●リプレイ本文
●再会
「ツィーネさん、お久しぶりです」
「お久しぶりです。ほらテオカ、挨拶をしなさい」
ブリジット・ラ・フォンテーヌ(ec2838)は早くからレストランの前でツィーネとテオカを待っていた。
「お二人との再会をとても楽しみにしてたのです」
「こんにちは。ボクもまっててくれたの?」
「もちろんよ。テオカくん」
近づくテオカにブリジットが屈んで笑顔を向ける。
話しながら三人はレストランの中に入った。少しずつ人が増え、予定の時間には全員が集まるのだった。
●相談
貸し切りとなった小さなレストランには竪琴の調べが流れていた。
ファン・ガロンが奏でる中、ツィーネがテーブルへと現れる。
「ツィーネ姉ちゃん、なんかキレイだよ」
「そっ、そうかな」
テオカがテーブルにつこうとするツィーネを見上げた。照れるツィーネに続いてリリー・ストームもテーブルについた。
「女性冒険者は‥美しくなければいけませんっ!」
リリーは満足げに決まったツィーネを眺める。せっかくだからとリリーが理容の技を駆使してツィーネに化粧を施したのだ。
「集まってくれて、みんなありがとう。ちょっと相談したい事があったんだ。嬉しいことにレストランのマスターが好意で貸し切りにしてくれたので、回りを気にしなくても構わないので自由にやって欲しい」
緊張気味のツィーネは固い様子であった。まず店側から飲み物が運ばれる。
「今回はめんどくさくなくて楽にお金もらえそうでいいな、と。‥‥毎度のことながら知り合いが多いが‥‥。それでツィーネ、相談って何なんだ?」
ヤード・ロック(eb0339)は周囲の女性に目を移しながらツィーネに訊ねた。
「相談というのは‥‥まず、冒険者を続ける事にしたんだ。みんなに助けられてここまでやってきたわたしだが、これからは自分の為というより人の為に冒険者をしていきたいなと。出来るだけって意味でね」
ツィーネの言葉にリスティア・バルテス(ec1713)は頷く。
「そうなんだ。ツィーネはこれからも冒険者なんだね。じゃぁ改めてよろしくね」
リスティアは知らないうちにあがっていた肩を撫で下ろす。リスティアの他にもツィーネが冒険者を続けるかどうか悩んでいたのを知る者達はほっとする。
「こちらこそ、よろしく頼むね。それと依頼を一緒にしていた仲間は知っているが、わたしはレイスに特別な感情がある。敵としても、救ってやりたい気持ちとしても‥‥。わざわざ集まってもらったのに、うまくいえなくてすまない。漠然としているが、これからをうまくやるヒントをくれないか?」
ツィーネは隣りに座るテオカを時々見ながら説明をする。何も知らないテオカは蜂蜜入りのミルクを飲んでいた。
エイジ・シドリ(eb1875)はツィーネの話しへと静かに耳を傾ける。
「話しの前にこちらを分けても構いませんでしょうか?」
陰守森写歩朗(eb7208)が家で焼いて持ってきたお菓子を取りだした。レストラン側が許可してくれたので大皿にお菓子をのせる。食事は大分先のようなので、摘んでもお腹が満腹になる事はないだろう。
「テオカさん、これをあげましょう。でもこの後で食事があるのを考えて食べないといけませんよ」
コルリス・フェネストラ(eb9459)はテオカに袋を渡す。リコリスのクッキーである。
『テオカ君、ちょっとお姉さんとお外で遊ぼうか』
ミルディアーナ・セイレント(ec3311)はラテン語で話すが、テオカも笑顔でわかったようでついてゆく。話された内容についてはラテン語のわかる仲間に後で教えてもらうつもりのミルディアーナであった。この前の依頼では敵がラテン語が理解出来たので、依頼を完遂できたが、やはりノルマンの地ではゲルマン語を覚えた方がいいと、テオカと遊びながら考える。
「ではお話を。ついこの間も江戸で怨恨によるアンデッドの群れのせいで、村1つ分人がいなくなってしまいました。未練を残してしまった死者に対して思い残しの解消と残された者への対処をしなくてはいけないのですよね。難しいことも多いのですが‥‥」
陰守は体験談を話した。
「理不尽な理由でレイス等アンデットになる者もいるだろう。慎重に対処しなくてはいけないのには賛成だ。一方、逆恨みでレイスとなり人々に害をなす者が確かにいる‥‥」
リンカ・ティニーブルー(ec1850)は話しを途中で区切る。ある話題を出せば重い雰囲気になるのはわかっていた。仲間の中には触れない方がいいと考える者もいる。ただ、こればかりは話しておかないと、後々悔いが残るかも知れないと覚悟を決めた。
