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『Crystal trap 』
ファルス・ティレイラ3733

「パジャマパーティーしよう!」
 そんな事を言って友達の瀬名雫を家に誘ったのは、ティレイラだった。
 師匠であり姉のような存在であるここの家主は、仕入れの関係で出払っている。遠方まで行かなくてはならないらしく、2、3日は戻ってこられないと伝えられた。
 ティレイラは留守番を頼まれていたためにこうして留まっているのだ。
 寂しかったらお友達でも呼びなさい、と言い残していった師匠の言葉に甘えて、雫を呼び寄せたというわけだ。
「お邪魔しまーす!」
 ティレイラの誘いに快く応じ、お泊りセット持参で姿を見せた雫はやはり女の子らしくはしゃいでいるようであった。
 それから二人は、軽めの夕食を採って雫が持ってきてくれたお菓子をメインに談笑の時間を過ごした。雫は最近のオカルト事情や管理しているホームページの事、ティレイラは配達の時にあった些細なことや師匠の事などで盛り上がった。
「さて、そろそろお風呂入ろっか。お姉さまのこだわりで、うちのお風呂ちょっと豪華なんだよ〜」
「えっ、そうなの……? 楽しみ……! 入ろう入ろう!」
 時計が午後九時を指したところで、ティレイラはそんな提案をした。
 すると雫は嬉しそうな表情をして、持参のかばんから入浴セットを取り出して勢いよく立ち上がる。
 そして二人は揃って部屋を出て、長めの入浴を楽しむのだった。

 ガタン、と大きな音がしたのは、それから一時間後くらいだ。
 ゆったりと湯船に浸かり、先にティレイラが浴室から出たところで、ハッキリとした物音が聞こえたのだ。
「ティレちゃん、今の音なんだろう?」
「……うん、地下の倉庫からっぽい……ちょっと、見てくるね。雫ちゃんは上がって部屋に戻ってくれてていいから」
「気をつけてね、ティレちゃん」
 ティレイラは体を伝う水滴も適当に、手にしたバスタオルを巻き付けて廊下へと出た。
 前にも似たような事が起こっている。
 だからこそ、嫌な予感というものは当たりやすい。
 ティレイラは自分の気配を消しつつ、廊下に掛けてあった倉庫の鍵を手に、地下へと降りる階段を降りた。
「…………」
 息を殺して扉に耳を当てて音を確かめる。
 すると、確かにその向こうから何かを物色するかのような気配を感じた。
「……こらーーっ!」
 バタン、と勢いよく扉を開けると、盗人であるらしい存在が驚いて手にしていた壺を床に落とした。見た目は小さな少女の姿だったが、背中にコウモリ型の羽がある。魔族だ。
「チィッ!」
 少女があからさまに舌打ちをした。そして、手元にある魔法道具を掴み、ティレイラに投げつけてくる。
「あっ、こら……っ、勝手に物を投げちゃだめ!」
 ガラス製の小瓶がティレイラに向かって飛んでくる。1つ目は何とか手に掴むことが出来たが、次に飛んできたものは受け止めきれなかった。
 足元で容器の弾ける音がする。
 だが、それを目で確認する間もなく、ティレイラは駆け出していた。魔族を捕まえるためだ。
「待ちなさい! 何その袋……あなたの体より大きいじゃない! そんなのに魔法道具詰め込んだって、持ち帰れないんだからね……!」
「……小娘シカイナイト聞イテイタカラ忍ビコンダノニ、小煩イナッ」
「なんですって!? あなたも見た目は十分小娘でしょ!?」
 狭い倉庫内の通路で、魔族とティレイラはそんな事を言い合いながらの移動をしていた。
 途中、ティレイラの体からバスタオルがはらりと落ちるが、それどころでは無かった。
「クゥ、シツコイナ……!」
「その袋を置いていけば見逃してあげるわよ!」
「ソレハ出来ナイナ! ソラッ、コレデモ食ラエ!」
「ちょっと、勝手に投げないでってば、……ッ!?」
 ヒュ、と音を立てて綺麗な色のガラス小瓶が宙を舞った。
 ティレイラはそれを腕で防いでしまったのだが、元々が脆いものだったのかその場で弾け飛び、中身が四散する。
 ティレイラはもちろん、数メートル先にいた魔族の少女にもその四散する霧のような粉に塗れて、二人ともその場で足を止めた。
「オイ、何ダ……コレ!!」
「……知らないわよっ、だいたい、ここにあるのは全部、お姉さまの商品……っ、げほっ」
「煙……ッ? イヤ、何ダコノ感触……ッ!」
 ティレイラは粉にむせ返り、魔族は表情を歪めてその場で暴れ始めたが、足元は既に動かなくなっている。
 粉のようなものと思っていたソレは、空気に触れることで変容するのか、次第に液体に似たものへと形を変えた。透明な液体は、床に落ちた瞬間に鉱石のようになっていく。まるで水晶を思わせる輝きであった。
「……オイ、ナントカシロ!」
「出来るわけ無いでしょ! お姉さまの作る魔法道具は、どれも完璧、なんだから……」
「ウウ……、ソレガ狙イデ盗ミニ入ッタト、イウノニ……!」
 それぞれに言い合う二人だったが、その間にも体の自由がどんどん奪われていく。
 ティレイラは風呂上がりということもあり、火照っていた素肌に這うようにして吸い付いてくる謎の膜に、身悶えた。
「……はうぅ……」
 割れた瓶から漏れ出したものは、触れたものを水晶へと変える魔力が働いているようだ。霧のような粉状から液体へ変容し、そこから膜を広げて再び硬化するという仕組みなのだろう。
 そしてティレイラも魔族も、その水晶に飲み込まれて、その場で動かくなってしまう。
 数秒後、カタンと音を立てたのは、少女魔族が投げ捨て損ねた小瓶が虚しく床に転がるそれであった。

