アビゴールの過去 〜サッカノの手稿〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:7 G 32 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月03日〜07月09日

リプレイ公開日:2007年07月10日

●オープニング

「アビゴール様と天使‥‥か」
 悪魔崇拝ラヴェリテ教団の若き指導者エドガ・アーレンスは山中の古き建物の祭壇を見つめ続けていた。
 薄暗い室内に蜜蝋燭の炎が揺らめく。
 サッカノの手稿が何であるかを知る者は悪魔の騎士アビゴールだけである。あとは少女コンスタンスがわずかに知っている程度であろう。
 当初、大した興味がなかったエドガだ。しかし、執拗に欲するアビゴールの姿に内容にも興味が出てきた。
 殺気を感じ、エドガはナイフを投げる。
 ナイフは少女コンスタンスに当たるかと思われたが、後ろの壁へと突き刺さる。軽く避けた少女コンスタンスは口元に笑いを浮かべた。
「普通の者なら死んでますわ。お気をつけて。エドガ様」
 少女コンスタンスはトレイに乗せたワインをテーブルに置いた。
「コンスタンスよ。何故に主、アビゴール様の命を破り、エミリールに会いにいったのだ? いくらお前であってもアビゴール様がお咎めになっておかしくはない」
 エドガはコンスタンスを観察する。ナイフを投げた時、確かに少女コンスタンスは殺気を放っていた。
「興味があった‥‥では答えになりませんかしら?」
「なるはずもなかろう。頭のよいお前が、意味なく主に逆らった行動をとるなど考えられない」
 少女コンスタンスはエドガの言葉に高笑いをする。
「わたくしはアビゴール様のしもべ。エドガ様も同じ志のはず。それでよいではありませんか」
「面白いことをいう。そうだ、コンスタンスよ。もう一度会ってみてはどうだ? ベルヌ、エミリールとは語った。残りはボルデとかいう者とだ」
「誰をお試しになるつもり? まさかアビゴール様ではありませんよね? 普通に考えるならボルデという司祭。それともきっと一緒に現れるであろう冒険者。‥‥もしや私を?」
「お楽しみはとっておこう。邪魔さえ入らなければ何事も起こらない。邪魔さえ入らなければな‥‥」
 エドガは壁に刺さったナイフを抜くと、祭壇に向かって投げる。
 一本の蜜蝋燭が斜めに切れた。上部が転げて火は小さくなり、やがて消えて煙を立ち上らせた。

 ある日、冒険者ギルドを司祭ボルデが訪れた。
「護衛をお願いしたいのです。向かう先は山岳部。過去に三賢人の羊皮紙を一枚受け取った場所です。あの地は司祭アゼマが天に召された場所‥‥。再びこのような理由で訪れることになろうとは」
 司祭ボルデは受付の女性に話し続ける。
 ラヴェリテ教団の指導者エドガから手紙が先日届いた。内容は少女コンスタンスが話したい事があるという内容だ。
 司祭ボルデは司祭ベルヌと考えた末、向かう事にした。罠と考えるのが正しいが、この間、少女コンスタンスはエミリールとの会話を望んだ。出来る事なら少女コンスタンスをデビルの元から救いたいのが二人の司祭の考えであった。
「もっとも、今までのコンスタンスを行動をみれば、完全にデビル側の者。悪魔崇拝者であるのに疑いはありません。ただ、話す事によって何かしらの糸口が見つかればと思っています」
 司祭ボルデは固い意志を込めて受付の女性に依頼を出すのであった。

●今回の参加者

 ea2037 エルリック・キスリング(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea5808 李 風龍(30歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0828 ディグニス・ヘリオドール(36歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb3979 ナノック・リバーシブル(34歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5818 乱 雪華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

李 雷龍(ea2756)/ イフェリア・アイランズ(ea2890)/ コルリス・フェネストラ(eb9459

●リプレイ本文

●企み
 谷底から風が吹き上げ、エドガ・アーレンスの髪を激しく揺らした。
 エドガは巨石へと手を触れる。今いる崖ではかつて少女コンスタンスと冒険者達が古き羊皮紙の受け渡しを行った事がある。
 今回は向こう側の崖に少女コンスタンスとエドガを含むラヴェリテ教団は待機する。そして谷底を中央にして会話がやり取りされる段取りだ。
「わかっているな」
 エドガは振り返り、跪いているラヴェリテ教団の教徒6人を見下ろした。滝の裏で起きた白き玉奪取の際に活躍してくれたわずかな生き残りである。
「エドガ様とアビゴール様の為に」
 教徒6人が揃って返事をする。
 エドガは不適な笑みを浮かべるのであった。

