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『問質、反転、またいつか』
石神・アリス7348

 こうまで話が通じない方が相手だと、色々自信が無くなっても来ますね。
 わたくしは本当にきちんと伝えられていたのでしょうか。

 ――好奇心は猫をも殺す、と。



 石神アリス(7348)は電話を掛ける。

 何処へかと言えば、携帯の履歴に残したままである件の番号に。『前回』の事で話があると伝え、誘い出す。場所は公園。表向きには公共の場所ながら勿論アリスの領域内に当たる場所――「標的」を誘い出すのに良く使う慣れた場所でもある。

 さぁ、どう出て来るか。
 ひとまず電話で声を掛けた時点で「公園に来る事」自体の快諾はすぐにされている。それはもう、胡散臭い位に無邪気に簡単に、楽しそうな口振りで。

 アリスの周りに――いや、アリス当人に目星を付けて、「ナチュラルボーンのメドゥーサに会いたい」なんてそんなふざけた目的を言ってのけていた、本宮秀隆と言う男。

 今、どうしてもそいつに問い質さなければならない事がある。



 公園現地。

 大学生位と思しき青年が歩いて来る。整った怜悧な顔立ちの――先日カフェで会った通りの本宮である。
 因みに実際は大学生どころではなく、三十路も半ばだった筈。若作りも甚だしい――まぁ、「作品」として仕上げるならそれなりの売り物には出来そうな容姿とも言えるが。

「今日はダリアさんは御一緒じゃないんですか?」
「あ、ひょっとしてダリア君の方が目的だったのかな?」
「いえ、目的はあなたの方ですよ。本宮さん」
「そんな風に言って貰えるとちょっと嬉しいね」

 メドゥーサさん?
 と、何の裏も無い様な笑顔で、にっこりと笑ってのける。

「……わたくしにはメドゥーサではなくきちんと名前がありますが?」
「とと、これは失礼。石神さん」

 今日はわざわざのお誘い有難う。そんな風にふてぶてしくもあっさりと。

「礼を言われる様な事は何もありませんが。来て頂けたと言う事は……きちんとお答え頂けるんですよね?」

 先日の――『前回』の件。
 何故わたくしが「あの子」に手を出しているのがバレたのか――その回答を。

「……わたくしとしては、充分過ぎる位に注意を重ねていた筈なんですけれど。あの子の周りの人間の記憶や情報を操作して――言わば存在自体を消した上で実行をしてもいますし、これまで同じ遣り方で余人に気付かれた事はありません」

 そんな風に、絶対にバレない様に注意をしていた筈なんですけどね。

「ああ、その事でだったんだ? それならね――」



 あの時の砂粒みたいな隠しカメラと盗聴器兼用の端末はね。石神さんの周辺で見繕った、石神さんの趣味に合いそうな子達に対してただ手当たり次第に仕込んでおいてみただけだよ。
 石神さんの美術館経由で裏オークションに売りに出されてる石像から逆算して考えてね。「それら」の内一つが当たっただけ――本宮はあっさりそんな風に言って来た。

 聞いた時点で、数瞬、間。

 それはつまり――「あの子に手を出した」事が順序立ててピンポイントでバレた訳では無かったらしい。と言うか……何だそれは。どれだけの手間だ。外れて徒労に終わる可能性の方が高過ぎる。
 正直、呆れた。
 だがそれが間違いの無い答えであるなら――アリスの不手際とも言い切れない。けれど同時に、今後対策を取らねばならない事にもなる訳で。
 少なくとも、そんな呆れた真似をする輩自体を処分しておくのは対策として最低条件になる。
 溜息が出た。

「あなたには言ってませんでした? ――好奇心は猫をも殺すと」

 溜息混じりにそう続け、無垢の金眼で本宮をじっと見つめる――見つめようとする。それ自体がアリスにとっての攻撃の一手段――なのだが。
 見つめてきちんと『魔眼』を発動させる直前に、その視線を遮る様にして――まるで本宮を庇う形にふっと新たな姿が唐突に現れた。まだ十程の年頃だろう氷の様な美童。自然、そちらに視線が奪われる――アリスにしてみればこちらの方が本宮よりずっと趣味には合う。が同時に、具えた能力面で悔しいながらも敵わない可能性が高い相手で――つまり「御一緒じゃない」のかとさっき訊いてみた当の相手――ダリアである。
 居なかった筈が何故か突然現れて、こちらもこちらで溜息を吐いていた。

