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『共に在る 』
エル・ル・アヴィシニアaa1688hero001)&魂置 薙aa1688

 決戦の終わりが近づいている。王の空間へと飛び込み、奇跡的にも帰還したエージェントの口からは、英雄と愚神、王の関係についてのある事実が伝えられた。
 愚神のバグと指摘された英雄であったが、それは王によって意図的に引き起こされたものであった。英雄は、生命としての正しい形を喪失し、世界を貪るように呑み込むだけとなった王を弑する為に送り出された正真正銘のヒーローだったのである。
 今こそその命を全うするために、エージェント達はほんの僅かな休息を取ることになった。急いては事を仕損じる。用意が整うまで、彼らは自宅やH.O.P.E.の支部で暫し思い思いの時間を過ごす事になったのだった。



 エル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)は、自宅のリビング、ソファにそっと腰を下ろして俯いていた。
(……気に食わぬ。そんな事の為に、薙は奪われたのか?)
 常に鷹揚に構える彼女が、今日に限っては眉根に深い皺を刻み、険しい顔で膝を睨んでいる。かつてない程の怒りに襲われ、彼女は肩をうち震わせていた。
 王は終わりたがっている。他ならぬ仇敵から、彼女達には錦の御旗を与えられたのだ。しかしそれがどうしたというのだろう。二十年以上も続いた戦いの中で失われた命が戻ってくるわけではないのだ。彼らは奪われたままである。愛する家族、魂置 薙(aa1688)も。
――愚神は奪うから、嫌いだ。
 幾度となく、薙から聞いたこの言葉。薙が抱く愚神への憎しみは、決して彼が家族を“奪われた”怒りからのみ来るものではない。彼がエルと手を取り戦う事を選んだのは、愚神が“犯した”罪に報いるためばかりではない。
 もう誰かが奪われないように。その為に薙は戦っている。
(愚神が。……私達英雄が居なければ)
 家族が殺されることは無かっただろう。左眼を喪い、発声が困難になるという事も無かった。学校に通い将来を夢見る平穏な人生を過ごしていたはずだ。
(同じように奪われた、見知らぬ誰かにしてもそうだ)
 慣れない怒りが彼女の全身を熱くする。感情の行き場が分からない。彼女は唇を噛むと、額を強く押さえた。
 彼女の豊かな黒髪と共に、両耳に留めた小さなイヤリングが揺れる。装飾が擦れて、微かな音を立てた。その音は、いつでも冷静な“彼”のように、我を忘れかけたエルをそっと諫めた。彼女は力無くソファにもたれると、天井を仰いで深々と息を吐く。此処で憤懣遣る方ない思いを抱えていても仕方ない。前を見つめるしかないのだ。

(王を倒すための存在、か)
 もう一度、全てのエージェントに知らされた情報を反芻する。全く王は、始まりから終わりまで一つの舞台を仕込んでいたという訳である。その舞台で役者をさせられたような気がして、気分はやはり良くない。
(だが……踊らされていたわけではない。これは私が自ら望んで選んだ道に違いない)
 眼を閉じると、半年前の光景が瞼の裏に蘇ってくる。洋上の甲板で、黒獅子と刃を交わした時のことだ。
(本当に、損な役回りよな。ヘイシズよ)
 自らを悪の位置に押し込め続け、自ら与えられた役を全うしようとしたヘイシズ(az0117)。彼を前に、エルは一つの答えを示した。
(罪を着るのが愚神であり、罪を斬るのが英雄……当にそれが真実であったという事か)
 ヘイシズは王の本当の望みが何であるのか、自力で辿り着いたのではないか。今となってみれば、そんな気もしてくる。そして王の望みを叶えるために、彼は全力で『愚神』を演じきったのだ。
 エルは静かに面を上げる。青空の彼方を見据え、彼女は獅子に向かって言い放つ。
(王の描こうとした筋書きがいかなるものであろうと、私の本質は変わらぬ)



 王の為に戦うのではない。最初から最後まで、エルは薙の為に戦うのだ。



 薙は、激戦に晒され続けた身をベッドに横たえていた。身体の節々が痛む。その痛みが、いよいよ戦いの終わりが近づいてきた事を知らしめていた。毛布を引っ被ったまま、薙は左半身を布団へ埋めるように丸くなる。

