ご用聞き宅配 〜シーナとゾフィー〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月01日〜08月06日

リプレイ公開日:2007年08月08日

●オープニング

「しばらくやっていないですね。ゾフィー先輩‥‥」
「まあ、パリがこんな状態ではね」
 ギルドの受付嬢、シーナとゾフィーは冒険者ギルドの仕事を終えた夜道、球技ラ・ソーユのコートに立ち寄ってみた。
 パリを取り囲む混乱の今、用事がない限り、外出をする者は少ない。昼間であってもラ・ソーユをやっている者はいないはずだ。
「あの‥‥」
 建物と建物の隙間から声が聞こえて、シーナとゾフィーは身構える。もしかして物取りなのではと。
「ファニーです。あ、あの、決して後をつけてきた訳じゃありません。ここに来たら、お二人で話しているのを見かけたので‥‥」
 ファニーという少女はかつてゾフィーを『お姉さま』と呼び、様々なちょっかいを出した事があった。
「‥‥わかったわ。信じてあげる。それでここで何をしているの? 危ないわ」
 ゾフィーは自分達の事を棚に上げて、ファニーに訊ねる。
「ここ来たのは何となくですけど、明日にもギルドに行って依頼をしようかと思っていたんです。聞いてもらえますか?」
 ファニーが小走りにゾフィーへ近づいて見上げる。じっとファニーはゾフィーの瞳を見つめ続けていた。
(「抱きつくかと思ったのです〜」)
 その様子を観ていたシーナは冷や汗をかく。まだまだファニーはゾフィーへの憧れを失っていないようだ。
「えっええ、どんな依頼? あなたとのデートをする依頼ではないわよね?」
「違います。あの、パパの仕事についてなんです。頼みたいのは」
 ゾフィーの質問にファニーは答える。
 ファニーの父親は市場でかなり手広く食料品を扱っているという。
 問題は市場にやってくるパリ市民が激減している事だ。パリ近郊から生鮮食品がなかなか届きにくく、品揃えに難があるのも原因の一つなのだが他にもある。治安が悪くなったので、市場で品物を並べるのにも危険であった。
 市民が市場を訪れるのが少なくなり、売る者側も少なくなる。悪循環に陥っていた。
「かといっていきなり市場を活況にするなんて無理です。そこで、パパを含む市場の何人かが共同して品物を用意するので、冒険者には市民の方々の家を回って注文を取って欲しいのです。そして代金と引き替えに品物を届けて欲しいの‥‥で」
 ファニーの顔が徐々にゾフィーに近づいてゆく。ゾフィーは後ずさる。
「わっわかったわ。ファニーさん。正式な依頼は明日、ギルドで受け付けましょう。それでいいわね? いくわよシーナ」
 ゾフィーはシーナの手を引っ張ってコートから去ってゆく。シーナは引きずられながら、空いた方でファニーに手を振った。

 翌日、朝一でゾフィーのカウンター前に座るファニーであった。

●今回の参加者

 ea2100 アルフレッド・アーツ(16歳・♂・レンジャー・シフール・ノルマン王国)
 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7780 ガイアス・タンベル(36歳・♂・ナイト・パラ・イスパニア王国)
 eb7706 リア・エンデ(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