●目的の地へ
「以前に申し上げました事、お忘れなきよう」
 馬車の中でフランシア・ド・フルール(ea3047)は司祭ベルヌに忠告する。独善では何も解決しない事を告げた過去があったのだ。
 エドガと少女コンスタンスについていったのは、司祭ベルヌ自身も悩んだ末の行動であったのだが、状況に混乱を招いた事に間違いはない。
 馬車の御者はエルリック・キスリング(ea2037)が任されていた。御者志願がいなかったのだが、馬の扱いに長けたエルリックのおかげで順調に進みそうである。
 馬車内にはフランシアと司祭ボルデ、司祭ベルヌの三人だ。
 李風龍(ea5808)は韋駄天の草履、シクル・ザーン(ea2350)はセブンリーグブーツで馬車を護衛。ディグニス・ヘリオドール(eb0828)も愛馬で併走する。
 上空からはヒポグリフのミストラルに跨るデュランダル・アウローラ(ea8820)が安全を司る。
 すでに馬車周辺に姿はないが、ペガサスのアイギスに跨るナノック・リバーシブル(eb3979)とババ・ヤガーの空飛ぶ木臼に乗る乱雪華(eb5818)は先行していた。
 ナノックはわざと目立つように会談の行われる地を調べ、乱は夜間に潜んで調べるつもりのようだ。
 初日に関しては、頼もしい仲間もいる。
 シフールのイフェリアは先行してデビルが待ち伏せしていないか調べてくれている。
 李風龍の弟、李雷龍も初日でパリに戻れる所まで護衛してくれていた。
 コルリスはパリで何か大事が起きたのなら、木臼に乗って知らせるつもりであった。
 警戒のおかげもあってか何事もなく順調に進み、二日目の夕方には目的地の手前に到着した。
 三日目の昼頃が約束の時間となっていたので、ナノックからの報告を待ち、それから明日の作戦を立てる事になっていた。乱は悪魔崇拝者側の崖にずっと身を潜めて監視するので、今日の所は戻ってこない。
「調べた限りでは何もされていなかった。石の中の蝶の羽ばたきにも注意したが、潜伏している様子も窺えない」
 日が暮れて合流したナノックはたき火を囲む仲間に報告をする。
「この会談、間違いなく罠だな。だが、罠だと判っていれば対処もしやすい。罠ごと食い破るまで」
 デュランダルは言い切った後も話し続けた。
「司祭殿お二人はコンスタンスの身柄を確保したいようだが、今回は慎重にした方が良いだろう。本当の意味で彼女を救う手がかりを得るように努力すべきだ」
 デュランダルの言葉に司祭二人は反論はない。少女コンスタンスが悪魔崇拝者であるのに疑いはないからだ。
「デビルなら飛んでくるし、飛び道具もあり得る。離れていても油断は出来ないな」
 李は拾ってきた薪をくべる。
「私は敵の姿を見かけたらミミクリーを絶やさぬように使い続けます。手足を伸ばせば、色々な対策がとれるはずですから」
 シクルは谷底越えや、落下する人を掴む、上空への攻撃などの状況を思い浮かべる。
「いつ襲ってくるかはわからないが、司祭達の周辺にぴったりとくっついて護衛するつもりだ。むろん司祭達の安全を最優先するが‥‥出来るのならコンスタンスの護るつもりでいきたい。将来説得するにも、死んでしまっては元も子もない」
 ディグニスは以前少女コンスタンスが接触してきた事が気にかかっていた。デビルを従えてはいたものの、アビゴールやエドガと相談もなく行動した印象を受けたからだ。
「私達からもお願いします」
 司祭ボルデと司祭ベルヌが冒険者達に深くお願いをする。
「たとえ聖女コンスタンスの血を引いていても、今のコンスタンスは悪魔崇拝者です。彼女を救うためにあなた方が犠牲になってはいけません。それに、ギリギリの状況下で彼女を救う能力は、私達冒険者の方が上です。私達を信じて、任せてください」
 シクルは司祭二人に釘を刺すのと同時に、その願いを受け止めた。

 仲間が野営をしている頃、乱は木の上で身を隠して監視を行っていた。地面にはすでに穴が掘られ、いつでも隠れられる用意もしてある。
 周囲に細工された様子はなかった。ナノックも調べでも同じであろう。
 しかし狡猾なデビルと手を組んだ悪魔崇拝者が、罠を張らない訳がない。太い枝に乱は寝転がって考える。
 もし細工がないのなら、前もって用意が必要ない方法で攻撃してくるはず。仲間の力を侮ってくれているのならいいのだが、エドガという人物はそうではなさそうだ。
 乱は敵が動くとすれば会談の間だと判断し、眠る事にした。

