新たなる村跡の住人 〜デュカス〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 93 C
参加人数:6人
サポート参加人数:5人
冒険期間:07月10日〜07月17日
リプレイ公開日:2007年07月18日
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●オープニング
パリへ行商に訪れていた青年デュカスと青年ワンバは宿に泊まっていた。
今回の行商で初めてデュカスとワンバは六月最後に起きたパリの火災を知る。
かつて冒険者であったデュカスは、共に戦った仲間がどうしているかが気になっていた。
廊下へ繋がる扉からノックが聞こえる。
デュカスが扉を開くと、シルヴァの姿があった。デュカスが復興させようとしている村の用水路を石工のシルヴァが冒険者と共に直してくれた事がある。
「ギルドで冒険者に訊いたら、この宿に泊まると教えてくれた。突然押し掛けて悪いが、話を聞いてくれないか?」
シルヴァを部屋にむかい入れたデュカスはワンバと共に話を聞いた。
シルヴァの友人である富豪アロワイヨーがパリ近くの森に集落を持っている。現在、集落にはパリからの避難者がたくさんいるという。
「中にはパリでの生活に疲れて、戻るつもりのない避難者もいるんだ。もし、よければなんだが、デュカスが復興させようとしている村に連れて行ってくれないか?」
シルヴァの申し出はデュカス達にとっても願ったりであった。これからどうやって村跡に人を集めようか考えていた所である。
シルヴァの話を聞いていくうちにワンバがある問題に気がつく。
馬車の車輪の調子が悪く、村跡までデュカスとワンバはだましだまし帰るつもりであった。無理をしても追加で乗せられるのは二人が限界。村跡に戻ればデュカスの弟フェルナールが車輪と軸の交換をしてくれるのだが。
シルヴァによれば、連れて行って欲しい避難者は20人いた。火事による混乱のせいで、馬車を借りる事は難しい。
「家族が厄に巻き込まれないかを心配し、早くパリを離れたいようなんだ。俺も手伝うのでお願いしたい」
いろいろとかかるであろう金はシルヴァの友人のアロワイヨーが用意してくれるので心配ないそうだ。
「その、アロワイヨーさんからは馬車は借りられないのですか?」
「それが、王宮からの要請で御者と一緒に貸しだされて、一両もないそうだ‥‥。何かいい方法は‥‥」
三人が黙って考え込む。
「ルーアンなら馬車を借りられるのでないですかい?」
ワンバが手を叩いて提案した。
デュカス達の村跡はルーアンから馬車で一日弱の場所にある。パリからルーアンまでセーヌ川を下る帆船で一日半かかるので、足すと片道二日半だ。
馬車をルーアンで借りる手間を考えるとさらに時間がかかるはずだが、それでも名案である。
いつもは馬車で二日かけて直接パリに来ているデュカス達であった。
「船の手配は俺の方でなんとかしよう。パリの火災を知らずに寄港する帆船も今ならあるはず。怪我している人も混ざっているので、世話してもらう人達がいると安心だし、ルーアンでの馬車の手配もあるので冒険者ギルドに頼んでこよう」
シルヴァが話をまとめた。
「これから本格的に集落、そして村にしていこうとしていた所です。こちらも助かります。シフール便で村跡に残っているフェルナールには受け入れの準備をさせておきますので」
デュカスはワンバと共にシルヴァを見送った。
●リプレイ本文
●船着き場
一日目、船着き場の一角は賑やかであった。
デュカス達の村跡に移住する者達20名、そして冒険者達、デュカス、ワンバ、シルヴァの姿がある。
「そうです。ここから、このような筋で水路が流れております」
柊冬霞(ec0037)がデュカスと一緒にヴィメリアへ話しかける。
ヴィメリアは家族に一枚ずつ地図があった方がいいと元地図を描いていた。すぐに描きあげて手渡すつもりである。
「よいしょっと。さて俺も焼き菓子を配るかな」
オルフォークは移住者の荷物を船室まで運んであげると、船着き場に戻る。すでにアリアが渡してあった焼き菓子を移住者の子供達にあげていた。
「‥‥済まないね。つまらないだろう?」
シフールのアリアは、喜んで焼き菓子を食べる子供達の前で鍛冶の話をしたが受けなかった。羽根を弱々しく動かすアリアを、落ち込ませた子供達が慰める。オルフォークもやって来て二人でしばし子供達の相手をした。