●顔合わせ
 朝早い市場の小屋近くに冒険者達は集まっていた。
「みなさん、パパと市場の方達です」
 依頼者の少女ファニーが品物を扱う一人一人を紹介する。
「娘がいい考えがあるといって、ギルドに依頼を出してくれたのです。そうそう、仕事が終わったら、食事でもしながらお話でもしましょう」
 ファニーの父親は帽子を手に握って細い目で笑う。
「それと、馬が用意出来たのでよかったら使って欲しい。おとなしいのばかりだから乗っても平気なはずだよ。もっとも、みなさんが飼い慣らした馬とは比べられないだろうが」
 ファニーの父親の後ろには何頭もの馬が杭に繋がれていた。
「私は驢馬さんを、馬さんを連れて来れない人もいて困っていたのです〜」
 リア・エンデ(eb7706)は馬に近づいてテレパシーで挨拶をする。隣りを見るとエフェリア・シドリ(ec1862)もテレパシーで馬に挨拶をしていて、顔を見合わせて二人で頷いた。
「最近のパリは色々と物騒なので二人一組で行く事にしませんか?」
 鳳双樹(eb8121)が提案すると、同じ事を仲間も考えていたようで話はすぐにまとまる。
「双樹ちゃんがいれば百人力なのですよ〜♪♪ 宜しくなのですよ〜」
 リアと鳳はコンビを組む。
「エフェリアさん、皆さんのお役に立てるよう頑張りましょう」
「注文、取ってきます。運ぶのも精一杯やってみます」
 ガイアス・タンベル(ea7780)とエフェリアがコンビを組んだ。
「アル君、お得意さまの宅配だけではなく、新規開拓もがんばりましょう」
「お届け者は‥シフールの本能みたいなものです‥‥多分‥‥がんばります」
 レティシア・シャンテヒルト(ea6215)の顔の高さでアルフレッド・アーツ(ea2100)は飛んでいた。
「よろしくお願いするね」
「確かに受け取ったわ。任せて。それからたくさん注文を取ってくるから在庫を切らさないように手を打ってね」
 レティシアはファニーの父親から地図を受け取る。仲間と囲んで宅配区域の分担を決めてゆく。レティシアとアルフレッドのコンビは一番遠くの区域を担当するつもりだ。
 拠点はすぐ目の前にある市場の小屋になる。この中に品物が保存されているそうだ。盗まれないようにファニーの父親と市場仲間が守っている。市場で盗られても被害が少ないように、少しずつ品物を出しているという。
「それではがんばるのですよ〜♪」
「お〜〜!!」
 全員でかけ声をあげた。
 六枚の地図を冒険者それぞれが受け取り、さっそくご用聞き宅配が始まるのであった。

●ガイアス、エフェリア組
 ガイアスは愛馬に、エフェリアは借りた馬に乗っていた。エフェリアは騎乗がうまくないので、ガイアスに誘導してもらう。
 長い距離は馬で移動し、短い距離なら手綱を持って歩いて回る予定だ。
「まずはお得意様を回って、近所で買いにいけなくて困っている人に注文を取りましょう」
「タンベルさん、わかりました。そのあとで余裕ができたらまわりたい人達がいます。いいですか?」
「そうしよう」
「はい」
 二人はさっそく一軒目のお得意様を訪ねた。
「あら、これはどうしたことだい?」
 家から出てきた主婦に、市場の方に頼まれてお得意様を回っていると説明すると、すぐに納得してくれた。
「ちょっと多めに頼んでもいいかい? うちは食べ盛りが多いのに、このご時世じゃ主人が一緒じゃないと市場にも出かけられなくて、困ってたとこなんだ。この際、食べられればなんでもいいのさ。よろしく頼むよ」
 ソーセージとハムだけで大量の注文を受ける。二人は二軒目に向かう途中で話し合う。
「これは、考えていたより大変かも知れない」
「どの家からも同じくらいあるでしょうか」
 二軒目も、三軒目もたくさんの注文をしてくれた。これから先のお得意様も同じように考えられた。二人は急いでご用聞きに回る。次に控える宅配の大変さを考えて。

●レティシア、アルフレッド組
「ミューゼル、アル君についていって」
 レティシアは大空を駆けるペガサスのミューゼルの首に掴まりながら囁く。シフールのアルフレッドは自らの羽根で飛んでいた。
 アルフレッドはたまに空中で停止して、地図で場所を確認する。
「この辺りから‥‥始めると‥いいです」
 アルフレッドの考えで二人は地上に降りる。たくさんの木が生えた家に二人は入ってゆく。まずは一軒目のご用聞きだ。
「これは、これは」
 家の中から杖を持つ、足が不自由な初老の男が現れる。二人がご用聞きの説明すると、とても感謝された。世話をしてくれていた者が、預言の災害で来られなくなり、とても困っていたそうだ。
 レティシアが目を庭に向けると、木にたわわな葡萄が熟っていた。
「おおっ、あれか。ワイン用とは違うそのまま食べて甘い葡萄じゃ。少し食べてみますか?」
 初老の男はアルフレッドに頼んで高い場所に熟る葡萄をもいできてもらう。
「美味しい!」
「おいしい‥です」
 冷たい井戸水で洗った葡萄はとても美味しく、二人は頬を綻ばせた。
「毎年、世話してくれていた者に頼んで収穫し、近所に分けていたんじゃが、今年はそうもいってられん」
「あの、ご相談があるのですが――」
 レティシアがアルフレッドと話し合うと、初老の男に相談を持ちかけた。

