●リプレイ本文
●相談
一日目、冒険者ギルドの個室に、今回の依頼に関わる者達が集まっていた。
依頼を受けた冒険者の他に、依頼者であるマホーニ助祭、そして初日のみのデュランダル・アウローラとスズカ・アークライトの姿がある。
「教会まで行こうと思っていたけど、一度ここに集まるのね。ちょうどいいわ」
スズカが柊静夜(eb8942)の隣りに立つ。
「誰か、イギリス語の話せる人はいない?」
スズカのゲルマン語の問いにイギリス語で多数の返事がある。静夜はゲルマン語が話せないので仲間同士の時はイギリス語でお願いしたいそうだ。
「ご迷惑をお掛けいたしますが、宜しくお願い致しますね」
静夜はイギリス語で挨拶しながら、ジャパン式にお辞儀をする。
「私もゲルマン語は話せないのですが、市民とは年の功と笑顔で乗り切ってみたいと思います」
シフールのソムグル・レイツェーン(eb1035)がイギリス語で挨拶をした。
冒険者同士の会話はイギリス語で交わされる事が決まる。
「んじゃ宜しくお願いね〜」
スズカは立ち去り、デュランダルが椅子から立ち上がった。
「ラヴェリテ教団について、知っている情報を伝えよう」
デュランダルの説明によれば、指導者の名はエドガ、崇拝しているデビルは悪魔の騎士アビゴールだ。細かな部分も話し、問題の戦力についてが説明される。
今まで活動してきたのは、教徒とティラン騎士団、オーガ族、そしてデビルはアビゴールを除けば主にグレムリンである。
「その中のどれか、もしくは複数が考えられるのですね」
エルディン・アトワイト(ec0290)は真剣な面もちである。
「クレリックですので、自然に潜り込めると思います。国の危機とデビルの脅威に対し、何かお手伝いしたいと申しでて深く潜入致しましょう」
エルディンはコクリと頷いた。
「私は旅の芸術家として教会を訪ねます。スケッチをして祭壇とその周辺を描きましょう。怪しまれないように他の個所も描かないといけませんね」
リディエール・アンティロープ(eb5977)の言葉に、マホーニ助祭が羊皮紙代を後で支払うので立て替えておいて欲しいと頼んだ。
「それと、こちらは教会からのせめてもの品です。必要なら役に立てて下さい」
マホーニ助祭が冒険者四人にソルフの実を二つずつ渡す。
冒険者四人は時間を空けてパリ近郊にある『ミュゲ教会』に向かった。
一人目はクレリックそのままのエルディン。
二人目はパリの混乱に巻き込まれ、言葉の壁で迷子になったシフール飛脚に扮したソムグル。
三人目は旅の芸術家で宗教美術に興味があるリディエール。
四人目は宿が焼け、泊まる場所がなくなったジャパンからの旅人、静夜。
別々に入るが、全員が同じ大部屋となった。冒険者四人を含めて、二十名の者の雑魚寝である。ほとんどが火災に焼けだされた被害者だという。
夜間に徘徊するのは、何も知らない状況ではとても難しい。すべては明日からだと、冒険者達は早めに就寝するのだった。
●下調べ
二日目になり、冒険者達はそれぞれに行動を開始した。
「国の一大事に、ここで人々のお世話できるなら本望です」
エルディンは笑顔でミュゲ教会の者達と一緒に行動する。洗濯物が溜まっているというので、さっそく始めた。
井戸で水を汲んでタライで洗濯物を足踏みをする。
一緒にやってくれるミュゲ教会の助祭二人とエルディンは話した。ラテン語はちゃんと話せるし、聖書の文章になぞらえた会話にもついてこれる。
(「とてもデビルの隠れ家とは思えませんが、答えを出すのにはまだ早いですね‥‥」)
エルディンは心の中で呟くと、ミュゲ教会の手伝いを続けるのであった。
静夜はミュゲ教会内を歩き回る。
どうやら教会として建てられたものではなく、何からの古い建物を改修したようだ。
(「この方はどうでしょう」)
静夜はミュゲ教会関係者を見つけるとわざとジャパン語で話しかけた。言葉が通じなくても人となりや殺気は感じられる。
おかしな反応があれば仲間に知らせるつもりである。
その他にも礼拝広場の様子や、収容している避難者を見張っている者はいないかなどを調べる静夜であった。
いろいろとやる事を考えてきたリディエールであったが、まずは礼拝広場のスケッチを始めた。
(「あれですか」)
絵の中心は祭壇。
祭壇の裏に目的の羊皮紙の束があるはずだ。しかし邪魔な武装した見張り二人が立っていた。
約二時間ごとに見張りは交代する。ローブを着ていたが、その筋肉質な体つきは祈りを捧げ続ける聖職者を連想させない。神聖騎士であるかも知れないのだが、リディエールは違和感を持った。