「手分けして治療しましょう」
「それがいいな。終わったらそのまま船へと誘導しよう」
ワルキュリア・ブルークリスタル(ea7983)と李風龍は移住者の中に怪我をしたままの者がいると聞いて、さっそくリカバーで治療に当たった。深刻な怪我の者はおらず、すぐに全員が元気になる。
ワルキュリアは火傷をしていた者に、もしまた同じ目にあった時の為に応急処置の仕方を教えた。
「騎士のアイシャ・オルテンシアです。宜しくお願いしますね」
「アイシャさん、御者してくれるって聞いたよ。とっても助かる。一両はボクが手綱を持つつもりだ」
アイシャ・オルテンシア(ec2418)にデュカスはルーアンからの一両を任せる。三両の馬車を用意するつもりだが、最後の一両はワルキュリアに任せるつもりのようだ。
「はじめまして、よろしくお願いします。護衛は任せて頂きましょう」
李雷龍(ea2756)は両手を合わせてデュカス達に挨拶をする。
「頼もしいね。よろしく頼む」
デュカスと雷龍は握手をする。
「今回は大仕事だぁね。ま、宜しくぅ〜。デュカス、冒険者を心配してるって聞いたけど、心配しなくても、そこまで災厄の被害はないさ」
「そうなんですか? ならよかった」
レシーア・アルティアス(eb9782)は船に子供を乗せて戻るとデュカスに話しかける。
「馬車は何両借りればいいのかね? ルーアンに着いたら任せておくれ」
レシーアの問いにデュカスが三両と答えた。
デュカスも移住者の手伝いをしていると、シルヴァがすまなそうなに声をかけた。
「悪いが俺は家族の事があってパリから離れられない。これがアロワイヨーから預かった資金だ」
「そんなことありません。ご家族を大切に」
シルヴァとデュカスは別れの挨拶を交わした。
「先にワンバさんと向かってフェルナール君をこき‥いや手伝ってもらって、受け入れの準備をしておくわ」
スズカ・アークライト(eb8113)はワンバと一緒に現れた。馬車に負担がかからない程度にパリで日用品を買いそろえて向かうという。
「たまにはワンバさんと一緒にいきましょう〜」
スズカはワンバと一緒に馬車へ乗ってパリの街へと消えていった。
「あの馬車についてきますわ。何か邪魔するモンがおらへんか注意しとくで。ほなまたな」
シフールのイフェリアは飛んで馬車についてゆく。ワンバに訊いたら先行して道の安全を調べるのだろう。
帆船はお昼頃、すべての準備を終えてパリを出航するのだった。
「冬霞と申します。皆様、移住を決心して頂きましてありがとうございました」
冬霞は主に甲板に集まっていた移住者に声をかけて回った。あらかじめ伝えられる村跡の様子を伝える意味もある。
「皆様の生活がよりよき物になりますよう、お手伝いさせて下さいね。あっ、旦那様」
「冬霞、何をしているんだい?」
デュカスも現れて一緒に挨拶をする。
「ねえ、父ちゃんがお兄ちゃんのとこまで行くっていってたよ。なんてとこなの?」
子供に訊ねられてデュカスは言葉に詰まる。よく考えてみれば村跡として呼んでいなかった。焼ける以前には村の名前はあったのだが、関わりのあるのはデュカスとフェルナールしかいない。間接的にはワンバもであるが。
「あたしもそう思っていた所さ〜」
船縁に寄りかかっていたレシーアがデュカスと子供の会話を聞いて声をかけてきた。
「確かにいつまでも村跡じゃいけない。もう少しだけ待ってくれるか?」
デュカスは新たな名前をつけると、子供とレシーアに約束をした。
「こんにちは」
「こんにちは〜」
ワルキュリアは子供達に笑顔で挨拶をする。
「みなさん、ちゃんとしてますね」
子供達はちゃんと返事をしたので、ワルキュリアは褒めてあげた。
「ご挨拶は色々とありますけれど、皆さんは全部きちんと出来ますか?」
船旅は一日半に及ぶのでワルキュリアはなるべく子供達の世話をするつもりであった。新しく人が集まるのだから、最初はどうしてもぎくしゃくする。子供達同士でもそうである。挨拶によってなるべく互いの壁を低くしようとワルキュリアは考えていた。
「こんにちは」
「おはようございます」
「初めまして」
「ありがとう」
「ごめんなさい」
「さようなら」
「おやすみなさい」
ワルキュリアの言葉を子供達がなぞってゆく。
「しふしふ〜♪」
「えっ?」
「『しふしふ』はパリのシフール冒険者の中で流行っている挨拶です」
「そうなんだ〜」
ワルキュリアは冗談を入れてみるのだった。
●馬車