●鳳、リア組
 鳳は愛馬シロガネ、リアは借りた馬の手綱をもってパリの石畳を歩く。すでにご用聞きを終え、品物運びである。
「双樹ちゃん、今日一日はお得意さまで終わってしまう感じです〜」
「こんなにもたくさんの注文があるなんて、想像していなかったです」
 リアと鳳は歩きながら話す。
「でもでも、宅配が終わったらギルドに立ち寄るですよ〜。シーナ様とゾフィー様を夕食にお誘いするのです♪」
「シーナさん、ゾフィーさんに訊いてみようかな。前にお肉で有名な村とかワインで有名な村が今どうなっているか。無事なら品物を買い付けにいけないかな?」
「いい考えなのです〜」
 二人が話していると、二頭の馬が突然停まった。どうやら疲れた様子で動こうとしない。
(「はう〜、仕事が終わったらブラシ掛けしてあげるのですよ〜」)
(「シロガネ、もう少しがんばってね」)
 リアはテレパシーで、鳳はオーラテレパスで馬達を励ます。近くに井戸を見つけて汲み、馬に水を飲ませてあげた。
 馬の背中に載せられた食料は、結構な量である。
「もう一頭借りて、二人で三頭を連れた方がよさそう」
「次の宅配回りはそうするのですよ〜」
 二人と二頭は少しの休憩をとって、宅配を再開するのだった。

●シャンゼリゼ
 レティシアの発案で夜の食事の場は、酒場シャンゼリゼと決まる。ここで災害募金用のメニューを食べれば、それだけで少しでもパリの復興に手を貸す事になるからだ。
 冒険者達の他にファニーとその父親、そしてシーナとゾフィーの姿もある。
 鳳はシーナとゾフィーに今まで依頼で行った事がある村、集落の様子を訊ねる。まったくの無傷ではないが、ちゃんと今も残っていると答えた。ギルドが制作した報告書の一部に書いてあったようだ。
 最初、自分で買い出しに向かおうと考えていた鳳だが、話し合いでファニーの父親と市場仲間に任せる事にした。食材集めは任せてもらいたいとの商売人であるファニーの父親の心意気からだ。
 レティシアとアルフレッドは葡萄について全員に説明する。野菜ではなく果物だが、とても新鮮で食べた者の心を和らげる。持ち主の初老の男からもいでもかまわないと許可を得られたので、配達する品物に加えたらどうかという提案であった。
 必要な分をレティシアとアルフレッドが収穫して小屋まで運ぶ事で、提案は受け入れられた。空中にいられる術を持つ二人なら、葡萄穫りは簡単である。
 長い一日目は終わり、明日から新規の客集めが本格的に始まる。
 冒険者達はそれぞれにパリでの寝床に戻り、明日へ備えるのであった。

●ガイアス、エフェリアの四日間
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう」
 子供が母親と一緒にガイアスとエフェリアに礼をいう。子供の手には葡萄があった。
 道ばたで困った様子の親子にガイアスは炊き出しの行われている杉の木がある空き地を教えてあげた。空腹を誤魔化す為に、すぐに食べられる葡萄を親子にあげたのだ。
 葡萄は冒険者が食べていい分を渡したので問題はない。
 二人は続いて旧聖堂に立ち寄ったが、すでにほとんどの者が帰った状態だ。これには少々エフェリアは残念がる。
「エフェリアさん、お久しぶりです」
 川口花がペコリとエフェリアにお辞儀をした。エフェリアが知るジャパンから来た川口親子の実家を訪ねたのである。
 必要な品物の注文をもらい、そして近所の人も集めてもらう。たくさんの注文を受けると急いで市場近くの小屋へと戻る。
 品物を届け終わると、花の祖母がエフェリアとガイアスに自分が作ったファー・マフラーを持たせてくれた。冒険者の人数分である。時期外れといいながら、前に毛糸の手袋をもらった事をエフェリアは思いだした。
 それからもエフェリアが兄やシーナとゾフィーから聞いた石工のシルヴァ宅、ピュール助祭の教会、演劇のヨーストの家を訪ねる。ツィーネは自炊をしてないが、知り合いを紹介してくれた。パリ郊外にある子供ドニーの家やアロワイヨーの森は今回の依頼から外れるので、仕方なく諦める。
 品物を運ぶ時には慎重に、そして盗まれないように毛布を馬の背中に被せて運ぶ二人であった。

