お刺身ツアー 〜シーナとゾフィー〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月02日〜07月08日

リプレイ公開日:2007年07月09日

●オープニング

「ゾフィー先輩、すごいです〜」
「もったいないので、もらっただけよ」
 冒険者ギルドの奥で休憩するシーナとゾフィーは、束になっている木札を前に笑顔だ。
 木札は元々、パリのある商店のものだ。販促に使おうと思っていたそうだが、突然に中止になったのでお得意さまのゾフィーがもらった。
 海沿いにあるルアーブルまでの往復帆船旅券札であった。
「レウリーさんは大変みたいで、とても誘えないわ。こんなにあるので二人で行けたとしてももったいないしね。シーナも一緒に来る?」
「わあ〜先輩、ありがとうです☆」
 一枚をもらったシーナは喜んだ。
「もうそろそろ交代ね」
 ゾフィーと一緒にシーナが受付のカウンターへと座る。
「あ、花さん。お久しぶりです〜」
 シーナはジャパン語で話す。シーナの前に川口花が座る。花は父親と一緒にノルマンに戻った母親を捜して欲しいと依頼を出した事があった。
「その節はありがとうございます。今日は依頼という訳ではなくて、ジャパンから届いたこちらを以前のお礼に持ってきたの」
 花が重たそうに小さな樽をカウンターの上に置いた。
「それでは、おかあちゃんの付き添いがあるので」
 花は笑顔でギルドを後にする。シーナは迷子を心配したが、馬車を待たせているようで安心した。

「シーナ、これなに?」
 仕事が終わり、ゾフィーがシーナが花からもらった樽を軽く叩いてみる。
「ジャパンの『醤油』というものらしいです。取り寄せたって聞きましたよ」
「うわぁ、醤油なの! このノルマンで? あの親子、ジャパンでどんな金持ちなのかしら?」
 シーナはよく知らなかったが、ゾフィーによれば醤油というのはジャパンの液体調味料のようだ。
「いろいろと使えるみたいよ。鍋の味付けとか、そのままかけたり。そうそう、信じられないけど、生の海魚に醤油をかけて食べる『刺身』というのもあるみたい」
 ゾフィーの言葉にシーナは思いだす。エスカルゴを食べに行った時、生の魚を食べるという風習がジャパンにあるのを聞いたのを。
「ゾフィー先輩、木札を読むと釣りが出来るみたいなんです。お魚釣れたら、あのその〜、お刺身食べてもいいですか? お醤油を入れ物に移して持っていきますです」
「別にいいわよ。でも、わたしは食べないからね。無理強いもしないでね」
 こうして海釣りと刺身の旅が決まる。
 シーナとゾフィーはそれぞれの家の前にスポーツ、ラ・ソーユの時のように張り紙をして、一緒に旅してくれる仲間を募集した。
「なんか、美味しい魚が獲れたら賞品でも用意しておくです〜」
 真夜中に張り紙を終えたシーナはご機嫌で家に戻るのであった。

●今回の参加者

 ea7780 ガイアス・タンベル(36歳・♂・ナイト・パラ・イスパニア王国)
 eb7706 リア・エンデ(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec0052 紫堂 紅々乃(23歳・♀・陰陽師・パラ・ジャパン)
 ec0290 エルディン・アトワイト(34歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

リュヴィア・グラナート(ea9960

●リプレイ本文

●船旅
「♪う〜み〜はひろ〜い〜のです〜♪」
 リア・エンデ(eb7706)は唄う。
 甲板の上では冒険者達がそれぞれにくつろいでいた。帆船は風に帆をなびかせてセーヌ川を下ってゆく。
「海はまだなのですよ〜☆」
 シーナが突っ込むとリアは照れる。船に乗るのはイギリスからパリに来た時以来なのだそうだ。みんなの船酔い防止の為といっていたが、実はリア本人が唄いたい気分らしい。
「シーナさん、お醤油とは懐かしいです。ボクはこんなの持って来ましたよ」
 ガイアス・タンベル(ea7780)はパリで手に入れた生姜とホースラディッシュを見せる。ホースラディッシュは『レホール』ともいうが、ジャパンで刺身を食べる時に使うワサビとよく似た辛さがあるそうだ。
「花さんからもらった醤油だけじゃなくて、これもお刺身には必要なのですね」
 シーナは不思議そうに太い根のレホールを眺めた。代金は自分が出すとシーナは微笑んだ。
「花さん、元気でしたか?」
 エフェリア・シドリ(ec1862)は花の名を聞いてシーナに近づく。エフェリアは花にお礼をいいたい事があるらしい。
「元気でしたですよ〜。弟か妹が生まれるまではノルマンに滞在するみたいです〜」
 シーナとエフェリアは川口親子の事で話が盛り上がる。何気なくノルマンに来ているが、実はすごい資産家なのではないかと。
「釣りはあせらずのんびりと。でもシタビラメ釣っちゃうつもりです」
 エルディン・アトワイト(ec0290)は紫堂紅々乃(ec0052)、鳳双樹(eb8121)と一緒に船縁に寄りかかって話していた。
「張り紙に『お刺身』の文字があって思わず参加したらエルディンさんと、双樹さんと一緒なんて」
 紫堂は風に黒髪をなびかせてニコニコとしていた。
「お刺身がこちらでいただけるとは思いませんでした。釣れるといいですよね♪」
 鳳は以前にもらった幸運のスプーンを手にして目と目が合ったシーナに手を振った。
「とにかくご無事ならいいのだけど‥‥」
 ゾフィーは青空の下なのに黄昏ていた。ブランシュ騎士団黒分隊にいるレウリー隊員の事が気になるようであった。
 帆船は順調にセーヌ川を下り、二日目の夕方にはルアーブルに入港するのだった。

