自分探し 〜画家の卵モーリス〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月07日〜07月13日

リプレイ公開日:2007年07月14日

●オープニング

「ふぅ〜‥‥」
 宗教画家見習いのモーリスは、森のアトリエでため息をついた。
 師匠の画家ブリウの姿はない。
 英気を養う為、そして新たなアイデアを考える為に一人旅に出かけたのだ。数ヶ月の後にパリの教会で再会する事をモーリスと約束して。
 鶏の鳴き声が聞こえ、モーリスは朝が来た事を知った。夜にベットへ寝転がり、考えているうちに朝がやってきたのだ。
 モーリスの悩みは頼まれた絵のモチーフである。
 ルーアンのカトナ教会の司教から宗教画の注文を受けたモーリスは喜んだのだが、それからしばらくして悩み続けていた。
 描きたいものはたくさんある。今まで描きためておいたスケッチにも様々な元絵が残っている。
 しかし、今振り返って眺めると、どれも稚拙に思えて仕方がなかった。
 表面上の技術の問題ではなくて、何を描くかが大切だ。
「モーリス、いる?」
 夕方前の暮れなずむ頃に恋人のローズが森のアトリエを訪ねる。鶏の餌となるクズ野菜を届けにきたのだ。
「あ、ローズ」
「モーリス、どうしたの? 頬が痩けているわ!」
 ローズは急いであり合わせの食材で食事を作る。
「あまり悩んでも仕方ないわ。パリにも宗教画を飾ってある教会はたくさんあるはず。それに教会の方々のお話を聞いてみるとかしてみたら?」
 ローズは作ったスープをテーブルに置く。
「それは、もうやってみたんだ。師匠から宗教画家を目指すなら、ラテン語は必要だといわれて勉強もした。聖書も何度も読み返した。それでも浮かばないんだ‥‥」
 湯気の昇るスープを前にして、モーリスは呟いた。
「‥‥しばらく筆を置いてみたら? そして何も考えないの。今は家の方も忙しくないから、あたしもつき合えるわ」
 ローズの言葉にモーリスは乗り気にはなれなかった。だが、手詰まりの状況にいう通りにしてみる事にした。

 数日後、モーリスとローズは冒険者ギルドを訪れた。
「冒険者のみなさんはそれぞれに得意なものがあると思うのです。唄うとか物を作るとか、いろいろと。ボクにとっては、それが絵です。でも最近行き詰まっていてどうにもならない状態なんです」
 モーリスが受付の女性に話し続けた。
「そこで絵を描く以外には素人のボクですが、冒険者のみなさんのお手伝いをさせてもらえませんでしょうか? 新鮮な体験がしてみたいんです」
 モーリスがローズと共にギルドを後にする。
「初心に戻ってみたいんだ。手伝ううちに思いだすかも知れない。一心不乱に熱中していた頃の自分を」
 モーリスが呟くとローズは心の中で否定する。決してモーリスは絵に対して情熱を失った訳ではない。ただ、今はあまりに大きなチャンスを前にして石のように動けなくなってしまっただけだと。
「そうね。きっと思いだすわ」
 ローズは冒険者の姿がモーリスの緊張を解きほぐしてくれると信じていた。

●今回の参加者

 ea2004 クリス・ラインハルト(28歳・♀・バード・人間・ロシア王国)
 ea6480 シルヴィア・ベルルスコーニ(19歳・♀・ジプシー・シフール・ビザンチン帝国)
 ea9589 ポーレット・モラン(30歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb1875 エイジ・シドリ(28歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec1358 アルフィエーラ・レーヴェンフルス(22歳・♀・バード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

