栄光の一歩 〜アーレアン〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:1〜5lv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 62 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月15日〜07月19日
リプレイ公開日:2007年07月20日
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●オープニング
「アーレアン、待ちなさい!」
家の外で、二十歳の女性、イレフール・コカントは四つ離れた弟アーレアン・コカントを呼び止める。
「姉ちゃん、またな。たまには帰ってくるから!」
しかしアーレアンはペットのロバと一緒に丘の向こうに消えてゆく。
「あら、ついに出ていってしまったのかい?」
用事があった訪ねてきた近所のおばさんがイレフールに話しかける。
「冒険者なるって、大魔法使いになるといって出ていっちゃいました。ただ単に羊飼いが嫌になっただけのはずなのに」
イレフールはため息をつく。
「いいじゃないか。若い時はそんな時もあるもんさ。仕事はあんたでもなんとかなるんだし。元々大して働かない穀潰しだったろ」
おばさんはケタケタと笑った。
「おばさんったら」
イレフールは腕を組んでアーレアンが消えた丘を見つめる。
「大丈夫なのかしら‥‥」
イレフールはパリへと向かった弟を心配するのだった。
「俺にぴったりの、こ〜、派手なかっこいい依頼ってないのか?」
数日後、パリに着いた足で冒険者ギルドを訪れたアーレアンは登録を済ませると、さっそく依頼を受付に訊ねる。
「あー、あっちの掲示板に貼られているんで、勝手に見てくれよ」
男の受付が面倒くさそうに、肩肘をついて掲示板を指さした。どうやら臨時で受付をさせられているのが不満らしい。
「そういわずにさ。ギルドに入ったとき見てみたんだが、目移りしちゃってよくわからないんだ。ここはバシッと長年の経験と知恵で教えてくれ」
心の中ではムッとしていたアーレアンだが、栄光の一歩となる最初の依頼で失敗するわけにはいかない。若造といった感じの受付の男性に頼み込む。
「あんた、初心者だろ? 特別に教えてやるよ。これなんかどうだい?」
受付の男性が一枚の依頼書をアーレアンに見せようとする。その時、後ろから現れた受付の女性が男性の襟首を掴んでカウンターから強制排除させる。
「おほほほほっ」
受付の女性の手を口に当てて笑って誤魔化す。
「教育がなってませんで、どうもすみません。後できつくいっておきますから」
受付の女性がアーレアンに謝る。
「初めての依頼のようですね? 少々お待ちを」
「あっ、これでいいや」
アーレアンはカウンターに置きっぱなしになっていた依頼書を読む。さっきの受付の男性が見せようとしたものだ。
「本当にそれでよろしいので?」
「ああ、よろしく頼むよ」
アーレアンが入ったのは、夜道の旅人を襲うゴブリン退治の依頼であった。
出没する道近くにある村の宿屋が共同で依頼を出したようだ。最近やって来る客が激減していて大変らしい。
アーレアンが依頼を終えてギルドを後にすると、建物の目立たない場所で煙草を吸う者がいた。さっきの受付の男性だ。
「よお。さっきのあれ、入ったよ」
受付の男性が驚く。まさか声をかけられるとは思わなかったらしい。それからしばらくアーレアンと受付の男性は話をする。受付の男性は部署を変えられてやさぐれていたそうだ。
「ハンスというんだ。よろしくな」
「アーレアンだ。こちらこそ」
仲良くなった二人は握手して別れる。互いに栄光を掴もうと約束して。
●リプレイ本文
●一歩
晴れた空の下、パリの外れに冒険者達は集まった。
馬を持っている者に頼んで、荷物を運んでもらう者もいる。背中に担いでいる荷物をペットに載せかえる者もいた。
「さあ〜て、いこうか」
アーレアンがふり返り様に元気よく歩きだすと、木の幹にぶつかる。アーレアンのロバが主人の横でいななく。舞い上がっていたアーレアンは照れ笑いをする。
「あっ、ありがと‥‥」
アーレアンは壬護蒼樹(ea8341)が差しだしてくれた手を握って立ち上がる。
「初めての依頼なんです。ぶきっちょなりに頑張りますので、よろしくお願いします」
「あっ、俺も初めて。よろしくな」
大柄なジャイアントである壬護がアーレアンににこりと笑った。
「ひとっ飛びして、依頼人である村の宿屋の代表者におうてくるわ。被害状況とか依頼書ではわからんとこあったやろ? 大体の出没地点で落ち合おうや。またな〜」
ジュエル・ランド(ec2472)はバックパックの物をすべて愛馬に載せる。そして二頭の愛馬を壬護に任せて、弧を描きながら大空に飛んでいった。
