マリオネット・ロマンス

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 46 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月26日〜11月29日

リプレイ公開日:2006年12月03日

●オープニング

 晴れた空の下、子供達の声援が飛び交っていた。
 木枠の中では槍を構えた騎士がデビルと戦っている。デビルを撃退すると騎士にはお姫様が寄り添う。
 馬車の上に載せられた舞台で繰り広げられる糸操り人形劇だ。
 人形劇団『パペット』の出し物は終わり、子供達が笑顔のまま帰ってゆく。劇団員達は後かたづけを始めた。
「大道芸人の寄り合いに集合がかかってるから、みんなで向かおうか」
 若き団長のオーバンは仲間である三人の劇団員に声をかける。『パペット』はパリを中心にして周辺の村々などで人形劇を生業としていた。
「一体なんでしょうね」
 劇団員の女性カロルは人形を片づけながらオーバンに微笑んだ。
「集められるのは人形を扱う劇団だけらしいぞ」
 一番年上の劇団員ガクは子供達を座らせていた椅子を片づける。
「とにかくいってみれば?」
 ガクの妻である劇団員ヨーミは小道具をカゴに集めてゆく。
「収穫祭が終わり、パリから離れたと思ったら呼び戻されたんだ。どんな重要なことなんだろうな」
 オーバンは馬車に馬を繋げていた。

 大道芸人の寄り合い所はごった返していた。集められていたのはやはり人形劇を扱う劇団ばかりだ。
「オーバン、来てたのね。お久しぶり」
 劇団員全員と一緒に訪れたオーバンに声をかける女性がいた。人形専門の職人であるロレーヌだ。オーバンとは大して年齢は変わらない。脇役などは劇団員が作るが、主役級の凝った人形はロレーヌに頼んでいた。
「なんかすごいことをやるみたいよ。わたしは呼ばれていないけど、気になってきちゃった」
 笑うロレーヌにオーバンが口元をゆるませた。隣りにいたカロルは見てみない振りをする。
「お静かに。この方から皆様にお話しがございます」
 寄り合い所の者に紹介されて一人の老紳士がお立ち台にあがった。
「執事に頼もうと思いましたものの、皆様のお顔が見たくて来てしまいました。実はわたくしには女の子の孫がおります。孫は人形劇がとても好きなので、そこで誕生日に皆様を呼んで祝ってもらおうと考えました」
 寄り合い所はざわついた。
「誕生日パーティに呼ぶ知人の子供達も含めてわが孫にも投票してもらいます。一位になった劇団には謝礼の他にも賞品も出しましょう。その他に友人である貴族達に紹介状を書くのもやぶさかではありません。どうかお受けして頂けませんでしょうか?」
 老紳士の話しが終わると、各劇団の代表が呼ばれた。各々に前金が入った小袋が渡される。中身を覗いたある劇団長が声をあげた。
 オーバンも小袋の重さに驚くのであった。

「それじゃあがんばってねー。わたしも手配して見に行くわ」
 ローレヌと別れるとオーバンは劇団員達と一緒に馬車に向かって歩いていた。カロルは俯き加減にオーバンの後ろ姿を見つめながらついてゆく。
「おい! オーバンとかいう野郎。話しがある。顔を貸せ」
 オーバンの目の前に巨体の男が現れる。人形劇団『クーフ』の団長バサンだ。悪い噂はオーバンも知っていた。
「団長‥‥」
 ガクが心配そうな顔をする。
「平気だ。馬車へ先に行っててくれ」
 オーバンは劇団員達から離れてバサンについてゆく。裏路地に入るとバサンは拳で壁を一撃した。
「簡単な話だ。邪魔だからパーティには出るな。わかったな」
 バサンは振り向き様にオーバンを睨んだ。
「そんなこといって、はいそうですかといくと思うのか」
 オーバンは震えながら抵抗する。
「せっかく平和に済ませてやろうとしてるのがわからないのか。まーいい。消えろ」
 オーバンはバサンの言葉に拍子抜けるが、急いでその場から立ち去った。不安を感じながら、何度も後ろを振り向いて馬車へと戻ってゆくのだった。

「おい。大丈夫か!」
 オーバンは倒れ込むガクを支える。
 翌日の朝、顔を洗いに水場にいったガクは怪我をして馬車に戻ってきた。ガクがいうには突然後ろから暴漢に襲われたらしい。
 ヨーミが薬を持ってくる。カロルは水に濡らした布でガクの傷口を拭う。
「バサンの野郎だな。すまん、俺のせいでこんな目に」
「気にするな。悪いのはバサンじゃないか」
 痛みで顔を引きつらせながらも、ガクは微笑んだ。

