海賊になる日 〜トレランツ運送社〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 47 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月19日〜07月26日
リプレイ公開日:2007年07月26日
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●オープニング
パリから北西、セーヌ川を下ってゆくと『ルーアン』がある。セーヌ川が繋ぐパリと港町ルアーブルの間に位置する大きな町だ。
セーヌ川を使っての輸送により、商業が発展し、同時に工業の発達も目覚ましい。
ルーアンに拠点を置く『トレランツ運送社』もそれらを担う中堅どころの海運会社である。新鮮な食料や加工品、貴重な品などを運ぶのが生業だ。
「たっ大変です! カルメン社長」
トレランツ運送社の男性秘書ゲドゥルが社長室に飛び込んできた。
「どうしたんだい。騒がしいねぇ」
「我が社の輸送帆船が沈みました! しかもお膝元のルーアンでです!」
ゲドゥル秘書の言葉に女性社長カルメンは黒髪を大きく揺らして立ち上がる。
「ルーアンの船着き場に他社帆船が減速せず入港。積み荷を載せ終えた当社貨物帆船の横っ腹に船首から激突。当社貨物帆船は船着き場に押しつけられて真っ二つに大破です」
ゲドゥル秘書の報告を聞くカルメン社長の顔から血の気が失せていった。
「我が社の社員は重傷者を含めて怪我人多数ですが、死者はいません。他社帆船はルーアン内の船会社の所属。衛兵が捕まえた他社船員は五名。さっそく折衝を行ってよろしいでしょうか?」
「その前に我が社の船乗り達の保証を。他はゲドゥルに任せる。その他の情報は?」
「捕まった五人は、誰もが『滅びろ』と狂ったように繰り返しているようです。セイレーンの魅了によるものとかと‥‥」
「つまり、他社のせいにした、あのグラシュー海運の女社長シャラーノの仕業だね‥‥!」
カルメン社長のこめかみが細かく動いた。顔もだんだんと顔に赤みが帯びてきた。
「宣戦布告のつもりかい! だったら受けて立ってやろうじゃないか。決心がついたよ。これから出かけてくるよ」
「どちらにいらっしゃるのですか?」
「事故現場を視察してからそのまま、ヴェルナー領主の城に向かう」
カルメン社長は着替えるとゲドゥル秘書を残し、馬車に乗って出かけるのであった。
夜遅く会社に戻ったカルメン社長は待っていたゲドゥル秘書にワインを用意させた。
「ラルフ領主は不在だったが、今までの調査を報告して、代理の方に許可をもらってきた。グラシュー海運相手に限る一回だけの海賊許可さ」
カルメン社長は二つのカップにワインを注ぎながら話す。ゲドゥル秘書は驚いていた。
「海で捕まったのなら海賊として扱われても文句はいえないが、ヴェルナーの領地に隣接する領主相手なら交渉ぐらいはしてくれるそうだ。もっとも海は誰の領地でもないけどね。セーヌ川を上り、ヴェルナー領内に逃げ込めば全力を持って助けてくれるといっていた」
「それでも、危険ですね‥‥」
「ゲドゥル、パリで依頼を。表向きは帆船の護衛依頼だが、本当はグラシュー海運の船から積み荷を奪う内容だよ。これで完全な証拠を掴んでやるのさ」
カルメン社長とゲドゥル秘書はワインに口をつけた。
「将来にふり返ってみれば、ここが我が社の分岐点になっているかも知れないね‥‥」
カルメン社長は赤いワインを見つめながら呟いた。
●リプレイ本文
●情報
古びた帆船に変装した冒険者達は乗り込む。
船乗り達も変装していたが、アガリ船長以下、今までギルドの依頼に協力した者が多かった。
「待っていたよ。話す時間が欲しくてねぇ。ちょっとパリまで出向いたのさ」
帆船にはカルメン社長が乗っていた。ゲドゥル秘書の姿もある。
カルメン社長とゲドゥル秘書は、冒険者達と挨拶を交わした。
「出発前に少し情報を集めたいので、出航を待って欲しいのだが。シャラーノとはどういった人物なのかだ」
エメラルド・シルフィユ(eb7983)がアガリ船長に相談し始めると、ゲドゥル秘書が近づく。
