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『キツネの像とお片付け 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

●荷物到着
 シリューナ・リュクテイア(3785)は仕事場に届いた魔法薬の材料を検品する。ハーブと言われる一般的な物から、異界に属するものまで幅広い。
 種類が多い上に、物によっては素材の大きさからかさばるし、容器が大きかったり厳重だったりする素材もある。種類豊富な上、多量なのはそのせいだった。
 今回、材料だけでなく、知り合いから預かってほしいと言われているキツネの像がある。
 その像は神社にあるような神の使いのキツネの像の一つのような形であり、二体で一対であったのか不明であるという。大理石のように白いが、非常に丈夫な石で作られている。その口には琥珀色の大きな珠がはめられている。その琥珀のような珠に何かあるかもしれないが、触っても特にまだ何もない。
「この像の素材に珠……気になるわね。見て調べるのは自由よね?」
 壊したり、紛失させなければ研究してもいいだろうというのがシリューナの見解だ。
「さてと、検品も終わったし……ティレ、今いいかしら?」
 部屋の外に声をかける。
「はーい、お姉さま、今行きます」
 ファルス・ティレイラ(3733)の声がどこからか響く。暫くすると軽やかな足音が近づいてきた。
「倉庫の整理は終わりました」
「じゃ、この移動をお願いね」
「はい」
「この辺りは台車とかで揺れてもかまわないけれど、この辺りは壊れる危険性もあるから慎重にね」
「分かりました」
 ティレイラは元気よく返事する。こういった仕事は頼まれることもあるから、注意事項は理解している。
 それに、魔法の師匠であり姉とも慕うシリューナの頼みは役に立ちたいし、勉強になるのだ。

●理解はしていた
 段ボール箱よりも材料は木箱が多い。木箱はかさばり重いし、液体が入った大型の瓶もあるため、体力勝負だ。
 ティレイラは箱の状況を確認しつつ、丁寧に運ぶ。
「これは……劇薬で、こっちは呪われるかも……だからどっちも封されているのよね」
 危険なものは的確に、厳重に封印されているため、開封しなければ一般的に問題は生じない。
 シリューナの部屋と倉庫を何往復もする。整理していたとはいえ、残っている素材があれば奥に新しいのを入れるという手間もかかる。
 途中、倉庫にシリューナが入っていったのを見た。
(私の仕事ぶりを確認に来たのかしら)
 何か言われるのかはらはら、そわそわしながら様子を見たが、良くも悪くも何もなかった。
(何も言われないのは、問題ないからかな? それとも……でも、お姉さまの様子から特に起こっているというふうでもなかったし)
 慕う人の考えることは気になる。
 運び終えたあと、倉庫の奥にあるキツネの像に気づいた。
「さっきまでなかったよね?」
 シリューナが先ほど運んできたものだろう。
「薄暗い倉庫の中でも、白く、神々しさを感じるのはなぜかしら?」
 ティレイラはかがんで像の目の間に立つ。上半身だけ動かし、少しでも違う角度で見る。
「この辺りは可愛い。この辺りは、黄金比……なのだと思う」
 像の良さを分析してみる。
「素材は何かしら? この咥えている珠、きれい!」
 光の加減で色が違うようだ。琥珀のように見えるが、ティレイラの陰に入ったとき、赤さが増したようだったから。
「つまり、光が強いと違う色になるということかしら?」
 ティレイラは手触りを確かめたく手を伸ばす。
 ティレイラの目の前で珠は取れ、落ち、転がっていった。
「隙間に入ったら大変!」
 ティレイラは珠に向かって飛びついた。慌てたことにより、周囲が目に入らなくなっていた。
 ガタンという音を箱が立て、中からいくつか干し草が転がった。その瞬間、我に返り、珠も重要だが、周りを考えないといけないということを思い出したのだ。
 ひっくり返した箱に何が入っているか箱にかかれた文字を確認しつつ、体をよじり、手を伸ばして珠を掴もうとする。
「箱に入っているのは……魔術用素材……魔力を増幅させる……えっと……これだけなら大丈夫」
 安堵し、珠に手を伸ばす。
「あと少しで届きそう……やったー」
 肩がつりそうになりながらも珠を掴んだ。
 そして、体を起こそうとしたが、無理な姿勢がたたり倒れた。体勢を整えようとして手足を振ったため、棚に手が触れ、別の箱を落とした。その箱は同じ段にあった瓶に勢いよく当たり、弾き飛ばしてしまった。厚みのある瓶だったが、当たった先の入れ物に当たって割れた。
(液体……ではないの?)
 粉であれば掃除が楽だとほっとしてしまった。珠を掴み、身を起こして、粉の確認に行く。珠を取る際に、近くにあった干し草も一緒に手にしていた。
 砕けた瓶はふたがしっかりと本体に残った状態だった。つまり、封印がしっかりしていた。本体に書いてある名前や注意事項を見る。
「空気に触れさせないこと……あ、え?」
 大きな問題であると気づいた。シリューナに伝えなくてはいけないと動こうとしたが、ティレイラは不意に体内の魔力が強くなるのを感じた。
 魔力が沸き上がる感覚を抑えれば、暴発して倉庫ごと吹き飛ばしかねない。抑え方はわかっているため、呼吸を整え、魔力と外気を混ぜるような自然を意識した。
 必然、周囲の魔力の濃度が上がる。
 珠は魔力に反応し、それを吸収し始めた。
 珠にはもともと魔力があったとか、その魔力が何に使われていたのか、この時点で依頼主もシリューナも知らなかった。
 さて、ティレイラは魔力の膨張が収まったのを感じ、ほっとした。しかし、頭が、体が、脚が妙にむずむずするのだ。かゆいのとは何か異なる、うずき。
「あれ? 病気? 呪い?」
 珠を持ちづらいと感じたとき気づいた、獣化しているということに。
「私、何かやっちゃったのぉ」
 思わず悲鳴を上げた。

