●リプレイ本文
●積み
冒険者ギルドの裏手に人が集まっていた。
「侍の鳳双樹です。宜しくお願い致します」
鳳双樹(eb8121)は猫の空を邪魔にならないよう人が乗る馬車内に放つと挨拶をした。
「よろしく、シーナ、ゾフィー。周りも見知った顔が多くて安心するわ。みんなよろしく」
シュネー・エーデルハイト(eb8175)はシーナとゾフィーを見ないまま挨拶をして、グリフォンのシュテルンを邪魔にならない場所へと移動させる。
「シーナ殿とゾフィー殿には刺身でお世話になりました。助太刀します」
エルディン・アトワイト(ec0290)は丁寧に挨拶をする。道中、自分が唯一の男なので張り切っていた。
「海、楽しかったです。積み降ろし、がんばります」
挨拶をすると、エフェリアは背中の荷物を馬車内に置く。他の冒険者も背中の荷物と余分な物を馬車の中に置いた。
これから始まるのは、羊皮紙に書かれた大量の資料を二両の馬車に積む作業だからだ。
「みなさんよろしくお願いします」
「よろしくです‥‥」
ゾフィーとシーナが挨拶する。シーナが伏し目がちなのを冒険者達は気にかける。
資料を積む作業は開始された。一枚一枚は大した事がない重さの羊皮紙だが、束になった途端に重量を感じさせる。
「もう一人、いつも明るい冒険者も来るはずだけど‥‥?」
ゾフィーが資料を抱えながら辺りを見回すと、遠くからやってくるエルフがいた。
「リアです〜♪ 皆様がんばりましょ〜」
リア・エンデ(eb7706)は遅れても素知らぬ顔で積む作業に混ざった。
リアが遅れたのには理由がある。
王宮前まで行き、ゾフィーとかなりいい仲のブランシュ騎士団黒分隊隊員レウリーに会いにいったのだ。しかし奥歯にものが挟まったような話し方をする衛兵によれば、黒分隊は王宮にはいないようだ。一緒に来て欲しかったリアだが、がっかりする。ゾフィーが心配するといけないので、一切話すつもりはなかった。
もう一人、初日のみだがセイル・ファーストが積むのを手伝ってくれた。少しでも人手が欲しいので大助かりである。
「向こうに着いたときの方が人数少ないが頑張れよ」
セイルは次々と木箱を運んでくれながら、降ろす時の事まで心配してくれた。
午後を少し過ぎた頃、二両の馬車は資料が入った布袋や木箱で一杯になる。汗びっしょりに疲れた冒険者達は、急いで水浴びをして出発するのだった。
馬車に乗っている間はほとんどの者は休んでいた。
エフェリア・シドリ(ec1862)は窓から外を眺めながら、近寄る馬車などに注意をする。
三両の馬車にはそれぞれに御者がいるので、移動には何も問題はなかった。
すぐに日は暮れて、野宿の用意が始まる。
近くに人家はなく、小さな森があったのでその近くで一晩を過ごす事になる。
「これだけあれば‥‥」
エフェリアはたき火用の落ち木と一緒に小枝もたくさん拾っておいた。そして小枝を周囲に撒いておく。何者かが近づいて踏めば音がする。兄から教わった知恵であった。
テントはゾフィーと鳳がそれぞれ四人用を、エフェリアが二人用を用意していた。馬車内でも眠れるし、御者三人の事を考えても寝床には困らないですむ。
「シーナ殿、お腹は空いてないのですか?」
エルディンはシーナの食が進んでいないこと驚く。あの食いしん坊のシーナがいくら保存食とはいえ、食べ残すなど考えられない。しかも力仕事をした後なのに。
「ちょっと‥‥食欲がないのでず」
シーナの返事にシュネーを除く全員が驚いた。ゾフィーがシーナの額に掌を当てて熱を計るが平熱のようである。
理由をゾフィーが訊ねると、不吉な流星のせいでパリ、そしてノルマン王国の行く末が気になって仕方がないそうだ。それに今回の旅も何者かに襲われないか心配でもある。
「はう〜、この国が滅亡したですか〜? 大変なのです〜」
「そんな事ないわ。とりあえずまだね」
リアが勘違いをすると、隣りにいたシュネーが否定する。
「はう? まだ滅亡してないですか? みんなで頑張ればきっと預言の通りにはならないのですよ〜。私もみんなが勇気をもてるように歌うのです〜♪」
リアはさっそく鈴の音でリズムをとりながら歌を唄った。リアがファル君と呼ぶフェアリーが歌に合わせて踊りだす。