●レティシア、アルフレッドの四日間
 街角で流れる音楽。耳にした者達がふり返ると、そこには人だかりがあった。
 その中心にはリュートを奏でるレティシアの姿がある。アップテンポの賑やかで楽しげな旋律が続く。
「注文を受けて‥‥配達しています。お困りの方が‥いましたら‥‥どうぞお気軽に声をかけて下さい」
 アルフレッドは苦手ながら精一杯に宣伝をした。
 レティシアが演奏と演奏の間にファンタズムを使い、豊富な食料の幻影を作りだす。アルフレッドはその周囲を回りながら、一生懸命に家の場所を聞いて注文をとる。
 市場にいってもらえれば直接手に入る事も、同じように伝えた。人が増えれば市場も次第に元に戻るはずだ。
「たくさん注文あったわね。そろそろ市場にいってみようかなんて人もいたし」
「もう一軒‥‥ご用聞きにいってみたいですけど‥」
 二人は空を飛びながら話す。
「市場の人にいってアル君の馬にも宅配の荷物載せておいてもらうわ。いってらっしゃい」
 レティシアに見送られて、アルフレッドは向かう。前に会った事のある老翁スズリの元へ。すでに家の場所はギルドで訊いて知っていた。
「おう、元気にしておったか」
 家から出てきたスズリはアルフレッドを覚えていた。アルフレッドは過去の依頼については触れずに、食料の宅配をしている事だけ話す。悪い事をしたので、スズリの息子は投獄されていた。
 注文を受けてアルフレッドは飛び去ろうとする。
「パリは大きな試練を乗り越えた。こんな年寄りでもがんばらなければならん」
「今日中の最後に‥届けに来るので‥‥その時少し話したいです‥‥」
 見上げるスズリと言葉を交わすとアルフレッドは飛んで小屋に急ぐのであった。

●鳳、リアの四日間
「はい。わかりました。お豆を一袋とソーセージを6ダースですね」
 鳳は炊き出しの人から注文をとり、リアの元に駆け寄る。リアは馬に草を食べさせていた。
「蒼、よくやってくれたわ」
 鳳は鴎の蒼を褒めてあげる。先程、オーラテレパスで訊ねると人が集まっている場所を教えてくれたのだ。予想通り炊き出しをやっていた場所で、新規の開拓ができた二人である。。
「新鮮なお肉が手に入って皆、喜んでいたですよ〜♪ 双樹ちゃんのおかげなのです☆」
 リアは鳳のアイデアで新鮮な肉が手に入った事を喜んだ。
「でも一番喜んでいたのはシーナ様と思うのです」
「そうね。無類のお肉好きだから。シーナさんは」
 二人は届いたお肉を冒険者ギルドの休憩中に走って買いに来たシーナを思いだした。瞳を爛々と輝かせてお肉を買っていった。
 その日の夜も一緒に夕食を食べたが、さらにシーナの家に呼ばれてみんなで焼いたお肉を頂いた。『肉は別腹』というのがシーナの信条らしい。
「もうひとがんばりするのですよ〜」
「次は宿屋を回りましょう」
 鳳とリアは残る時間を張り切って宅配するのだった。

●お別れ
 最後の日は夕方の時間にシャンゼリゼで食事をした。ギルドでの仕事が残っていたシーナとゾフィーは出席出来なかったが、みんなで冒険者ギルドを訪れる。
 ファニーの父親が儲けの一部をギルドにあった預言災害用の募金箱に入れた。そして持っていた保存食をがんばってくれたお礼にと冒険者に渡す。ファー・マフラーもすでに冒険者へと分けられていた。
「パパがとっても助かったっていってます。どうもありがとう冒険者のみなさん。そしてシーナ様、ゾフィー様ありがとう」
 ファニーがお礼をいう。特にゾフィーの名を呼ぶときには力が入っていた。
 しばらくすれば市場も活況が戻るはずである。一部、買いに来られそうもないお客様に関してはご用聞き宅配を市場の人達で続けるそうだ。
 冒険者達は安心して報告をし、依頼を終えるのであった。