●案の定だった
 シリューナは預かりもののキツネの像は自分で倉庫に置きに行った。
(そろそろ、終わりそうよね。お茶の準備をしておこうかしら)
 シリューナはティレイラの作業に満足し、台所に向かう。ヤカンで湯を沸かしている間に、茶菓子に合う茶葉を選ぶ。
 ティーポットに茶葉を入れ、適温になった湯を注いだ。皿を用意し、いつでもティータイムにできるようにしたとき、倉庫の方で大きな音がした。
「まさか?」
 シリューナは倉庫に急ぐ。倉庫内は粉っぽかったため、口に布を当て、魔法で吹き飛ばすか考える。しかし、何の粉かを確認する必要がある。
「お、お姉さまあああ」
 情けない声でティレイラはシリューナに訴えた。
「誰?」
 ティレイラだとは気づいているが、あきれていることも含め、意地悪な言葉が出た。
(ふさふさな毛並みに、子ギツネの目みたいにくりくりして潤んでいるなんて、愛くるしいことこの上ないけど、なんでこうなっているのかしら?)
 シリューナの内心は微笑み半分困惑半分だ。
「ううっ、ティレイラです」
「うん、で、何をしたのかしら?」
 シリューナが見ている前で、ティレイラの姿はより一層冬毛のキツネになっていく。耳も尻尾ももっふもっふになっていく。キツネのようにとがった顔になっているが、ティレイラだと分かるし、後ろ足で立てるあたりは人間ぽさもある。
 シリューナは魔力が濃いのは封じていた物体と干し草の影響だと、現場から読み取る。
 しかし、キツネになるのが想定外だった。キツネといえば置いた像があるが、彼女が見ていた時点ではまだ魔力はなかった。
(あら? それに珠は?)
 今見ると、かすかに魔力の反応がある。
「ご、ごめんなさい、お姉さま! この珠がきれいで」
「なんで取れてるの」
「触ったら取れました」
 シリューナが触ったとき動かなかったため、何かコツがあるのかもしれない。壊れていなければこの件は不問に処すつもりだが、状況としては罰は必要に思える。
「で、魔法薬の材料……とはいえ、危険なものでもきちんと分けたり、容器を工夫してあるのに、なぜ滅茶苦茶にしたのかしら? 粉末は空気に触れると触媒として……はぁ」
 説明の途中でため息が出た。粉末は触媒として有能だが、空気に触れると急速に劣化する物だった。その上、その干し草の方と相性が良く、魔力を高める香となりうる。きちんと処理しないと持続しないのが難点だ。ティレイラがひっくり返し状況の確認してた時に反応は始まり、シリューナが来た時にその効果はないほど消えるのは早い。
「そ、それは……ごめんなさい!」
「慎重に扱っていたじゃないの、運ぶ時は!」
「うっ」
 シリューナの指摘は最もで、ティレイラは何も言えなかった。
「お姉さま、ごめんなさい! うううっ」
 しおれているのがわかるほど、キツネの耳が垂れる。
 その様子を見るとシリューナはティレイラが愛らしいと思い顔が柔らかくなりそうだが、一応説教中なので必死に耐える。材料を滅茶苦茶にしたのは大問題だ。
「よりによってそれとこっちをひっくり返したりするのかしらねぇ」
 運が悪いことには同情は禁じ得ない。しかし、ティレイラが落ち着いて行動していれば、このような事態は避けられたのだ。
