海上の罠 〜トレランツ運送社〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 92 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月04日〜07月12日

リプレイ公開日:2007年07月12日

●オープニング

 パリから北西、セーヌ川を下ってゆくと『ルーアン』がある。セーヌ川が繋ぐパリと港町ルアーブルの間に位置する大きな町だ。
 セーヌ川を使っての輸送により、商業が発展し、同時に工業の発達も目覚ましい。
 ルーアンに拠点を置く『トレランツ運送社』もそれらを担う中堅どころの海運会社である。新鮮な食料や加工品、貴重な品などを運ぶのが生業だ。

「そうですか。ありがとうございます」
 トレランツ運送社の男性秘書ゲドゥルはパリで調査を行っていた。船を沈めるセイレーンと結託したと思われる『グラシュー海運』の品がどう扱われているか調べる為だ。
 高額な商品に限り、扱っているようだが、今の所、怪しい点はない。かなりの純度の金板が彫金師に売られたりしていたが。
「そなたかえ? わたくしとその会社を調べているという殿方は?」
 ゲドゥル秘書がテーブルに座り、レストランで食事を食べていると、背中から声をかけられた。振り向くと、とてもきらびやかな衣装をまとった25歳ぐらいの女性が立っていた。お供らしき美形の男性が二人いる。
「いや、その、なんです‥‥。その前に、どっどなたでしょうか?」
 ゲドゥル秘書はしどろもどろになる。
「これは失礼。ルアーブル、グラシュー海運の社長シャラーノと申す者。以後お見知り置きを」
 シャラーノは挨拶しながら、ゲドゥル秘書に鼻と鼻がくっつきそうな程、顔を近づける。
「わっわたしはルーアンにあるトレランツ運送社の社長付き秘書をやっていますゲドゥルといいます」
 ゲドゥル秘書は椅子ごと後ずさる。しかしさらにシャラーノの顔を近づける。
「ゲドゥルと申す者。いやゲドゥル殿、グラシュー海運で手腕をふるってみるつもりはないか?」
「へえっ?」
「トレランツ運送社を辞めて、グラシュー海運に来るがよい。いや来て欲しいといっておる」
「よっよく状況が、わからないのですが‥‥?」
「わたくしが気に入ったのじゃ。よく考えておくれ。決してからかった訳ではないぞ」
 シャラーノはゲドゥル秘書のテーブルを後にした。

 数日後、ゲドゥル秘書はルーアンのトレランツ運送社に戻り、カルメン社長にすべてを話した。
「あの泥棒猫! うちの社員をたぶらかそうとするなんてどういう了見だい!」
 カルメン社長は社長室の机を思いっきり叩いた。
「‥‥それは置いておくとして、調べていたゲドゥルをすぐに見つけたとすれば、グラシュー海運側も、こっちを監視しているということだね」
「そういうことになります。この前、セイレーンに惑わされたと思われる船が我が社の船を襲ったのも関係するのではないかと」
「なるほどね。ではこちらから仕掛けてみようかね。近々、トレランツ運送社がものすごい金銀財宝を運ぶという噂を流しておくれ。もちろん嘘で船には冒険者達に乗っておいてもらう。同時に地上ではグラシュー海運の監視をゲドゥルが主導してやるんだよ。使えそうな社員とかを集めていいから。この間のアクセルとかも入れておきな」
「はい。それではまず依頼をしにパリへ行ってきます」
「ちょっとお待ち」
 カルメン社長は社長室を出ようとしたゲドゥル秘書を呼び止める。
「あっちに移るなんて許さないよ。いいかい!」
「もっ、もちろんです!」
 笑顔のゲドゥル秘書はさっそく自社のパリ行き帆船の予定を調べるのであった。

●今回の参加者

 eb1964 護堂 熊夫(50歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb5314 パール・エスタナトレーヒ(17歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 eb5347 黄桜 喜八(29歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7876 マクシーム・ボスホロフ(39歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec1264 ヴェレッタ・レミントン(32歳・♀・神聖騎士・エルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

