【恐怖の大王】 敗北者の足掻き

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月09日〜07月16日

リプレイ公開日:2007年07月18日

●オープニング

 冒険者ギルドはいつものように賑わっていた。
 あなたは掲示板で様々な依頼書を眺める。その中の一枚に傭兵の募集があった。報酬も悪くはない。
「すみません。ちょっとよろしいですか? その依頼に興味ある方にお話があるのです」
 ギルドの受付があなたに声をかけた。カウンターで見かける事もある、確かに冒険者ギルドの職員だ。
 あなたは周囲に人がいない場所に連れてゆかれた。
「実は先程眺めていらっしゃった傭兵募集の貼り紙なのですが、わけありなのです。ギルドが依頼人を調べた所、募集を指示した真の依頼人はアロイスという元貴族です」
 ギルドの受付は説明する。
 つい先頃、領主の顔を持つブランシュ騎士団ラルフ黒分隊長と率いる部下、そして冒険者によってエリファス・ブロリア領が解放された。
 エリファス・ブロリア領はデビルとの関与が明確になって没収されたのである。領主エリファスの側近であったのがアロイスであった。
 アロイスはデビルと繋がりのあるティラン騎士団の一部と共にエリファス領を脱出し、姿を消していた。
 今回の募集はパリ侵攻の為に必要な戦力を集める為に行われたようだ。敵地でこのような募集をするなどと、ギルドの受付は憤慨していた。
「そこでです。何も知らないふりで依頼に入り、アロイスとティラン騎士団の内情を探って欲しいのです。もし荒事になっても、相手は国王に弓引こうする敵ですので、どのようにしても構いません。ただ、ご自身のお体は大切にして下さいね」
 依頼金は責任を持って冒険者ギルドが支払うと約束する。
 あなたはもう一度、依頼書の前に立って悩むのであった。

●今回の参加者

 ea2113 セシル・ディフィール(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb0339 ヤード・ロック(25歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1713 リスティア・バルテス(31歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1850 リンカ・ティニーブルー(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec2838 ブリジット・ラ・フォンテーヌ(25歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ec3112 ナイン・ロッド(33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec3309 ウォルフガング・シュナイダー(27歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ec3311 ミルディアーナ・セイレント(27歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