「大丈夫ですよ。余り心配しないで下さいね。私達を信じてください。また美味しいお肉を食べましょう。お刺身もいいですね。エスカルゴは‥‥ゾフィーさんのいない時にでも」
「お肉の友よ〜」
鳳の笑顔にシーナはポロリと涙を流した。
「流星? きれいじゃありませんか。体が濡れない雨みたいなものです」
エルディンがシーナの隣りに座って空を見上げた。幾筋もの流星が地上に落ちてゆく。
「安心してください。何者かが襲ってきても、私のコアギュレイトはすごいですよ」
エルディンは魔法を唱える真似をした。
「ありがとうです〜」
シーナは差しだされたエルディンの手と握手をする。
夜は更けてきて見張りを残して眠りの時間になる。
シーナとゾフィーも見張りをするというが、冒険者は任せて欲しいといって止めた。
二組に分かれて、順番で見張りを行う。
まずはシュネーとリアの番である。
たき火を絶やさずにシュネーとリアは背中を合わせて、いつも全体を眺められるようにする。
シュネーの側には猫のヴィオと、今まで空を飛んでついてきたグリフォンのシュテルンがいる。
「ん?」
「はう〜。大変なのですよ〜」
シュネーとリアは物音に気がつく。リアは急いで仲間を起こそうとするが、シュネーが服を掴んで止める。
よく確認すると一匹の野犬が紛れ込んできただけであった。追っ払うだけでお終いだ。
「はう、サウンドワード使えばすぐにわかったのです〜。ファル君には使ってもらうつもりだったのに忘れてたです〜」
リアは涙目になった。
もう一組と交代するが、最初の夜は野犬以外の出来事は起こらなかった。
●怪しい者
「み〜ちは〜つ〜ずくよ〜♪」
二日目の道中、リアは元気に唄う。セブンリーグブーツを忘れて馬車と一緒に歩けないが、気にせずに馬車内で唄う。ファル君はリアの肩の上で身体を左右に揺らす。
窓の戸全部を大きく開けて、馬車内は明るい。
「昨日はありがとです〜♪ シーナには似合わないですね。落ち込むのは」
元気が出たシーナがみんなにお礼をいう。
「でも書類が盗まれたのなら大変なのです。なので、みなさんよろしくなのです」
「書類を奪われた時の責任? そんなもの考える必要ないわ」
シーナの言葉に外を眺めるシュネーが答える。
「何でです?」
「この世にいない者に責任の取りようなんてないでしょう?」
シーナはシュネーの返事に青ざめる。鳳は怯えるシーナを慰めた。
「昔からみんなで頑張ればハッピーエンドになるって決まってるのですよ〜♪」
リアもシーナを歌で元気づける。
馬車が三両並んで走っていると目立つ。しかもギルド所有の馬車はそれなりに立派な仕様だ。
先を急ごうと抜こうとした馬が速度を遅くして馬車内を覗こうとした。
「こんにちは」
「ああ、こんにちは」
エルディンが笑顔で挨拶をすると馬上の男も返してきた。すぐに馬は馬車を抜き去ってゆく。
「今の怪しい感じでした」
「そうね。感じたわ」
エルディンとシュネーが抜き去った男について、仲間に伝える。資料を載せた馬車二両はすべて窓戸が閉められているが、かえって怪しまれた可能性がある。それにパリで長く積む作業をしていたのだから、運んでいる情報が流れてもおかしくはなかった。
夕方になり、野営の準備を行う。
エフェリアは昨日より多くの小枝を集めてくる。嫌な予感がしたからだ。
(「おつかれさまです。太鼓の音、平気ですか?」)
エフェリアは馬車を引っ張ってくれる馬達と会話する。仲間の愛馬の他にギルドの馬もいた。
(「昨日から一緒の人達以外が近づいたら、啼いて教えてもらえますか?」)
エフェリアのお願いに馬達は啼いてOKを出すと、近くの草を食べ始めた。
「ここ‥人気ないわね‥襲うには絶好の場所ね‥」
シュネーの言葉に再びシーナが青ざめる。
「もう、シュネーったら」
鳳は再びシーナを慰めた。
夜になり、見張りの時間になった。
昨日と同じくシュネー、リア組が行い、真夜中に鳳、エフェリア、エルディン組と交代になる。
リアのペットであるフェアリーのファル君はエフェリアに預けられ、スピネットと鳳に預けられた。鳳は自分の猫の空と合わせて二匹と一緒である。
