ちびっ子ブランシュ騎士団と憧れの騎士

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月05日〜07月10日

リプレイ公開日:2007年07月12日

●オープニング

「こういうのはどうだろ。両手を挙げて三回グルグルさせて広げるってのは」
「あたしはかわいいのがいいなあ。ウインクしてみよ〜かな」
「一緒の決めポーズの方がいいよ。ビシッと決まったらかっこいいよ」
「こう、パンチを出して力強いのがいいぞ。かけ声も出して威勢よくな」
 ちびブラ団は空き地に集まって決めポーズの相談をしていた。今までも相談していたのだが、意見がバラバラでまとまらなかったのだ。
「ちょっと待った!」
 黒分隊長こと少年ベリムートの大きな声で、子供達の言い合いが止まる。
「肝心な事を忘れていた。俺達はちびっ子ブランシュ騎士団。しかも分隊長だろ? ということは騎士ということだ。馬はまあ‥‥今はしょうがないとして、将来、一騎打ちする時に恥ずかしくない一瞬の剣技がいいと思うんだ」
 ベリムートの意見に三人は一旦頷く。だがだんだんと逸れてゆく。
「そうだよなあ。あんまり長くやってて、敵にやられたら意味ないし」
 灰分隊長こと少年アウストがうんうんと頷く。
「なんというか、本物の剣を握った事もないがな」
 藍分隊長こと少年クヌットは強く拳を握った。
「騎士団といっても、剣ばっかりじゃないんじゃない? 魔法使う時に叫ぶ言葉とかポーズとかでもいいんじゃないかなあ」
 橙分隊長こと少女コリルは腕を組む。
 結局、意見はまとまらず、決めポーズは持ち越される事になった。

「うわぁ!」
 夕方、クヌットが家に帰って大声をあげる。
「クヌット、俺だ俺。父ちゃんだ」
 クヌットの父親は『まるごとこあくま』という防寒着を着ていた。愛らしい格好であるが、デビルを模している。見る人によっては嫌悪を抱くであろう。
「父ちゃん、なんて格好してるんだよ」
「いや何、最近パリもデビルが暴れていて大変だろ? そこで注意を込めて地域の有志で劇をやる事になったんだ。俺も出演だ。クヌット、これはお前の衣装だ」
 クヌットの父親が『騎士団風マント』を息子に渡す。
「衣装‥‥って?」
「ブランシュ騎士団役で出演決まっているから。我が息子よ。がんばれよ」
「そんなの聞いてないぞ」
「断るのか? クヌット」
「いや、断るとかそういうのじゃなくて‥‥。いきなりだったから」
「じゃあ決まりだな。お友達の分も含めて10枚もマントがあるぞ。ブランシュ騎士団が悪魔を退治するという内容だ。お手伝いを頼む為、冒険者ギルドにも行って来た」
 クヌットの父親は勝手に話を進めてとても満足そうに笑う。
 息子のクヌットはポカ〜ンと口を開けていた。

●今回の参加者

 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb5231 中 丹(30歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 eb7804 ジャネット・モーガン(27歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ec2830 サーシャ・トール(18歳・♀・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

