【地獄の業火】 騒乱のパリ

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:13 G 3 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月25日〜07月02日

リプレイ公開日:2007年07月02日

●オープニング

 神聖歴1002年6の月
 華は消え、悲劇は訪れる
 家を持たぬ者達の家はあかく染まるだろう
 王都の守る壁は口を閉ざし、地獄の業火が口をあける
 千人の悲鳴、万人の恐怖はすべてを覆い尽くすだろう


 パリ騒乱の火種は以前から燻っていた。
 5月のウィリアム3世国王を始めとする国家重要人物の暗殺計画。
 冒険者達の活躍で事なきを得た事件も多くあったが、それでもパリを狙う闇は手を伸ばし続けている気配がある。
 ブランシュ騎士団ラルフ黒分隊長は冒険者ギルドを訪れていた。
 ギルドの依頼で冒険者が解決へと導いた『秘密結社シューペルブ』の大麻の一件についてである。
 組織のナンバー2が捕まり、かなりの売人も検挙された。
 しかし、未だ『統率者』と呼ばれるナンバー1は逃走中であり、残った売人などの結社メンバーも地下に潜っている。
 ラルフ黒分隊長はある筋から無視できない情報提供を受けていた。
 強い作用の大麻はすでに一般市民に浸透し、その緩んだ精神状態につけ込んで暴動を起こそうとしている輩がいると。
 その輩が悪魔崇拝集団でもあり、ノストラダムス信奉者でもある『秘密結社シューペルブ』だ。
 ラルフ黒分隊長は冒険者達がナンバー2を捕まえた時に使った売人の名簿をギルドの受付から預かった。
「すでに大麻をばらまく活動を潜め、地下に潜っているようだが、これを手がかりとして結社メンバーを捕まえるつもりだ。しかし、最悪を考える必要がある。そこで依頼を出しておきたい。冒険者にもあらためて『秘密結社シューペルブ』を追ってもらいたいのだ」
 ラルフ黒分隊長は受付に話し続ける。
 残念ながら騒乱が起きる可能性は極めて高い。だが事前にナンバー1を捕まえられれば、『秘密結社シューペルブ』の結束に重大な亀裂が入る。そうなれば騒乱が起きても簡単に鎮圧出来るはずだと。
「冒険者にはナンバー1の身柄確保をお願いしたい。もし、騒乱が起きてしまった場合は身柄確保をあきらめて鎮圧に手を貸して頂きたい」
 ラルフ黒分隊長は依頼を終えると急いでパリの街へと消えていった。

●今回の参加者

 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea8284 水無月 冷華(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea8988 テッド・クラウス(17歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2927 朧 虚焔(40歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb3781 アレックス・ミンツ(46歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

アシュレイ・クルースニク(eb5288

●リプレイ本文

●不穏
「しぐさや話し方の特徴か? 息子は――」
 25日、老翁スズリがシクル・ザーン(ea2350)とデュランダル・アウローラ(ea8820)の前で秘密結社シューペルブのナンバー2であった息子について話していた。
 場所は安全を考えて冒険者ギルドの個室である。
「見かけた時の印象と合わせればなんとか演じる事が出来ると思います。ラルフ黒分隊長にはナンバー2が脱獄したとの嘘情報を流してもらっていますし。きっと『統率者』にうまく接触出来るでしょう」
 シクルはミミクリーを使ってうまく敵内部に潜入するつもりであった。
「さらに訊きたいことがある。以前に大麻を手にした青年と接触したようだが、どこにいるのか知っているだろうか?」
 デュランダルにスズリが大麻の入っていた小袋を渡す。青年が持っていたものだという。そして青年と出会った場所を教える。周辺で何度も見かけいるので、デュランダルが犬の嗅覚を利用するなら、見つかるだろうとスズリは答えた。