「……ティレちゃん?」
 それから数十分が経ってから、雫が様子を見に地下へと降りてきた。
 パジャマ姿に頭の上にタオルが乗った状態であった。
 静まり返った倉庫には、何の気配もない。
「それにしてもこの荒れ具合……お師匠さんの品物目当ての泥棒だったんだろうなぁ……。あ、あらら……」
 通路に沿って壊れた瓶などが転がっている。
 それを踏まないようにしながら雫が奥へと進むと、キラキラと輝く光景が視界に飛び込んできた。
 二つの水晶柱――とでも言えば良いのだろうか、そんなものが不自然に佇んでいる。
「すっごい綺麗だけど……ティレちゃん、また像になっちゃったんだね……。こっちは、泥棒さんかなぁ……小さい子みたいだけど」
 雫は水晶の像に指先を滑らせつつ、そんな独り言を続けた。
 ひんやりとした触り心地は、少しだけ気持ちがいい。
「さすがティレちゃん……こうしてると元からあった芸術品みたい。お師匠さんが見たら喜ぶんだろうなぁ……取り敢えず写真撮って報告しておこう……」
 雫はそう言いながらスマートフォンをどこからともなく取り出して、水晶の像へとカメラを向けた。
 そこからニ、三枚を手早く撮った後、手慣れた仕草でティレイラの師匠へとメールを送る。
「なんだか最近、あたしばっかりこの場面に遭遇しちゃって、お師匠さんに申し訳ないなぁ……でももうちょっとだけ、堪能させてもらおう」
 雫はそう言いながら、水晶の像となってしまったティレイラの触り心地をしばらく堪能するのであった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3733 : ファルス・ティレイラ : 女性 : 15歳 : 配達屋さん(なんでも屋さん)】
【NPCA003 : 瀬名・雫】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 再び書かせて頂けて嬉しかったです。
 少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。有難うございました。
 また機会がございましたらよろしくお願い致します。
東京怪談ノベル(シングル) -
涼月青 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年12月25日

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