●リプレイ本文
●団結
「みなさんに巡回と火災の備えをしてもらいたい。力を貸して欲しい」
ローガン・カーティス(eb3087)は力強く、集まってくれた者に話しかける。
24日、冒険者達はセーヌ川沿いにある一般家屋がたくさん建てられた地域の代表者を集めていた。
「火災が起きるか起きないかは正直わからん。ただあの預言とかのせいで変な行動をしている奴らはいっぱいいる」
代表者の一人が不安げに話す。パリを脱出して空き屋になってしまった家屋もかなりあった。
「すでにみなさんの中で自主的な活動をなされている方々もいると思います。我々冒険者とも連携を深めていきましょう」
十野間修(eb4840)が優しげな声でみんなに話しかける。
ブランシュ騎士団黒分隊と他の依頼に参加した冒険者達が暴動鎮圧に当たってくれる。冒険者仲間の通報も期待出来た。
まずはローガンから家庭での用意についてが説明される。
水桶などに可能な限り、水を用意する事。
周囲の家ごとで班を作り、助け合う体勢を整えておく事。
夜間の外出は見回りの者以外しない事。不審者がいたら即連絡を。
火災時には外した戸やシーツと棒を使って怪我した人を運べる事。
様々な事が話されたが時間的に無理な内容もあった。消火や避難の訓練を行った方がいいのだが、事態はそれを許さない。それに班を作る事は大切なのだが、すでに無人の家がかなりある。完全な体勢を作るのは難しい。それらの点は見回りなどでフォローする事となる。
十野間は地図を広げながら、代表者達から地域の情報を集めた。
石造りの家もあるが、木造の家もかなりある。それから家畜を飼っている場所や、避難場所に出来そうな広い空き地などを確認していった。
「燃えやすいもの、人目に付きにくい場所を注意していけばいいだろう。それでは行って来る」
ケイン・コーシェス(eb3512)は巡回警備に出かけた。難しいことを教えたりするのは苦手なので、地域代表者との話し合いを他の冒険者に任せたのだ。こうしている間にも不届きな輩が徘徊しているかも知れない。
「お前と一緒に目立つように行動した方が、かえってよいかも知れないな」
ケインは愛馬に跨るとゆっくりと走りだす。
すでに冒険者達の警戒態勢は考えられてあった。
三人が分担して地域の見回りをし、一人は休憩をする。六時間ごとに一人が休憩していた仲間と交代して二十四時間体制で警戒するつもりだ。
「私は空から活動を支援します。先に巡回してきます」
コルリス・フェネストラ(eb9459)は『ババ・ヤガーの空飛ぶ木臼』に乗ると大空に舞う。ケインが地上からなら、コルリスは空中から様々な注意すべき場所を調べるつもりであった。その上で警戒を行う。
「ここは空き屋が密集していますね。注意と‥‥」
コルリスは持ってきた地図に書き込んでゆく。最初、スクロールを使おうとしたが、代表者の何人かが地域の地図を持ってきてくれたので、一枚をもらったのだった。
ローガンと十野間は代表者との話し合いを続けた。
避難経路や、船を使って人々を運ぶ案。小火なら木の先に濡れた縄をつけて叩く『火ハタキ』が利用できないかなど、細かな事もたくさんあった。
すべてが決まったのは夕方である。冒険者は休憩をとるための完全な空き屋を住民から借りた。
ローガンと十野間が話し合いをしていた間は、乱雪華が空から監視をしてくれていた。
それから予定していた三人が見回りで一人が休憩の24時間体制に移行してゆくのだった。
●影
「恐い形相で睨みつける二人組をみかけましたよ」
25日、休憩がもうすぐ終わる時間に住民からコルリスは相談される。
「わかりました。仲間にも注意するように伝えておきます」
コルリスは不安がらせないようにはっきりとした口調で住民に答える。怪しい普段見かけない者が徘徊している報告はすでにたくさんあった。下調べをしにきた奴らの可能性が高い。
今の所、悪さはしていないので、声をかけて監視しているという態度を見せつけるぐらいしか出来ないのが歯がゆい。
コルリスはローガンと交代すると空飛ぶ木臼で空を飛んで監視を再開する。このまま静かなパリであって欲しいと思うコルリスであった。