十野間 修(eb4840

●リプレイ本文

●ルーアンへの寄港
 初日のお昼頃、冒険者達を乗せたアガリ船長の帆船はパリを出航する。朝からの半日の時間は必要な準備に費やされた。
 十野間修はグラシュー海運の情報網にかかるよう、パリで噂を流してくれるそうだ。
「海賊の財宝を見つけたばかり‥と口が滑りましたね」
 などと十野間は酒場でわざと大げさに触れ回り、嘘か真実かをわからなくさせる。そうすれば確認する為にシャラーノは動くはずと考えたのだ。
 二日目の夕方頃、帆船はルーアンに入港した。カルメン社長とゲドゥル秘書が出迎える。
「ゲドゥルさん、しふしふ〜♪」
 パール・エスタナトレーヒ(eb5314)はゲドゥル秘書の顔の高さに合わせて貨物箱の上に座る。
「調査ってあの後進展がありましたか〜?」
 パールの問いにゲドゥル秘書は経過を話した。グラシュー海運の運んでいる物は小さくて高価な品物が多い。つまり貴金属がほとんどを占めていた。
「品物に比べ、使われている帆船が大きいのが気にかかります。以前の報告でも外国製品を運んでいたとありましたが、どれも同じように小さい品物。隠し貨物室があって、高価な品物の裏で何か別の物を運んでいるのでは‥‥。あくまで推測ですが」
 ゲドゥル秘書のいう事に頷いたパールはもう一つ質問をした。セイレーンが襲わない船を見分ける目印があるのではないかと。ゲドゥル秘書は地上の調査で調べてみるという。
「でっかい箱、用意してくれたんで、迎え撃つ気満々なのを見せねぇで済んだ」
 黄桜喜八(eb5347)はカルメン社長と話す。パリでグリフォンのタカシを大きめの箱に入れて積み込んでくれた件に関してだ。
 この日はルーアンに泊まる事が決まった。アクセルとフランシスカも合流するので、宿で話し合いが行われる。
 黄桜はタカシが暴れないように大きめの箱にフェアリーのりっちーと一緒に入るそうで、宿には泊まらない。後で誰かに内容を教えてもらうそうだ。
「パリでグラシュー海運の船乗りに、化け物に襲われない方法を聞いてみたのだが、反応は様々だった。恐れたり、根拠のない自信に溢れていたりと他の船乗りと変わらない。少なくとも下っ端船乗りはセイレーンと組んでいるのを知らないな」
 マクシーム・ボスホロフ(eb7876)は出発前に調べた事を報告する。
「私はルアーブルで下船する。グラシュー海運とは面識がないので潜伏調査に行くつもりです。シャラーノの気を引くには綺麗な姿がいいと思う」
 アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)の準備は出航前から始まっていた。持ってきた小道具で旅のクレリックのような出で立ちで帆船に乗り込んだ。今もその姿である。
「アーシャ、気をつけろよ。噂によればシャラーノは相当のくせ者のようだ。そうだ。アクセル殿、フランシスカ殿とは初めてだったな。よろしく頼む」
「呼び捨てでいいよ。ねっ、アクセル」
 エメラルド・シルフィユ(eb7983)は二人と握手を交わした。フランシスカは自分がマーメイドであるのを明かす。そしてセイレーンとマーメイドが間違われてしまうのを阻止する為に海の底からやってきたのだと初めての者達に告げた。
「個人的には、セイレーンがシャラーノの言う事を聞いている理由が知りたいですね」
 コルリス・フェネストラ(eb9459)は弓の手入れをしながら呟く。コルリスと同じ考えの仲間は多い。
「ふむ‥グラシュー海運の扱う品を見る限り、奴らは船を沈める以外の恩恵もセイレーンから受けているのかもしれないな。もし協力ではないとすれば‥‥こちらの対応も変えなければならないのだが。セイレーンについて、もう少し深い情報はないのだろうか?」
 ヴェレッタ・レミントン(ec1264)がフランシスカに質問をする。
「セイレーン姉妹についてはないの。違う話になるけどマーメイドの国にセイレーンを倒した物語があるわ。倒したというだけで具体的な事は何も説明されていないんだけど‥‥。『勇気ある者』だけが倒せるとあったわ」
 フランシスカのいう『勇気ある者』とは何を指すのかをみんなで考えるが答えは出ない。
「私の余力がある様なら、メロディの歌で対抗したいのですが、どうでしょう? フランシスカさんと説得できれば一番なのですが‥‥」
 護堂熊夫(eb1964)の話をアクセルとフランシスカは頷きながら聞く。今の所、説得は保留となる。やるとしても、もっと情報が集まってからのほうがいい。
 マーメイドは魅了に対抗出来るのかと質問も出るが、無理なようでフランシスカはしょんぼりとする。だが魅了の範囲と15メートルの射程を持つアイスブリザードを覚えてきたので、万が一の時は力になれるとフランシスカは笑顔で答えた。
 夜遅くまで話し合いは続くのであった。

●海
 三日目の朝、冒険者以外にゲドゥル秘書と社員二人、アクセル、フランシスカを乗せてルーアンを出航する。
 お昼前にルアーブル手前で小舟を下ろし、ゲドゥル秘書と社員二人、アクセル、アーシャを乗せて別れた。グラシュー海運本社の調査隊である。
 帆船はルアーブルに寄らずにそのまま海原へと出る。
 航海は順調に進み、四日目の夜に目的の町の船着き場へと入港した。