「……ティレ……物事には道理や因果関係があるの」
 冷静な声で告げる。厳重に封をされている物がなぜかということを悟らせる意味が一つあった。
「お、お姉さま……」
 もう一つの意味、悪いことをしたらお仕置きよ、という意味をティレイラは嗅ぎ取った。
「頭を冷やしなさい!」
 シリューナはワンドを振るう。カッと光がティレイラの足元に落ちる。
「お姉さま、ごめんなさいっ! もっと、落ち着いた行動をとりますから、動けなくなるのはっ!」
 ティレイラは嘆き、謝罪しつつ、逃げられないか動き回った姿で硬直し、止まった。
「その珠、魔力があるとこうなるということをあなたは証明したのね」
 それはいいことだが、人体実験してどうするとツッコミは内心でする。
「適当に解除してあげないとね……お茶は一人でするかしら?」
 今後の予定を考えると、再び大きな溜息が漏れる。
「いえ、それよりも……今、すべきことはっ!」
 シリューナは考えていた予定などは思考の片隅に追いやる。今すべきことは、目の前の愛くるしい、偶然の産物のティレイラの像を心に焼き付けておくべきであるはずだ。
 ティレイラのキツネ像は動物のキツネでは見られない、躍動感があった。人間というカテゴリーを付すことで違うものが生じる。
「……毛並み……すごいわね……こう、一本一本……なびく、動く……動体視力、細かい作業ができる職人でないと、作ることはできないわ」
 魔法なら一発とはいえ、思ったようにできるかはわからない。
「ああ、この……目も、人間とキツネを合わせ、一見怖くも見えるけれど、感情が豊かで引き込まれるわね」
 シリューナはほぅと感激の溜息を吐いた。動物を撫でるようにさらりと手で触れる。細かい質感は伝わった。
「しっぽ……そうよね……見るにはいいけれど触るには武骨な感じは否めないわ。それは欠点であり、素材や造形美を見るには良いわね」
 シリューナは感激しながら見て回り、耳の先の細さは触るのに恐ろしいが、石像でここまで加工するにはどのくらいの技術がいるのかと考えたくなる薄さを実感できる。それに触れても壊れることはないが、緊張感が漂う。
 脚の動きなどはいくら眺めても飽きない。
「キツネなのに、ティレイラってわかるのも不思議よね……」
 頭を優しくなでる。ひやりとした石像特有の冷たさと、呪いで作られていることを示すぬくもりが伝わる。
「それにしても……」
 紅茶が冷えた上、非常に濃く飲めないくらいまで、シリューナはティレイラを眺め撫でるのだった。

 それからしばらくの間、ティレイラはほかの荷物が動かないように重石として利用されていたという。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 ご指名ありがとうございます。
 キツネは夏毛より冬毛という妙なこだわりにより、モフモフ感倍増しました。ちょうど、違いの写真見たので……。
 いかがでしたでしょうか?
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2019年04月22日

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