【幸せの刻】 悪魔崇拝の教会を殲滅せよ

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:5人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月26日〜07月31日

リプレイ公開日:2007年08月03日

●オープニング

 冒険者が入手してくれた羊皮紙の束から得られた情報によって、憲兵が突入した隠れ家はパリ市街全域で21軒に及んだ。
 多くの悪魔崇拝ラヴェリテ教団の一般教徒と、連絡係であったデビルのグレムリンが発見され、捕縛もしくは殲滅された。
 捕まえられた教徒への尋問により、ミュゲ教会の悪魔崇拝への関与は疑う余地のないものになっていたが、ある問題によってまだ手がつけられていなかった。
 問題とは避難者の事である。
 何も知らずに、ミュゲ教会に世話になっている避難者が多数いた。無闇に突入すれば罪のない死傷者が出るはずである。

「冒険者に再び手伝いって頂きたいのです」
 マホーニ助祭は冒険者ギルドを訪れていた。今回は王宮の憲兵隊との共同依頼である。
「ミュゲ教会の制圧をするのに避難者が問題になります。デビルの盾に使われる可能性がとても高い。そこで冒険者には憲兵の突入前に避難者の脱出をお願いしたいのです」
 マホーニ助祭は十字架に握りしめながら受付の女性に話す。
「無事に避難者が脱出できたのなら、憲兵の突入が開始される手筈です。冒険者には、もう一つお願いがあります。ミュゲ教会の司教を生きたまま捕まえて欲しいのです。どのような考えでラヴェリテ教団に手を貸したのかが知りたいと、私が属する教会の願いです」
 マホーニ助祭はうつむいた。そもそもミュゲ教会はジーザス教白教義の教会である。同じ教義のマホーニ助祭にとっても信じられない事実だ。
「デビル侵攻の不穏な噂もあります。侵攻に加担されないよう、一つ一つ解決していくしか道はありません。よろしくお願いします」
 マホーニ助祭は預かった依頼金を受付の女性に渡した。

●今回の参加者

 eb1915 御門 魔諭羅(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3084 アリスティド・メシアン(28歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ec0290 エルディン・アトワイト(34歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec0669 国乃木 めい(62歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

水無月 冷華(ea8284)/ アーシャ・イクティノス(eb6702)/ グリゴーリー・アブラメンコフ(ec3299

●リプレイ本文

●準備
「これを受け取ってくれ。必要になるかも知れないからな」
 ミュゲ教会が望める場所で、教会監視役の憲兵が冒険者達に薬類を渡すと任務に戻っていった。
 パリ近郊にあるミュゲ教会周辺はとても危険な状況である。
 預言によるデビルと悪魔崇拝組織の侵攻が近くで行われているようだ。場合によってはミュゲ教会が中継拠点として使われる可能性もある。少しでも早く壊滅に追いやらなくてはならないが、それには準備が必要であった。
「御門魔諭羅と申します。陰陽師をしておりますわ」
 御門魔諭羅(eb1915)が挨拶をし、仲間全員が挨拶を交わした。
「エルディン、教会の間取りなどを聞かせて頂けるだろうか?」
 アリスティド・メシアン(eb3084)は、ミュゲ教会に潜入した事があるエルディン・アトワイト(ec0290)に訊ねる。
「わかりました。まずは教会内の間取りを、そしてミュゲ教会司教の容姿を教えます」
 エルディンは仲間に知っている限りの事を教えた。
「足を踏み入れられないような怪しい区画はありませんでした。ただ、憲兵から隠し通路や隠し部屋はなかったかと訊かれて、思いだしてみたのですが‥‥。助祭用の大部屋が二個所あって、その場所が離れた位置なのが、変といえば変かなという感じですね。どのみち助祭達の姿が常にあったので、詳しく調べる訳にはいかなかったのですが」
 エルディンに続いて、水無月冷華がデビルについて話してくれる。特にグレムリンを集中的に。
 一日目は準備に費やすのが決められた。
「めい様、お貸しします」
「大切に使わせてもらいますね」
 アニエス・グラン・クリュ(eb2949)は国乃木めい(ec0669)に悪魔学概論を渡した。デビル対策である。
「アリス先生、行って来ます」
「気をつけるんだよ。アニエス」
 アニエスはアリスティドに荷物袋を預ける。そしてフライングブルームに跨り、先に憲兵隊の仮本部に向かう。仮本部はデビル侵攻の対策として作られたのが建前だが、実はミュゲ教会制圧が主目的である。
「特別になるんだ‥‥」
 風を切って飛ぶアニエスには想いがあった。心の中である人物の名を呟く。
 アニエスは王宮憲兵隊長の署名入りの手紙を入手するつもりだ。ミュゲ教会司教及び配下が悪魔崇拝者である事実と避難を要請する内容である。
 アリスティドと御門は話しながら、歩いて仮本部に向かった。
 アリスティドは避難民を運ぶ場所を相談する予定だ。
 御門はその他の関係しそうな場所も訪ね、より多くの情報収集である。
 エルディンはミュゲ教会に面が割れているので、今日の所はペガサスのアイリスと一緒におとなしく遠くからミュゲ教会を監視するつもりであった。
「あれは‥‥」
 エルディンが見上げると、居合わせた知り合いのアーシャ・ペンドラゴンが城壁の上から投げキッスをする。
「明日なんです‥‥。危険な任務は」
 エルディンは恥ずかしそうにしたが、心の中では明日がんばろうと誓った。
 国乃木はユーリというシスターに会いに、ある教会に向かう。ただ教会内で騒動が起きているらしく、炊き出しの件は不発に終わる。
 アニエスは手紙を入手すると、こっそりと上空からミュゲ教会の屋根を調べた。避難者が乗っても耐えられそうだ。敷地内の潜入は適わない。降りるだけならともかく、調べるには不可能な程、警戒が厳重であった。
 その他、冒険者達は明日に必要な準備を行うのであった。