●会談
 太陽が真上に昇り、風が強い三日目。
 ナノックの指輪の石の中の蝶は羽ばたき続ける。それもそのはずで、相対する崖には少女コンスタンスの他に二匹のグレムリンの姿もあった。6人の教徒らしき者もいる。
「いや、もう一人いる」
 李は遠くから馬で近づいてくるエドガを見つけた。
 冒険者側では二人の司祭を取り囲むように護衛していた。フランシアは色水を指先で弾いて姿を消したデビルを注意する。
 上空にはナノックとデュランダルの姿がある。その気になれば、一気に敵側の崖へと渡る事が出来るはずだ。
 ナノックはデティクトアンデットを使う。少なくとも司祭二人の近くにデビルはいなかった。
「さて、この様な状況ですが会えて嬉しく思うわ。ボルデ司祭」
 少女コンスタンスが崖のギリギリに立った。
「手紙にはあなたが話したい事があるとありました。どの様な話なのでしょう?」
 司祭ボルデが訊ねると少女コンスタンスは大きな瞳を細めた。
「この間‥‥、わたしがエミリールに訊ねても答えてくださらなかった事実。はるか昔、滝裏の鍾乳洞遺跡でエミリールが魂を抜かれ、過去のコンスタンスが殺された時。天使が現れたのをアビゴール様、いえ、おじさまがもらしたのを先祖が聞き、私にまで伝わっています。どの天使なのかを知りたかったのに、すべてを隠されるとは思いませんでしたが」
 少女コンスタンスは淡々と話しを続けた。
「もう一つ、一族に伝えられる面白い話をしてあげましょう。実は過去のコンスタンスは天使に殺されたという事実を」
「それは嘘です!」
 司祭ボルデと司祭ベルヌが否定する言葉を叫んだ。
「過去のコンスタンスは真に聖女であって、なんと敵であるのに関わらず、天使との戦いに傷ついたおじさまを治療しようとしたの。それに怒った天使が過去のコンスタンスを殺した‥‥」
 少女コンスタンスは顎をあげて背を後ろにそらせる。しかし視線は谷を挟む二人の司祭に注がれていた。
「でたらめをいった所で何も変わりはしません!」
「ならなぜ、傷んだサッカノの手稿や三賢人の家系にわずかに残っていた文献、そしてあの滝裏の鍾乳洞にあった石に刻まれた文が微妙に食い違うのかを説明してみなさい!」
 少女コンスタンスの言葉に司祭二人は何も返せなかった。
「起こった事実をそのまま書けずに、ねじ曲げ、主観を込めて改変したからこそ、違うのではなくて?」
「推測にすぎません!」
「おじさまは過去のコンスタンスを哀れに思い、罪滅ぼしとしてコンスタンスの赤子を後に連れて行ったの。非道な人の手で育つのを恐れて」
「それはまったく逆です。デビルの甘言です! まやかしです!」
 司祭ボルデが前に踏みだそうとするのをディグニスが後ろから肩を掴んで止めた。
 突然、草むらから空に飛びだす何かがある。
「敵が仕掛けようとしています! 離れて!」
 木臼で飛んだ乱が叫ぶ。エドガに注意していたおかげで、教徒に何かを囁いて退き始めたのを見逃さなかったのである。一撃を食らわすには至らなかったが、それより仲間の安全を優先した乱であった。
「構わぬ!」
 エドガが叫ぶと6人の教徒が茶色に輝く。大地が突き上げられて地鳴りが響く。6人の教徒はクエイクを唱えたのだ。
 広範囲に分担を決めてらしく、冒険者側の崖も大きく揺れる。亀裂が入り、地滑りが起ころうとしていた。
 ただ、乱が叫んだおかげでわずかだが冒険者達には時間に余裕があった。二人の司祭と共に地が割れてゆく部分を乗り越えて、安全な場所に避難する。
「コンスタンス!」
 シクルがすでにかけてあったミミクリーで手を伸ばすが、少女コンスタンスを掴まえられない。
 さっきまで冒険者達とラヴェリテ教団がいた崖が両側共に地滑りで崩れてゆく。
 双方でただ一人、地滑りに巻き込まれたのは少女コンスタンスだけであった。土煙が谷底へと落ちてゆく。
「行け!」
 エドガが馬上で叫ぶと隠れていた大量のグレムリンが黒い翼を広げて舞い上がる。予め数匹のグレムリンを冒険者達に見せていたのは、この為のカモフラージュであった。
 クエイクが終わった6人の教徒は、グラビティーキャノンを放つ。フランシアの展開していたホーリーフィールドに阻まれて、司祭二人は無事である。
 ディグニスが敵に向かって中央で盾となり、左右をシクルと李が担う。空中を飛んできたグレムリンをナノックが阻む。
 乱は馬車に待機していたエルリックの元に飛んでゆき、脱出の準備を計った。乱はすぐに戻り、エドガと戦うつもりであった。
 李は襲うグレムリンに大錫杖を突き立たせる。グッドラックは自らと愛犬疾風にはすでにかけてあった。