 五日目の朝、貨物の積み込みが始まった。
「のおおおおおっ!」
 護堂も船乗りに混じって積み荷を運ぶ。プロの船乗り達も真っ青な力持ちである。
 普段運ぶ食料品などに混じり、何重にも鎖が巻かれた箱が運ばれる。カルメン社長が前もって用意させておいた金銀財宝が入っているとする箱だ。中身はただの石ころだが。
「ここからが大変ね。しばらくよろしく」
 パールは見張りの船乗りに挨拶をすると、梟のデルホイホイの羽根の中に隠れる。いるのはマストの上にある見張り台だ。
 歌が魅了として効果のある範囲はフランシスカによると15メートル。マストの上にいれば、それだけでかなり距離が稼げるはずである。
「窮屈だったな」
 昼頃出航すると、黄桜はアガリ船長の許可を得てタカシを箱から出した。とっておきとして、貨物室内からは出せないが、箱の中より大分ましである。
「もういいぞ。期待しているからな。よしよし」
 ヴェレッタのペガサス、キュレイも毛布を外し、隠しておいた翼を広げさせた。ヴェレッタはじゃれてくるキュレイの喉元を触ってあげる。
「晴天が続きますように」
 看板で空を見上げた護堂は戯れに印を結んでみる。不利な天気になったらウェザーコントロールで変えるつもりだ。通り過ぎる船を見つけると、スコープとエックスレイビジョンで敵かどうかの確認も怠らない。
「そうか。シャラーノとはそんな因縁があったのか」
 エメラルドは船室でフランシスカに兄がシャラーノに囚われてしまった時の話を聞いていた。今頃接触しているはずのアーシャの事が心配になったエメラルドである。セイレーンについてはルーアンで聞いた以上の事は知らないようだ。
「考えられる一つとしては、おそらくセイレーンの歌によってこちらを無力化するでしょう」
 コルリスはアガリ船長と襲撃された際について話していた。いろいろと敵の戦法は考えられるが、不意打ちで突然歌われて魅了されるのは避けたい。いざとなれば、闘気で抵抗してかかったフリをするにしても、船乗り達が心配だ。
「人の存在を呪いこそすれ、特定の人間に加担するなんて‥‥」
 マクシームは穏やかな海原を監視しながら呟いた。セイレーンが人間と共闘する動機こそが、一連の解決に繋がると考えていた。

●敵
 帆船に混乱が起きたのは六日目の朝日が昇った直後であった。
「大変!」
 最初に敵影を発見したのはパールである。大きな鐘が鳴らされて帆船にいる全員が叩き起こされる。
「あれは‥‥海賊船です!」
 護堂が能力で確認して仲間に教えた。出で立ち、装備からいっても間違いなく海賊船である。目的の敵ではなく、金銀財宝の情報に引っかかった海賊がやってきたかと誰もが思った。だが護堂、黄桜、マクシームは感じ取る。遠くから流れてくる歌を。
「海賊を魅了して襲わせるつもりだ!」
 マクシームがアガリ船長に叫んだのと同時に矢が飛んできた。
 マクシームの長弓を引き、まだ遠くの海賊船に矢を届かせる。矢はいくら使ってもよい帆船備え付けのものだ。
「安全策で近づかないつもり?」
 コルリスは海賊船が射程距離に入るまでセイレーンを探したが、見つからなかった。
「遠慮はしません!」
 護堂は射程距離に海賊船が入るとトルネードを唱える。相手は海賊なので全力を尽くす。大量の海賊共が巻き上げられて、海に落ちてゆく。
「姉妹だと聞いている。一人は海賊船にも隠れているかも知れないな」
 接舷されると、エメラルドは海賊船に飛び乗った。コルリスとマクシームの弓矢による援護もあり、船内へと進入する。矢には布を巻いて火が点けられていた。
 ペガサスキュレイにヴェレッタは跨る。帆船に乗り込もうとする魅了された海賊をキュレイに蹴飛ばさせてゆく。一人も乗せない覚悟だ。
「なんだあ!」
 海賊が叫ぶ。
 海賊船の甲板に突如大ガマが現れる。グリフォンのタカシで上空にいる黄桜のとった戦法だ。
 戦局は確実に仲間の勝利に傾いていた。
「ガマの助、あっちを狙っておけ。オイラはさてと」
 黄桜はその耳の良さを生かして歌声が聞こえた場所に向かう。しかし波が立つただの海でしかない。
「デルホイホイ、次は弓使っている奴ね」
 パールは梟のデルホイホイで海賊船の上を飛んでいた。たった今、ビカムワースを使って操舵士を動けないまでにしたばかりである。静音で近づける梟のおかげで真上を飛んでも気づかれない。
 突如、歌声が響いた。フランシスカは船室の窓を開けて確認する。耳が鱗状の人が海上に顔を出していた。いや、人ではないセイレーンが一人いた。
 アイスブリザードを使うには離れすぎている。おかげで魅了にはかからないが、このままでは範囲にいる仲間が危なかった。
 セイレーンに矢が突き刺さり、歌が止まった。仲間が気がついてくれたようだ。セイレーンは海の中へと消えてゆく。
「ふぅー」
 セイレーンに矢を放ったのはコルリスであった。20メートル程離れた揺れる帆船の上で、しかも海に漂う人程の大きさによく当てられたものだと自分でも感心するほどである。引き続き、乗り込もうとする海賊の足をコルリスは狙った。
「少し聞こえたあれが、セイレーンの歌か」
 エメラルドが海賊船の船長を捕縛して帆船に戻ってくると、アガリ船長は全速で走らせる。操舵手が動けないおかげで海賊船は追ってこなかった。
 帆船側の被害といえば、残念ながら二名が魅了されてしまい、船乗り仲間が取り押さえていた。それほど深くはかかってなさそうなので、一週間もすれば元には戻りそうである。
 エメラルドのリカバーで怪我した仲間も治療も完了する。
 夕方にルアーブルへ立ち寄るまで、冒険者達による海賊船の船長の尋問は続いた。