●誘導
 二日目、憲兵達は少し離れた場所に潜んで待機していた。
 冒険者達は昨晩の内にさらに練り込んだ作戦を実行に移す。
「お願いがあって参りました。難民同士の互助を考えていまして、こちらでお世話になられている方々とお話させて頂けませんでしょうか?」
 御門はミュゲ教会の門番をする甲冑姿の二人に話しかける。
「わがミュゲ教会でも現在、様々な事で避難民に手伝って頂いています。お気持ちはわかりますが、この周辺はとても危険で、外出の許可は出せるはずもありません」
 門番は拒否するが、引き下がる訳にはいかなかった。一緒に来た国乃木が続いて話す。
「それならば、御門さんと私が、こちらの教会でボランティアを致しましょう」
 国乃木は門番に食い下がる。さすがに前の依頼で騒ぎがあったので、外部の者を警戒していた。入れてくれないのはわかっていたが、ここは注意をひいて時間稼ぎである。

 御門と国乃木が時間稼ぎをしている頃、アリスティドとアニエスは救出を開始していた。
 アリスティドはベゾムで静かに屋根へ降りる。すでに預かっているアニエスの荷物から縄ばしこを用意しておく。
 アニエスはフライングブルームで敷地の庭に降りて、パラのマントで姿を消した。敷地を巡回する見張りの動きを確認し、タイミングを見計らって戸が開いていた窓から進入した。
 アニエスは先に大部屋に入れた木刀二振りとフライングブルームを手にして、避難者達に小さな声と笑顔で挨拶をした。そして避難者のリーダー格を探しだすと、手紙を渡す。
「ここが? 悪魔崇拝者の巣窟だと?」
 リーダー格の者は文字が読めなかったが、商売をしていたという男が読んで聞かせた。
 リーダー格の男が黙り込む。エルディンがミュゲ教会に属する者達は、表面上、敬虔なジーザス教白教義の聖職者だといっていたのアニエスは思いだした。
 リーダー格の男が悩むのも仕方ないが、仲間が時間稼ぎするのにも限界がある。
「ここを訪れた何名かがいなくなった翌日から、部屋から一歩も出られなくなった。信じてみよう」
 時間はかかったが説得は成功し、アニエスはフライングブルームで浮かんで、天窓を片手で静かに開けた。待機していたアリスティドが縄ばしごをかけてくれる。
 年寄りや病気の者、子供を優先して縄ばしごを登らせる。体力がなくて無理な者は、アニエスがフライングブルームに乗せて屋根まで運んであげた。
 アリスティドはベゾムで屋根まで登った避難者を教会の外まで運ぶ。半数を教会の外に運んだ所で全員が屋根に登り終わる。そこからはアニエスも教会の外まで避難者を運んだ。