李 雷龍(ea2756)/ ウィルシス・ブラックウェル(eb9726)/ セルシウス・エルダー(ec0222

●リプレイ本文

●演奏指南
「モーリスさん、紹介します。夫のウィルシス。そして又従兄のセルシウスよ」
「よろしくお願いします」
 一日目、アルフィエーラ・レーヴェンフルス(ec1358)に二人を紹介されると、モーリスは握手を交わした。
 ギルド前からパリ郊外にある森に向かうとモーリスは楽器を渡される。
「これはジャパンの楽器で三味線といいます‥まずは好きに音を出してみて下さい」
 突然の事に驚くモーリスだが、バチで弾く。森の木陰に澄んだ音が響いた。
 モーリスが適当に弾いていると、アルフィエーラは竪琴を奏でて、ウィルシスが横笛を吹いて合わせる。
 セルシウスはのんびりと聴きながらも、剣を抱えて周囲に気を配っていた。
「どうです? 面白い楽器でしょう。それではちゃんと説明していきますね」
 アルフィエーラはモーリスに三味線の音階や基礎的な弾き方を教え、練習してもらう。午前中はそれですべてが終わった。
「夫のウカが作ったお弁当なの」
「はい。セラの分のお弁当です」
「フィエーラ、もう半分も食べたのか?」
「これはとても美味しい」
 ピクニックのような練習は終わり、午後はパリに戻り、街頭で演奏となる。
「勿論、私や夫も一緒に演奏しますのでご心配なく」
 アルフィエーラが笑顔でモーリスを元気づける。モーリスは緊張気味だ。
 モーリスは既定のフレーズを繰り返し、たまに盛り上げる程度だが、アルフィエーラの歌とウィルシスの横笛のおかげでなんとか形になる。
 立ち止まる人もいて、盛況のうちに街角の演奏会は終わった。
 夜はアルフィエーラの棲家で演奏会となる。
 アルフィエーラの声の調べが室内に響いた。ウィルシスが合わせる。モーリスの横でセルシウスもくつろいでいた。
 最後はラテン語によるウィルシスが作曲した歌だという。タイトルは『故郷』だ。


「♪森よ 我が命育みし母なる土地よ
 緑よ 我が里包みし優しきその色

 朝露が暁の光浴びる時
 木漏日が天の光降ろす時
 夕闇が光閉ざして星呼ぶ時
 月光が星々の光と瞬く時

 我は忘れぬ故郷の 光が告げる数多の光景
 我は伝える故郷を 未だ見ぬ土地の人々へ♪」


「いい歌ですね‥‥。それに、新しい事へチャレンジさせてもらい、ありがとうございます」
 歌を聴き終わり、閉じていた目を開いたモーリスは礼をいう。遅くならないうちにモーリスはアルフィエーラの棲家を後にするのだった。

●部屋の模様替え
 二日目、モーリスはシルヴィア・ベルルスコーニ(ea6480)がパリで一時的に借りている棲家を訪ねる。
 シルヴィアはダンスを教えているようなので、模様替えをしたいそうなのだ。
「スランプね‥‥私にもそんな時期があったわ。あ、それは一旦外に出してね」
 シルヴィアは家具を運ぶモーリスの近くで腕を組んでうんうんと頷く。モーリスは汗をかきながらシルヴィアのいう通りにする。
 家具を出し終わると綺麗に隅々まで掃除をして、何枚か傷んだ板などを張り替えた。重たい物以外ならシルヴィアも出来るので二人で作業を行う。
「さすがよね。私だけじゃ何時終わるか分からないから、ちょうど人手が欲しかったところだったの」
「ふー、疲れ‥‥た」
 シルヴィアが飛んでいる側でモーリスは座り込む。
「大丈夫よ、この経験は将来生きるわ」
 見事に綺麗になった部屋をシルヴィアはぐるっと飛んで一周した。
「それでは夕食作りもやってもらおうかしら?」
「わっ‥わかりました。ちょっと買い物に行って来ます」
「あー、少し休憩してからでいいわ」
 疲れで呼吸が乱れたままのモーリスの服を引っ張ってシルヴィアは止める。水をカップに入れて持ってきてあげた。
「ブリウ師匠の所でやってたので、人並み程度の食事は作れます。ちょっとだけ期待してて下さい」
 休憩の後、モーリスはシルヴィアにそういって買い物に出かける。
 夕食が出来上がり、二人はテーブルについた。
「美味しい♪」
 シルヴィアはモーリスの作ってくれた具だくさんのスープが気に入ったようだ。
「ローズさんにも作ってあげるの?」
「いや、ローズがいる時はいつも作ってくれるので‥‥」
「たま〜には作ってあげると喜ぶかも」
 そういえばローズには迷惑ばかりかけているとモーリスはふり返るのだった。