太 丹(eb0334)/ 小 丹(eb2235

●リプレイ本文

●集合
「焼き菓子、持って来ました。休憩時間にどうぞ」
 陰守森写歩朗(eb7208)はお近づきの印にとちびブラ団に作ってきた焼き菓子をあげた。袋一杯に入っていて子供達は大喜びだ。
「ほら、ちゃんとお礼をいわないと」
「お兄さん、ありがと〜♪」
 クヌットの父親に促されてちびブラ団は陰守に礼をいった。真っ先に口にくわえたのはベリムートである。
「すげえ、うまいよ」
「こら、休憩時間にといっているのに」
「ほんと、おいし〜」
 初日は藍分隊長ことクヌットの家の庭が集合場所になっており、徐々に人が集まりかけていた。
「ちびブラ団が劇をやるときいてやってきたぞ。浪漫指南顧問としての血が騒ぐというものだ」
「浪漫指南顧問だあ。よろしく頼むね」
 サーシャ・トール(ec2830)が近寄ったアウストの頭を撫でる。サーシャは特にシナリオ作成や演出に興味があるようだ。
「橙飛行隊長、教会のシスターみたい。当たり?」
 アニエス・グラン・クリュ(eb2949)が現れ、橙分隊長ことコリルが声をかける。
「橙分隊長様、よくおわかりで。悪魔に連れ去らわれる修道女を演じます」
 アニエスは胸元で十字を切ってみせる。
「ホッホホホホ〜!」
 高笑いと蹄の音がだんだんと近づいてくる。クヌット家の垣根を飛び越える騎士の姿があった。
「我が愛馬コルベットと共に参上! 庶民に娯楽を提供するのも、高貴にして至高なる私の役目。栄光のロードの為に!」
 馬上で剣を抜くのはジャネット・モーガン(eb7804)だ。クヌットの父親が腰砕けになって驚いていたが、ちびブラ団は魅せられていた。
「あとは、泳ぎのうまいカッパさんと仲間?」
「そうだね」
 ちびブラ団が最後の中丹(eb5231)の噂をしていると、屋根の上で何かが光る。逆光でよく見えないが、どうやら三人いるようだ。
「生まれた日は違えども、死すときは同じ日、同じときを願わん!」
 三人が声を合わせると、庭へと飛び降りた。
「無常の心、コールドハート! 小丹じゃ!」
 右に立つ小丹が剣を自在に操り、掲げる剣を支える姿で決める。付け髭も決まっていた。
「無限の胃袋、あんぶれいかぶるすとまっく! 太丹っす!」
 中央に立つ太丹が左右の拳を順に突きだして決める。大食漢のようである。
「小技が光る、ファンタシティックパフォーマンス! 中丹や!」
 左に立つ中丹が庭に生えた木の幹に向かって走り、くるっと縦に回ってクチバシをキラ〜ンと光らせた。そして両手を広げて鶴の姿を模して決める。
 ちびブラ団は大いに拍手を送った。
「これからしばらく怪我無いように練習や。泳法はまた今度やで。良い子のみんなとの約束や」
 中丹は子供達と握手をすると、小大兄、太弟弟と呼ぶ義兄弟とも強い握手をするのであった。

●四日間
 時間はあっという間に過ぎ去る。
 初日には小丹と太丹が手伝ってくれた。
 それから小道具作りや衣装作り。一番大切な演技の練習も熱心に行われる。
 格好をつける為にも、ちびブラ団にアニエスとジャネットが剣術指導した。だんだんと様になってくる。騎士姿もマントだけでなく、家にあるものを活用したりして、それなりになってゆく。
 劇全体の流れはアニエスとサーシャが決めた。
「本物の分隊長が観に来るの?」
 ちびブラ団四人がアニエスに詰め寄る。依頼初日の集まる前にアニエスは王宮の詰め所に手紙を預けてきたそうだ。
「駄目元ですよ? いらしたら幸運位に思って下さい」
 そういいながらアニエス自身も来てくれないかと期待はしていた。
 準備は整えられて、ついに本番を迎えるのであった。