「大人の知らない秘密の場所を知っているのが子供です。大人と違った視点の先で事が進んでる事もありますからね」
仲間にそういって見張りを開始した十野間は、子供達を見つけるとさっそく話しかける。
「ここ、通り抜けできるんだよ」
塀のわずかな隙間に子供達が入ってゆく。無理をして十野間も潜ると建物に囲まれたわずかな空き地が存在した。
「周囲の屋根のせいで、上空から見てもこれほどの広さがあるとは思えないでしょうね。これは盲点です」
十野間は地図に危険な場所を書き込むと、子供達にお礼をいうのであった。
●暴動
「あれは?」
26日、ローガンは愛犬のアスターに油の臭いがないか探らせていたが、遠くの怒号を耳にする。バイブレーションセンサーを使って探ってみると、どうやら人の集団のようだ。
「ちょっと待っててくれ」
ローガンはアスターを待たせてフライングブルームで空に舞い上がる。
大きな通りで暴動が起きていた。ブランシュ騎士団黒分隊と他の依頼の冒険者達が鎮圧をしようとしている。
「私の仕事は火災の予防と鎮火」
暴動の鎮圧は黒分隊に任せ、ローガンは周囲の家に何かが起きないかを監視した。石を用意し、真下にいる不届き者に向かって石を落とす。ヘタに魔法を使うと暴動を煽りかねず、また黒分隊の邪魔をするかも知れないからだ。
陽動の可能性も捨てきれないローガンは、状況の推移を見守ってからアスターの元に戻る。
「今夜辺りから特に警戒が必要だな」
ローガンはすれ違う住民の見回りに手を振りながら呟くのだった。
「これは危ないな」
ケインは道ばたに積まれた廃材の山を見上げていた。
「あっ、冒険者さん。どうしました?」
通りがかった住民の見回りがケインに声をかける。ケインが廃材に火が点けられたら危険だと話すと、近くの住民を集めてくれた。
そして一時的にセーヌ川の畔に運ぶ事にする。
「普段からこうやって住民が連携や連絡をしていれば、パリはもっといい街になるんじゃないか」
ケインは見回りの一人にそう話しかけると再び警戒に回るのであった。
●火付け
「捕まえたぞ」
27日、ケインが縛った二人を住民に引き渡す。油を撒いて火を点けようとしていた所を捕まえた。住民から衛兵に渡される手筈だ。
コルリスが捕まえた男を住民が集合場所に連れてくる。暮れなずむ今の時間まで捕まえたのは合計で四人もいた。
「どうしたのです?」
十野間が休憩から戻り、ケインに状況を訊ねた。十野間が休憩していた6時間に事態は緊迫していた。
「あの音!」
十野間が聞こえてきた鐘の音の方角を探す。
見回りの者と班の代表には鐘を持たせていた。出来るなら叩く回数などで距離を知らせるようにしたかったが、同じ鐘を大量に集める事が無理である。とにかく大きな音が鳴って、方角さえわかれば何とかなるとして、どんな鐘でもよい事になっていた。
現場にはローガンが急行してた。
ファイヤーコントロールを使い、住民の協力もあってすぐさま鎮火する。
他の依頼の冒険者が火付けの犯人を捕まえたようで連れてゆく。犯人は意味がわからない事を騒ぎ立てていた。
夜になり、事態はさらに悪化する。
暴徒がたいまつを手にして一斉に住宅街へなだれ込んだ。黒分隊と他の冒険者達が鎮圧にかかるものの、全員を一瞬で捕まえるなどは不可能である。
住宅街の至る所で火の手があがった。鐘の音がいくつも鳴り響く。
小火が上空から落ちてきた水で消される。
「大丈夫ですか?」
コルリスが消そうとしていた住民に声をかける。空飛ぶ木臼に乗ったコルリスがセーヌ川の水で消したのだ。木臼には大きめの桶がぶら下がっていた。時間をみてコルリスが廃材で作っておいたのである。
避難したいという住民には暴徒がいない安全な道を教える。そしてコルリスはセーヌ川へ水を汲みにいった。大火になる前ならかなりの効果がある。すべては時間との勝負であった。
「火の回りが早い!」
ケインは斧で柱を倒す。目の前には燃え上がる家屋があった。これ以上火の手が広がらないように周囲の建物を壊していたのだ。