御神楽 澄華(ea6526

●リプレイ本文

●敗北者の集団
 パリから馬車に乗り、二日かけて夕方に着いた場所は森の中にある廃村であった。
「ここがお前達が寝泊まりする場所だ。訓練で野宿する事もあるから覚悟しておけよ」
 冒険者で構成された第3部隊を指揮するという3番隊長が扉を開ける。何日かはこの空き屋が冒険者達の住まいになるようだ。
 3番隊長が部屋の中央にあるランタンを灯すと去ってゆく。空き家には冒険者達が残された。
「しかし、今回も女性が多くて嬉しいな、と。知ってる顔も多いが」
 ヤード・ロック(eb0339)は並んでいるベットの中で壁際のを確保する。
「あらためて挨拶するね。あたしは白のクレリック、ティアって呼んでね。よろしくね!」
 リスティア・バルテス(ec1713)もベットを確保したが、あまり清潔そうではないので自前の寝袋を取りだした。他の冒険者もそうする者が何人かいるようだ。
「御神楽さんがギルドに探りを入れてくる騎士団を警戒してくれるといってました。私達がいる間は、ギルドから正体がばれることはないと思います」
 ブリジット・ラ・フォンテーヌ(ec2838)は戸の隙間から他の家屋を眺める。光が洩れているのは六軒。このうち五軒は冒険者とは別の方法で集められた傭兵にあてがわれているはず。残る一軒は元貴族のアロイスと隊長となるティラン騎士団が休んでいるはずだ。
「ヤードさんとお酒を持って聞き回るつもりでしたが、今日は止めておきます。まったく面識がないと、相手も警戒するでしょうし」
 セシル・ディフィール(ea2113)は仲間をテーブル周辺に集めて小さな声で話す。
「俺も酒盛りには参加させてもらう。それとなく話を持ちかけよう」
 ウォルフガング・シュナイダー(ec3309)が椅子に座ると軋んだ。
「おい! もう一人追加だ。遅刻したが、たまたまこの近くに向かう馬車に乗せてもらったんだとよ」
 冒険者達は突然に扉が開いて驚く。
 3番隊長がリンカ・ティニーブルー(ec1850)を連れてきたのだ。
「待ってたのです。私の信頼している頼りになるお姉さんなんです」
 セシルがリンカの腕を引っ張って部屋の奥に連れてくる。
 3番隊長が帰った後で全員がほっとした。
「予定より合流がかなり早めだが、理由がある。‥‥屋根があるのはいいが、部屋は一つなのか」
 リンカ・ティニーブルー(ec1850)は困った表情で考える。少しでも男性に触れられるとまずいことがあるからだ。
「リンカ。なにをしている?」
 ヤードの自分の真横にあった家具が動く。リンカが使われていない家具を移動させていたのだ。敷居が出来て男女別々にベットが分かれた。ヤードはとても残念な表情をするが、言葉にはしなかった。
 リンカが調べてきた森の様子を話す。セブンリーグブーツで先回りをして、森の周囲を調べたのだ。馬車で来たというのは嘘である。
 真っ先に逃げ道の検討が慎重にされた。目的の内情調査と合わせて、参加している傭兵達を不安にさせる算段となる。
「ま、適当にやるかな。実力知られてもあれだし‥‥逆に大したことないと思われた方が色々動きやすいだろ」
 ヤードは壁に背を預けて座る。冒険者達は本当の実力を見せるつもりはない。手を抜くつもりだし、装備や持ち物を隠したりしていた。一人を除いて。
「こんなの見つけたわ」
 リスティアがベットの下から新品のテントを発見した。
「ティア、これをもらってもいいか? 考えてきた作戦がある」
 リンカの言葉にリスティアがテントを譲った。
 見張りの順番を決めて、今日の所は早めに休む冒険者達であった。

●訓練
「ただいまから訓練を開始する! ここでよい成績を修めたものは仕官への道がひらかれる事となる。がんばってほしい」
 三日目の朝、岩の上に立った四十歳代の男が、傭兵の前で演説する。
 ギルドの職員が説明してくれた首謀者アロイスの風体そっくりである。
 訓練はとても簡単なもので冒険者達は拍子抜けした。だが、集まった傭兵達にとっては、かなりきついようだ。大した実力の者は見あたらない。
「次!」
 ブリジットは模擬戦で一部隊の六人を勝ち抜く。そこで3番隊長からストップが入った。ブリジットはわざと実力を見せつけて、ティラン騎士団の興味を引くつもりであった。
 目立たなくして隙を見せて調べるのも手だが、実力があれば仲間の中枢にしようと甘言を囁くかも知れない。ブリジットはそこを狙う。
「あんたのお仲間、すごいわ」
 ブリジットに倒された傭兵がリスティアに声をかける。
「ブリジットは私の護衛なのですが、手加減を知らないのです。その護衛のおかげで何度か命拾いをしているのですが‥‥」
 リスティアは傭兵をリカバーで治療してあげる。何とか舌を噛まずに、育ちの良さそうな言葉を選んで話す。
「傷ついた方を癒す事は出来ると思いましたので、ブリジットと従軍させて頂いたのです。駆け出しの身ではございますが宜しくお願い致します」
 リスティアは雇った側が何者かなどを傭兵に聞いてみるが、よく知らないようだ。酒場で呑んでいる時、金で釣られて傭兵になったらしい。
「今の所はいない、と」
 ヤードは隠れてリヴィールエネミーを使うが、敵意を持った者はいない。傭兵達の実力に合わせてヤードは訓練を行った。
「私は異性に触れられると狂化し殺傷沙汰を起すようだ」
 リンカは傭兵達にハーフエルフであるのを明かす。ヤードも自分がハーフエルフであるのを明かしていたが、リスティアは隠していた。
「割が良い仕事に思えたのでね。それに、傭兵は仕事さえきっちりこなせば口煩くないと聞いたしね」
 3番隊長に参加した理由を訊ねられて、リンカは答えるのだった。