●舞台
 大広間にはたくさんの観客で溢れていた。
 幕が開き、観客の拍手によって劇は始まる。
「騒がしく感じられるのは何事でしょう?」
 修道女アニエスが箒で修道院の庭掃除をしていると、騒がしい物音に気がつく。
 物影を覗いてみると大鎚を手にした悪魔が教会を壊そうとしていた。裏方でサーシャが不要になった扉を叩いて効果音を出す。
「悪魔よ地獄に戻りなさい! この国はあなた達が居るべき場所ではありません!」
 修道女アニエスが十字架を掲げてシンボルとし、神聖魔法を唱えた。もちろん本当の魔法ではなく、ただのフリだ。
 魔法を表現する為に用意した布クズが『まるごとあくま』を着たちびブラ団の父親三人にパラパラと降り注ぐ。
「よしここで」
 サーシャがタイミングよく、ソーセージ用の腸を膨らませたものを叩いて破裂させ、ショックを表現する。
「ここはまばらに降らす段取りですね」
 屋敷の天井に登り、布クズを降らしていたのは身軽な陰守である。終わったら急いで『まるごとぺがさす』に着替えなくてはならない。
 何度か魔法で父親悪魔達は怯むものの、結局魔力尽きて修道女アニエスは捕まえられてしまう。
「ボス悪魔さま、修道院を壊そうとしていた所、シスターを捕らえました」
 そこに現れたのは『まるごとあくま』を着込んだ河童の中丹であった。腕を組み、ふんぞり返る。両手にはリベットナックルが鈍く輝く。忠実なる僕である『まるごとごーれむ』を着た、ちびブラ団の父親も一緒だ。
「ようやった。綺麗なねーちゃんってだけやなく、シスターなら大手柄や。作戦変更。おいらたちの生贄にするんや〜」
 ボス悪魔中丹はガハハッと笑う。
「神は私をお見捨てになりません。正義と平和を尊ぶ騎士が必ずや救いに現れましょう」
 十字を切って祈る修道女アニエスを父親悪魔達が担ぐ。デビル一行は舞台のそでへ消えていった。
 その様子を修道院の二階から目撃した修道女サーシャは、庭となる舞台に下りてきて戸惑う。
「どうしましょう。シスターアニエスが悪魔の手に」
 修道女サーシャは普段話さない口調がちょっと恥ずかしかった。観客の中に呼んでいた友達もいる。
「そうです。こういう時にこそ、あの方達に」
 修道女サーシャはデビル一行とは逆の舞台そでに消えてゆく。
「修道女サーシャが向かったのはパリにある王宮。そして彼女の願いを聞き入れてくれたのはノルマン王国の守護者だったのです」
 幕を引いたジャネットが、そのままナレーションを話して場を繋ぐ。その間に舞台裏では手が空いているみんなで舞台を入れ替える。どれも父親達が簡単に作ったものなので、それほどの苦労はいらなかった。
 ジャネットのナレーションが終わり、再び幕は開かれる。
「シスターを生け贄にすれば、もっともっと強くなれるんや。そうなればノルマン王国を占領するやなんてちょちょいのちょいや」
 ボス悪魔中丹がトゲトゲの装飾がされた椅子にふんぞり返っていた。修道女アニエスはロープに縛られて円の中央に転がされている。父親悪魔達は修道女アニエスの回りで変な踊りを続けていた。
 舞台のそでから『まるごとぺがさす』を着た陰守が現れた。背中にはちびブラ団で一番体重の軽いコリルを乗せている。
「みんな、ここが悪魔の城の大広間のようよ。ペガサス、お前はここで待っていておくれ」
 コリルがペガサスから降りる。陰守はペガサスらしく振る舞ってみせた。他の分隊長も同じく舞台のそでから姿を現した。
「えっと‥‥」
 次の台詞はベリムートのはずだが、言葉が出てこないようだ。舞台裏にいるジャネットが木板にベリムートの台詞を書いて掲げた。
「いっ、今こそブランシュ騎士団の力を合わせる時!」
 無事にベリムートの台詞が出て劇は進行する。
「なんや。おのれらは!」
 ボス悪魔中丹が現れたちびブラ団四人を指さす。
「黒分隊長ラルフ! ノルマン王国の平和の為に!」
 最初にベリムートが叫ぶ。ちびブラ団全員が剣に手をかけた。
「藍分隊長オベル! 潜む悪の魔の手を切り裂き!」
 クヌットの言葉と共に全員が剣を抜く。
「灰分隊長フラン! 悪を許さぬ正義の力!」
 アウストの動きに合わせてそれぞれが考えた剣技を披露する。
「橙分隊長イヴェット! デビルよ! 滅するがよい!」
 コリルが剣をシンボルにして魔法を唱えた。修道女アニエスの魔法以上の布クズが父親悪魔三人に降り注いだ。
 まるごとぺがさすを着たままの陰守が急いで天井に登り、布クズを降らしていた。さすがは忍者である。特大のソーセージ用の腸を破裂させたのはサーシャだ。
 舞台裏からちびブラ団の決めポーズを観ていたジャネットは満足げに頷く。
「私のアドバイスのおかげね。今の時代は個性が肝心よ」
 高笑いをしようとしたジャネットだが、今ばかりは止めておく。
「やられたあ〜!」
 ちびブラ団が三人の父親悪魔を斬り伏せる。襲ってきた父親ゴーレムも力を合わせて倒した。剣と剣がぶつかる音などはサーシャが金属製の食器などをぶつけて雰囲気を出す。何度も稽古をしてきたのでちびブラ団とのタイミングはばっちりだ。
「はい。汗をかいたでしょう」
 うまく舞台から消えるように倒された父親悪魔達にジャネットは水を渡した。初夏に防寒具である『まるごと』は身体に堪えるはずだ。
 残るはボス悪魔中丹のみになる。
「おんどれ、ただじゃすまさへんで!」
 ボス悪魔中丹は椅子から立ち上がり、ちびブラ団と戦う。四人の白いマントが翻り、中丹を取り囲んだ。
 ちびブラ団が握るアニエスが作ってくれた剣が『まるごと』の厚くした部分を叩く。ボス悪魔中丹だけでなく、父親達が扮した『まるごと』にも痛くないように細工されてあった。
「消え去れ!」
 ちびブラ団が息を合わせて一斉に攻撃する。それに合わせてボス悪魔中丹は舞台中央に吹き飛んだ。サーシャとジャネットがそでから板で扇いで風を送り、ボス悪魔中丹に軽く付けられてあった黒い羽根が勢いよく飛び散った。
 大げさに苦しんでみせたあと、ボス悪魔中丹はバタリと倒れる。
「我ら、ちびっ子ブランシュ騎士団!」
 倒れたままのボス悪魔中丹の上でちびブラ団四人は剣を合わせる。
 歓声の中、観客席となる広間の一番後ろに白いマントを身につけた四人が立っていた。
「将来のノルマンも安泰ですね。彼らにバトンを渡すまでが大変です」
 灰色の房飾りをつけた男性エルフが仲間に声をかける。
「その通りだ。パリを襲う不安など吹き飛ばさなければならない」
 黒色の房飾りをつけた男性がマントの中から左手を出して腰に当てる。
「件の騎士団に我らウィリアム3世の騎士団が遅れを取るわけにはいくまい。今度は我らがデビルを倒す番だな」
 藍色の房飾りをつけた男性がゆっくりと頷いた。
「後20年若ければ、ちびっ子ブランシュ騎士団に入団させて貰えただろうか」
 橙色の房飾りをつけた女性が真面目な顔で話すと、黒色と藍色の房飾りをつけた男性二人がコホンと咳をする。
「では行こうか」
 白いマントをつけた四人は劇が行われた屋敷を後にした。
「分隊長様方、ありがとうございます!」
 修道女アニエスは無事に助けだされ、大団円のうちに劇は終了するのだった。

