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『『愛の行方〜ディラ・ビラジス〜 中編』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 都心の歓楽街、古びた雑居ビルの地下室。
 深夜、薄暗い室内に血しぶきが舞った。
「足りない、全く足りない……」
 指についた血を舐めた女が唾棄する。
「強い感情が湧きあがらない。私も、あなたも」
 数時間、彼女は目の前の青年――ディラ・ビラジスに暴行を加えていた。
 反撃は許していた。だが、2人とも本気で相手を倒す気などない。
「抗体は、激しい感情と共に活性化する。だから、互いに本気でやり合う必要がある」
 言いながら繰り出した女の刃を、ディラは身を逸らして躱し、彼女の腕を掴んで捩じり上げた。
 女の手からナイフが落ちる。
「抗体は既にお前の身体の中に入ってるはずだ。ウイルスがなくなってもお前はもう何も変わらない。それだけだ」
「くっ」
 女はディラの足を蹴って振りほどき、捩じられた腕をもう片方の手で摩る。
「調べてくるわ。もし、私の体内に抗体が無かった時には……他の方法を試させてもうらうわよ」
 艶かしく、女は笑みを浮かべて部屋の外へと出て行った。
 すぐに鍵と電子ロックがかけられる。
 ただ、この部屋には生きる為に必要なものが、全て揃っていた。
 身体を拭いて傷の手当をすると、食べられるものをとりあえず口に入れる。
 隠し持っていた携帯端末で時間を確認すると、既に彼女は――アレスディア・ヴォルフリートは、仕事に向った時間だった。
 電波が届き難い場所だが、時々届くことがあるらしく、広告メールを1通受信していた。
 アレスディアからは特に連絡は届いていない。しばらく画面を見詰めていたディラだが、そのまま何もせずに携帯をしまう。
 そして、長椅子に身を投げ出して眠りについた。

 ディラがアレスディアからのメールに気付いたのは深夜だった。
 そのメールには、ディラの安否の確認と、抗体を求める者が現れ、明日100人の抗体を求める者たちのもとに向うといったことが書かれていた。
 そして最後に、至急連絡を求むとある。
「……っ」
 急ぎディラは、電波の届く場所を探す。
 窓のない地下室。廊下への出入り口は一か所であり、厚いドアに閉ざされている。
 ドアを空けようとするが、無論開かない。壊せる道具もない。
 ただ、その場所には僅かながら今の時間、電波が届いているようだった。
 焦り、軽く錯乱した状態で、ディラはアレスディアに電話をかけた。
『ディラ、無事か!?』
 1回めのコールの途中で、アレスディアは電話に出た。
「こっちは、大丈夫だ……ッ」
『……良かった』
 アレスディアの安堵の声が流れてくる。彼女の側に飛んでいけないことに、ディラは歯噛みする。
『できるだけ時間は稼ぐ。百人の囲いの中から私を救い出せるか?』
「アレス……何を考えている。行く必要はない、罠だ」
『罠か。それでも私は行く。行かねばならぬ』
 彼女らしい、まっすぐな答えが返ってくる。
「そいつらの仲間の1人と交渉中だ。交渉が成立したら、アンタには手を出させない」
『……奴らが、約束を守ると思うか? 苦境に立たされたときこそ、信じる先を誤るな。矛だけでもならぬ。盾だけでもならぬ。共にいてこそ、状況は切り開ける』
「なら、俺が戻るまで待て」
『刻限は明日だ。明後日には奴らは発つという。人の心を失ったままな。野放しにはできぬ』
「止めても……無駄だよな」
 電話を耳にあてながら、ディラは項垂れる。
 何があっても、彼女の側を離れてはいけなかった。
 彼女は、危険の中に喜んで身を投じる人なのだ。無茶は体を張って止めるしかない。解っていたはずなのに……。
『それで、そちらの状況は? どんな交渉をしている』
「昔団に所属していた女に、抗体を求められている。彼女の身体に抗体が出来れば、俺もアンタも狙われることはなくなる」
 ディラのその説明の後、アレスディアの声が途切れた。
 電話が切れてしまったのかと、ディラは「もしもし、もしもし」と呼びかける。
『……む、ぅ……』
 しばらくして、アレスディアの小さなうめき声がディラの耳に届いた。
『こんなときに、くだらぬこと、かもしれぬが……ディラが、女性に、抗体を、提供、するのは……』
 その先の言葉は良く聞き取れないほどに小さかった。
『……、だな……』
 ニュアンスから、好ましくないと感じているのだとは分かって。
「身体の一部をくれてやるわけじゃないし、アレスのような方法で渡すわけでもない。……俺の全ては、アンタのものだ」
『そ、それはともかく』
 焦ったような声が耳に響いた。
『……ディラ。クリスマスにほしいものがあるんだが……良いか?』
 アレスディアの言葉に、ディラはほっとする。
 死ぬ気はないのだと。
「なんだ?」
『メモの言葉……あれを、ディラの口から聞きたい。私からは……その返事で、どうだろう。……楽しみに、している』
 ディラが答える前に、電話は途切れた。
 途端、ディラは不安の波に襲わる。鼓動が高鳴り、息が詰まる。
 ドアを激しく叩くが、びくともしない。体当たりをしてもぶち破ることが出来ない。
「ここから出せー!」
 ディラは叫び声を上げてドアを叩きつづけた。