「今回も宜しくお願いします、ラルフ分隊長」
 水無月冷華(ea8284)は愛馬雪風に乗って、同じく馬に乗るラルフ黒分隊長と併走する。エフォール副長も一緒だ。水無月も老翁スズリの話を聞きたかったが、それはシクルとデュランダルに任せる事にした。後で二人から聞くつもりである。
「こちらこそ。それにしても、報告にあった通り、不審者が徘徊しているな」
 ラルフ黒分隊長を含め、黒分隊の隊員は現在、住宅街の見回りをしていた。善良な市民に混じって、どう見ても怪しい行動の者達がいる。身体検査をしても、武器やその他怪しい物は持っていない。この状態ではさすがに捕まえる訳にはいかなかった。
「下見と考えるのが妥当では?」
「私もそう思う。エフォール副長も同じか?」
「その通りでしょう」
 水無月にラルフ黒分隊長、エフォール副長が賛同する。
「後を追わせているのだな?」
「はい。隊員に追わせております」
 ラルフ黒分隊長はエフォール副長に頷いた後で水無月に振り返る。
「黒分隊と冒険者の連絡、よろしく頼む」
 ラルフ黒分隊長の言葉に水無月は頷いた。

「そうですか。ある程度数が欲しかったのですが」
 装備などを最低限にしたテッド・クラウス(ea8988)は貧民街近くの市場や商店を回っていた。
 もしシューペルブの者が隠れるとすれば貧民街に違いないと考えたのである。そして食料などを大量に買う必要に迫られるはずだと。
 テッドは一軒の店で、何者かが大量に購入している事を突き止めた。
 しばらく店周辺で張り込み、発見次第、追跡する予定だ。
「今日はまだ買い物に来ていない。チャンスはある」
 テッドは物影に隠れる。追跡は不得手なので慎重に行う。もし見つかったのなら、すぐに戻るつもりのテッドであった。

「そうですか」
 朧虚焔(eb2927)は住宅街とは別の場所にある鍛冶屋で職人と話していた。
「ここに来ていたのか」
 アレックス・ミンツ(eb3781)が偶然にも同じ鍛冶屋にやってくる。二人とも鍛冶屋や武器防具を扱う店を回り、品物の流れからシューペルブの動きを探ろうとしていた。
「最近、この鍛冶屋で大量の剣を欲しがった若者がいたそうです。ろれつが回らない感じでとても怪しい様子だったそうで。大麻のせいではないかと考えられます」
「ここの前に立ち寄った武器屋でも同じような奴がやってきたようだ」
 朧とアレックスはお互いに調べる場所を分担する事にした。
「もし、怪しい人物の持ち物か何か、臭いのついた物があったのなら愛犬に辿ってもらいますので持ってきてもらえますか?」
「わかった。そのようにしよう」
「この美しい都を火の海にするなど、絶対に許してはなりません」
「惑わす為の大麻か‥‥。許せんな」
 朧とアレックスは分かれて情報を探すのであった。

 その夜、冒険者達は今日の行動を報告しあった。
 シクルは潜入の為の用意を行っていた。
 水無月はラルフ黒分隊長と一緒に行動していたが、住宅街に空き屋が多くあるのが気にかかると報告した。
 デュランダルは愛犬で臭いを追ったが、大麻を持っている者、使った事がある者が周辺にかなりいたせいで迷ってしまった。青年の臭いも残っているはずだが、難しいようだ。
 朧とアレックスは鍛冶屋、武器防具屋を回り、怪しい人物が動いている情報を確認したが、どれも二週間以上前の出来事である。
 テッドは店を張ってシューペルブに関わる人物を追ったが、途中で見つかってしまった。
 手伝いに来てくれたアシュレイはデティクトアンデットを使って空き屋の状況を調べてくれた。隠れているデビルはいなかった。

●暴動
 26日午後、事態は急変する。
 暴動が起きたのである。様々な武器を手に家々を壊そうとしていた。たいまつを手に、火付けをしようとする者もいた。
「少々の怪我は構わない。全員を捕まえろ!」
 ラルフ黒分隊長が隊員に号令を出す。水無月はまだ気がついていない仲間に馬で駆けて知らせる。間もなく昨日の調べを続けていた冒険者も黒分隊と合流した。
 片っ端に捕まえてゆくが、一斉に動かれるとどうしても対処しきれない。いくつか火の手があがるが、それは消火をする別の冒険者達に任せる。
 約二時間後に暴動は鎮圧した。捕まえた暴徒は7名にのぼった。

「どうしたドライ?」
 デュランダルが吠えている愛犬ドライに近づく。
「あれは」
 デュランダルは老翁スズリから聞いた青年の特徴を思いだす。愛犬ドライが吠えている青年と一致した。
「ああ、そんな‥こと‥‥もあっ‥。だが、それが‥どうしたっていう‥‥?」
 デュランダルが老翁スズリとの出来事を訊ねると、青年はろれつの回らない言葉を発した。デュランダルは青年の胸ぐらを掴んで立ち上がらせる。
「少し、話させてもらえんかのう」
 現れたスズリは大きめの木桶で持ってきた水を青年にぶっかけた。
 デュランダルが青年をスズリに任せる。四時間に渡る説得の末、情報が引き出される。はっきりとした位置ではないが、シューペルブの隠れる地域が特定された。
 問題は青年が嘘をついていないかどうかであるが、今は信じるしかなかった。

