アロワイヨーの心残り
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:1 G 1 C
参加人数:7人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月22日〜08月30日
リプレイ公開日:2007年08月30日
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●オープニング
城から一両の馬車が市街へと出る。
富豪アロワイヨー家の馬車はゆっくりとパリの街を進んでいた。
「どこがどう繋がって、こんな事になるんだ‥‥」
アロワイヨー家の当主、青年アロワイヨーは馬車の中にいた。隣りに座る執事に話しかける。
「家系図を調べてみますれば、確かに引き継いでもおかしくはありませんが、わたしくにとっても驚きでした」
執事の返事を聞いて、アロワイヨーは瞳を閉じる。
トレーニングを続け、まん丸体型であったアロワイヨーは大分引き締まった身体になっていた。ポテッとしたお腹だけは残っていたが。
アロワイヨーは春に冒険者から指南を受け、体力作りを日課としていた。人並みの体力を得たところで、そろそろ目標であった一人で丸太小屋造りをしようとしていた矢先の王宮から呼び出しであった。
「このわたしに『領主』になれとは‥‥。今まで想像にもしていなかった‥‥」
アロワイヨーは呟いた。
事の顛末はこうだ。
ヴェルナー領主でもあるブランシュ騎士団ラルフ黒分隊長が冒険者の力を借りて陥落させた『エリファス・ブロリア領』という領地がある。暫定的にヴェルナー領に統合されていた領地だ。
富豪だが、本家とはかなり血の薄いアロワイヨーであった。ところが7月の預言の反乱で何名かの継承者貴族がいなくなる。回り回って、アロワイヨーに領主の機会がやって来たのだ。
つい先程、王宮内に親戚が集まり、正式にアロワイヨーが領主と決まった。王宮内の重鎮も同席しており、嫌だとはいえない雰囲気に飲み込まれてしまったアロワイヨーである。
同席していたラルフ黒分隊長は、6月の預言の火災時、アロワイヨーが市民の避難誘導に奔走した事を知っていた。
王宮の命令で行ったとはいえ、陥落させたラルフ黒分隊長が強固に領地の権利を主張すれば、暫定からそのままヴェルナー領に統合されたはずである。それをしなかったのはアロワイヨーに期待していたからだ。ラルフ黒分隊長は、出来うる限り復興を手伝うとも約束してくれる。
普通ならば大喜びする所だが、アロワイヨーは違っていた。
「森の集落には、もう行けなくなるな‥‥。通うにしては遠すぎる‥‥」
アロワイヨーの心残りは、丸太小屋造りをしたかった事ともう一つ、集落の娘ミラの事である。恋心を抱いていたアロワイヨーだが、まだ何一つ告げていなかった。
その日の夜、アロワイヨーは寝ずに考えた。
翌日、アロワイヨーは冒険者ギルドを訪れた。
「あの‥‥内緒で依頼を出したいんだ。ばれると問題があるので」
アロワイヨーは個室で受付の女性に話す。隣りには執事の姿もあった。
「冒険者の誰かにわたしの身代わりをしてもらいたいんだ。身代わりの護衛をする付き人も冒険者にお願いしたい」
「身代わりを用意して、どうなさるんですか?」
アロワイヨーは受付の女性の質問に説明を続ける。
新しい領地名の発布と同時に新領主の就任式の日は決まっていた。数日前から旧エリファス・ブロリア領の城にアロワイヨーは待機しなくてはいけないのだが、それまでにやり遂げたい事がアロワイヨーにはあった。就任式までには必ず交代するので、偽アロワイヨーを演じ続けて欲しいという内容だ。
「必ず、必ず就任式には行く。だからそれまでに残ったわずかな時間が欲しいんだ」