広間にずっといて疑われないようにミュゲ教会の庭に出る。リディエールはミュゲ教会の外見もスケッチするのであった。
ソムグルはミュゲ教会内を飛び回っていた。
怪我をした避難者を見つけるとエルディンとリディエールが教えてくれた庭に生えていた薬草を使い、手当を行う。
何人かを手当するとミュゲ教会の者にも伝わったようで、飛び回る事に怪訝そうな顔をする者はいなくなった。
「少し休む前にお祈りさせて貰ってもいいですか?」
ソムグルはイギリス語で見張りの者に声をかけてから祭壇で祈りを捧げる。ラテン語なら見張りの者と会話できるはずだが、クレリックであるのを隠しているので使わない。
なるべくゆっくりと行動して祭壇近くを眺める。
袋小路になっていて、祭壇裏を探している間に見つかったのなら、閉じこめられる可能性が高い。しかし、見上げれば天井に小窓があった。
羊皮紙の束が持てる重さなら、飛んで逃げる事が可能だ。
祈りを捧げて祭壇前を立ち去った後でも、ソムグルは何度も頭の中で羊皮紙の束入手のシミュレーションを行うのだった。
夜になり、冒険者達は互いに得た情報を小声で伝えあう。
リディエールは聖なる釘をちらりと見せながら、いざという時には使うつもりだと語った。
冒険者達は気を引き締めるのであった。
●疑いから事実
「おかしなミュゲ教会の方を見つけました」
三日目、静夜は行動中の仲間に伝える。夜にお互いの情報交換をする事になっていたのだが、あまりに変な印象を感じたからだ。
ソムグルがデティクトアンデットを使い、静夜がおかしいと感じた小柄な司祭を調べる。
「人の姿をしていますが‥‥人ではありません」
ソムグルは場所を移動してから、同行していた静夜に話す。さっそくエルディンとリディエールにも教える。
四人はデビルのグレムリンが司祭に化けていると考えた。もちろんアンデッドなどもあり得るのだが、他の情報も組み合わせて導いた答えだ。
グレムリンらしき司祭は、昨日はこのミュゲ教会にはいなかった。行動からして、外部との連絡役のようである。
緊急に作戦を考えた冒険者達は、まずソムグルに伝言を託す。ちょうどリディエールの描いた絵を届ける予定であった。マホーニ助祭に待機してもらうのだ。
ミュゲ教会の関係者にばれないよう全員がこっそりと外出をした。
リディエールがミュゲ教会の門を監視し、グレムリンらしき司祭を待ち伏せる。
約二時間後、ミュゲ教会の門からグレムリンらしき司祭が出てゆく。マホーニ助祭はすでに離れた位置で見守っていた。
レジストデビルやグットラックをかけられるだけかけて準備は整った。デュランダルが残した情報によれば、グレムリンは姿を消す事もできるという。そうなれば厄介である。
「相手はまずデビルです。遠慮はいらないでしょう」
エルディンはヘキサグラム・タリスマンが発動した後でその場にいた仲間に呟いた。
リディエールは聖なる釘を使いたいが、グレムリンらしき司祭の動きが想定できない。今は一般市民が周囲にいない状況を選んだ方がいいと考え直した。
静夜が先回りして、グレムリンらしき司祭とすれ違う。その瞬間、後ろ手に背中で隠していた剣を振るう。
「‥‥邪魔はさせません!」
静夜に斬られた勢いで、グレムリンらしき司祭は建物の壁へと叩きつけられる。
リディエールがウォーターボムで追い打ちをかけると、正体を現す。
背に黒い翼をつけた毛むくじゃらのデビル。グレムリンに違いなかった。
ソムグルとエルディンが確実性を増す為にコアギュレイトを二人それぞれに放つ。グレムリンが動けなくなった所で、リディエールがアイスコフィンで凍らした。
マホーニ助祭は、民衆の目にグレムリンが触れないよう冒険者達に手伝ってもらって馬車に載せる。
「これでデビルの関与は、あったといってよいでしょう。ミュゲ教会の上の者だけなのか、すべての者がそうなのかの問題は残っていますが‥‥。羊皮紙の方、よろしくお願いします」
マホーニ助祭は冒険者達に礼をいうと、氷が溶けださないうちに馬車を発車させるのだった。
●作戦実行
四日目、冒険者達はミュゲ教会の様子を観察する。
昨日のグレムリンを捕まえた一件が気づかれていないかどうか心配していたからだ。
何もかわらない様子に冒険者は安心するが、騙しているかも知れない。注意は常に必要だ。
エルディンは立ち入り禁止の区画があるか調べたがなかった。しかしその様な区画が地下にあるとすれば探す手だてがない。
リディエールは見透しの指輪をはめて『デビル』や『放火』という単語をミュゲ教会の関係者に投げかけた。怪訝そうではあったものの、特別な反応はなかった。