 ガクの治療が終わると、馬車の中でオーバンは劇団員全員に話しを始めた。
「しばらく劇団を休もうと思ってる」
 オーバンがいうと劇団員全員が驚きの表情を浮かべた。
「なんてこというのよ!」
「オーバン、あんな奴に屈服するのか!」
「団長、そんなの寂しすぎます!」
「待て待て」
 オーバンは静かにさせる。
「話しは最後まで聞いてくれ。休むのは誕生日パーティの数日前までだ。それまでは各自隠れて演目を練習する。俺はそれまでに用心棒を探しておいて、練習を再開。絶対に一位を狙うぞ」
 オーバンの決意に劇団員全員の顔が明るくなるのだった。

「これから冒険者ギルドにいって依頼してくるよ」
 オーバンは帽子を深く被って出かける用意をする。
「気をつけて下さいね」
 カロルはオーバンに上着を渡した。
「‥‥俺ってどう思う?」
「えっ?」
 カロルは顔を赤くした。言葉から深い意味を想像してしまった為だ。
「いやさ、奴に呼ばれて脅迫された時、びびってしまったんだ。思い返す度、自分が情けなくなる。そんな男、女性はどうなのかと思ってさ」
「あっ‥‥そういう意味ですか。誰もそうだと思いますよ。でも団長は断ってきたじゃありませんか。自信持って下さい」
「そうか。ローレヌもそう思ってくれるかな」
 オーバンの言葉にカロルは何度か瞬きをした後で固まって動かなくなる。
「いや、前からいいなとは思っていたんだが、パリに戻って来て会って強くなってさ。告白してみようかと」
「‥‥ローレヌさんは恋人いるはずですよ?」
 カロルは小さな声で伝える。
「知ってる。でも、だからといって想いが消える訳じゃないしな」
「あっ‥‥わたし、食事の用意しないと。ごめんなさい」
 オーバンに背中を向けてカロルは馬車を出てゆく。最後のカロルの言葉はどこか涙声のようだった。

 冒険者ギルドに駆け込んだオーバンによって依頼が貼られた。
 依頼者の名は伏せられた、用心棒募集であった。

●今回の参加者

 eb8986 龍皇院 瑠璃華(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb9004 セッツァー・ガビアーニ(29歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb9005 マリアローズ・クローディア(17歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb9015 シャルル・イルーダ(28歳・♀・ジプシー・シフール・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●再び
「これからどうなさるおつもりか」
「一緒に連れていって下さいませ」
 オーバンは身長三十センチ程度の糸操り人形騎士ドバンを扱う。カロルは騎士に憧れる少女ミンキを動かしていた。
 練習を再開したパペット劇団は活気に満ちていた。ガクは脇役をいつも二体扱うのだが怪我をして無理である。ガクが扱うはずの脇役一体をオーバンとカロルが手伝った。ヨーミは笛や鐘を使って音楽や効果音を奏でる。
 練習の最中、冒険者達はそれぞれの役割を果たしていた。
 張られたテントでは夜に備えてセッツァー・ガビアーニ(eb9004)が休む。
 馬車近くの木にはドジな道化師のオーギュスト用の衣装が吊り下げられている。シャルル・イルーダ(eb9015)はダブダブの衣装の中で辺りを覗く。衣装は龍皇院瑠璃華(eb8986)が予め用意させたものだが、昼間はシャルルが身を隠すのに使っていた。
 練習が終わってカロルが団員用馬車に戻ると、マリアローズ・クローディア(eb9005)と寝ている龍皇院の姿があった。パペットで使用する馬車は二台ある。一台は舞台が載せられた劇用馬車。もう一台は団員用馬車だ。
「手直ししましょうか」
 カロルが椅子に座って人形に小道具を取りつける。マリアローズはカロルを手伝った。
「セッツァーさん気持ちよく寝てるのよ。顔を悪戯書きでもしたくなります」
 マリアローズの言葉にカロルが笑った。手伝いが続く間、二人の会話は弾む。
「オーバンの話ばかり。もしかしてカロルって‥‥好き?」
 図星のカロルが顔を真っ赤にさせた。
「恥ずかしがらないでもっと聞かせて。応援するし」
「飯だよ!」
 馬車の外からヨーミの声と鐘の音が聞こえた。マリアローズは寝ている龍皇院を起こさずに食事へ向かう。後で差し入れするつもりだ。
「なるほどね。好きなのか」
 龍皇院は瞼を開ける。途中から寝たふりをして会話を聞いていたのである。龍皇院は少し間をおいてから食事に出向いた。
「怪しいです〜」
 シャルルは遠くで監視する人相の悪い男を発見する。男はヨーミの鐘の音が鳴ると姿を消したのであった。