「あっああっ、あのな」
 クヌットの父親が劇が終わったみんなに話しかける。
「ブランシュ騎士団の、分隊長らしき人達を観客席で見かけた人がいるらしいんだよ!」
 クヌットの父親の言葉にちびブラ団とアニエスは楽屋となっていた部屋を飛びだした。屋敷内や庭も調べたがすでに分隊長の姿はなかった。
 会えなかったのは残念だが、忙しい中、来てくれただけでもちびブラ団とアニエスは嬉しかった。

 陰守はクヌットの父親を介して出し物の場を用意してもらう。
 陰守はいろいろなアイテムを駆使して準備万端に舞台へと立った。
「はい。こちらをよく観て下さい」
 手品を使ってみんなを驚かせる。他に奇術をする者はいなかったのでとても新鮮である。
 終わった後は作ってきた焼き菓子を観客のみんなに振る舞った。
 主催者からみんなを勇気づける為の場だといわれたので、寄付の呼びかけはしない。主催者も申し訳なさそうにしていた。
「ありがとう」
 ただ自然と集まったものは届ける用意があるそうだ。陰守はかなりの金額を寄付するのだった。会場の方でもしてくれる方はいたようだ。
「会場の掃除もしておきましょう」
 出し物が終わり、地域の人達が帰った後で陰守が掃除を始める。冒険者仲間もちびブラ団と親も手伝う。すべての片づけが終わる頃には夕方になっていた。
「おかげ様でこの辺りのみんなが楽しめたようだ。デビルなんかに負けないよな?」
「うん!」
 クヌットの父親の言葉にちびブラ団は元気よく返事をした。

「本物の分隊長様達、観劇してくれたんだ‥‥」
 アニエスは思いだす度に頬が綻ぶ。寄付については陰守から聞いていたので主催者に任せたアニエスである。
「手品、面白かったわ。どうしたら消えたり、現れたりするのかわからないわ。それにあの焼き菓子は大好評よ。子供達なんか頬膨らませて、両手に持って食べていたもの」
「喜んで頂いてよかった。寄付も渡せましたし。ジャネットさんの裏方も見事でした」
 ジャネットが陰守の言葉に高笑いをする。
「そうそう、サーシャはんのシスターも堂に入っていたでぇ」
 中丹がサーシャを誉める。
「中丹さんが、悪役に徹してくれたからこそだ。アニエスさんの浚われっぷりも素晴らしかった」
 サーシャが笑顔で話す。
 冒険者達は劇の事を思いだしながら、ギルドへと向かうのであった。