ゲドゥル秘書はシャラーノの生い立ちを調べたという。三日目の昼頃にルアーブルをグラシュー海運の帆船が出航する。時間がないので、今回はこれで我慢して欲しいとゲドゥル秘書はエメラルドに頼んだ。
今回は冒険者の数も少ないので、ルアーブルで人を降ろすと肝心の積み荷奪取が失敗する可能性が高まる。
エメラルドが納得する。アガリ船長の号令で帆船は出航した。
「それでどんな奴なんだ?」
「まごうことなき『変人』です」
エメラルドの問いに、ゲドゥル秘書は断言する。
父であったブロズ領主は断罪されて処刑される。財産没収、放免された後にグラシュー海運を作り、社長の椅子に収まった。
かつてフランシスカの兄を捕らえていた時期もある。迷信ではあるが、マーメイドの肉による永遠の命より、そのままの美形の姿を選んだ、比類なき美形男性至上主義者。
ここまではすでに知られた事実だ。
噂に過ぎないと断った上で、シャラーノが極度のファザコンであった事も伝える。唯一、シャラーノが心許す美形ではない者が死んだ父親のブロズ領主であった。
母親に関してはシャラーノが七歳の時に病死しているが、病名は不明である。
「自分から父親を奪った王宮への仕返しという線も考えられるのか‥‥」
エメラルドはマストに寄りかかりながら考える。
「この間の武器密輸の書類ですけど、受取人も身元を調べておいたほうがいいのでは?」
コルリス・フェネストラ(eb9459)がカルメン社長に訊ねた。
「すでに調査済みさ。複数の会社が仲介して結果的に今は無きエリファス・ブロリア領に納品されていた。そうやって出所をわからなくしていたって訳だね。問題は仲介した複数の会社なんだが‥‥。今の所、シャラーノとの繋がりが仕事上以外では見えてこない」
カルメン社長は腕を組んでため息をつく。
「今回の計画についてですが――」
護堂熊夫(eb1964)がカルメン社長らに今回の作戦を詳しく訊ねた。
海賊行為は気がすすまない護堂だが、やるからには成功させなければならない。アクセルとフランシスカとはルーアンで合流するそうだ。
冒険者達はいったんばらばらになる。甲板に残る者、船室で休む者など様々だ。
「眼帯はそれらしさを出すかもしれないが‥‥」
ヴェレッタ・レミントン(ec1264)は船底で用意されていた海賊の衣装を確認した。自前の眼帯はいいとして、ちょうどいい大きさを探す。デザインはこの際無視だ。
「成功すれば正当性が証明される。失敗すればお尋ね者だ。まさしく不退転」
ヴェレッタはリンカ・ティニーブルー(ec1850)に話しかけた。リンカも海賊衣装を眺めていた。
リンカは変装を解いて、新たに海賊衣装を自分の身体にあててみる。
帆船に乗り込む際に、変装を持ちかけたのはリンカである。これでグラシュー海運側に事前行動が発覚するのを防げたはずだ。
「間接的にせよ、エリファス・ブロリア領に武器を卸しているとはね。悪魔と繋がりがあるなら、海の魔物と繋がっていてもなんらおかしくは無いだろ?」
「それはどうだろうか。積荷の密輸品、即ち武具を見つけねば話にならん。すべてはそこからだな」
二人は今後について話し続ける。
二日目のお昼頃に帆船はルーアンへ入港した。
「我が社の輸送帆船も各地に待機させてある。船長クラスにだけ、万が一があった時、助けるように知らせてあるよ。期待している」
そう言い残して変装したカルメン社長はゲドゥル秘書と一緒に下船した。入れ替わるように変装した青年アクセルとマーメイドのフランシスカが帆船に乗り込んだ。
すぐに帆船は出航し、海原を目指すのであった。
●海賊
二日目の夜に海へと出た帆船は、近くに船がないのを確認して帆を張り替える。
赤いドクロが描かれた帆と海賊旗が掲げられた。その他、偽装の為に様々な細工が施されて、海賊船が出来上がった。
冒険者達は全員が海賊の姿に着替えていた。頭には布を巻き、潮風で色が抜けかかった身軽そうな衣装。アクセントとして眼帯や靴に気をつかう。顔を完全に隠す為の仮面をつけている者もいた。