「由緒正しき名声高き教会がデビルに加担するとは何事ですか!」
 エルディンはペガサスのアイリスに跨り、空を飛んでわざと目立っていた。
 御門と国乃木の時間稼ぎがきつくなってきての交代である。二人は門番がペガサスに気を取られている間に退散する。
 面が割れているエルディンはミュゲ教会の者からの注目度が高い。屋根から避難者を救出しているアリスティドとアニエスには敵の視線が向かないように注意して大空を飛んだ。
「今日の私は一味違いますよ。愛馬アイリスと共にあなたたちに天罰を下します」
 エルディンは敷地内にある巨木の枝にアイリスと降り、グッドラックをかけた。そして近づく見張りにコアギュレイトを唱える。
(「避難民の脱出成功しましたよ。すぐに憲兵にも伝えます」)
 エルディンはアリスティドからのテレパシーを受け取る。今度は憲兵が接近しやすいように教会の建物の真上で、さらに目立つ行動をとった。
 アニエスは聖なる釘を避難者が待機する場所に打ち込み、祈っていた。避難者全員が範囲に収まるようにもう一本もアリスティドに使って祈ってもらう。
 国乃木はデティクトアンデットを使って周囲を探る。今の所はデビルは見つからない。
 エルディンは頃合いを感じて、ミュゲ教会から離れる。そしてアイリスを離れた場所に待機させた。
 御門が憲兵と一緒にミュゲ教会付近で待機していると、仲間が全員集まった。
 合図の大きな笛の音がして、突入が開始された。
 憲兵隊は四方から一気にミュゲ教会へ攻め込んでゆく。冒険者達は憲兵と共にミュゲ教会に進入し、そして独自行動をとる。
「光の欠片よ、鏃となりてミュゲ教会司教を撃て」
 御門がムーンアローを放つ。一旦は天に向かうがすぐに地中へと吸い込まれる。
「地下ですね」
 エルディンが先頭になって助祭達の大部屋を目指した。その方向からして司教が使っていた部屋にはいないと判断したからだ。
 アニエスが桃の木刀二刀流で襲ってくるミュゲ教会聖職者を抑える。その間に国乃木がコアギュレイトで動きを止めて、さらに奥へ進む。
 一つ目の助祭用大部屋には誰もいなかった。何か仕掛けはないかと調べるが、見つからない。試しにと御門がアースダイブで地下に潜ってみるが、何もないようだ。
 冒険者達はもう一つの助祭用大部屋へと向かう。ここにも誰の姿もない。
 アリスティドがパーストを使うと、床に地下への階段が現れて、降りてゆく助祭達の姿を垣間見た。しかし階段を出す方法を助祭達は何もしていない。
 御門はこの大部屋でもアースダイブを使う。地下二メートル程下で通路を発見する。地下通路にあった縄を引くと隠し階段が現れた。どうやら地下通路側から隠し階段を出していたようだ。
 先を急ぐのでエルディンは時間がかかるヘキサグラム・タリスマンの使用を諦める。
 冒険者全員が地下通路に降りた。所々にあるかがり火で通路は明るい。
 アリスティドは憲兵隊長に地下通路の存在をテレパシーで伝えた。
 御門はムーンアローを放ち、方向を探る。
「デビルがいます」
 国乃木は地下に降りる前にディティクトアンデットをかけ直していた。近くに一匹、デビルを感じていた。
 アニエスは相手がデビルならとオーラパワーを使う。さらに国乃木がレジストデビルをかける。
 透明から姿を現したグレムリンとアニエスが対峙する。オーラエリベイションをかける時間はなかった。仲間がコアギュレイトを使おうにも、位置が入れ替わるせいで的が絞れない。
 アリスティドはムーンアローでアニエスに加勢しようとしたが、敷石の上で欠けた小石が突然弾かれたの気がつく。その時、降りてから六分以上が過ぎたのにも気がついた。
「アリス先生!」
 アニエスが叫ぶ。突然現れたもう一匹のグレムリンの爪がアリスティドの背中を傷つけた。アリスティドはアニエスをかばったのだ。
 アニエスは最初の一匹を倒し終わり、次のグレムリンを戦う。グレムリンを壁に押しつけてからアニエスが後ろに下がり、エルディンと国乃木が放ったコアギュレイトで動けなくした。そして一気に止めを刺して、二匹目のグレムリンも消え去る。
「これくらい平気だよ。よくやったアニエス。先を急ごう」
 アリスティドは半泣きのアニエスに優しく声をかけるとそのまま先を急いだ。仲間を心配させない為と、治療している間にもミュゲ教会司教が逃げてしまうかも知れないからだ。
 御門のムーンアローが壁を通り抜ける事なく、まっすぐに通路奥を目指してゆく。この先に目的の司教がいるのに違いなかった。
 近づくと三人の助祭が冒険者達に立ち向かってきた。暗がりの奥にもう一人誰かがいる。
「月影の調べよ、彼の者を眠りへと誘え」
 御門がアニエスが転ばせた助祭をスリープで眠らせる。エルディン、国乃木が刹那にコアギュレイトでもう二人の助祭を動けなくした。
「ミュゲ教会司教ですね?」
 国乃木が身構える司教に厳しい声を投げかけた。御門が放ったムーンアローでのダメージの蓄積もかなりあり、司教はかなり憔悴していた。
「いかにも‥‥。これは教会に対する暴挙だ。どのような権利を持ち得たとしても我々にこのような不当を――」
 話す司教を無視して、エルディンが身体検査をする。司教が持つ十字架のペンダントにラヴェリテ教団の紋章が刻まれていた。
「ここに来るまでグレムリンと戦いました。そしてこの紋章‥‥。ジーザス教白の教義を信じる私としてはとても残念です」
 エルディンがコアギュレイトで司教を動けなくする。そして憲兵が訪れるまで、かけ続けた。
 夕方を待たずに、ミュゲ教会は冒険者と憲兵によって完全に制圧されたのだった。

