【地獄の業火】 大火からの避難誘導

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 85 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月26日〜07月02日

リプレイ公開日:2007年07月03日

●オープニング

 神聖歴1002年6の月
 華は消え、悲劇は訪れる
 家を持たぬ者達の家はあかく染まるだろう
 王都の守る壁は口を閉ざし、地獄の業火が口をあける
 千人の悲鳴、万人の恐怖はすべてを覆い尽くすだろう


 パリから歩いて一日の場所に森があった。
 森の中には新たな集落が出来上がっていた。丸太で造られた小屋が多く建てられて、自給自足の営みがある。
 森は元々富豪のアロワイヨーの所有であったが、今は解放されていた。難民の為に作られた新たな集落なのである。
「アロワイヨー、変な噂を聞いたぞ」
 集落を訪れた石工のシルヴァが、親しくしているアロワイヨーに話しかける。
 青年アロワイヨーは極度の肥満を解消する為、そして丸太小屋を作れるぐらいの体力を得る為に時々集落に顔を出していた。意中の女性がいるのも理由の一つである。
「噂ってなんだ?」
 アロワイヨーの身体は大分引き締まっていた。ポテッと出ているお腹に変化はなかったが。
「パリに大火の噂がある。暴動を起こそうとする奴らがいるらしいんだ。妻のエーミィと娘を一時的にこちらに避難させたいのだがいいかな?」
「水くさい事を。なんなら屋敷の方に来てくれてもいいぞ」
「いや、それは遠慮するよ。こっちの集落の方が性に合ってる。まあ、俺はパリで自宅を守るつもりでいるけどな」
 シルヴァはアロワイヨーにお礼をいうと、準備の為に愛馬でパリの自宅へと戻っていった。

 数日後、アロワイヨーはパリにあるシルヴァの自宅を訪れた。
「わたしも一緒に泊まり込もうと思うんだが、いいかな?」
 アロワイヨーの突然の訪問に驚きながらもシルヴァは招き入れた。
「先程、冒険者ギルドにも依頼を出しておいた。『わたしの手伝いをしてくれる者募集』とね。もし、本当に火事が起きたのなら避難させなくてはならないだろ? もちろんそうでないのを祈るばかりだが」
 アロワイヨーは窓から見えるセーヌ川を見つめながらシルヴァに話しかける。
「アロワイヨー、お前変わったな。誤解されやすいだけで、いい奴だとは思っていたが。何日でもいてくれ」
「こそばゆいな、そういう風にいわれると。もしもの為、執事に大量のテントを集落に運ばせておいた。食料もな。取り越し苦労ならもっといいんだが‥‥」
 アロワイヨーもパリの空気が以前と違うのを感じ取っていた。
 何かが起こりそうな予感が二人を不安にさせるのだった。

●今回の参加者

 ea1225 リーディア・カンツォーネ(26歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb5338 シャーリーン・オゥコナー(37歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb7706 リア・エンデ(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)
 ec1997 アフリディ・イントレピッド(29歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