「貴方も大変よね〜。裏方に回る事も多そうだし。村の方は最近どう?」
スズカは馬車に揺られながら隣りで御者をするワンバに話しかける。
「ヤギを二頭、飼い始めた所ですわ。ただ、今回ので全然足りなくなるよってに、どうしようかと思ってますわ。まあ、これから賑やかなるのやから、がんばらないといけませんな」
ワンバは笑顔で話していたが、どこか寂しそうだとスズカは感じた。
「あまり乗り気ではないの? 移住者が増えるのは?」
「そんな事あらしまへん。‥‥まいったなあ。そんな瞳で見んでくださいや。そな、話しますけど、内緒にしておいてもらえますやろか?」
スズカは約束する。ワンバはゆっくりと話し始めた。
ワンバはガルイが旅立つと墓を作ったそうだ。誰も中にいない墓は亡くなった恋人のものだ。
生前の恋人は、デュカスの故郷と同じ村に住んでいた。つまり焼けてしまう前の村だ。盗賊集団コズミに恋人が殺され、ワンバは裏切り者となって今に続く。
「ガルイもおいらも元コズミ。あてつけのようで今まで墓は作れなかったんでさあ。だが、そんな想いも新しい移住者によって風化しよる。なんせ、まったく関係ない方々が暮らし始めるやさかい。それがちょっとだけ寂しかっただけですわ」
ワンバが空笑いをして話は終わった。
●ルーアン
一行を乗せた帆船は二日目の夕方にルーアンへ入港した。
ひとまず宿で一晩を過ごす事となる。借りた宿は小さく、貸し切り状態だ。
昨晩の夜空にはたくさんの流星が現れていた。子供達は喜んでいたが、大人達は嫌な予感を感じる。
二日目の夜空でもたくさんの流星が落ちてゆくのだった。
三日目となり、馬車探しが始まる。
「私、今日の所は途中までのルートを調べてきます〜」
アイシャは愛馬アーシャに跨り、村跡までの道のりを調べにいった。
レシーアはルーアンに繰りだして馬車探しを始めた。
いくつかの業者と交渉を試みるが、馬車はどれも貸し出し済みだ。考える事は誰も同じようでパリでの需要がルーアンまで波及していた。
「まだちゃんとした話にはなってないなら、こっちに融通して欲しいねぇ。御者もいらないし」
「そうはいってもねえ。初めてのお客さんに馬車三両を貸しだすってのは、ためらうもんさ」
レシーアは予定の入っていない馬車を所有する運搬業者を見つけた。
「補償金もかなり多めに出すし。それにこんないい男が、小さな事にこだわっちゃいけないよ。な〜んとかしてくれると、うれし〜んだけどねぇ?」
レシーアは運送業者の男の頬を撫でる。色仕掛けも、これ以上はするつもりのないレシーアだ。
「決まったよ。もう夕方だし、明日出発かねぇ」
レシーアが通りがかった冬霞に話しかける。丸一日かかったが、馬車は用意出来た。
レシーアと冬霞は、みんなが待つ宿へと帰ってゆくのだった。
●村跡へ
四日目の朝早くに三両の馬車に分かれて一行は出発した。
デュカス、アイシャ、ワルキュリアがそれぞれの御者をする。
「ここが腕の見せ所ですね」
アイシャの馬車が先頭を走って道順を決める。昨日道のりの半分まで調べたので快適に進む。
「ここから一キロの場所にでこぼこがあります。少し道を外れて右に軽く迂回した方が良さそうです」
雷龍は韋駄天の草履で先行してお昼頃に馬車群へ合流する。
村跡までの後半の進路を調べてくれたのだ。アイシャと雷龍のおかげで、ルーアンから村跡までの地形の状態や、盗賊などの危険が把握できた。一つのトラブルもなく、すべてが順調だ。
「ほれ、あれがデュカス夫妻」
レシーアが子供達に話しかけ、御者台に座る二人を指さす。
「いつもあーして仲がいいので、みんな困っているのさ〜」
「れっレシーア様!」
レシーアに茶化されて冬霞が真っ赤な顔でふり返った。デュカスは手綱を持ちながら大笑いをしていた。
「そういえば、今回も『あの鍋』は作るのかい?」
「カオス鍋はお預け。折角復興しそうなのを一発で壊滅させるのはまずいしね〜ぃ」
デュカスの問いかけに答えるとレシーアも笑うのであった。
「兄さん、お帰りなさい」
夕方前に村跡に到着すると、フェルナールが迎えてくれた。陸路で来たスズカとワンバの姿もある。
移住者に家屋が譲られる。ちゃんと掃除されていた。
「スズカさんに、こきつか‥‥! モゴモゴ」
「なっなんでもないわ。そうでしょ? フェルナール君。人が増えるんだから、だらしなくしちゃ駄目よ〜っていっただけよね?」
フェルナールはスズカに口を塞がれていた。前にもあったような光景だが、そのまま、フェルナールはどこかに連れて行かれた。