●後始末
 三日目、ミュゲ教会内が詳しく調べられて、いろいろな事がわかる。
 どれくらい以前からか、わからないが、そっくり教会の者が入れ替わったようだ。最初はデビルが姿を真似てごまかし、少しずつ入れ替えて、ついには全員がラヴェリテ教団の信徒となったと記録があった。捕まえた教徒の尋問からも裏付けがとれる。
 古い建物を教会にした事が禍し、デビル対策が完全に成されていなかったのも、つけいられた隙の一つだ。
 昨日の内に憲兵が唱えてくれたリカバーでアリスティドの怪我は完治していた。
「アニエスには目指すものがあるんだろ? うつむいてはいけないよ。胸を張って」
 アリスティドは心配していたアニエスを元気づける。
 エルディンは司教の部屋に入って確認する。やはり本物の司教は殺されて、よく似た悪魔崇拝者が演じていたようだ。
「ここがラヴェリテ教団のアジトだったのか」
 憲兵に混じり、ミュゲ教会に現れたのはブランシュ騎士団黒分隊エフォール副長であった。歳は30前で男性。赤毛の人間だ。
「君たちか。活躍を憲兵隊長から聞いた。おかげでこれだけ大規模な悪魔崇拝者のアジトを味方に死人も出さずに押さえる事が出来た。感謝する」
 エフォール副長は冒険者一人一人と握手をした。
「あっあの‥‥ラルフ黒分隊長は?」
 アニエスが訊ねると、どこにいるのかは明かせないが、パリを護る為に奔走しているとエフォール副長は答えてくれた。
 マホーニ助祭もミュゲ教会に現れる。
 国乃木が避難者の事を心配して訊ねると、しばらくはマホーニ助祭が属する教会で預かるという。今はパリ近郊が危険なので無理だが、しばらくしたらミュゲ教会の建物を避難者達に開放するよう上申してくれるそうだ。
「お役に立てたようです」
 御門はギルドへの報告が終わった別れ際に上品に微笑んだ。
「すべての者が悪魔崇拝者と入れ替わっていたとは‥‥。とにかくジーザス教白教義がデビルに加担していない事がわかり、ほっとしました」
 エルディンは十字架を手に祈りを捧げた。
 今回の出来事でパリが背負っていた将来への不安が少しだけだが減る。それでもまだ脅威は残るが、同時に希望も膨らむのであった。