フィーレ・アルティース(ec2044)/ 白鳳 桜花(ec2122

●リプレイ本文

●不安の中の相談
 冒険者達がふと見上げる空には、心なしか飛ぶ鳥も少ないように感じられた。
 26日、冒険者達は依頼書にあった通り、まずはシルヴァの家を訪れる。
「とても石工らしい家ですの」
 シャーリーン・オゥコナー(eb5338)は小さいながらしっかりとした石造りの家を眺める。
 大きな建物はともかく、一般の家屋には木造もかなりある。それぞれに一長一短はあるが、火事に対しては石造りの方が強い。シルヴァの家は、ちょっとやそっとでは燃えそうになかった。
 冒険者達は出迎えたシルヴァとアロワイヨーと挨拶をする。
「はう! アロワイヨー様〜。凄いです〜頑張ってるのです〜かっこいいのですよ〜♪」
 リア・エンデ(eb7706)は引き締まった身体のアロワイヨーに驚いた。出っ張ったお腹は見ない事にして。
 アロワイヨーを知るエフェリア・シドリ(ec1862)も瞳をパチクリとして驚く。しかし今回はパリ大火の噂があっての依頼である。さっそくみんなで相談を始めた。
「大火の噂は止まらないようです。多くの人々が避難できるよう、予めパリで様々な準備をしておきたいのです」
 リーディア・カンツォーネ(ea1225)は仲間と相談してきた内容をアロワイヨーとシルヴァに話す。一時的な避難場所を用意して、火災などの被害が起きた時、集まるように宣伝をする。そして用意してもらう馬車二両で森の集落まで移動してもらう内容だ。
「避難場所はパリの郊外に臨時停車場を作るというのはどうでしょうか?」
 エフェリアが具体的な提案をする。
「買い込んである4人用テントは馬車の待機場所で雨風をしのげるように用意したものです。利用してください。それからエフと呼んでくだされば、幸いです」
 アフリディ・イントレピッド(ec1997)はあらためて挨拶をした。
 扉が叩かれて新たな冒険者が訪れる。シフールのフィーレが上空から知った情報によると、近くの通りで暴動が起きているようだ。
「情報、とっても助かります〜」
「まだまだ若いコ達には負けないわよ」
 リアの言葉に胸を張るフィーレであった。
 事態が悪化しているのを知り、一行は早くに行動を始める。馬車の到着には今しばらくかかりそうなので、他の用意を行う事に決まった。
 アロワイヨーは馬車を待つ為にシルヴァの家に残る。他の者はパリ郊外に用意する臨時停車場の用意を始めた。
 まずは一時避難場にもなる臨時停車場に掲示板の設置が始まった。白鳳が掲示板用の木材運びや作るのを手伝ってくれてとても助かる。
「もし火付けをするような輩を見かけたら、蹴り飛ばしてやるからね」
「頼もしいです〜」
 リアと白鳳はジャパン語で会話した。
 掲示板の運用にはクリアしておかなければならない問題がある。多くの市民が文字の読み書きに不自由な事だ。その為にシャーリーンは代理で書いたり、又は書き込みたい人がいないか訊いて回るつもりであった。書いてあるのが知りたいようなら、一つ一つ読んであげる覚悟である。
「これを見て家族が再会出来ると幸いですの」
 掲示板を見てシャーリーンは呟く。
 その後、シャーリーンは冒険者ギルドやブランシュ騎士団黒分隊の臨時本部を訊ねる。他に避難所があれば同じように掲示板を作って欲しいとお願いする為だ。
 臨時停車場に戻るとシャーリーンは、クリエイトウォーターで水瓶を清潔な水で満たす。水瓶はとりあえずシルヴァの家から持ってきたものだが、後でアロワイヨーが執事に頼んで、たくさんの水瓶を運んでくれる手筈である。シャーリーンは定期的に中身を入れ替えるつもりだ。
 エフは持ってきた4人用テントを臨時停車場に設置していた。
「集落にもテントは用意されているようですが、たくさんあって困るものではないはずです。事が鎮まったのなら持っていっていただきましょう」
 エフは隣りのシルヴァに説明した。
「よいしょ」
 エフェリアは住宅街の目立つ位置に看板を立ててゆく。臨時停車場についての看板である。文字だけでなく、簡単な絵と地図でわかりやすく描いてあった。
「ギルドにも相談しておきましょう」
 エフェリアは長い髪を揺らしながら冒険者ギルドに向かう。シルヴァも看板を立ててくれているし、馬車が到着したのならアロワイヨーも手伝ってくれる約束である。
「もし、何かがあった場合はこちらを訪れて下さい。安全な集落までお連れします」
 臨時停車場の用意が一通り終わるとリーディアは街角で宣伝を行った。起きたのは小火程度で大火という程のものではなかったが、前もって避難したい者もいるはずだ。
「ぼ〜くら〜なら〜き〜っと大丈夫〜、な〜んにもなけ〜れば尚おっけ〜です〜♪」
 リアは準備が終わった臨時停車場で唄っていた。
 今から緊張し、気負いすぎると、いざという時に失敗してしまうかも知れない。リアはみんなの気持ちを和らげたい気持ちで一杯だった。
「お〜い!」
「にゅ〜、アロワイヨー様なのです〜♪」
 馬車に乗ったアロワイヨーがリアに手を振っていた。
 二両の御者付きの馬車が臨時停車場に到着した。たくさんの保存食が載せられていて、テントの中に保管してゆく。
「食料というのは緊急時には奪い合いになる。必要分以上があって、初めて人は安心するそうだ」
 アロワイヨーは持ってきた保存食の数について語った。
 しばらく経つと最初の避難者が現れる。父親が妻と子供三人を一時避難させたいのだという。
 安全な道を探す意味も込めて、馬車が森の集落に向けて出発した。
 避難者の他に馬車へ乗っているのは、御者、リーディア、エフだ。
 リーディアは避難者が不安にならないように声をかけたり、相談を受ける。
 エフは馬車の護衛である。その他にも掲示板の橋渡しをするつもりであった。
 無事に馬車は森の集落へ到着するが、出発が遅かった事もあり、すでに夜になっていた。丸太小屋が空いているので、そこを利用してもらう。
 森の集落でも集落の有志で巡回が行われていた。森に火を点けられたらそれこそ大変である。
「安心して下さい。この森の事なら誰よりも私達が知っていますので」
 集落の娘ミラが避難者親子にやさしく声をかけるのであった。