●吟遊詩人の付き人
「ここが吟遊詩人ギルドですか‥‥。入っていいんですか?」
 三日目、モーリスはクリス・ラインハルト(ea2004)に連れられて入り口の前に立つ。
「初日にアルフィエーラさんに楽器の手解き受けたですか?」
「はい」
「なら胸を張って門をくぐれますよ♪」
 モーリスは本当にいいのかわからないまま中に入る。とりあえず誰にも怒られないので良しとした。
「ふむ‥貴族さんの舞踏会とか応援が要る仕事は無しと‥‥」
 クリスが貼られた依頼書を眺める。
 モーリスは物珍しさからキョロキョロと見て回る。見たこともない楽器や、詩が書かれた羊皮紙が飾ってあった。
「ではでは、ボク午前中は歌と楽器のレッスン受けますね。モーリスさん、退屈かもですが見学してて下さい」
 クリスが歌と楽器のレッスンを受けている間、モーリスは部屋の隅でじっと眺めていた。
 すでに身についているはずの技法をクリスが繰り返す。
 クリスは、やり直しが効かない仕事だから普段の修練が欠かせないといっていた。モーリスにはよくわからないが、古い歌や新しい演奏技法も習っているようだ。
「繰り返し、繰り返し‥‥。絵と同じだな」
 モーリスは師匠のブリウとのやり取りを思いだす。ブリウは簡単にやってのけるが、どうしてもうまく出来ない技もあった。
 午前でレッスンは終わる。
「これからの時間は気心の知れた店で『流しの歌姫』で稼ぐです☆」
 午後になるとクリスは酒場や食堂を巡るという。
「モーリスさん、荷物持ちお願いできますか?」
 モーリスはクリスの荷物を抱えてパリを歩く。一軒一軒回り、クリスは歌や曲を紡いだ。
 付き人をやっていたはずのモーリスが棒立ちになる。
「あ‥モーリスさん、おヒネリの回収忘れないで下さいね♪」
「すっすみません!」
 突然、笑顔のクリスを意識したモーリスは慌てて帽子を持って酒場を回った。思わずクリスの歌声に聞き惚れてしまったのだ。
「ボクも未熟ながら、人を見る目を養ったですよ♪ 芸はお客様に磨かれるのです」
 クリスはかつて酒場で経験した事をモーリスに聞かせる。
「すごく当たり前ですけど‥‥日々の鍛錬は大切ですね」
 別れ際、モーリスはすっきりとした表情でクリスに礼をいうのだった。