●釣り開始
 一晩をルアーブルの宿で過ごした冒険者達は、三日目の朝から釣りに出かけた。
「ダメ元ですけど‥釣れそうなポイントを探してみましょうか」
 紫堂が『神秘の水晶球』を取りだして占う。どうやら船着き場から北東がいいらしい。
 釣り船には船頭と船員が一人いたが、気のいい漁師で紫堂が頼んだポイントに向かってくれる。ただ、釣れなくても責任はとらないそうだ。
「お二人は釣りはお好きなのでしょうか?」
 エルディンはグットラックをかけてからシーナとゾフィーに話しかける。狙うはシタビラメである。
「初めてです〜。ガイアスさんがエスカルゴの時にジャパンでは生の魚を食べるといっていたので釣ってみようと思ったのです。新鮮が第一みたいなのですよ」
 シーナがエルディンに答えると、耳に入った船頭が目を丸くする。
「あんたら、貝ならともかく魚を生で食う気か? 悪い事いわねえからやめとけ」
 船頭は真っ青な顔をしていた。
「船頭さん、食べたい人はお腹壊しても平気みたいだから気にしないでね」
 ゾフィーは涼やかな瞳で船頭に頷く。
「知らねえぞ」
 船頭は座って煙草を吹かし始める。やはりノルマン王国だとこうなのかと、ジャパンと関わりのある者達は苦笑いをした。
 上空では鳳の鴎『蒼』が飛んでいる。
『蒼、遊んでおいで。あんまり遠くに行っちゃダメだからね』
 鳳はオーラテレパスで蒼に話しかける。猫の空はさすがに小さな釣り船なので、宿に置いてきた。空に魚3匹を頼まれた鳳である。
「あの様子だとジャパンの珍しい食べ方を奨めるのは無理ぽいですね」
 ガイアスは船頭の様子に気分を切り替えて釣りに集中した。釣り船に乗る前に地元の漁師にいろいろと訊いてある。ポイントは仲間に任せたが、どの程度釣り糸を垂らすかも、釣果に影響するようだ。自前のニョルズの釣り竿と白波の針で大物を狙う。
 ガイアスも猫のマッキーは宿に置いてきた。鳳と同じく魚のみやげを持って帰ってあげるつもりである。
「お魚はどこを泳いでますか〜♪」
 リアは唄いながら釣り糸を垂れていた。肩を左右に振ってリズムをとる。フェアリーのファルセットが真似をしていた。猫のスピネットは宿でお留守番である。
「えっ‥‥はう〜! 助けて下さいです〜!」
 突然の強い引きで、リアは泣きながら釣り竿を握りしめていた。海中に向かってピンと張った釣り糸が勢いよく動き回る。
 一番最初に釣り上げたのはリアであった。獲物はスズキである。
 さっそくという事でガイアスが紫堂に借りたナイフでスズキをおろしてゆく。慣れないので少し身が崩れたが、ちゃんと刺身が出来上がる。
 待ってましたとばかりにシーナがワインの容器に移してきた醤油を皿に垂らし、レホールを擦ったものを用意した。ジャパンでは箸というもので食べるそうだが、ここはフォークで刺す。
「はう? 火を通さないで食べるですか!? おなか痛くならないといいのです〜」
 冷や汗をかきながらも、パクリと一番に刺身を食べたのはリアであった。
 続いてゾフィーと漁師二人以外の者が刺身を口に運んだ。
「‥‥美味しいのですよ〜♪」
 リアが鼻に抜けるレホールの辛さと、醤油独特の旨味で引き立った刺身を味わった。
「ご飯が欲しくなります」
 ガイアスの言葉にエルディンも同意した。
「どぶろくを持ってきました。これをちびちびやりましょう」
「奇遇です。ボクもどぶろくを持ってきましたよ」
 エルディンとガイアスが持ってきたどぶろくが仲間に振る舞われる。
「どぶろく‥‥なんとなく響きが良いです」
 エフェリアは刺身を頂いてどぶろくも口にした。なんとなくふわふわとした気分になる。
「ヴァン・ブリュレも提供しますね♪ アジとか釣りたいですね! タタキにして葱の代わりにハーブと和えてお醤油使ったら意外と美味しいかもしれませんよね♪」
 紫堂は張り切って釣りを再開する。
「お酒はほどほどにしてくださいね」
 刺身を食べる鳳もどぶろくを少々頂いていた。
「お肉の友よ。ジャパンの刺身がこんなに美味しいとは知らなかったですよ〜」
 シーナと一緒に鳳は笑顔になる。ゾフィーは横目で見て興味を示していたが、食べようとはしなかった。
 全員が釣りを再開する。
 次々と魚が釣れた。シタビラメ、アジ、スズキ、アカウオが桶に入れられてゆく。
「つっ強い引きなのです〜」
 シーナが釣り上げたのは小さめであったがアンコウであった。鍋にすると美味しいそうだ。
 最後に釣ったのはゾフィーであったが、タコだったので恐くて逃がすのであった。
 釣果は数で競う事になっていた。結果は次の通りである。