「さっき音がしました。小枝」
エフェリアが仲間に小声で話す。どうやら野営をする周囲に何名かの部外者がいるようだ。馬達にテレパシーを送り、もしもの時には驚かないように頼んだ。
そしてファル君ともオーラテレパスで話す。ファル君がサウンドワードで調べた所によれば、三人の男が小枝を踏む音が聞こえたそうだ。エフェリアは仲間にも伝える。いつでも叩けるように太鼓も用意した。
「昼間の男と仲間ですかね」
エルディンは遠くの闇を見つめる。いつでもコアギュレイトが使えるように心構えを怠らない。
(「誰か知らない人が近寄ってきたら教えてね」)
鳳はオーラテレパスで空とスピネットに話しかけた。
朝まで姿が見えない者達への警戒は続く。朝になり、全員が起きて出発するのだった。
三日目の夕方に馬車三両は目的の町に到着した。
真っ先に教会に向かい、司教と挨拶をする。
残念ながら、これから今日中にすべての資料を教会内に運ぶのは無理である。明日からの作業になるが、馬車を納屋に停めておくとしても、昨晩の事を考えると不安だ。
「今夜も見張りをするとしましょうか?」
エルディンの意見に仲間は賛成した。教会が夕食を用意してくれるというので、順番でお世話になった。
真夜中、物音がして見張りをしていたシュネーとリアが身構える。
今度こそはとリアはサウンドワードを使った。
「きっと、シーナ様とゾフィー様です〜」
リアのいうとおり、やって来たのはシーナとゾフィーであった。
「ありがとう。まさか教会でも見張りが必要になるなんて」
シーナとゾフィーは二人でお礼をいった。
「これぐらいなんでもないわ。それにしても、この町には人が多いわね、どさくさに紛れて後‥‥モゴモゴッ」
「はうっ、雪ちゃんストップ! シーナ様、な、なんでもないですよ〜♪」
シュネーがまた何かを言いかけたのでリアが後ろから両手で塞いだ。きっとシーナを不安がらせる事を言おうとしたのだろう。
しばらくシーナとゾフィーは納屋にいて二人と話した。そして教会内に帰るのであった。
●資料
四日目、冒険者達は朝から資料を馬車から教会内に運んだ。
教会の手が空いた助祭も手伝ってくれるが、なかなかに大変であった。全員で役割を分担して布袋や木箱に入った資料を運ぶ。
積む時より時間がかかり、夜になってやっと運び終わる。
冒険者達は教会で汗を流し、食事を頂く。
丸一日かかったが、これで大半の仕事は終わった。これから見張りをする必要もなくなる。冒険者達はゆっくりと教会のベットで休むのであった。
●帰路
朝早くに馬車に乗り、一行はパリに向かって出発した。
「もう少しよく見たかったです」
エフェリアは教会に想いを残す。古い建物でとても興味があったのだが、忙しくて見て回れなかった。
一晩の野営をして翌日の六日目のなったばかりの夜にパリへと到着した。馬車でそのまま冒険者ギルド前に乗り付ける。
「みなさんありがとです〜」
「とても助かったわ。ありがとう。これ、わずかだけど受け取ってね」
シーナとゾフィーは冒険者達にギルドからの追加謝礼金を渡した。
「なんだかパリの様子がおかしいけど、負けないです〜。またみんなでラ・ソーユや釣りをやりましょう〜♪」
みんなに話しかけた後、シーナは夜空の流星を見据えた。
「あっ‥‥」
シーナはもう一度みんなに視線を戻す。
「レウリーさんとゾフィー先輩の事もお願いしますです。ずっとクールにしていましたが、先輩、レウリーさんの事、心配だったのです〜」
「し、シーナ、内緒っていったじゃない!」
シーナにゾフィーが真っ赤な顔をして抗議した。レウリーとゾフィーは、まだ恋人という程の仲ではないようだ。
ギルドへの報告はシーナとゾフィーが同行していたので必要ない。そのまま解散となった。
「うまく運べてよかったですよ〜♪」
「シーナを冗談で気を紛らわせてあげようと思っていたのに、怖がったのはなぜかしら?」
「無事、運び終えました。戦いにも備えていましたが、使う機会がなくてよかったといえるでしょう」
「星が‥‥降っています」
「依頼が成功してよかったです。シーナさんも元気になったし」
冒険者達は途中まで一緒に歩きながら話すのであった。