ヴェレッタはリンカと器用な船乗りに頼んで、ペガサスキュレイ用の変装馬具も用意してもらってあった。ヴェレッタが何度も頼んでやっとキュレイは変装を受け入れる。気高いペガサスにとってあまり着たくない代物のようだ。
「しばらくは平気でしょう。とにかく明日が一番の問題です」
夜になり、護堂とコルリスはマスト上部の見張り台にいた。
護堂は星が見えない曇りの夜空を眺めた。
「一番やっかいなのは、セイレーンですが‥輸送帆船にも随伴しているんでしょうか」
「もしも歌声が聞こえたら、すぐにフレイムエリベイションを唱えた後メロディで対抗するつもりです」
コルリスと護堂はセイレーン対策を話題にする。
「護堂さんとコルリスさん! 交代します。しばらくは俺達二人で監視しますので」
アクセルとフランシスカがマストの根本で二人を呼んだ。護堂とコルリスは甲板へと降りる。
「再会出来て仲が良くて‥‥。本当によかったです」
護堂はアクセルとフランシスカの姿になぜか安心感を覚える。
潮風の中、アクセルとフランシスカはマストの見張り台に登り、監視をするのだった。
闇の中を炎が弧を描く。
三日目の夜、火が点けられた矢が赤い社章のついた帆に突き刺さった。
間隔をあけて正確に放たれた矢は、帆に火を移した。みるみるうちに燃え上がる。
護堂がテレスコープとエックスレイビジョンを使い、航行するグラシュー海運の帆船を発見し、作戦は開始されのだ。
矢を放つのはコルリスとリンカである。二人でマストの見張り台を陣取り、次々と矢を放ってゆく。矢はトレランツ運送社からもらったもので、関係する依頼に限るが在庫がある限り、使いたい放題だ。
逃げようとするグラシュー帆船を海賊船が追いかける。
「どこだ!」
ヴェレッタがペガサスキュレイに跨り、グラシュー帆船に降り立つ。仲間の援護をもらって、広く開いた窓から操舵士をスタンアタックで気絶させる。
ヴェレッタはグラシュー帆船上空を駆けめぐって船員をかく乱した。そのうちに、仲間の海賊船が追いついて接舷する。
「これで動けなくなるはずです」
近づく際にコルリスが弓からオーラショットに攻撃を変えた。狙うはグラシュー帆船の舵である。
「命、惜しい者は近づかない方がいいぞ」
エメラルドがグラシュー帆船に飛び移り、強い眼光で船員を睨む。襲ってくるグラシュー船員には手荒い攻撃をしておとなしくさせるが、なるべくスタンアタックで気絶させてゆく。
エメラルドとヴェレッタは、グラシュー船員をなぎ払っていった。その後を海賊に変装したトレランツの船乗りがグラシュー船員を縛り上げてゆく。
トレランツの船乗りの背後から、斧を持って近づくグラシュー船員がいた。
飛来した矢が斧を持つ右腕に突き刺さり、グラシュー船員を板壁に縫いつける。斧が落ちる音でトレランツの船乗りも気がつく。
「下手な事するんじゃないよ、死にたく無かったらね」
矢を放ったのはリンカであった。リンカは動けないグラシュー船員に近づいて低い声で恫喝する。
「あたいの弓から逃れられると思ったのかい?」
リンカが矢を引き抜くとグラシュー船員は悲鳴を上げた。
「のおおおおおっ!」
護堂は暴れていたグラシュー船員をスープレックスで黙らせると周囲に気を配る。今の所、セイレーンの歌声は聞こえない。用意してくれた帆にある海賊のマークが赤いおかげかも知れなかった。
トレランツの船乗りによって、グラシュー船員全員が縛り上げられる。
護堂がエックスレイビジョンで、船底にあった隠し倉庫を発見する。トレランツの船乗りによって貨物が海賊船に運ばれた。冒険者達は警戒して周囲の監視を行う。
あらかたの貨物が運び終えた頃、隠し倉庫の奥で一人の女性が発見される。
「密航したのを発見されて、それで閉じこめられていたのです」
甲板に現れたエレンと名乗る女性は、身の上を話し始めた。
フランシスカは海賊船に乗ったまま、グラシューの帆船を眺めていた。ふと女性に目を留める。どこかで会った事があると思いながら。
「そいつはセイレーンです!」
思いだしたフランシスカが叫んだ。以前の依頼で、海に浮かんでいたセイレーンとそっくりだったのである。
エレンと名乗ったセイレーンは、大きく口を開けて牙を剥きだしにし、近くにいたトレランツの船乗りを噛もうとする。