一位 紫堂。シタビラメ3、アジ8、スズキ1。
二位 エフェリア。アジ9、スズキ2。
三位 鳳。アジ7、スズキ1、アカウオ1。
四位 ガイアス。アジ7、スズキ1。
四位 エルディン。シタビラメ2、アジ5、スズキ1。
四位 リア。アジ5、スズキ1、アカウオ2。
七位 ゾフィー。アジ4、スズキ2、アカウオ1。
八位 シーナ。シタビラメ1、アジ2、アンコウ1。

 釣りを終えて船上では刺身パーティが続く。ワインも開けられて食が進む。
 シタビラメは刺身にしてもいける。エルディンとエフェリアは満足そうな表情だ。
 紫堂が作るアジの叩きには、ガイアスが持ってきた生姜が使われる。特に紫堂とガイアス、シーナが気に入ったようだ。
 スズキの刺身は鳳とリアが気に入ったようで笑顔で食べていた。どうやら今が旬であるらしい。
 アカウオも刺身にするが、食べられない事はないとはいえ、熱を通した方が良さそうである。アンコウも宿に持ち帰って調理してもらう事になった。

 陸に戻り、宿で釣ってきた魚で作られたノルマン料理を夕食として食べる。ムニエルやワインで煮たものなど、食べ慣れているだけあってとても美味しい。
 ペットの猫達も主人からもらった魚で満足そうである。
 宴の終わりにゾフィーから賞品の授与が行われた。
「すみません。実は――」
 宿の主人にシーナが呼び止められて相談をされる。何やら近くのレストランが魚を譲って欲しいという相談であった。お得意さまが来ているのに、用意できなかったらしい。
 シーナはみんなに相談して譲る事にした。十分過ぎる以上の釣果があったからだ。お礼がもらえたので少しずつだけだがみんなで分ける事にした。

●自由時間
 四日目は二手に分かれて行動する事となった。
 主にルアーブル周辺を散策する者達と釣りを楽しむ者達である。
「昨日がこれだったのなら、一番だったのはず」
 釣り船の上でエルディンが忙しく魚を釣り上げる。散歩か釣りかを悩んだエルディンだが、昨日の釣果に納得しなかったので釣り船に乗る事にしたのだ。
 昨日と同じく釣りをしていたのはエルディン、ガイアス、ゾフィーである。
 昨日にも増して魚がよく釣れていた。休憩をしてガイアスが何匹かを刺身にする。シーナからもらってきた醤油、そして用意した薬味でエルディンとガイアスは楽しんでいた。残っていたお酒も美味しい。
「一切れだけ‥‥食べていい? 食べないっていった手前、シーナには内緒にしておいてね」
 ゾフィーが我慢しきれずに二人に頼む。二人は一切れとはいわず、一皿ごとゾフィーにあげた。
「‥‥初めてのお味」
 ゾフィーは結局一皿を食べ終える。美味しいともまずいともいわなかったが、完食したのが答えといえた。
「どうですか?」
 ガイアスが船頭と船員にもすすめる。
「まあ、昨日のうちにあれだけ食べたあんたらが平気なら、少しぐらいは‥‥」
 船頭と船員も一切れずつ、口に放り込む。
「ほう‥‥!」
 それ以上は食べなかったが、生魚と醤油、レホールの取り合わせに驚いていた。釣り船の下り際に三人は船頭から『船乗りのお守り』をもらう。面白い体験をさせてくれたお礼なのだそうだ。ガイアスは二つ目のお守りとなるが、喜んで受け取るのであった。