●情報
 ルアーブルで仲間を乗せ、帆船はルーアンを目指した。すでに夜だが、ルアーブルの港で襲われた事があるのでわずかでも進む為に出航する。
 七日目の昼にルーアンへ入港すると、アーシャがグラシュー海運で起こった事をふり返りながらカルメン社長に報告した。

「やり手の美人社長がいると聞いています。是非お会いしたい」
 旅のクレリック姿から武装した用心棒の格好に変身したアーシャはエヴァ・スミスと名乗り、グラシュー海運を訪れた。
 美形の男ばかりが働く社内で、社長室に連れてゆかれる。
「注目株のグラシュー海運さんで活躍して、私を追い出した故郷を見返したい‥」
 エヴァことアーシャは兜をとって耳を見せる。ハーフエルフであるのを明かしたのだ。
「‥‥惜しいぞ。男ならばな」
 シャラーノの言葉にアーシャはドキッとする。
「うまく男のようにしているが、中身は女。実に惜しいが、使う事は出来ぬ」
 シャラーノは一目でアーシャを見破っていた。
「そんな事いわないで下さい。グラシュー海運の評判がいいので入りたいんです。私もいつかシャラーノさんみたいに、一旗上げたいです」
「そういわれてもな。こればかりは譲れんのじゃ。はっきりといえば、この世に女はわたくしシャラーノ一人でいいと思うている。つまり、すべての女は敵。そういう事なのでお引き取り願おう」
 護衛らしき男二人が現れて、アーシャは外に連れ出された。その気になれば倒せたが、それではただの無法者である。
「失敗しちゃいました‥‥」
 アーシャはゲドゥル秘書と社員二人、アクセルに報告する。
「相変わらずですか。シャラーノは」
 アクセルは昔、シャラーノと会った時の事を思いだす。その横で先日会ったゲドゥル秘書も思いだしていた。二人は背筋を震わせる。
「でも‥‥。手ぶらでは何なのでもらってきました。なんだかわからないけど」
 アーシャは懐から羊皮紙を取りだした。受け取ったゲドゥル秘書が読む。
「剣50本、弓20張‥‥武器の受注について書かれています。こんなのパリで調べた時には運んできた物に含まれていませんでしたのに‥‥」
 ゲドゥル秘書は腕を組んだ。

「それから帰りの帆船が戻るまで、ルアーブルでの調べは続けられたという訳です」
 アーシャの報告が終わり、ゲドゥル秘書が引き継ぐ。
「武器類はどうやらパリまで直接は運ばずに、ルアーブルから陸路で運ばれた形跡があります。それ以上は今回わかりませんでした。セイレーンが襲わない船を見分ける目印についても調査続行中です」
 話すゲドゥル秘書の肩にパールが乗る。
「それはこっちの尋問でわかりました。赤いマークが帆についた船は襲わない、それ以外を襲うんだと、魅了された海賊船の船長がいってたんです。グラシュー海運の社章は赤く描かれています」
「ほう、そういうことなのかい」
 カルメン社長は感心した。ゲドゥル秘書によって追加謝礼金が支払われる。
 細かい事は残るフランシスカがカルメン社長に報告する事になった。時間がないので、冒険者達はパリへの航路を急いだ。
 八日目、夜の帳が下りた頃に帆船はパリの船着き場に入港した。
「表向きは貴金属の輸送をして、隠れて武器の輸送。歌の魅了を様々に使い、船を沈めるセイレーン。失脚して処刑になった領主。生き残った、その娘シャラーノ。どこかで全部が繋がるのだろう」
 冒険者ギルドへの報告が終わった別れ際、ヴェレッタが呟いたのだった。