 ナノックとアイギスはレジストデビルを唱えてから戦いに挑む。
 ディグニスはグラビティーキャノンをわざと受けて、射程外まで司祭二人を誘導していた。
 シクルは上空にたかるグレムリンをミミクリーで伸ばした腕で近寄らせない。
 デュランダルはミストラルと共にエドガに戦いを挑んだ。
 乱戦が始まろうとした矢先、谷底から現れる影がある。
「我が刃となる者達よ。退くがよい!」
 冒険者とラヴェリテ教団が挟む谷底の上空に現れたのはヘルホースに跨る悪魔の騎士アビゴールであった。
 アビゴールの一喝でグレムリンはわずかにだが退き、6人の教徒も攻撃を取りやめる。冒険者達も注意しながら、攻撃の手を止めた。
 剣を交えていたデュランダルも、エドガと後退したので様子見をした。
「おじさま」
 少女コンスタンスはアビゴールに抱きついていた。どうやらアビゴールが助けたようである。
「我が知らぬ間にこのような戯れ言を」
 アビゴールはエドガに長槍の先を向ける。エドガは馬を降りて、その場に跪く。
「これはアビゴール様、どの様な赴きでしょうか?」
「コンスタンスを亡き者にしようとしたのではないのか? エドガよ」
「誤解です。あの程度なら、コンスタンスは難なく切り抜けるのではと考えていたまで。狙うは司祭二人の命で御座いました」
「ふざけた事を申す。後でゆっくりと聞くとしよう。さて司祭、そして冒険者よ」
 アビゴールはエドガから冒険者達がいる崖へと振り向いた。
「この戦い、お互いに預からぬか? ただの消耗戦など利するものないであろう」
 アビゴールの言葉に冒険者達はアイコンタクトをとって受け入れる事を決める。邪魔は入ったものの、第一の目的であるコンスタンスの話は聞けたのだから。
「もうすぐ我々からパリに出向くとしよう。その時の楽しみにしておくがいい」
 不気味な一言を残し、アビゴールは撤退を始めた。
「アビゴールよ! コンスタンスから聞きました! 古のコンスタンスが天使に殺されたなどという嘘を吹き込んで、どうするつもりなのですか?」
 司祭ボルデが立ち去ろうとするアビゴールに向かって叫んだ。しかし返事はなく、アビゴールはコンスタンスと一緒にヘルホースに跨りながら空の彼方へと消えてゆく。
 馬車で麓近くまで降りると、怪我をした者がエルリックからリカバーの回復を受ける。
 クエイクを最大活用する為にエドガはあの場所を選んだのだという言葉がきっかけとなり、冒険者一行は話し合う。
「少なくともエドガがコンスタンスが邪魔だということは、はっきりとわかったな」
 ディグニスの意見にみんなが納得する。
「自らの力で為し得る黒の教義の者ではありますが、天使が人を傷つけるとは信じられず‥‥」
 フランシアはフェアリーのヨハネスを肩に乗せながら話す。
「コンスタンスの役目は既に終わっていると、エドガは考えているのですね」
 シクルは谷底に落ちていった時の少女コンスタンスを思いだす。
「話し合いが出来るというのは、まだ理解を深める余地があるという事だ。機会はまたあるだろう」
 デュランダルはがんばってくれたミストラルの世話をしながら、仲間に話しかける。
「コンスタンスという方が話をする目的は何だったのかを考えると‥‥自分でも真実がわからなくなっているからではないのでしょうか?」
 乱の考えに司祭二人は同意した。迷っているからこそ、確かめる必要が出てくる。
「妙な事をいっていたな。パリに出向くとかなんとか。それってものすごく大変な事じゃないのか?」
 李は保存食を食べていた。
「俺も気になった。とんでもない事が起きようとしているのかも知れない」
 ナノックはがんばってくれたアイギスのたてがみを撫でてあげる。
「では今夜も念のため、順番に見張りを立てて寝る事にしましょう。先に休ませて頂きます」
 エルリックはテントに入る。他の者達も見張りを残して眠りにつくのであった。

●帰路
 冒険者一行は、四日目の朝に麓を出発し、五日前の夕方前にはパリの地を踏んだ。
「名もなき棺に関しては、あと二人の許可がもらえれば、開けられるまでにこぎ着けました。フランシア様のご助力、ありがとうございます」
 司祭ボルデと司祭ベルヌはお礼をいう。
「初日にお渡ししてある、薬品類はどうかそのままお持ちになって下さい。近々、依頼をお願いするつもりですが‥‥。なんだかパリの様子が気になります。気のせいならいいのですが」
 司祭ボルデと司祭ベルヌは教会へと戻っていった。馬車を教会の者に引き渡すと冒険者達はギルドへの報告へと向かう。
 ふと、空を見上げる冒険者がいた。不吉な気配を感じて。