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『孤独な戦い 』
狭間 久志la0848

 ナイトメアに占領されたニュージーランドを攻略するにあたり、SALFが展開している作戦の一つが生存者の保護だ。
 ナイトメアから隠れ、細々と暮らしていた生存者をニュージーランドから脱出させる。
 その依頼の一つに、狭間 久志(la0848)も他のライセンサー五人と共に参加している。

 ナイトメアに気付かれないよう、昼でも薄暗い森の中を進む。
 森の奥深くに隠れ住んでいた生存者五人を久志らは発見した。ニュージーランドを脱出させる説得にも成功した。生存者を森の外れに停めてあるキャリアーまで連れて行けば依頼成功だ。

「……ねえ、何か聞こえない?」

 ライセンサーの一人が小さく声を上げる。
 全員が足を止め、耳を澄ます。
 背後から、たくさんの足音が落ち葉を踏みしめて近付いてくるのが聞こえた。

「ひいっ」

 生存者が悲鳴を上げる。
 ライセンサー達は緊迫した顔を見合わせた。
 非戦闘員を庇いながらナイトメアと戦うのは困難を極める。それゆえ、もしも生存者との撤退中にナイトメアに見つかったらどうするか、既に話し合っていた。

「打ち合わせ通り、俺が残る。行け」

 久志は淡々と言い、守護刀「寥」を鞘から抜き放った。薄く白い刃が木漏れ日を反射する。

「必ず戻ってくるから、それまで持ちこたえてくれよ」

 ライセンサーは久志にそう言葉を残し、生存者を抱え上げて全力で駆け出した。
 人間が逃げようとしているのに気付き、追ってくる足音が速くなる。
 木々の合間に、羊のような見た目のナイトメア、ストームシープが走ってくるのが見えた。
 羊三頭でナイトメア一体を構成しているシープはぱっと数えるのが困難だが、久志は冷静に、シープが三体いることを見て取った。

「お前らの相手は俺だ」

 刀を正眼に構え、久志はシープの動きを見極めるべく目をこらす。受け流しの構えだ。
 久志の姿を見つけたシープは三体とも、走ってきたそのままの勢いで彼に突進を仕掛ける。
 久志を即座にひき殺し、もっとたくさんいるはずの人間を追おうとしたのだろう。
 しかし、久志はシープの直線的な動きを見切った。最小限の動きで避ける。
 ただ避けるだけではない。すれ違いざま、久志はシープを斬り付けた。
 グラップラーの奥義の一つ、無拍逆襲撃。シープ三体に一太刀ずつ浴びせる。EXISによりシープのリジェクション・フィールドは突破され、傷を付ける。

 シープは足を止め、三体で久志を取り囲んだ。
 久志には攻撃が当たらなかっただけでなく、その一瞬で反撃までしてきた。
 もしもシープに感情があれば驚愕したかもしれない。
 実際には感情を持たないため、ただ久志を脅威と認識し、三体がかりで倒すと判断した。

(ナイトメアを引きつけることには成功した。後は、あいつらが戻ってくるまで持ちこたえるだけか)

 久志は油断なく刀を構えながら、冷静に現状を把握する。
 シープは耐久力に優れるナイトメアだと聞いている。
 それでも相手の攻撃を避け続け、こちらの攻撃を当て続ければいつかは倒せるだろう。
 しかし、その途中でへまをして自分が倒れては、逃げている生存者に危険が及ぶ可能性がある。
 それに――。
 久志は小さく頭を振り、変な感慨に浸りそうになった自分を諫めた。
 今回の依頼の目的は民間人保護。優先すべきはナイトメア退治よりも生存者の救出。
 目的を果たすために最も必要なことをこなす。かつて傭兵として名を馳せた彼は、自分が果たすべき役割は敵を引きつけ続けることだと判断した。

 シープが羊三頭分の体積をもって体当たりしてくる。
 体をひねり、避ける。
 回避の隙を狙い、別のシープが背後から体当たり。
 音で攻撃を察知し、上へ跳んで躱す。
 上空の久志に向けて、シープが羊毛を投げる。標的は脚。
 刀で羊毛を斬り払う。

 久志には攻撃が当たらないが、放置して他の人間を追おうとすると刀が振るわれ、出鼻をくじかれる。
 戦場は完全に久志がコントロールしている。
 久志はシープを翻弄し、木々も利用することで一度も攻撃を受けることなく、仲間が戻ってくるまで耐えきった。

 ライセンサー六人がかりで負ける相手ではない。
 生存者をキャリアーという安全地帯まで運んだライセンサー達は、休むことなく駆け戻り、総力を挙げてシープを倒した。

 無事で良かったと労ってくるライセンサーの言葉を聞きながらも、久志は冷めた目をしていた。
 自殺願望はないが、この世界に最愛の人はいない。
 元の世界に戻れる保証はない。おそらく帰れないし、最愛の人とも二度と会えないのだろう。

 それでも倒れたくないと思えたのは、自分が死んだらトモダチや仲間が悲しむだろうと想像できたから。

「ここは俺の死に場所じゃないんでな」

 クールにそれだけ言って、久志は帰るべくキャリアーのある方へと一歩踏み出した。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 おまかせノベルのご発注、誠にありがとうございました。
 シリアスめの戦闘に、現在進行中の大規模作戦【OL】を絡め、一作書かせていただきました。
 楽しんでいただけましたら幸いです。
おまかせノベル -
錦織 理美 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年05月20日

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