「さすがはシフールじゃの。細かい事はジュエルに任せようかの」
青柳燕(eb1165)が左手で目の上にひさしを作って遠ざかってゆくジュエルを眺めた。
リフィカ・レーヴェンフルス(ec1752)も前もって依頼者に会うつもりであったが、ジュエルに任せる事にする。そうすればかなりの時間節約になるからだ。
用意も出来たのでみんなで歩いて目的地へ向かう事となる。
「そうそう、初めての依頼についてじゃが‥‥わしゃ、屋根裏部屋のキノコ退治ぢゃったのぉ。派手でも華やかでもなかったが、まぁ楽しかったぞい」
青柳は愛馬の手綱を引きながら歩く。その後ろをボーダーコリーの閃がトコトコとついてきていた。
「そんな依頼もあるのか? 冒険者ギルドってのはなんでもありなんだな」
アーレアンはパリに戻ったら、次こそ自分で依頼を吟味しようと決める。
「遺跡研究をしている、学者のリフィカ・レーヴェンフルスだ。よろしく」
リフィカに求められてアーレアンは握手をする。
「学者さんがどうしてゴブリン退治に?」
「ちょっと物いりなのさ。あとは、後学の為といったところだな」
リフィカはおおらかに笑った。
●目的地
冒険者四人は夕方前に目的の場所にたどり着く。
道行く人や馬車は、もうすぐ日が暮れるのを知っているようで、足早に通り過ぎてゆく。道の片側は一キロほど森に面していた。きっとこの森からゴブリンが現れるのであろう。
「いたいた。もう少し奥にいった辺りにゴブリン二匹が現れるようやで」
ジュエルが合流して五人になり、場所を移動する。
夜までには時間がない。全員で手分けして野営の準備と罠作りが開始された。
まずは全員で落ち枝や細い倒木を集めた。その中からちょうどいい大きさのものを選び、リフィカが鳴子もどきを作る。
仲間の釣り糸やロープを使い、野営場所を囲むように張り巡らす。鳴子もどきも取り付けて罠は出来上がる。
馬を始めとするペットを中央に繋ぎ、周囲にテント、その回りに罠が張られてあった。
余った木材は野営のたき火用だ。ただし通常はゴブリンをおびき寄せる為に、特別な出来事がない限り、たき火はしない。
「あっしまった!」
アーレアンは油は持ってきたのにランタンを忘れてきた。せめて役に立って欲しいと、作戦でランタンを使う予定のジュエルに油を一つあげた。
「そうそう言い忘れておったが、魔法は心強いが、わしらを巻き込まんようにの」
見張りを始める前に青柳がアーレアンに忠告する。魔法というのは制限が多いが、その分発動した時の威力が大きいものが多い。無闇に使えば、逆に味方が傷つく事もあり得る。
「おー。任しておけ!」
アーレアンは自分の胸を叩く姿を見て青柳は苦笑いを顔をする。悪気はないのだろうが、今一、心配だ。
見張りは前衛から一人、後衛から一人で行われる。なるべく同じ性別の見張りになるように組み合わされた。魔力の回復が必要な者は六時間の休息がとれるように工夫される。
「あれは‥‥」
壬護とリフィカが見張りをしていた時、遠くから雄叫びが聞こえた。
「まずゴブリンのものでしょう」
リフィカが壬護に頷く。
しばらく雄叫びは続いていたが、それ以上の大きな物音はしない。
冒険者達が知る限り、一日目の夜から二日目の朝の間に、森が面する道で襲われる旅人はいなかった。
●ゴブリン
「そういえば、無事ゴブリン退治ができたら、報酬弾むっていっておったで。宿屋の主人が」
二日目の夜、ジュエルが青柳に話しかける。
青柳は愛犬の閃と見張りを行っていた。犬ならば、人が気づかなくても優れた嗅覚でゴブリンを見つけてくれると考えたのだ。
「それはとっても、‥‥ん? どうした閃」
青柳は愛犬の様子が変わった事に気がついた。青柳とジュエルはアイコンタクトをとる。
ジュエルは寝ている全員を静かに起こす。
鳴子もどきの音が鳴った。
ジュエルがテントの中で灯したランタンを手にして飛んでゆく。その後ろを仲間は追いかけていった。
円で囲った野営場所は大した大きさではなく、すぐにゴブリンを発見する。
上空からジュエルが照らしてくれるので、はっきりとゴブリン二匹の姿が見て取れた。
壬護と青柳はそれぞれに一匹ずつ、ゴブリンと視線を合わせる。
「それでは始めようかのぉ」
青柳は背に後衛を配して、ゴブリンに睨みつけながら近づいてゆく。
間合いに入った瞬間、ブラインドアタックで鞘に収めていた刀を抜いて斬りつけた。
「どうぢゃ? ‥‥と言っても見えんかったかの」
怒るゴブリンの斧攻撃を受け止めながら、青柳は呟いた。
「おっと!」
壬護はロングロッドでゴブリンの斧攻撃を受け止める。
その隙にリフィカが昼間に集めておいた小石をスリリングで弾き飛ばす。狙うはゴブリンの足である。
青柳と対峙していたゴブリンは刀傷でやられ、壬護とリフィカが攻撃していたゴブリンは転ばされた所を強打されてふらふらになっていた。