「うきうきわくわくお散歩なのです〜♪」
 リアを始めとして、鳳、紫堂、エフェリア、シーナが散歩する。
 一通り町を回り、夕方前に浜辺を歩く。
 町でお揃いの帽子を用意しようとしたリアだったが、ちょうどいいものが売っていなかった。エフェリアと紫堂にシーナが余分に持っていた帽子を貸していた。
 帽子を被ったリア曰く『女の子隊』は波の音を聴きながら砂浜を歩く。ちょうど引き潮で海から岩場が現れていた。
「何か‥珍しいアイテムが流れ着いていたりしないですかね!」
 紫堂が岩場を調べ始める。仲間も一緒になって窪みに残された海水や、岩の間を覗き込む。
「空、どうしたの?」
 鳳が連れてきた猫の空を追いかける。岩に張りついた貝があった。
「紅々乃さん、これはもしかして‥‥」
 鳳が剥がした貝を紫堂に見せる。
「これはカキです!」
 紫堂が瞳を輝かせる。
「あー、今時はやめておいたほうがええぞ」
 通りがかった地元の者が鳳と紫堂に声をかける。今の時期のカキはあたりやすいので、地元では食べないそうだ。熱を通してもダメみたいである。
「そんかわり、そっちのは平気だべ」
 地元の者が指さしたのはムール貝である。いわれてすぐにムール貝を集めだしたのは食いしん坊のシーナだ。ちゃっかり持ち運ぶ為の網も持っていた。
「これが落ちてました」
 エフェリアが拾ってきた『波打ち際の貝殻』を耳にあてた。
 他の仲間も貝殻を拾う。全員が貝殻を耳にあてて瞳を閉じる。今は広がる海があるが、パリに戻れば潮騒の音などどこにもない。これでいつでも聴くことができるとエフェリアは笑顔になった。
「このドーバー海峡の向こうに故郷があるのですよ〜」
 リアが故郷のイギリスに思いをはせる。
「ジャパンは島国でしたから‥海を見ると何だかホッとしますね」
 紫堂はジャパンを思いだしたようだった。

 夜は釣りを楽しんできた三人の釣果をみんなで頂いた。
 ガイアスがジャパン料理の鍋に挑戦したりと和気藹々と過ごす。楽しい時間はあっという間に過ぎ去った。

●パリ
 五日目の朝に出航する帆船に乗り、セーヌ川を上って六日目の夕方に全員がパリへと到着した。
「みなさん、お疲れさまです〜」
 シーナが船着き場で別れの挨拶をする。
「またみんなで来たいです〜」
 リアが猫のスピネットと一緒に歩きながら手を振った。頭上ではリアの真似をするファルセットが飛んでいる。
「楽しい日をありがとうです、シーナさんゾフィーさん」
 ガイアスが猫のマッキーを肩に乗せて去ってゆく。
「楽しかったです」
 エフェリアはペコリと挨拶をすると歩いていった。耳に波打ち際の貝殻をあてながら。
「エルディンさんは最初から刺身に抵抗なかったようね?」
 エルディンの去り際にゾフィーが訊ねる。
「ジャパンでは僧侶は食べないと聞いていますが、私は平気です。ノルマンの民ですから!」
 そもそもノルマンでは生で魚を食べない。かなり矛盾のある答えを笑顔で押し通したエルディンは街角に消える。
「まったりと、のんびりと過ごせて、お刺身も頂いて。海はいいですね」
 紫堂は釣果の一番にもなれて嬉しそうだ。最後にシーナとゾフィーと両手で握手をしてから夕日に消えていった。
「さて、ゾフィー先輩、帰りますか」
「シーナ、実はね。お刺身食べてみたのよ。‥‥結構いけるわね」
「先輩も美味しかったのですか!」
「また機会があったら行きましょう」
「そうなのです。とっても楽しかったのです〜」
 シーナとゾフィーは家路を辿るのであった。