「これにまともに付き合おうとしない方がいいですよ」
 これ――本宮秀隆さんに。
「ええ。勿論そのつもりですよ――ですから、こうしているんです」

 言うと同時に、凄まじい魔力を具えたダリア対策にと予め仕掛けておいた魔力封印の魔法陣を発動する。不意打ちで――これで何処まで封じられるか。思いながらも『魔眼』を再発動。石化させるべくダリアを見つめる。

 が。

 ぴくり、と思わず震える。瞬間的に凄まじい違和感。封じられた筈のダリアの魔力が、封じている筈の魔法陣が、別の作用を見せている。ダリアが封印に抵抗しているからか、そもそも魔力自体の質の問題か――何か別の理由かはわからない。けれど。
 殆ど「鏡」の様な作用になってしまっている事だけは、確信出来た。
 つまり。
 わたくしがダリアに『魔眼』を掛けている時点で、その作用は反転してわたくし自身に振り掛かって来る、と言う事になる。
 それも、敷いてある魔法陣の作用か、途中で石化するのが止められなくなっている事も確信出来てしまっていて――……

 こうなってしまっては、己の美学に殉じるしかない。ぴしりぱきりと体の奥底から石化しつつある軋む様な感覚にああもうと嘆きつつも、出来得る限り綺麗な、見栄えのする格好で自身の姿が固まる様に全神経を注いでポーズを維持する。動く事自体に不自然な制限が掛かる中でのなけなしの努力。程無く、肌の服の髪の表面にまで石化が表れ始める。
 その最中でもダリアと――本宮とも目が合う。何だか苦笑している様な気配。それ自体が悔しい――思いながらも浮かぶのは笑み。この二人の前で弱みなど見せて堪る物かと思った意地もある。どうせ石化するなら綺麗に固まらなければと言う使命感もある。
 それら諸々ひっくるめて、アリスは己自身を完全にプロデュース。

 やがて石化が完了した時。
 そこにあったのは――何かに抗う様な悔しそうな笑みを浮かべつつ、それでも凛と佇む反骨の少女の石像。



 そして恐らく数日後。

 えぇとこれをこうすればいいんだっけ、そうじゃなくて魔法陣を上手く壊さないとややこしい事になりますよ、殺してしまっていいのなら御自由にとしか言えませんが、いやいやそれ勿体無いよ、ちゃんと戻してあげないと――……

 そんな遣り取りらしき物が薄々聞こえる気がする中、石神アリスは目を覚ます――と言うか、不意に全身の自由を取り戻す。動ける――自分がどうなっていたかを思い出す。石化していた。それも、この二人の前で。

「……大丈夫? 僕達の事とか自分の事とかわかる?」
「ええ。御陰様で――ですが、何故です? わたくしを元に戻そうと色々努力されてた様ですが」
「そんなの、まだ観察させて貰いたいからに決まってるじゃない」
「決まってるんですか」
「うん」

 ……石化する前のわたくしの行動を知った上で、それですか。
 何だかもう、苦笑しか浮かばない。

「でしたら。今回はわたくしの方もひとまずここまでで引きましょう。……ですが。いつかあなた達の首はとります。――それまではお互い出過ぎたマネはしない様に」

 改めてそう釘を差させて頂く事にしますね。
 日々のこれからの平穏の為にも。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 いつも御世話になっております。
 今回は、わざわざの決着編の発注まで有難う御座いました。とは言え流れが流れなので決着しているのか謎な感じとも言えなくもないですが、こんな感じとなりました。
 そして結局最後まで大変お待たせしております。

 内容ですが、これまた毎度の事ながら御希望の石化描写が濃い目になっているかが微妙な気がしているのですが……本宮の回答も色々とどうしようもない感じかもしれませんし。
 如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、次はおまけノベルで――当方の手掛ける石神アリス様の最後の描写を失礼して、そちらで改めての御挨拶を。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年08月31日

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