「あのすべての原因の悪党ダンの死体が確認出来ないのが気がかりだ」
リンカの言葉で場に緊張が走る。
「あのように生に、金に執着した男だ。逆恨みでアンデットとなり悪行を更に重ねていてもおかしくは無い」
リンカがツィーネの瞳をまっすぐに見つめて話す。そうそう死んだ者がレイスになる訳ではない。だがリンカにはそう思えて仕方がなかった。問題はあの崖の下はとても探せる状況ではなかった。後に知った事だが、崖下には細くはあるが急流の川もある。
「ダンの事で気になったその時はまた依頼を出せば良い。力になってくれる者は幾らでもいるだろう」
エイジは話をよく聞いた上で自分の意見を述べた。
「コルリスさんはどう思う?」
ツィーネに意見を求められたコルリスは木ぎれを道具で削っていた手を止める。
「あくまで私個人の意見ですが、死者は知っていた者がその人の存在を完全に忘れてしまうまで、本当に『死んだ』わけではありません」
コルリスは同席しているメグレズ・ファウンテンやクァイ・エーフォメンスの意見と自分の意見を合わせてツィーネに話す。
「レイス達の気持ちを汲んであげたいと思うのでしたら、彼らを忘れないことです。記録に残すというのも一つのやり方と思います。そして何より、死者に対する最大の手向けは、悲しみではなく『感謝』です」
コルリスは筆記用具と羊皮紙を取りだす。
「これを。貴方でしたら答えを見つけられると思います」
コルリスは笑顔でツィーネに渡した。
「ツィーネはファイターだったな。レイスをこれからも追うならば、神聖騎士になる事を視野に入れてはどうだろう」
リンカの意見に驚いたツィーネであったが、聞いていく内にだんだんと真剣な表情になる。
「私も白の神聖騎士として、いかにさまよえる魂を救うべきかを常日頃から考えています。ツィーネさんが選んだのなら尽力を惜しみませんよ」
ブリジットが自分の体験を交えてツィーネに神聖騎士とは何かを伝えた。
「そうだな。ツィーネが神聖騎士を目指すのも良いかもしれないな」
エイジも同意見のようだ。
「考えてみるが、すぐには結論は出せない‥‥。冒険者として行動している時以外は、テオカに時間を注いでやりたいんだ。冒険に出ている間、宿に一人で残しているのにこんな事いえた立場じゃないのはわかっているのだが」
ツィーネは迷っていた。
「貴女がどんな道を選んだとしても、あたしは貴女の事、友達だと思ってる。だから困ったことがあったら何でも言ってね」
「ティア、ありがとう」
リスティアの一言でとりあえず神聖騎士の話は終わった。
しばらく経って食事がテーブルに運ばれる。テオカとミルディアーナも戻り、宴の時間の始まりであった。
●宴
ファンの竪琴と交代し、コルリスのリュートの調べがレストラン内に流れる。食事をとる為に時々交代する事にしたのだ。
「ほら? ここにあるよ」
「すごお〜い」
陰守はテオカに小石を掌から消して、とんでもない場所から取り出したりする手品を見せる。他の仲間達も喜んでその様子を眺めた。
「あ、食器って銀じゃないわよね? あたし銀だとちょっと‥」
リスティアは注意して確かめてから食器に触るが、どれも木製である。狂化しても歌いまくるだけなのだが、我を忘れるとやはり仲間に迷惑がかかるので気を付けておく。
食事が一通り終わり、コルリスの演奏に合わせてクァイが歌を唄う。
そして乱雪華の軽業のお披露目が始まった。
「はい。こちらですー」
空飛ぶシフールのファンから身のかわしだけで逃げるみせる乱だ。ファンも回避に関してはすごい実力の持ち主だが、ここは乱に花をもたせることにした。当たるか当たらないかのギリギリで避けてゆく。
「エイジさんとヤードさんは?」
ツィーネはテオカと一緒に驚きながら、二人がいない事に気がつく。何かをヤードに渡したリンカを含め、仲間は知っているが知らないフリをした。
軽業の披露が終わり、コルリスがリュートを激しくかき鳴らす。
ミルディアーナが拍手を始める。とても期待した表情で。
リンカ、ブリジット、リスティア、陰守と拍手に参加し、よくわからないがツィーネとテオカも参加する。
拍手に合わせてコツコツとステップ音が聞こえる。
物影から現れたのは後ろ姿の男二人。
拍手は最高潮に達して、ミルディアーナは喝采を送った。
振り返ると口に麗しき薔薇をくわえたエイジとヤードだ。二人の動きに合わせてコルリスがリュートを鳴らし続け、タイミングを計る。
二人がポーズをつけた瞬間、リュートの演奏も止まる。