アロワイヨーの瞳は真剣であった。
事がばれると問題があるので、宮廷を舞台にした演劇の演者募集として依頼が書かれる。依頼に入ろうとする冒険者には受付が直接依頼内容を伝える手筈に決まった。
アロワイヨーと執事は依頼を出し終えてギルドを後にする。
「森の集落までやってくれ」
アロワイヨーは馬車に乗ると御者に行き先を告げる。冒険者が時間稼ぎをしてくれるのを合わせれば、今から造り始めれば丸太小屋は完成するかも知れない。
「アロワイヨー、今日は早いのね」
森の集落に到着するとミラがアロワイヨーに声をかける。
「斧を借りたいんだ。丸太小屋造りに挑戦さ」
「ついに一人で造ってみるのね。がんばってね」
ミラが集落の物置小屋から斧を一本持ってきた。
アロワイヨーは斧を受け取ると一人森の奥へと入る。ミラには領主になった事を告げずに。
●リプレイ本文
●出発
「しふしふ〜♪ 領主さんになるのって、色々大変なんだね〜」
「あまりに突然な事で、やり残した事があってね」
執事から依頼の全容を聞いたキャル・パル(ea1560)は、アロワイヨーに挨拶をする。
冒険者ギルドの個室に全員が集まっていた。秘密の準備が必要なので、少しの間だけ借りたのである。
「丸太小屋は組み上げるだけなんだが、その時間が欲しいんだ。みんなお願いするね」
「キミがアロワイヨー? ‥‥あんまり余裕がないけど、頑張って作ってね。バレないように頑張るからっ☆」
「あっあの、ありがとう‥‥」
エル・サーディミスト(ea1743)にアロワイヨーはハグられて顔を真っ赤にする。
「お久しぶりです、見違えましたよ。ダイエット指導した甲斐がありました」
アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)は笑顔でアロワイヨーに握手を求めた。お腹は見てみないフリをして。
アーシャは固く、ゴツゴツとしたアロワイヨーの手に驚く。何度もマメが潰れているのに違いない。
「上手くできればよいのですが‥」
さっそく鳳双樹(eb8121)が執事が持ってきたアロワイヨーの服を着込む。詰め物をし、底が厚い靴を履いてシルエットを近づけてゆく。顔は見えないようにフードを被せ、略してアロ双樹の出来上がりである。
「――おはようございます。こんばん――」
瞳を閉じて耳を澄ますキャルの前で、アロワイヨーが言葉を発していた。キャルが声色をマネてアロ双樹のサポートをする予定だ。
すぐ隣りでマリーティエルがキャルに渡すアロワイヨー家に関わる貴族の紋章を描いていた。相手を判別出来ないといらぬ問題が発生するかも知れないからだ。
「そろそろ向かわないといけない、と御者の方がいっていたよ。わざと遅れるのも手かも知れないけどね」
外の様子をうかがっていたピエール・キュラック(ec3313)が個室のドアを開けて枠に寄りかかる。
「私のわがままを了解してくれてありがとうです〜。私は幸せを呼ぶ吟遊詩人なのです〜。がんばっちゃいます♪」
リア・エンデ(eb7706)は双樹からベゾムを、アーシャから力たすきを借りた。新領地には向かわず、アロワイヨーに付き添うつもりのリアである。
「森までひとっ飛びなのですよ〜」
仲間を乗せた馬車が出発した後、リアは目立たない格好をさせたアロワイヨーとギルドを出て路地裏に入る。そして二人でベゾムに跨り、大空に飛び上がるのであった。
パリの船着き場には既に客船が碇泊していた。
「その子は‥‥?」
迎えの兵士達がアロ双樹にぴったりと寄り添うエフェリア・シドリ(ec1862)を眺める。エフェリアはアロ双樹の背中に隠れた。
「この子は『ダフネ・マルム』といって、アロワイヨー様にしかなつかないの。あっ、ボクは専属の医者エル。同行するからよろしくね」