●弟子がさらに弟子
「‥うーん、なんとなくぱっとしないわねえ」
 四日目、ポーレット・モラン(ea9589)がモーリスを見た第一声がこれであった。ポーレットは飛んでモーリスの回りを一周すると背中を叩く。
「同業者って事で迷ったんだけど〜やっぱり絵の手伝いをしてもらうわね〜。面白いものみせてあげるわぁ」
「よろしくお願いします」
 ポーレットはモーリスに仕事の準備をさせた。
「さっき見ましたけど、変わった道具も入ってますね」
「アタシちゃん、テンペラじゃなくてブォン・フレスコだしぃ。館のお部屋で壁画を描くことになるわ〜」
 モーリスは絵画の道具を背負ってポーレットの後ろをついていった。
 貧民街に少し入ると目的の場所はあった。
「ここはもしかして‥‥」
「‥うふふ、娼館の中にあるの〜。礼拝堂☆」
 モーリスはいろいろと考えたが、聖書にある一文を思いだす。娼婦を責める人々をジーザスが諫める逸話を。
 館に入るとモーリスは女性に腕を引っ張られてる。客と間違えられたらしい。謝りながら振り切って、飛んでゆくポーレットを追いかける。
「テーマは『メシアとマグダラのマリアの改宗』。出来上がった部分を観ればわかるかな」
 礼拝堂とされている部屋の壁面に描きかけの絵があった。すでに五分の四は終わっているようだ。
 マグダラのマリアについては様々な話がある。中には相反する内容もあるのだが、娼婦であるマグダラのマリアが弟子になる場面がモチーフとして使われる事は多い。しかもこの場は娼館である。これ以上のテーマはあり得ないだろう。
 モーリスはポーレットにいわれた通り、下塗りされた壁に上塗りにする物を砂や消石灰などを混ぜて作る。それを今日描く分の範囲だけ壁に塗った。
 しばらくしてある程度乾くの待つ。ポーレットは下絵が描かれた羊皮紙を貼りつけてケガキを始めた。
 今までモーリスは腕の届く範囲を越えた絵は描いた事がない。宗教画家を目指すなら、いつかは覚えなくてはならない描き方である。
 ケガキが終わり、彩色がされてゆく。顔料は水で溶いたものだ。
 上塗りが乾ききる前に描き終えなくてはならない。ポーレットは一心に集中して描いていた。
 やり直しのきかない作業にモーリスは関心した。
「勉強になりました。とても興味深かったです。いつかボクも描ける日が来るといいのですが」
 モーリスはポーレットとの帰り道に礼をいった。

●仕掛け作り
「そこの板を取ってくれ」
 五日目、エイジ・シドリ(eb1875)は屋根に登っていた。モーリスは縄はしごに登って木材を渡す。
 困っていた女性を見かねてエイジは修理をかってでたのだ。道具と材料は揃っていたようで、すぐに始められる。
 用意した材料もあったが、それは後で使う事にした。
「よいしょっと」
 モーリスは焼けてしまった場所を片づける。一部が焼けただけですんだようで、この家の被害は少ないようだ。
「ありがとうございました」
 女性に礼をいわれてエイジとモーリスは別の家も手伝う。合わせて三軒の修復を手伝うと二人はある冒険者の棲家に向かった。
「よろしく☆」
 待っていたのはクリスであった。なんでも火事対策の仕掛けを施すそうだ。
 エイジがロープを取りだしてあちこちに張り巡らせる。モーリスも手伝うが、だんだんと青ざめてゆくクリスに気がつく。
「エイジさんちょっと。クリスさん嫌がっているみたいですよ」
「そうなのか?」
 エイジとモーリスは少し離れてクリスの棲家を眺める。まるで棲家が蜘蛛の巣にかかっているようにロープが張り巡らされていた。
「確かに、これはやりすぎたな」
 防犯に完璧を求めてしまい、外見に気が向かなかった事を反省したエイジは最低限のロープだけを残した。
 ロープが燃えて切れると鳴子が揺れる仕掛けであった。出入り口となる場所には雨水が被って燃えにくくする仕掛けも用意する。
 試しに雨水が溜まる部分に水を運んでロープを切る。見事、鳴子が鳴り、扉付近に降りかかり、うまくいったかのように思えた。
「エイジさん、これ‥‥」
 髪から水を滴らせる、ずぶ濡れのクリスが現れる。裏口を通った時に二個所目の仕掛けが何かの揺れで反応し、栓が抜けて水を被ってしまったようだ。
 雨水を降らす装置は取りやめにし、鳴子を鳴らすのみにする事になる。
 夕方、見送ってくれたクリスに手を振ってエイジとモーリスは帰り道を歩く。
「失敗は恐れてはダメですね。チャレンジ精神こそ大切です」
 モーリスが納得したようなので、エイジは余計な事はいわないでおこうと心の中で呟くのだった。