 女が戻ってきたのは、夜が明けてからだった。
「彼女には一切手を出さないと約束したよな?」
 即、女を組み伏せ、ナイフを首筋に当てながらディラは冷ややかに問う。
「良い目ね……。そうよ、私は手を出さないわ。“私に”必要なのはあなただけだから」
 くすくすと笑いながら女は続ける。
「私はあなたを護ってあげたの、感謝しなさい」
 女が手をディラの頬に当てる。
「私には、もう何の目的も生きる理由もない。だから、殺してくれてもいいのよ」
 自分だけのために生きたい理由はもうない。他人を愛せるようになれば、何か変わるかもしれない。それが無理なら生きている必要なんてない。
 そんな彼女の感情は、ディラには良く理解が出来る。だが、今はそんなことはどうでも良かった。
 死地へと飛び込むアレスディアを助ける術が欲しい、それだけだった。
「お前の中に、抗体は在ったか?」
「検査の結果はまだ出ていないわ。少なくても、恋心は戻ってない」
 ディラは静かに睨み、頬に伸ばしてきた彼女の掌を刃で裂いた。
「ふふ、自分のモノが奪われてそんなに不快? そう、私を殺してもどうにもならない。解っているでしょう。私が抗体を持ったのなら、私はあなたの護りたい人の代わりになれる。本気で、私に抗体を渡しなさい。あなたはあの女からどうやって、抗体を貰ったの?」
 途端、ディラは自らの掌も切った。互いの掌を合わせて床につき、もう一方の腕を乱暴に彼女の口に当てた。
「噛んで血を啜れ。……俺はこれ以上の事は出来ない」
 電話から流れてきたアレスディアの言葉が、ディラを止めていた。
「これで満足できないというのなら、あいつから貰えばいい。嬉々としてお前を護ろうとしてくれるだろう。俺は物凄く嫌だが」
 女がディラの腕に歯を立てた。痛みに眉を寄せながらディラは言う。
「お前の目的は俺じゃない。団に奪われた自分の心を取り戻すこと。抗体を手に入れたあとは、団と内通している奴らと居ても、狙われるだけだ。姿をくらまし、自分が愛せる相手を探して生きればいい。俺の生きる目的は彼女――アレスディアだけだ。抗体は必ず渡す。だから手を組もう」
 彼の血を口に含み飲み下した後、口にあるディラの腕を払いのけ、女はディラと睨み合った。
「……わかった」
 重ねられている手を握りながら女は言う。
「手を組みましょう、ディラ・ビラジス」


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
こちらは、ご依頼いただきました中編のディラ視点の物語となります。
どんな結末を迎えるのか、どきどきお待ちしております。
東京怪談ウェブゲーム(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年12月11日

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