●酒
 夕方に訓練は終了し、夜となった。
「さて、昼間見かけた女性がいればいいのだがな。綺麗な姉さんがいれば言うことはなしだな、と。‥‥まあ、期待はしてないが」
「どうでしょう? 力強い方ならいるかも知れませんよ」
「俺は質問に突っ込まれたら笑って誤魔化すつもりだ。ヤード、お前も好みでなければ笑って誤魔化してとんずらするのがよい」
 ヤード、セシル、ウォルフガングは、昼間の訓練のうちに知り合った傭兵が休む家屋へと向かう。
 家屋に入れてもらい、持ってきた酒を呑ませて会話を促した。
「あの岩の上に立って偉そうにしていた野郎は誰なんだ?」
 ウォルフガングは酒に酔わせた後で訊ねてみる。
「あれは、なんか偉い貴族さんらしい‥‥よ」
 寝転がりながら傭兵は話す。ウォルフガングは次々と相手を変えて訊いて回った。
「それは大変だ。俺で役に立つ事があればいってくれ」
 女性の傭兵を見つけたヤードは、ずっと話し続けている。三姉妹で傭兵をやっているそうだ。
 ヤードは三姉妹を試す。アロイスとティラン騎士団に肩入れしているのなら、機嫌が悪くなるであろうエリファス領が没収された事を喜んでみせる。用を足すといって一度外に出て、リヴィールエネミーを使い、すぐに家の中に戻って調べた。
 三姉妹に敵意はなかった。本当にただ雇われただけなのだろう。
「ご一緒させて頂いてる者です。良ければ如何ですか?」
 セシルは傭兵達の聞き手に回ったが、時々質問もされる。
「参加したのは力試しがしたかったからです。どうぞ。カップが空いてますよ」
 セシルは笑顔で答えた。
「そういえば、お金は頂きました? 前金すら頂いてなくて少々心配なのです」
 セシルは嘘の質問をする。傭兵はもらったと答えるが、他人の事でも不審に繋がるはずだ。
 三人はしばらく傭兵達の家屋で酒を呑みながら話し続けるのだった。

 リンカは幹部達がいる家屋に近づこうとしていた。見張りの者を避けながら周囲を調べてゆく。
 今もそうだが、昼間も夜間も誰かしらがいて進入できない。リンカが他の仲間と予定より早めに合流したのはそのせいである。
 物色するのなら逃げだす直前しかないとリンカは考えていた。今はその為の下調べである。
 ブリジット、リスティアは離れた位置で監視を行う。誰かが来たら小石を投げてリンカに知らせる約束だ。
 無事に下調べが終わり、リンカとブリジット、リスティアは家屋へと戻る。
「夜空を見たか?」
 ヤードがセシル、ウォルフガングと戻ると流星を話題にした。常に流星が落ち続ける夜空はとても不気味である。
「何の前触れだろう」
 冒険者達は外に出てしばし夜空を見上げるのであった。

●脱出
 四日目は昨日と大した違いのない訓練で終わる。
 夜になると酒を手にして傭兵の所を回る冒険者三人は、昨日とは別の家屋へと入る。しかし、大した情報は手に入らなかった。
 五日目になると、廃村を離れての行軍の訓練となった。
 ほとんどが歩きに費やされる訓練は、夕方には終わる。
 夜空の下、いくつかのたき火が森の木々を照らした。
「そうなのですか? それは是非に」
 ブリジットは幹部達に呼ばれて話を聞かされる。実力を買われて、部隊の一つを任せたいとの誘いであった。
 一番偉ぶっていた者がアロイスである事、隊長と呼ばれる六人がティラン騎士団である事も告白される。
「パリは今大混乱です。住民だけでなく王宮も酷い有様のようです」
 ブリジットが嘘の情報を幹部に流す。
 セシルは傭兵達に不安を振りまいていた。
「‥‥もしかしたらこんな噂を知っている私達も危ないかも知れなくて‥」
 何者かがこの傭兵集団を狙っているとの内容をセシルは話す。
「お姉さん達のテントは、どれかな、と」
「やだ。聞いてどうするつもり?」
 ヤードは三日目の夜に知り合った三姉妹の所にいた。
「これで平気です」
 リスティアは昼間怪我した傭兵をリカバーで直してあげる。
「小耳に挟んだのです。依頼主は悪魔崇拝者かも知れないという話しを。私達の部隊は目をつけられてしまったみたいなのです」
 リスティアはこの場にいないリンカに頼まれた噂を流していた。