エイジとヤードの背後にバラの花吹雪が散った。
エイジは掌を広げて顔の横に広げている。ヤードは右手を高く天に伸ばしていた。
盛大な拍手の中、ツィーネは瞳をまん丸にして固まっていた。
やがてバラの花びらの幻影は終わると、ツィーネが屈んで丸くなる。
「ツィーネ‥‥?」
リスティアが心配になって近づくと、ツィーネは肩が震わせて笑っていた。
「あっ、ありがとう。元気づけようとしてくれたんだね」
涙を指先で拭いながらツィーネがエイジとヤードにお礼をいった。二人はまだ口に麗しき薔薇をくわえていてたのに気がついて慌てて手に取る。急いでレストランの奥に隠れる二人であった。
「ふぅ‥‥俺って薔薇くわえてってタイプじゃないのだがな‥‥」
ヤードはやっとみんなの元に戻る決心をし、途中でテオカを見つける。
「と、テオカといったな。ちゃんと挨拶してなかったな。初めまして、だな。ヤード・ロックっていう。よろしくな」
ヤードはテオカの頭を広げた手でぼふぼふと軽く叩いた。
「あれどうやってやったの? 花びらすごかったよ」
「あ〜っ、薔薇のことは忘れるように」
ヤードはテオカを連れてみんなの元に戻った。
「これ、あげる」
コルリスがテオカに小さな木彫りの猫をあげた。レストランについてから彫っていたものだ。
「よかったな。テオカ。お礼をいいなさい」
「ありがとう。えっと‥‥コルリスお姉ちゃん」
テオカはもらった木彫りの猫をとっても喜んだ。
「テオカくん遊ぼうか」
今度はブリジットがテオカの相手をしてくれる。テオカはたくさんの友達が出来たみたいでとても楽しそうにしていた。
エイジも席に戻り、先程のバラの一幕についてが話題になる。
「二人とも、ツィーネに喜んでもらえてよかったな」
リンカはヤードから麗しき薔薇を返してもらった。
「麗しき薔薇にはきっと呪いがかかっているに違いない。あんな華麗なポー‥‥いや、格好などそうでなければ俺がやるはずがない。‥‥ヤード・ロックは似合っていたが」
エイジがいうと、ヤードは聞こえないフリをしてお酒を頂く。
陰守が用意してくれた美味しいベルモットだ。レストラン内で調理をするのは無理だったのでそのままみんなにお酒を提供した陰守である。菓子は家で作ってきたのでそれでよしとした。
「これを提供しよう。親友の新たな出発だからな」
リンカが持ってきたシェリーキャンリーゼを少しずつみんなで分けて乾杯をした。
半日をかけたみんなとの時間は終わる。レストラン前の去り際で、みんながツィーネに声をかけてゆく。ツィーネはブルー・スカーフを手渡していった。何か渡したいと知り合いに相談したところ、譲ってくれた品である。
「まあ、そうだな。とりあえず‥‥一人でどうにもならなくなったら遠慮なく言ってくれ。同じ冒険者だし助けられることなら助けるし、手伝えることなら手伝うさ」
そっけなくも、いつも温かい言葉を投げかけてくれるヤード。
「これから冒険者を続けるのならまた会う事もあるだろう」
言葉を探して声をかけて去ってゆくエイジ。
「ツィーネ殿、テオカ君、また会う事があれば新しい手品を見せてあげよう」
すっと消えるようにいなくなった優しき忍者陰守。
「何をするにしても貴方でしたら答えを見つけられると思います」
コルリスはツィーネが心の整理を終え、そして新たなる旅立ちを踏みだすのを確信してその場を去った。
「これからもよろしく。ギルドでまた会おう」
リンカは外で待たせていたボーダーコリーの黒曜と共に消えてゆく。
「もし神聖騎士になるのならご助力します。テオカ君、ツィーネお姉ちゃんと仲良くね」
ブリジットは笑顔で別れの挨拶をすると愛馬に乗って去っていった。
『依頼を受けた時、受付の方から依頼人のツィーネさんが怪我していたと聞いて心配してたのです。でも会ったときにはなんでもなくてほっとしました。テオカ君、今度会ったらかくれんぼでもしようね』
ミルディアーナはリスティアに通訳してもらい、ツィーネとテオカに思いを伝えた。
「いつでもかけつけるわ。本当よ、ツィーネ」
リスティアはツィーネとテオカと握手をする。そしてミルディアーナと同じ道を帰ってゆく。完全に消え去るまで何度も手を振っていた。
「ツィーネお姉ちゃん、とっても楽しかったよ」
「そうか、よかったな。わたしも元気をもらった。これから先も見えた気がする。パリの危機も去ったようだし、がんばっていこう」
ツィーネとテオカは手を繋いで、いつもの定宿へと戻ってゆくのだった。