ゴブリンは斧を手にして一見勇ましいが、結構臆病であった。自分達が不利とみるや一斉に逃げだそうとする。
そこを犬の閃が先回りして、ゴブリンの退路を断つ。アーレアンのファイヤーボムが唱えられ、暗闇に現れた火球の中にゴブリン二匹が巻き込まれる。
炎は飛散し、燻っているゴブリンの動きはとても鈍くなった。
青柳が最後の一太刀を振るい、一匹が地にはいつくばる。
壬護がゴブリンの喉元にロングロッドを突き立てて吹き飛び、動かなくなる。
冒険者達は無事に目的をやり遂げるのであった。
●宿屋
三日目、すでに依頼のゴブリン二匹を倒した冒険者達だが、念の為に夕方までの間は周囲のパトロールをする。
夕方になり、近くだとジュエルがいうので、依頼人である村の宿屋の代表者の元を訪ねた。
「ありがとうーございます。昼間道を通ってやってきたお客さんからも聞きましたわ。ゴブリンが退治されていたと」
宿屋の主人は冒険者達の手を両手で握る。そして使用人に持ってこさせたお金を冒険者達に渡す。
「少ないが、報酬の追加だ。ギルドからもらう報酬と合わせてもらってくれ。そうそう、今夜は宿に泊まっていきなさい。明日早く出ればパリには戻れるだろう。隣りの酒場もわしの経営なんだ。いっておくから今夜はタダで食べていっておくれ」
ホクホク顔の宿屋の主人は、共同で依頼を出した同業者に知らせに出ていった。
冒険者達は宿の部屋に荷物を置くと、隣りの酒場へと向かった。
「体も小さいし直接の戦闘じゃ役立たずにしか見えんけどな。戦うだけが冒険者やあれせん。頭を使えば出来る事はナンボでもあるんや」
こぢんまりとした酒場だったが、勝利の宴が始まってジュエルは上機嫌であった。
「そや、あとで詩にでもしておこ」
ジュエルは竪琴を奏でて一曲唄った。
「街道沿いに絵になる景色はあればと思っておったが、なかったの。帰りの道中に見つかれはいいのぢゃが」
青柳はワインを呑みながら、先程宿の窓から眺めた流星を思いだす。数日前から流星の数が増えているのは知っていたが、尋常ではない数が落ちていた。
妖しい景色に見惚れそうになったが、筆を取る気にはなれなかった青柳である。
「保存食じゃあ動くの問題ないにしろ、お腹空いてたまらないだろ。その体格だと」
アーレアンが壬護にワインを注ぐ。壬護の前に食べ終わった皿が山のように重なっていた。
「役に立てて、安心したせいもあるんです」
壬護は満足そうに膨らんだお腹を叩いた。
「アーレアン君と少し話がしたい」
リフィカに呼ばれてアーレアンは椅子ごと近づいた。
「なんです?」
「何、ちょっと気になってね」
リフィカは笑顔で訊ねる。なぜアーレアンに冒険者になったのかを。
アーレアンは魔法使いであった亡くなった父親と同じ道を歩みたかったと答える。付け加えて母のように育ててくれた姉に恩返しがしたいという。
「羊飼いをしていれば、そりゃ苦しいながらも生活はできただろうさ。でも、そこから抜け出すのは容易じゃない。姉ちゃんも年頃なのに、俺なんかがいたら寄ってきた男とも一緒になれやしないしな」
アーレアンは喉を潤すようにワインを呑んだ。リフィカは思っていたより、アーレアンが考えて行動しているのを知る。
「大切なモノを見失わないようにな。それまで当り前にあると思っていたモノが、実は何にも代え難いモノだと気付く時が来る。私の場合は家族の理解を得て、学者として冒険者としての人生に初めて意味を見出せたと思う」
リフィカは少し喋り過ぎたと感じて口を閉じる。
「何、好きな事をし続ける人生を送るオッサンの戯言さ」
最後は笑って話しを締めくくったリフィカであった。
●帰り道
冒険者一行は歩いてパリへの帰路についた。
途中、ゴブリンを倒した近くの道を通り過ぎる。たくさんの人々が行き交っていた。倒したゴブリン二匹以外は見つからなかったので、しばらくは安全な道となるだろう。
「いいなあ。自分たちの仕事のおかげで、みんなが安心するっていうのは。冒険者になってよかったよ」
アーレアンがロバの手綱を引きながらすれ違う人をニコニコと眺める。
「その気持ちをいつまでも持ち続けるのを祈っとるぞい。名を上げる、強さを極めることを目標にするモンは、強さのみを追求し他を疎かにしてしまうことがあるでの」
青柳の回りを愛犬の閃が元気よく走り回っていた。
「ちょっとお願いするわ」
ジュエルが壬護の肩の上に乗る。
「いいですね‥‥」
壬護が耳元でやさしく奏でられるジュエルの竪琴を聴いて呟く。
竪琴の音は風に乗り、静かな大空へと広がる。
夕方には無事に冒険者達はパリへと到着する。報告を終えるとアーレアンが一人のギルド員を仲間の前に連れてくる。
「こいつ、ハンスっていうんだ。俺共々よろしくな」
アーレアンは紹介を終えると、元気よく別れの挨拶をしてギルドを飛びだしてゆくのだった。