 今でも、憎悪の炎は胸の奥底に宿っている。その炎が身を焼くに任せたいと何度思ったか知れない。エルと出会い、愚神と戦う力を得たばかりの頃は特にそうだった。自分の身体が傷つくのも構わず、力任せに得物を振るってきた。
 眼を閉じれば、始まりの夜を思い出す。襲い掛かった愚神の前に立ち塞がる母。右眼が無事なのは、母が身を挺して薙を庇ったからだ。
 薙は顔を顰め、右手でシーツをきつく握り締める。どんな日々を辿っても、この瞬間だけは忘れられない。全てを滅茶苦茶にした王も、おめおめと生き延びてしまった自分も許せなかった。だから、身にも余る炎で敵を焼き尽くし、そのまま自分の身も燃え尽きてしまえばいいと思った。
(……エルル)
 しかし、そんな薙の刃をエルは止めようとした。賽の河原への一里塚をひたすらに目指していた自分に『生きる』という誓いを結ばせた。
 復讐をしたいと願い続けていたはずなのに、その誓いを結んだ時から、薙はどこかで安心していた。自分の生を許してくれる人がいる。それを実感したからかもしれなかった。広い懐で包み込んでくれたエルを悲しませるのは嫌だと、そう思うようになった。
 そうして燻っているうちに、薙の周りにはいつの間にやら色んな人がいた。親友と呼べる人物さえ現れた。彼らと過ごしているうちに、復讐者として戦う姿を見られたくないと思うようになっていた。
(みんな……)
 薙はおもむろに起き上がると、ベッドを降りて机へ向かう。その棚には、親友からもらったククサカップが飾られていた。
(どんなに暗闇に呑まれそうになっても、エルルは信じて待ってくれた)
 自分がどんな力を貸してほしかったのか、自分で気が付くまで。自分の奥底に眠り続けていた、『生きたい』という想いに自分で気が付くまで。自分が幸せになる事は許されるのだと、自分で気が付くまで。
 薙はカップを手に取る。贈ってくれたのは薙の大切な親友。希望に溢れ、いつでも笑顔を絶やさない青年。彼の明るい笑みが脳裏に浮かび、思わず薙も頬を緩めた。
(復讐で戦う事を選んだら、勝ったとしても、きっともう笑えない)
 心は灼けつき、二度と蘇る事は無いだろう。そんな事に、もう薙は価値を見出せなくなっていた。戦いが終わった後に何をするかの約束ももう結んでいるのだ。



 親友と、エルルと生きる未来を掴みたい。薙にとって、戦う理由はそれで十分だった。



 薙は静かに自室の扉を開く。エルは振り返った。薙は背筋を伸ばし、真っ直ぐにエルの顔を見据えていた。初めて出会った時のような、生きているとも死んでいるともつかない痛々しさはもうどこにもなかった。
「お待たせ」
 彼は柔らかく、しかし力強く微笑む。その佇まいは、どんな嵐にも耐え抜く柳を思わせた。すっかり逞しくなった薙の顔を見て、エルはふと眉を開いた。
(そうだの)
 生き続ける事を嫌がっていた少年が、すっかり立派になったものだ。今では、『早く大人になりたい』とまで口にするようになった。自立していく彼を見るのは一抹の寂しさを感じつつも、それ以上に誇らしく思えた。
(救ってやろうなどとせずとも、ただ共に在れば良いのだ)
 リンカーは、世界を越えて結び合わされた相棒同士。王が何を望もうと、その絆だけは偽りがない本物なのだ。二人とも、その答えに辿り着いていた。
「行こう、エルル」
 薙はエルに向かって手を差し伸べる。頷くと、エルはその手の平に自らの手を重ねる。身長も、手の平も、薙はいつの間にかエルより大きくなっていた。
 その手を握りしめると、エルはすくと立ち上がる。
『ああ。共に参ろう』

 これ以上、愚神に何も奪わせない。そう誓いあった二人は、戦場へと歩を進めた。



 共に在る 終わり




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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エル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)
魂置 薙(aa1688)
ヘイシズ(az0117)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影絵 企我です。
本当は大規模締め切り前にお届けできれば良かったのですが……遅くなってしまいすみません。
回想を端的に纏める形になりましたが、問題無かったでしょうか。
最後の戦いでの御武運を祈っております。

この度はご発注まことにありがとうございました。ではまた、御縁がありましたら。
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2019年01月28日

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