 リンカは一人、野営場所を離れて誰もいなくなった幹部が使っていた家屋に忍び込んだ。まだしばらくこの森で訓練を行うのだから、荷物は残してあると踏んだのだ。
 あれだけ厳重にされていたのに、だれてきたのか不用心にも誰もいない。行軍に気を取られたのだろう。
 家屋の中にはたくさんの物が転がっていた。エリファス・ブロリア領の紋章、それ以外にも作戦計画について書かれた羊皮紙がある。
 盗むのは簡単だが、それではアロイスとティラン騎士団に感づかれる。仲間と逃げる予定なので元々疑われる要素はあるのだが、それでも偽装はすべきである。
 流星と星明かりの下で、急いで作戦計画を写してゆくリンカであった。

 六日目の朝日が昇る一時間程前に冒険者達の脱出が計られた。
 ヤードは脱出直前に三姉妹のいるテントに行く。勘違いされながらも、『金に見合った仕事ではない。騙されているから逃げろ』といい残して立ち去った。
 リンカが仲間と一緒にテントを壊す。最後の仕上げに捕まえてあった野鳥の血を振りまいておく。
 セブンリーグブーツなどを持っている者は履いて準備を整えてある。冒険者達は脱出を開始した。
「止まれ!」
 脱出を開始して30分後、森の中で誰かが声をかけてくる。
 ヤードはバイブレーションセンサーで探った。どうやら15メートル程先に一人いる。
 声の主が近づいてきて星明かりに照らされた。冒険者達を指揮していた3番隊長である。
「逃亡するつもりか! 許さんぞ!」
 3番隊長と冒険者達がしばらく会話する。どうやら探っていたことがばれて監視されていたのではなく、ただの偶然で発見されたようだ。
「お前達にはまだわからないのだろうが、我々には成そうとする崇高な目的がある。今なら戻れば許そう!」
「ティラン騎士団とアロイス‥‥。すでに負けているのに、気がつかないように自分をも騙している愚か者ですね」
 3番隊長にセシルが返事をする。
「なぜに正体を知っている!」
 3番隊長は剣を掲げて冒険者達に向かってきた。
 ウォルフガングは斧二刀流、ブリジットは忍者刀を手にして始末をつける。今までの訓練で隊長格の実力も知っていた。正直に言って兵を束ねるだけの実力も人徳もない。
 デビルが行ったように見せかける為に、近くの岩に血文字を書いておく。
「怪我はない?」
 リスティアが訊ねると、ウォルフガングが少しだけ怪我をしたと答える。リカバーで即座に治してあげて、再び歩き始めた。
 森を出て、約束していた場所に向かうと、冒険者ギルドの馬車が待機してくれていた。
 すぐに乗り込んで発車する。
 みんなが落ち着いた気分を取り戻した時、朝日が昇り始めた。
 朝焼けをしばらく観た後で、戸を閉めて馬車内を暗くする。疲れた者はとりあえずの休息をとるのであった。

 七日前の夕方前にパリの冒険者ギルドに馬車は到着した。
 資料の写しをギルド員に渡して、どのような事があったのか一人ずつ報告を行った。
「羊皮紙がこれだけの量だと金額がかさむでしょう。立て替えられた分は、用立てさせて頂きます。それとは別に少しですが、みなさんにお礼金を差し上げます。ありがとうございました」
 ギルドの職員は感謝しながら冒険者達に礼金を渡した。
 元貴族であるアロイスが何をしでかそうとしているのか、冒険者達は気になった。ギルドの職員は、近々また頼むかも知れないと、冒険者達に言い残すのであった。