●避難
「みなさん、この方角です〜。あの森を目指してがんばりましょう〜♪」
 27日、リアは避難者を集落まで誘導していた。セブンリーグブーツを履いて通り道を監視しながら誘導する。
 元気のある者は朝早くに出発して歩いて森の集落に向かってもらう。
 怪我人や体力のなさそうな子供と老人は馬車で移動させる。馬車には昨日に引き続き、リーディアとエフが同行していた。今の所、暴動に巻き込まれるようなトラブルには遭遇していない。
 エフェリアは臨時停車場で待機する。もしも暴徒がやって来たのなら仲間を呼びにいくつもりであった。自分一人でなんとか出来るなら、がんばるつもりである。
 仲間が臨時停車場で活動している時は、パリ市街へと入り、立てた看板を巡回した。看板を見ている者がいたら、言葉で説明してあげたり、連れてゆくエフェリアである。
 シャーリーンは掲示板の読み書きや、避難者の応対などを努めた。パリのすぐ視界の届く所で小火が起きたのをウォーターボムで消しにいった事もある。
 戻ってくると避難者達から拍手が起こったが、考えてみればすぐ近くまで暴徒が迫っていた事にもなる。シャーリーンは臨時停車場にいるエフェリア、アロワイヨー、シルヴァと連絡を密にとる事にした。
 黒分隊の隊員が避難者を連れて来てくれる事もあった。すぐに戻ってゆく隊員に避難者がお礼の言葉を投げかけていた。
 真夜中に大規模な暴動が勃発する。
 臨時停車場からもパリが燃える炎の光が窺えた。
 祈りを捧げる者。絶望する者。泣く子供をあやす親。様々な悲しみが臨時停車場を襲う。
「リーディア様とエフェリア様、一緒に歌いましょうなのです〜♪」
 リアはメロディーを唄い始めた。賛美歌の詞をちょっと変えてみんなを元気づける。
「♪、私達が望みを捨てない限り神様はきっと助けてくれるのですよ〜♪」
 だんだんと一緒に唄ってくれる避難者も増える。気持ちで負けてはいけないと冒険者達は避難者を励ました。
 しかし、避難者は一気に膨れあがった。あれだけ余裕があったエフの用意してくれたテントが満杯になる。
 エフェリアは怪我をしていた避難者の応急手当をする。リーディアはリカバーで回復をはかる。
 さすがに夜の移動はいろいろな意味で危険である。夜明けを待ってから避難者の誘導を始める冒険者であった。