エルは普段名前を呼び捨てにするが、兵士らの主人につけないと疑われると思い、アロワイヨーに『様』をつけた。もっとも仲間同士の時はつける気などさらさらない。ダフネはエフェリアの偽名である。
兵士達はどこかでエルの名を聞いたようで、疑う事はなかった。
「アロワイヨー様は体調を崩しているの。休ませてあげたいんだけど」
「これは気づきませんで。客室の方にご案内します」
エルに兵士が敬礼をする。
兵士達は執事が示した王宮からの書状を信じたようで、特にアロ双樹を調べる事はなかった。
「暑いけどがまんです‥‥」
客船に乗り込む途中、兜を被った護衛役のアーシャがアロ双樹に囁く。馬車から客船まではわずかな距離だが、着込んでいる者にとっては地獄である。
「アロワイヨー様は僕達が世話するのでゆっくりしててね。勝手に立ち入ったら‥‥」
ピエールは最後にクスクスと笑ってドアを閉じた。
無事、客室に入ったアロ双樹は変身部分を脱いだ。
「ありがとう。こんなに暑いなんて」
汗をかいていた双樹に水を汲んだカップをエフェリアが差しだす。
「この調子でやれば、領地まで大丈夫のはずです。問題は‥‥バヴェット婦人です」
執事によれば、親戚のバヴェット婦人は年に一度アロワイヨー家を訪れる。同じ肉好きとして気が合うようで、アロワイヨーとはとても親しい仲だ。
「城に着くまでに、それらしい声が出せるようにしておかなくちゃね〜」
キャルは家具に座り、仲間と視線の高さを合わせる。そしてアロワイヨーをよく知る仲間を相手にして口まねの練習をするのだった。
「はう〜、すごいのです〜」
リアは両手をあげて驚く。降り立った森の拓けた場所には、丸太が大量に置かれていた。
「これ、全部アロワイヨー様が斬ったのですか。すごいのです」
「これでも、小さな丸太小屋一軒分さ」
「私は小屋には手を貸しませんよ〜。でも食事を運ぶとか、移動するお手伝いをするのです」
「うん。お願いするね」
リアは歩いてすぐにある、ミラのいる森の集落に向かう。
アロワイヨーはさっそく丸太小屋造りを再開するのだった。
●経過
新領地に向かう一行は順調であった。
二日目の夕方に客船はルーアンに入港する。ヴェルナー領主ラルフの計らいで、宿という名の貴族の屋敷で一晩を過ごす。
三日目の朝からは十両の編成を組んだ馬車群で新領地への道を駆けた。取り囲む馬上の騎士達もかなりの数にのぼる。
「すごいですね」
「ばれたらどうしよう‥‥」
「入れ替わりは任せておいてね」
「たくさんお馬さんがいるね〜♪」
「レディ達、心配はいらないよ。僕がついているさ」
(「今頃、アロワイヨーさん、がんばっているでしょうか」)
だんだんと大げさになってゆく待遇に冒険者達は緊張する。同時にやり遂げる気持ちをより強く持つのだった。
「ミラ様の事どうするのですか〜?」
リアは切り株に座りながら、アロワイヨーと一緒に昼食をとっていた。
「ま、そのなんだ。ミラとは友達だけど、恋人でもないし、どうするとかしないとか、そういうのは‥‥」
「それでよいのですか?」
「‥‥よくはないけどね。なんというかな。前に執事にもいったけど、無理矢理な事はしたくないんだ」
「でもでも〜、女の子はずっと待ってるものなのですよ〜」
「ミラとは必ず話す。少なくとも領主になった事は打ち明けないといけないし。さて、もう一踏ん張りだ」
アロワイヨーは立ち上がると、木の枝に引っかけたロープを引っ張り、丸太を積んでゆく。
アロワイヨーのがんばる姿を見て、後はなりゆきに任そうとリアは思った。
●踏ん張りどころ
四日目になり、すでに一行は新領地での一晩を城で過ごしていた。