住民も手伝ってくれているが、どうしても後手後手に回る。先程も暴徒の何人かを動けないようにしたが、きりがない。
ケインは助けを呼ぶ声を聞いて火の粉が落ちる中を走る。そして逃げ遅れたお年寄りを背中に背負って走った。そして安全な場所で家族に預ける。
燃える物を排除しなければ、手がつけられない大火になってしまう。ケインはひたすら斧を振るった。
「こんな所にも」
十野間は燃え上がろうとしていた壁を石化して、とりあえず小火を止める。そして今日まで調べ上げておいた危険な場所へと向かう。
「出来ることなら未然に防ぎたかったのですが」
十野間の耳にはいくつもの鐘の音が届いていた。それらは住民に任せ、これ以上新たな火をあげさせない事に十野間は専念する。
「影縛!」
十野間は術を使い、たいまつを家屋へ投げようとしていた不審者を地面へと縫いつける。たいまつは不審者の足下に転がった。
「ここからなら、小舟がセーヌ川近くで待機しているはずだ。それで向こう岸に渡った方が早い」
ローガンは住民への指示を行っていた。
そして自らの足で現場に急行する。フライングブルームで空を飛んだ方が早く現場に到着出来るが、魔力を温存しておきたかった。もし枯渇したのならソルフの実を使うつもりである。
現場に着くとファイヤーコントロールを使って消火する。この際、小火は住民の手に任せ、消すのが難しい大火になりそうな炎を消してゆく。
風向きも考え、そして煙にまかれないように気をつけながら消火する。
逃げ道を炎で塞がれていた家族がお礼をいいながらローガンの横を通り過ぎてゆく。
まだ鐘の音は響いていた。ローガンとコルリスはリカバーポーションを使用して怪我人を回復してあげた。
非常時の中、休憩をとることもままならずに奔走する冒険者達であった。
27日の夜に始まった暴動による火災は28日の朝方まで続いた。
かなりの放火犯が捕まったようだが、一部は逃げだしたようだ。
一晩中動き回り、疲れが溜まった冒険者達は二人ずつ休憩をとる。今は黒分隊が警戒に当たっているので、昨晩のような暴動でない限り、放火は無理だと判断したからだ。
昨晩の被害は8棟全焼全壊、半焼半壊13棟。建物の被害とは別に住民に死者が1名、重傷者が1名、怪我人多数。
暴動は激しく、まだ予断を許さない状況にある。
睡眠をとって回復した冒険者達は再び警戒に当たるのだった。
●収束
再びの暴動は29日の深夜に始まる。
襲ってきた暴徒の数は27日より少なかったが、住民もかなり疲れていた。家を無くして精神的にまいっている者も多い。
それでも冒険者達は消火に努めて、30日の太陽が昇る前に事態を収束させた。
お昼頃に地域の被害状況がわかる。
すべてを合計して、全焼全壊12棟、半焼半壊30棟。住民の死者2名、重傷者は1名、怪我人多数。
少ない人数でこの被害で抑えたのは奇跡に近かった。冒険者仲間の通報も役に立った。
建物の被害はあったが、人命に関してはかなり健闘していた。ただ、親しくしていた者にとってはかけがえのない命である。やるせない気分が冒険者の心に残る。
「ありがとうございました。みなさんがいなければ、もっと甚大な被害だったでしょう。せめてものお礼です。保存食ですが少しお持ちになって下さい」
夕方、住民の代表者が冒険者達にお礼の言葉を述べる。冒険者達は別れの言葉をいって、地域を後にする。
「風が焦げ臭いです」
コルリスはギルドに向かいながら、周囲を見回す。
「まだ預言は残ってますね‥‥」
十野間はふと先の事を考えた。
「もう家を建て直そうとしている人もいるんだな。故意の放火は許せない。火は人々を絶望に導く道具ではなく、希望への灯火であってほしいものだ」
ローガンは避難を助けた男の子がくれたソルフの実を見つめる。おかげで手持ちの使った分が元に戻る。
「そうだ。どんな目にあっても立ち直る。俺達もがんばらないとな」
ケインは遠くを見つめた。
被害はあったものの、パリ市民の希望がなくなった訳ではなかった。何者かがパリを狙っているのは確かだが、負ける訳にはいかないと冒険者はそれぞれに思うのであった。