背筋を伸ばし、座り直した。
 基本マナーを身に着けており、品がいいアークトゥルスではあるが、男だらけの宴会の作法も心得ている。
 掴んだジョッキを目線より高く掲げ、
「互いの健康に!」
「そして、美味い肉に!」
 カチンと甲高い硝子音が響き、二人そろってビールを仰ぐ。
 冷たいビールが一気に食道を駆けおり、すきっ腹に染みていくのがたまらない。
 続々と運ばれてくる肉は、待ってましたとばかりにグワルウェンが網の上に並べていった。
 じゅうじゅうと音をたて、見る間に色を変える肉。
 それを観察するアークトゥルスの様子が面白く、グワルウェンは焼き加減に注意しながら、キャベツも食べていいんだぜと促す。
「タレは、それぞれ味が違う。自分好みの味にこだわってもいいし、肉ごとに味を変えるのもいい」
「そんなに違うのか」
「試してみりゃわかる」
 どんどん食えよと、焼けたものから次々とアークトゥルスの皿に乗せていく。
 助言に従いタレの違いを確かめたり、時には、肉そのものの味を楽しんでみたり。
「お前の食べる暇がないじゃないか。俺が焼こう」
 気遣い半分、興味半分。
 アークトゥルスの申し出に、「それじゃあ」とグワルウェンが鉄の箸をさしだす。
 初めて扱う、長く重たい箸。
 慎重にカルビを網にのせるも、
「――っわ!」
 ぼっと燃えあがった肉を前に、慌ててフーッと息を吹きかける。
 消火すれば安堵の表情を浮かべ、見ているグワルウェンは肉の味もそこそこに大笑い。
 一部が炭化した肉も、手ずから焼いたものとなれば食すのが楽しくて。
「ホットプレートとは違い、焼き加減が難しいな」
 そう苦笑するも、アークトゥルスは初めての経験に大満足のようだ。
 火で仕上げた熱々の石焼ビビンバは、濃厚なとろけるチーズもあわさりボリューム満点。
 肉類を堪能する傍ら、キムチの盛り合わせをスパイスに。
 刺激を受けた口には、冷えたビールがまた美味い。
 それぞれの味を楽しんだ後は、出汁のきいたスープを味わい、しばし口を休ませた。


 七輪の火が落ちるころには、二人のテーブルからは綺麗に料理がなくなっていて。
 通りすがりの店員が次々と皿を下げていくのと入れ替わるように、デザートのアイスが運ばれてきた。
 丸くくりぬかれ、硝子の器に盛りつけられただけの、簡素な装い。
 それでも、多彩な味を堪能した舌には、冷たさとシンプルな味が心地よくて。
「どうだ。美味かっただろ?」
 ぺろりとアイスを平らげ、グワルウェンが問いかければ、
「そうだな。あらゆる味を堪能した」
 と、小さくアイスを切り分け食べながら、アークトゥルスが微笑む。
 喜んでもらえたらしい、というのは伝わってきた。
 けれど、店を訪れた時に見せた、驚きの表情も気になっていて。
「来年もここにすっか? ……その、もっと洒落たのがよかったら探しとくけどよ」
 遠慮がちに告げる甥に、アークトゥルスが破顔する。
「こうして、お前と肩を寄せ合って食事をするのは楽しい。お前が良いと思った店を選んでくれれば、それが一番だ」
 食事をするからには、もちろん味にもこだわりたいものだが。
 特別な日の、特別な時間。
 気のあう誰かと一緒なら、どこへ行こうと、何を食べようと、かけがえのない想い出になるのだ。
 店も料理もそうだが、この場に自然と馴染んでいるグワルウェンの姿を眺めるのも新鮮だったと、言い添える。
 特に、肉を焼く采配は見事なものだった、と。
 褒められた側も、まんざらではない。
「なら、ここだけじゃなくてよ。他の店にも、一緒にいこうぜ」
 同じようにこの世界で暮らしているとはいえ、その眼に映る情景は、それぞれ違っている。
 ともに在ることで見える姿も。
 知らない姿を垣間見ることも。
 互いが互いを知るうえで、ちょっとした楽しみになる。
 アークトゥルスがアイスを食べ終え、熱いお茶で舌先を休ませた後。
 伝票を持ったグワルウェンがレジに向かい、お代はきっちり、割り勘で。
「ごちそうさん」
「ごちそうになった」
 店員に告げれば、「ありがとうございましたー」と笑顔が返った。


 こぢんまりとしたエレベーターに乗りこみ、未だ呼び込みを続ける賑やかなエントランスを通りすぎる。
 空はすっかり深い藍色に染まり、行きに見たネオン看板が賑やかに明滅するのを引き立てている。
 聖夜を楽しむ喧騒とひとの波は、この後もまだまだ続きそうだ。
「テパ地下でも見ていくか?」
 白い息を吐きながら提案するグワルウェンに、
「そうだな。帰りがてら、賑わいを見てみたい」
 並び歩きだして、ふいに、アークトゥルスがふっと笑った。
「なんだよ」
 いぶかったグワルウェンが、立ちどまり振り返る。
「いや」
 アークトゥルスは確かめるようにコートの袖に鼻を近づけ、もう一度、ふっと笑った。
「俺たち、焼き肉くさくないか?」
「……あー」
 当の二人は、すっかり店内のにおいに慣れてしまっていたけれど。
 一歩街へ出れば、清浄な雰囲気とは裏腹に、風が吹くごとにかぐわしい焼肉のにおいがただよう。
「デパ地下行きゃ、人ごみでわかんねえよ」
「そういう問題か?」
 くつくつと笑い続けるアークトゥルスを、申し訳なさそうに見やるグワルウェンが面白く、さらに笑い声が続いて。
 二人、天にのぼる白い息を追いかけながら、星の煌めく空の下を歩いた。

 メリー・クリスマス。
 この先もふたり、穏やかな時間を過ごせるように願って――。








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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【PCID/キャラクター名/外見性別/外見年齢/クラス】

【aa4591hero001/グワルウェン/男性/25/ドレッドノート】
【aa4682hero001/アークトゥルス/男性/22/ブレイブナイト】

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2018年02月20日

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