夕食を頂き、冒険者達は早めに眠りへとついた。
深夜に目を覚まして行動を開始する。今夜が羊皮紙の束を手に入れる決行の時だ。
冒険者達は昼間に決めていた事がある。
デビルとの関与がはっきりとしたので、避難者を除くミュゲ教会すべての関係者に遠慮はしない合意だ。
「では、私は見張りをさせて頂きます」
静夜は礼拝広場へと繋がる廊下に待機する。
「羊皮紙の束は任せて下さい」
ソムグルは昨日マホーニ司祭に会った時、羊皮紙の束がどれくらいのものなのかを訊いていた。どうやら抱えて空を飛ぶことが出来る重さのようだ。
「それでは」
「そうですね」
エルディンがコアギュレイト、リディエールがアイスコフィンで、二人の見張りを同時に動けなくする。交代したばかりで、次の者が来るにはかなりの余裕があるはずだ。
ソムグルが急いで祭壇裏に飛んでゆき、調べ始める。
静夜は廊下で見張り続ける。
コアギュレイトがかけられた見張りの方にも、リディエールがアイスコフィンをかけた。これで二人とも、探すくらいの時間は氷づけのはずだ。
ソムグルが祭壇裏の高い場所を、エルディン、リディエールが低い場所を探す。どこかに隠し扉があるようなのだが、どこにあるのかわからない。
マホーニ助祭から祭壇裏のどこにあるのかを冒険者達は教えてもらっていたが、条件に当てはまる場所はない。今回のきっかけとなったラヴェリテ教団教徒が嘘をついたのかと疑うが、今は問題にしている暇はなかった。
時間の経つのは早く、一時間が経過した。それでもまだ発見できない。
静夜は暗い廊下の奥にランタンの灯りを見つける。どうやらミュゲ教会の司祭のようだ。
「眠れずに散歩をしていましたら、迷ってしまって」
静夜はジャパン語で司祭に話しかけながら近づく。そしていつでも倒せるように体勢をとる。
リディエールが床に物が動いた跡を発見する。祭壇の一部がずれるようになっていた。
ゆっくりと音がしないように祭壇の一部を動かす。
穴があり、エルディンが奥に手を伸ばすと何かが指先に触る。引き出すとそれは羊皮紙の束であった。
「みなさん、ご無事で」
ソムグルが天井へと舞い上がる。そして小窓を開けて外へと飛んでいった。
リディエールとエルディンは廊下の方角から大きな物音を聞いた。
「発見されました! 急いで!」
静夜の言葉に二人は廊下に向かう。そして静夜が倒した司祭を飛び越えて走った。
後方からたくさんの者達が追ってくる。
一旦立ち止まり、リディエールはウォーターボムを放って追っ手の気を削ぐ。エルディンは一番先頭の者をコアギュレイトで動けなくして障害物にした。
静夜は前方に立ちふさがったミュゲ教会の者を叩き伏せた。
冒険者三人は、あらかじめ調べて置いた脱出ルートでミュゲ教会の外に出る。最後に出入り口となる扉をリディエールはアイスコフィンで凍らせた。
「乗って下さい!」
馬車が土煙をあげながら現れる。馬車の扉が開いてマホーニ助祭が姿を現す。ソムグルも一緒だ。
全員が馬車に乗り、御者の手綱がしなる。冒険者達は遠ざかるミュゲ教会が視界から消えるまで、見つめ続けていた。
●続きある終わり
五日目、冒険者達はマホーニ助祭が所属する教会にいた。
脱出に成功した後で、一緒にやってきたのである。しばらく眠ったので、今はもう夕方だ。
「見つけて頂いた羊皮紙の束は確かに隠れ家が記されたものです。この情報を使って憲兵が動けば、かなりの悪魔崇拝者を捕まえる事ができるでしょう」
マホーニ助祭はあらためて冒険者達に礼をいう。
「最初に渡したソルフの実はよろしかったらお持ちになって下さい。残念ながら‥‥、まだデビルは画策しているようなので、どこかで必要になるやも知れません」
マホーニ助祭は少し表情に陰りをみせた。
「パリ近郊のミュゲ教会は慎重にですが、断罪する事になりましょう。もし、よろしければその時はお力を貸して下さい。よろしくお願いします」
マホーニ助祭に見送られて冒険者達はミュゲ教会を立ち去る。
「パリもなかなかに大変な様ですね」
静夜は憂いだ瞳でパリの街並みを眺める。
「うまくいって良かったです。デビルの情報があったおかげです」
ソムグルはデュランダルを脳裏に浮かべて感謝する。
「描いた絵も資料として喜んで頂けたようです。しかしまだパリは危ないと仰ってましたね‥‥」
リディエールはまるで女性のように首を傾げた。
「あれほどしっかりとした教会がデビルに加担しているなんて。クレリックとしては少々複雑です。しかし悪は許せません」
エルディンは神への祈りを捧げた。
ギルドで報告を行い、冒険者達は笑顔で別れるのであった。