「シューペルブの方ですね。逃げないで下さい、他の組織で大麻を扱う同業者です」
 テッドはわざと暴動に加わっていた売人一人を見逃して追跡し、そして安全な場所で声をかけた。
「今日は頭の指示であなた、いやあなた方を引き抜きに来ました、多くの客とネットワークを持つ売人をね。あなた方の頭は、先程の意味もない暴動を起こさせたりしてますし、売人を大事にしていないのがありありとしています。同業への配慮や役人どもへの鼻薬といったこの世界にあって然るべきものがないシューペルブに未来があると思いますか?」
「‥‥そういわれても」
「王宮の騎士らが、完全に叩き潰すためにまた手入れをしてくるでしょう。そうなれば真っ先に捕まるのはあなたや僕のような末端から。これをお渡しします」
 テッドは暴動の一人に金を握らせる。
「こちらへ来れば今までどおりの生活が出来ます、その気があるなら明日の朝、指定の場所へ来て下さい。沢山のお仲間を連れて来てくれることを期待してますよ」
 そういってテッドは売人をわざと見逃すのだった。

 冒険者達は夜に集まる。
 明日は少し広い範囲だが、老翁スズリが青年から引き出してくれた地域を調べる事が決まった。

●捕縛、そして
「忌々しい冒険者や騎士団から逃げ延びてきた。統率者にお会いし、ご報告したい」
 27日早朝、シューペルブのナンバー2が古びた屋敷の扉から出てきた男に話しかける。ミミクリーで化けたシクルである。朧と愛犬のおかげで早めに隠れ家を発見出来たのだ。
 借りたフード付きのだぶついた服を着て背格好をごまかす。ミミクリーも6分で切れるので重ねがけするつもりだが、なるべく顔を見せないようにする。
 仲間は配置についていた。
 朧、水無月は裏口近辺で待機。
 アレックス、デュランダルは正門近くで待機。
 テッドは別行動で売人を誘った場所に黒分隊の一部と向かっているはずである。
 シクルが古びた屋敷の中への進入に成功した。
 ここまではナンバー2を捕まえた時と似た感じであるが、様々な点で不利な状況もあった。さらに慎重に事を進めなければならない。
「わたしは、ここから誰も外には出さない。事が始まったのなら、屋敷内に向かってくれ」
 エフォール副長が正門の二人の元に現れる。
 二階にある窓の戸が大きな音を立てて、外へと吹き飛んだ。長いシクルの手が現れて再び屋敷内へと引っ込む。
 シクルの合図と考えた冒険者達は正門と裏口の両方から突っ込んだ。
「待ちなさい!」
 シクルは月桂樹の木剣を手に統率者を追いかける。一太刀浴びせるのに成功したが、その後は護衛のチンピラに時間稼ぎをされて逃げられてしまった。しかし、戸を吹き飛ばした合図で仲間が気づいてくれたはずである。
 シクルが一階に向かうとデュランダルが多数のチンピラを相手にカウンターとスマッシュEXで敵をなぎ払っていた。
「そこの部屋から裏に向かったぞ!」
 デュランダルが叫び、シクルはいわれた通りの部屋に入って抜ける。まっすぐの薄暗い廊下を進むと奥で戦っていたのは朧であった。
「デビルはいないようですが、頭数だけはたくさんいます。ここは私に任せてあちらに!」
 朧の横を礼をいいながらシクルが通り過ぎる。
 シクルは統率者と付き添いの男の背中を視界に捉えた。
 統率者達は逃げきるつもりのようである。ひたすらに駆けていた。
「覚悟はいいな。狂信者よ!」
 アレックスが統率者を護衛する付き添いの男と刃を交えた。シクルは再び統率者と剣を浴びせる。
「シクル殿! 離れて!」
 水無月の声が聞こえて、シクルは一歩下がった。
「氷よ、包め!」
 水無月のアイスコフィンが唱えられる。統率者は逃げだそうとする間抜けな格好で凍らされた。
 散らばって戦っていた冒険者達は自然と凍らされた統率者の近くに集まる。そして裏口から脱出に成功した。エフォール副長も庭を通って裏口へとやってきた。待機させてあった黒分隊の馬車に凍らされた統率者を乗せて脱出する。
 今は屋敷に残るチンピラよりも統率者の確保が大事であった。