護堂が船乗りをはじき飛ばして噛まれるのを防ぐ。その間にセイレーンは船縁に移動して海へ飛び込んだ。
コルリス、リンカが矢の用意をして構える。
護堂はフレイムエリベイションを唱えた後、メロディを唄う。セイレーンが唄うのに前もって対抗する為だ。
「まさか、海賊に襲われるとはね」
海から顔を覗かせながら、エレンと名乗ったセイレーンは言葉を投げかけた。
「本当に、まあ、こんな事もあるでしょう」
もう一人、海から現れる。エレンと名乗ったセイレーンとそっくりである。
「さんざん儲けさせているのだから、これぐらい大した事はないでしょう。エレサ姉さん」
「そうね。グラシューの方々、シャラーノによろしくね。それから海賊達、今日は見逃してあげるけど、気を付けなさい。いつでもあなた達の側に現れるから‥‥」
コルリスとリンカが矢を放つ。残念ながら、二人のセイレーンが潜った後の海面に突き刺さる矢に手応えは感じられなかった。
冒険者達は海賊船に戻り、グラシュー帆船から離れる。
護堂はレインコントロールで曇りの天候を雨にする。これでわずかに燃えていた部分も消えるはずである。
コルリスによって舵は壊されたが、この海域は多くの船の航路になっている。一人の船員を縛っていた縄にヴェレッタが切れ込みを入れたので、しばらく経てば動けるようになるはずだ。
「フランシスカ、目立つ行為はやめて欲しい。もしシャラーノに存在がばれたら、大変な事になるからな」
「うん。ごめん、アクセル」
心配から出たアクセルの言葉だが、フランシスカは落ち込んだ様子をみせる。
「フランシスカさんのおかげで助かったのです。あのまま正体がわからずに唄われていたら、大変だったでしょう」
護堂がアクセルに聞こえないようにフランシスカに話しかけた。
「でも、アクセルさんが心配しているのはわかってあげて下さいね」
護堂にフランシスカは頷いて微笑んだ。
●パリへ
海賊船はノルマン王国方面から離れてから、帆の張り替えを始めとする偽装を取り外した。元に戻り、乗っていた全員がほっと胸をなで下ろす。
「ヴェルナー領までは気を抜かずに行こう」
ヴェレッタの言葉に仲間は気を引き締めた。
セーヌ川を上る際には、どうしてもルアーブルの間近を通過しなくてはならない。ルアーブルはグラシュー海運の拠点である。
四日目の昼、帆船はアリバイの為にわざと近くの港に入港し、すぐに出航した。そして夕方頃、ルアーブルの側を通り過ぎる。
「静かだ」
ヴェレッタがペガサスキュレイでルアーブル上空を監視した。
何事もなく、帆船はルアーブル周辺を通過し終えた。すでにシャラーノへ情報が渡っていたとしても、海賊と今回の帆船は同一視されていないようだ。
帆船は五日目の昼にルーアンへと帰港した。
完璧を期する為に、帆船は修理用ドックに収納される。ゲドゥル秘書によれば、丁寧に積み荷を検査するという。
冒険者達は別の帆船でパリに送る予定だが、一晩を地上の宿で過ごす事となる。
カルメン社長もゲドゥル秘書と共に宿へ現れて、冒険者達と話し合った。
「シャラーノの素性を調べたい者が多いようだ。まあ、確かに謎が多い人物だからね。少し考えてみるさ。あと、今回奪取してもらった武器を調べた所、銘の消しがあまい剣が数本あった。他にも品物を精査してみるつもりだ」
カルメン社長は冒険者達にお礼をいい、ゲドゥル秘書に追加謝礼金を手渡すよう指示を出した。
六日目の朝、冒険者達は新たな帆船でルーアンを出航する。
七日目の昼頃にパリへと入港した。船着き場は物々しい警戒がひかれていた。
「船着き場の船乗りに聞きましたけど、この警戒態勢は預言によるものらしいです。エリファス・ブロリア領の生き残りも襲うようです」
コルリスがギルドへの道のりの途中で仲間に話しかける。
「シャラーノが運んだ武器を手にして、パリを襲うとする不届き者もいるかも知れないのか」
リンカは遠くにある城壁を見つめた。
「シャラーノの素性から手繰れる何かがあるはずだ。セイレーンとの繋がりも‥‥」
エメラルドはシャラーノとセイレーン姉妹を思いだす。
冒険者達はギルドで報告を終えると、笑顔で別れるのであった。