●のんびり
 六日目、玄間北斗(eb2905)と一緒にモーリスは広場にいた。
「何かする事は?」
「今日はいいのだぁ〜。夕方から始める『お疲れさま会』の用意も終わってるのだ。ほのぼの、のほほ〜〜んと、何も考えずゆっくりとするのだぁ〜」
 玄間は口をむにゃむにゃと波打たせてバタンの草むらに仰向けになる。モーリスも同じように寝転がった。
「こうやっていると、普段気にもとめない音に気がつくのだ」
「そうですね。遠くの子供の声が聞こえる。楽しそうだ」
 玄間とモーリスに、現実と夢の狭間にいるような微睡みの時間が続いた。
「あそこに咲いている小さな花に‥あの雲に‥子供達の笑い声に‥‥、ふと見落しがちな色々な幸せが世の中には溢れているのだ」
「そう思います。焦っているだけではしょうがないですね。そういえば、最初に鶏運びを手伝ってもらった時は嬉しかった。弟子になるとはいえ、絵とは直接関係なくて」
「今、ローズさんはどうしているのだ?」
「ローズは一緒にパリの宿に泊まっています。夜に戻ると、昼間あった事を話してますよ」
「夕方からの『お疲れさま会』にはローズさんにも来て欲しいのだぁ」
「ローズも喜ぶと思います。後で呼んで来ますね」
 玄間とモーリスはしばらくするとパリを散策し始めた。
「のほほん、ほのぼのするのって、やろうと意気込むほど難しいのだぁ〜。自然体になって、自分の心を解き放つのだぁ〜」
「なんだか、剣術かなんかの修行みたいですね」
 二人は大声で笑った。
「そういえばモーリスさんは、ローズさんの絵を今までどれくらい描いたのだ?」
「そうですね。結構たくさん描いてますね。印象に残っているのは初めてローズと出会った雨宿りの時に描いたのと、この間の船上で描いたやつかな」
「その時はどんな気持ちだったのだ?」
 玄間の問いにモーリスは恥ずかしそうに頭をかいた。
「答えなくてもいいのだぁ〜。でもその時の気持ちがとても大切なはずなのだ」
 夕方前に玄間とモーリスは宿に立ち寄る。そしてローズを連れて予約をしておいた酒場に向かうのだった。

●お疲れさま会
「モーリスさん、お疲れさま〜☆」
 クリスの音頭で乾杯をする。玄間がポケットマネーを出しくれたおかげだ。
「がんばりすぎはよくないな」
「整理されたので、とても踊りやすくなったわ」
「壁画はもうすぐ完成になるわぁ♪」
「のほほん、がとってもいいのだぁ」
「三味線はなかなかでしたよ」
「ふふふ。三味線聞いてみたいです☆ モーリスさん、一曲お願いしますです」
 自分たちが何をしたかの報告が、いつの間にかモーリスに演奏をしてもらう方向に向いた。
「へたくそなんで‥‥フォローしてもらえますか?」
 モーリスはアルフィエーラに再び三味線を借りて演奏を始める。クリスが横笛を吹き、アルフィエーラが歌声を披露する。
 さすがクリスとアルフィエーラの腕は達人レベルである。モーリスにぴったりと合わせて演奏が続く。
 それに合わせてシルヴィアが踊る。さらさらとみんなが楽しんでいる様子をポーレットは描いてゆく。
 エイジと玄間はローズと一緒に笑顔で耳を傾ける。
 ポーレットが描いた絵はローズに渡された。
「みなさん、納める絵はどんなのにするか、ついさっき決めました。ローズをモデルにしたマリア様にするつもりです」
 会が終わり、別れ際にモーリスはみんなに報告する。
「これをみなさんに。父がわたしの名前と同じだったからといって、友人からたくさんもらってきたんです」
 冒険者達に手渡されたのは『麗しき薔薇』である。
 モーリスとローズは別れる冒険者一人一人に、深く礼をいうのだった。