●往復
「馬も交代させた方がよさそうだな」
 28日昼頃、森の集落でシルヴァが馬車から降りる避難者を見ながら、集落の娘ミラに話しかける。
 シルヴァは疲労で倒れた御者の代わりを務めていたのだ。
「あの、アロワイヨーはどうしてますか?」
「ああ、あいつなら平気だ。避難者の誘導とかやってくれているよ。足りない物を屋敷から取り寄せたりもしてくれている」
 ミラはシルヴァの言葉にほっとした様子だ。
「それにしても、これまででよくここまで丸太小屋を用意したものだ。テントに入らざるを得ない避難者もいるが、かなりの人数が丸太小屋の方で休んでいるじゃないか」
「いえ、今は他人同士でも一緒に入ってもらってますので、なんとかなっていますが、ちゃんとした生活を送るとなると、とても足りません」
 ミラはうつむき加減に話す。
「避難者が掲示板に載せたいメッセージも集め終わりました。あたしはいつでも出発出来ます」
 エフがシルヴァとミラに近づく。
「しかし、暴徒は集中的にパリを狙っているようですね。もう少し集落までの道のりに危険があるのかと思ったのですけど。もちろん、これからも気を抜かずに続けるつもりです」
「それは機転をきかせて臨時停車場をパリ郊外にしたおかげだろう。避難者は巡回する仲間の冒険者やブランシュ騎士団が連れてきてくれるし、ぴったりと作戦が決まったからだ。それにエフの持ってきたテントが郊外であっても安心感を避難者に与えてくれているのも一役かっていると、俺は思うぞ」
 エフを労うようにシルヴァが肩の横を軽く叩いた。
「今まで連れてきたみなさんに挨拶してきました。元気にしていますし、安心しました」
 リーディアも馬車の近くに戻ってミラにお礼をいう。
「おいしいお料理つっくりましょ〜♪」
 遠くからリアの歌声がみんなの元に届く。子供達を集めて炊き出しの料理作りを一緒に見ているようだ。
 馬を交換して馬車二両は再びパリへと向かう。
 到着したのは夜になったばかりの時間であった。

 29日の深夜、三度暴動が起こった。
 すでに大半の避難者は集まっていて、二人程度が臨時停車場に加わる程度であったが、パリの一部が赤く染まる景色に不安は高まる。
 冒険者達は避難者に希望を与えるようにがんばるのであった。

●焼け跡
 黒分隊の隊員から、昨晩の29日深夜の暴動でほとんどの暴徒が捕まった事が臨時停車場の者達に伝えられる。
 30日、気の早い避難者は森の集落に行くのを取りやめてパリに戻る。しかし、家屋が焼けていて戻ってくる者もいた。
 集落から確認の為に戻る者もいて、往復する馬車は常に満員であった。元気な避難者には保存食を分けて自らの足で戻ってもらう。
 様々な思いを抱いて、避難者はパリと森の集落を行き来するのだった。

 1日のお昼頃、シルヴァ、アロワイヨー、冒険者達は森の集落へと集まっていた。
 残った避難者はこれからアロワイヨーが考える事になる。悪いようにはしないとアロワイヨーは約束してくれた。
「む〜、きっとこれからが大変なのですよ〜」
 いつも明るく振る舞うリアが真剣なまなざしで建ち並ぶ丸太小屋を眺めた。
「臨時停車場に集まった人の中で亡くなった方はいませんでした。それはとてもよかった事だと思います。ただきっと火事で亡くなった方もおられるでしょう」
 リーディアは神に祈りを捧げる。
「掲示板がうまく機能してくれてよかったですの。迷子の親子が再会を果たす場面もありましたですの」
 シャーリーンは晴れた空を見上げた。
「避難者同士のトラブルがほとんどなかったのがよかったと思います。そうじゃなければ大変だったと思います」
 エフェリアは仲間にコクリと頷いた。
「初日にもいいましたが、テントはこちらで使ってもらうか、避難者にあげますので活用して欲しいです」
 エフが途中から馬車を牽いてくれた愛馬イングルフィールドを撫でてあげながら、アロワイヨーとシルヴァに話しかける。
「我が家はここに来る前に確認したら、焼けずに済んでいた。だがもう少しここで手伝いたいので、妻エーミィと娘と一緒にここへ厄介になろうかと思う」
 シルヴァは冒険者達を前に幼い娘を抱いていた。
「本当に助かったよ。手持ちの物で悪いが保存食をいくつか持っていってくれ。それと、少しだが依頼金も増やしておく」
 アロワイヨーは冒険者達に深くお礼をいう。
 冒険者達はパリへと戻る避難者と一緒に馬車に乗って森の集落を後にした。