 夜になり、町外れの空き地にも静けさが訪れる。
 シャルルから昼間の報告を受けたセッツァーと龍皇院は気を引き締めた。セッツァーは劇用馬車に潜り込み、龍皇院は道化師の人形に扮装して外の椅子に倒れている。温かいように厚めの布地で作られていた。
 怪しい人影が二つ、闇に紛れて馬車に近づく。手には棍棒が握られている。人影が棍棒を振り上げようとした瞬間、セッツァーが鐘を鳴らして馬車を飛びだす。龍皇院は起きて隠してあった刀を手に取った。。
 セッツァーと対峙した襲撃者は最初から及び腰であった。何度か剣と棍棒を交えると降参を叫んで尻餅をつく。龍皇院は峰打ちをして襲撃者を気絶させる。
 鐘の音で起きたマリアローズとシャルル、パペットの劇団員達は襲撃者達を囲んだ。
「訊きたい事は山ほどあるねぇ」
 セッツァーは尻餅をついている襲撃者の頬に剣を当てた。
 襲撃者はバサンに金で雇われただけだと自供する。
「本当にです? この方は呪術者で簡単に呪い殺せます〜。試してもらいましょうか?」
 シャルルはマリアローズを指差す。ハッタリだが襲撃者は信じた様子で震えていた。マリアローズとシャルルはまだ魔法を覚えていないので苦肉の策を考えたのだ。
「こいつは昔からのダチだからよーく言い聞かせる。だから助けてくれ」
「『オーバンたちの人形はすべて壊しましたぜ、旦那!』みたいな報告をして欲しいねぇ」
 セッツァーが脅すと襲撃者は「はい」を繰り返し、その後で気絶している仲間を叩き起こす。
「五日間、キミ等には水難がつきまといます」
 マリアローズの宣言通り、襲撃者達は晴れた夜空であるに関わらず水を被る。空を飛んだシャルルが器に入れた水を襲撃者に零しただけだが効果は抜群であった。襲撃者達は駆け足で逃げだしていった。

●想い
 二日目、最終練習が終わるとオーバンは劇用馬車でロレーヌを訪れた。預けてあった室内用の舞台を取りに来たのである。龍皇院は同行していたが仕事部屋には入らずに外で待っていた。
「バサンの奴、寄り合いの後で片っ端から劇団を脅したみたいよ」
 ロレーヌがハーブティを淹れながらオーバンに話しかける。
「それで脅しの時は何もしないで、後でガクに怪我をさせたんだな」
 ロレーヌは悔しがるオーバンにハーブティを勧めると、扉を開けて龍皇院にも渡した。龍皇院は微笑み返しながら礼をいう。
「わたし、パペット応援しちゃうから」
 ロレーヌは椅子に戻ってオーバンの両手を握ってみせた。
「がんばるさ。それでさ、他の話が‥‥」
 オーバンがロレーヌに告げようとしたときに扉の向こう側で物音がする。ロレーヌが扉を開けると、龍皇院が濡れた服の部分を摘んでいた。
「零してしまって熱くて思わず暴れてしまいました」
 龍皇院は恥ずかしそうに照れ笑う。
「‥‥そろそろ失礼しようか」
 オーバンはロレーヌに礼をいうと、舞台を馬車に載せて帰路に着く。
「ロレーヌ様、いい人だけど‥‥」
 馬車に乗る龍皇院は呟く。物音はオーバンの告白を邪魔する為にわざと立てたのであった。

「最終点検よ!」
 ヨーミのかけ声を合図にして明日の本番に備えて点検が始まる。
「団長さん、カロル様が人形の点検大変だっていってます」
「手も空いたし手伝いにいくか」
 シャルルの言葉にオーバンは団員用馬車へ向かった。
「うまくいったね」
 物影に隠れていたマリアローズがシャルルに耳打ちする。オーバンとカロルが二人きりになれるように仕組んだのである。
「手伝う事あるかな」
「団長! じゃあ糸の調子の確認を一緒にお願いします」
 カロルとオーバンは椅子に並んで点検を始めた。
「ダメです」
 セッツァーが団員馬車に入ろうとするのをマリアローズが止める。
「夜まで時間あるし馬車で寝ようかと‥‥なるほど」
 小窓から中を窺ったセッツァーは納得してテントで寝る事にしたのだった。