「引っかかったのは6名ですか」
 テッドは黒分隊の二人と引っかかった売人2名と売人志望の4人を馬車で連行する。
 空き屋を使った仮の本部では統率者の尋問が黒分隊によって行われていた。
「すでに作戦の前準備は昨日の内に終わっている。俺を捕まえても何も変わらない。ごくろうだったな」
 統率者はそれ以上の言葉を発しなかった。

 27日深夜に暴動が再び起こる。
 黒分隊と冒険者達は暴徒の鎮圧に奔走した。捕縛と市民の誘導を行うが、危険な状況は続く。冒険者仲間の何名かが周囲の警戒に当たり、通報をしてくれた。
 収まったのは28日の朝方であった。かなりの者を捕まえたが、逃げた者も無視出来ない数だと思われた。
 他の冒険者と住民による消火活動はお昼過ぎまで続く。出来る限り手伝うが、かといって暴徒監視を怠る訳にはいかない。
 8棟全焼又は全壊。13棟半焼又は半壊であった。

●終わりの見えない戦い
 29日の夜、三度目の暴動が住宅街を襲う。
 昨日より暴徒の数は少なかったが、その血走った瞳は世界の終わりを前にしたかのようであった。
 暴徒によって油が撒かれ、たいまつが家屋に放り投げられる。それを阻止しようと冒険者と黒分隊は広い住宅街を走り回った。
 正気を失った暴徒を鎮圧するには、かなりの覚悟が必要であった。冒険者仲間の通報がかなり助かる。
 奮闘の末、朝になる前に暴徒のほとんどが捕まえられたのだった。

「ラルフ黒分隊長、統率者が自殺を!」
 30日、仮の本部に駆け込んできた黒分隊隊員が報告をする。ちょうどラルフ黒分隊長が冒険者達と話し合いをしていた時である。
 ラルフ黒分隊長と共に冒険者達も統率者が囚われていた小屋に向かう。
「なんということだ」
 水無月が呟く。
 統率者は自分の右人差し指を噛み千切り、板壁へと血文字を残していた。書き終わった後は舌を噛んで自殺したようだ。
 壁には大きく『終わりではない』と書かれてある。
「失礼」
 デュランダルは念の為、狂化を危惧して小屋の中から外に出る。
「ここまでするものなのですね」
 シクルが小屋から出ながら仲間に話しかける。
「何が理由であそこまで統率者を動かしたのでしょう」
 テッドは首を横に振った。
「心はすでにデビルだったのだろう」
 アレックスは小屋を振り返る。
「絶望するのは勝手ですが、パリ市民を道連れにするのは許せません」
 朧がいった言葉にラルフ黒分隊長は頷いた。

 冒険者達は住宅街の暴徒がいないかの巡回を行う。少なくとも住宅街では不穏な空気は取り去られていた。
 すでに住処の再建を始める住民もいたが、炭になった家屋を前にして泣き崩れる住民も多い。今回の暴動は一部のパリ市民の心に深い爪痕を残してしまったようだ。

●そして
 1日、冒険者達は昨日に引き続いて住宅街を巡回していたが、新たに暴動が起こる事はなかった。
 落ち着いたおかげで細かい状況がわかる。
 名簿と照らし合わせると、ナンバー2が捕まった時と合わせて、売人の約三分の二が捕まった事になる。残りは大麻によって扇動に乗った大麻中毒の者であった。
 最終的な被害は全焼又は全壊12棟。半焼又は半壊30棟。一般住民の死者2名、重傷者は1名である。
 亡くなった者の親しき者にとってはかけがえのない一人であるが、建物の被害に比べれば人命の被害は少なかった。
「ありがとう。冒険者がいなければ、もっと酷い状況だっただろう。テッド殿は誘導に使った分を補填させてもらうよ。エフォール副長、もし他の方々も経費がかかったようなら、お渡ししておいてくれ。それと余った薬類程度だが、持っていってくれ」
 ラルフ黒分隊長は冒険者達に深く礼をいう。そして急ぎ王宮へと戻るのであった。