「仲がよいのですね。フェルナール様とスズカ様は」
冬霞は見上げるようにデュカスへ微笑んだ。
「お疲れ様ですー。どうです?」
アイシャは一人になったスズカを見つけて状況を訊く。
「これで今まで建てた家も全部埋まるようね。私達はデュカス達の所に寝泊まりすることになるわ。楽しいからいいけどね」
「そうですね。ここはいいです。なんだか落ち着きます」
スズカにアイシャは笑顔で答えるのだった。
「この先が麦畑になります。あと一ヶ月ちょっとで収穫になるでしょう」
五日目になり、デュカスは移住者の大人達に村跡を案内していた。ほとんどは畑だが、食料はもっとも重要な問題である。
近くに森があり、そこで薪なども手に入る。水路はちゃんと機能していた。
「さて、美味しいものを作りましょう」
冬霞は歓迎の夕食作りにがんばっていた。新しい移住者の女性達も手伝ってくれる。
レシーアは畑仕事を手伝う。万が一にも冬霞を手伝い、カオスの片鱗が料理に現れてはいけないと思ったからだ。
「帰りにデュカスから野菜を少し買っていこうかな‥‥」
レシーアは料理の練習をするつもりだった。
「こっ子供はどこでも元気よね」
「ほんと‥‥です」
「ここまで‥‥疲れたのは久しぶりです‥‥」
スズカ、ワルキュリア、雷龍は子供達と遊んでいた。あまりの元気のよさに倒れそうになっていた。
体力は大人の冒険者三人の方があるのだが、子供達は小回りがきくので、振り回されている感じである。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんたち、あの木までかけっこだよ」
子供達が三人の腕を引っ張り、スタート地点へと連れてゆく。
「よ〜い。ドン!」
よろけながら走る冒険者三人であった。
日が落ちて夕食の時間となる。外での会食が始まった。
ワンバとフェルナールが獲ってきた狩猟肉も並び、かなり豪華である。
前にも使われた鉄板で様々な食材が焼かれてゆく。
「そうだ。発表がある」
みんなが食事を終えた頃、デュカスは全員に話しかけた。
「この村跡の名前はボクが決めさせてもらった。本当なら集落と呼んだ方がいいかも知れないけど、将来大きくする意味を込めて村と名乗りたい。ずっと続くと意味で『エテルネル村』でどうだろうか?」
デュカスの意見に異論はなかった。最後にはみんなの拍手で包まれる。
「デュカス村長、これからも頑張ってね」
スズカが何気なくデュカスを村長と呼んだ。ついでにその点もはっきりさせようとなり、全員の意見がまとまる。ここに正式にデュカスが村長だと決まった。
会食が終わり、片づけ始めたデュカスを冬霞とスズカが掴まえて引っ張ってゆく。時間が少しでもあると、デュカスが畑仕事に出かけるのを二人は知っていた。
「あなたはこっちでお・や・す・み・なさい!」
スズカはデュカスに強くいい含めると片づけに戻る。
「旦那様、スズカ様のいう通りです。どうかご無理をなさらぬよう‥‥このように言うのは久しぶりですね」
冬霞はデュカスの側に残った。
「戦っていた頃か‥‥。大して時間は経っていないはずなのに、大昔のような気がする」
夜空には絶えず流星が落ちてゆく。この世の終わりのような景色の下で、新たな村が始まるのはとても皮肉だとデュカスは思った。
「冬霞、人はいつ死ぬのかわからない。今、この瞬間かも知れないし、はるか先の事かも知れない。ただ、精一杯生きてみよう」
「もちろんです‥‥。ですが、私は旦那様の傍でお手伝いが出来ればそれで幸せですから、ご無理をなさらないように」
デュカスに冬霞は寄り添った。
●パリへ
六日目の朝、フェルナールの手によって直された馬車で、冒険者達はパリへの帰路についた。御者はデュカスである。
ついでに行商もするので、出来る限りの野菜や薪が載せられていた。
「レシーアさんから、お金を頂くわけにはいきませんよ」
デュカスは野菜を売って欲しいというレシーアからのお金を受け取らない。
「‥‥わかりました。それでは、今回は頂かないということで。次からパリで行商している時はちゃんと受け取ります。それでいいですか?」
デュカスの案にレシーアも頷いた。
ルーアンで借りた馬車は、後でエテルネル村の村民で返しに行くので心配はいらないそうだ。
七日目の夕方にパリへと到着する。
デュカスは行商をしてからエテルネル村に戻るという。時間がある仲間はデュカスの行商を手伝ってから、ギルドに報告しに行くのだった。