 夜も更けて寝静まる。
 明日の本番警護の為にセッツァーと龍皇院は交互に番をすると決めていた。
 力のない道化師人形のフリをしながら龍皇院は夜空を眺める。冬の空は澄んでいて星が綺麗だ。明日を思いながら龍皇院は監視を続けた。
 長い時間が過ぎ、龍皇院とセッツァーは交代する。朝日が昇る頃、セッツァーは外で背伸びをした。何事もない夜が明けて本番当日が訪れた。

●誕生日パーティ
 老紳士の孫の誕生日パーティは屋敷の広間で行われた。
 寄り合いに集まった人数からすれば参加は少なくてわずか五団体だ。バサンの脅しのせいである。
 パペットの演目は一番最後に決まった。しばらく他の劇団の人形劇を観る事となる。
 バサンの操り人形劇団クーフの演目が始まった。内容は悲しい運命を背負った少女の物語だ。乱暴なバサンに似合わない内容だが出来は悪くない。パーティには不釣り合いな内容にも思えるがハッピーエンドで締め括り、見終わった子供達は笑顔であった。
「これだけの劇が出来るのになんで邪魔を」
 怪我をさせられたガクは怒りに震える。
「奴らは冒険者に任せて俺達は劇に集中しよう」
 オーバンの言葉にガクは強く返事をするのだった。

 細かい調整を行うとパペットの人形劇が始まる。
 騎士ドバンに助けてもらった少女ミンキは旅についてゆく。旅の途中でミンキがさらわれてしまい、ドバンが助けにいく物語だ。
 人形劇は中頃に差しかかる。
「――ドバン様はあの女鍛冶師がお好きなのですか?」
 少女を操るカロルの台詞に騎士を操るオーバンは戸惑った。カロルのアドリブだからだ。
「女鍛冶師とは誰だ?」
 オーバンはアドリブで返す。
「わたしはドバン様をお慕いしております」
 さらなるアドリブにオーバンは混乱する。確かに最後では騎士と少女は手と手を携えてハッピーエンドになる。だが今は物語の途中であって、さらにいえば告白するのは騎士からのはずである。
 オーバンは人形を視ていた顔をあげる。涙目で真っ赤な顔をしたカロルがそこにいた。その表情で鈍いオーバンにもカロルの気持ちが伝わった。女鍛冶師とはロレーヌの比喩であり、少女はカロル、そして騎士はオーバンを指していた。
 舞台裏で物音が聞こえたがオーバンは劇を続けた。バサンの妨害だろうが、冒険者が解決してくれるだろうと考えたのである。オーバンはカロルのアドリブにつき合う。
 子供達の後ろで見学していたロレーヌが席を立った。
 ロレーヌはオーバンの気持ちに気がついていた。恋人がいるとはいえ、好みの男に好意を持たれるのは悪い気はしない。しかし自分以上に恋焦がれているカロルを知った上ではあまりにも薄っぺらい感情であった。
「お幸せに」
 遠くから呟いたロレーヌは広間から姿を消した。

「第一位は劇団パペットです」
 屋敷の主である老紳士自らの発表に広間が沸き立った。子供達の甲高い歓声の中、老紳士の孫が現れる。オーバンに花束を渡すと腰を降ろさせて頬にキスをする。
「ちょっと待」
 顔を腫らしたバサンがボロボロになった自分の劇団員と一緒に壇に上がろうとするが、ある一団に止められる。大道芸人の寄り合いからやって来た屈強な体格をした人達だ。
「何でもございません。どうかお続けになって下さい。それから三位の劇団クーフは辞退するそうなので、どうかよろしく」
 大道芸人の一人が老紳士にそう告げると、その他の者達がバサン達を広間から連れだした。
「優しさや思いやりのない人間に人形使いは務まらない。それを思い知らせてあげたのです」
 龍皇院は連れて行かれるバサンに声かける。大道芸人の寄り合いに話しをつけたのは龍皇院だ。
 誕生日パーティが終わると、冒険者達はオーバンから一位を獲れたお礼として報酬の上乗せをもらった。

 依頼が終わって時が過ぎる。冒険者達は噂でオーバンとカロルの距離が縮まったのを耳にしたのであった。