朝からひっきりなしの来客に、冒険者達は対応に追われる。交代で部屋を訪れる者達を追い返してゆく。
「これはお嬢様、アロワイヨー様はまだお休みになっておられます。加えて体調を崩していらっしゃるので就任式まで面会はお待ち頂けますでしょうか?」
ピエールは女性にやさしく対応した。
「御心配はいりません。就任式まで万全の体調を整えるため休んでいるのです」
全身をばっちりと鎧で包んだアーシャは、城側が用意した護衛達と一緒に廊下へ立っていた。
「ごめんね、過度の緊張とこの暑気で疲れが溜まっちゃったみたいなの。領主になったら、改めて挨拶に回ってもらえるように進言しとくからね☆」
エルは応接室まで無理矢理入り込もうとする者を制止する。
ほとんどは止められたが、さすがにたくさんのお供を連れてきた聞く耳を持たない貴族は押さえきれなかった。次々と突破されてゆく。領主なりたての頃に恩を売ろうと考えているのだろう。
「なんだ? 君は」
貴族が髭を触りながら見下ろす。エフェリアが寝室に入ろうとする貴族の前で、両手を広げて立ちふさがった。
「すまない。ポーレト男爵家の方だと思う。いろいろとあるだろうが、就任式までは待って欲しいのだ。ゴホッ‥‥」
キャルがアロ双樹が横になるベットの下に隠れて声マネをする。隙間から確認した貴族の持ち物についている紋章で特定したのだ。当たっていたようで、貴族も引き下がる。
ベット近くまで近づかれたのは一回だけで、その他は未然に防ぐ。就寝の時間が近づき、みんながほっとため息をついた。
「ずっと寝ているのも大変なものなんですね」
双樹はベットから抜けて、身体を動かしていた。
「今日は本来親戚筋の会議が予定されていたので、多くの人が集まり大変だったと思います。みなさまご苦労様でした。残る問題は船で説明した通り、バヴェット婦人です。遅れて明日到着予定なのです」
執事はバヴェット婦人がたくさんの料理人を引き連れて来ると断言する。そしてアロワイヨーを招待するに違いないと。
「とにかく強引な方なので‥‥。今日のように部屋に閉じこもっていては、引きずり出されてしまうでしょう」
執事の言葉に、冒険者達は作戦を練り直すのであった。
「ふ〜。ありがとう」
「もうここまで出来たのね」
星空の下、森にいたアロワイヨーはミラから食事を受け取る。
リアは用事があると嘘をついてこの場から立ち去っていた。
丸太小屋は四方の壁が出来て後は屋根を残すだけである。葺くための藁束も用意され、完成は間近だ。
「‥‥ミラ、話しておかないといけない事があるんだ」
「なんなの? あらたまって」
アロワイヨーはゆっくりと話し始めた。
●それぞれ
「あら? アロちゃんはいないのかしら?」
五日目の昼頃、バヴェット婦人がたくさんの侍従を引き連れてアロワイヨーの部屋に現れた。まん丸とした姿は昔のアロワイヨーを思い起こさせる。
「これはバヴェット様、アロワイヨー様は城下をご覧に参られました。本調子ではないようですが、どのような状態かお知りになりたかったようです」
「そなたはなぜ一緒に向かわない?」
「そっそれは、アロワイヨー様のご命令で城に残るようにといわれまして」
額の汗をハンカチで拭う執事の姿に、バヴェットはいぶかしむ。
「せっかく、ご一緒に食事でもと思って来たのに残念ね〜。夕食はご一緒に出来るのかしら?」
「その事なのですが、アロワイヨー様から言付かっておりまして、就任式後の晩餐をお任せしたいと。いつもの美味しい肉料理を楽しみにしてると仰っていました」
「そう‥‥。そういう事なら今から念入りに仕込みをさせましょう。アロちゃんの晴れ舞台、楽しみにしておりますわ」
バヴェット婦人は悟ったような目を執事に向けた後、立ち去る。
その時、冒険者達はキャルの隠密知識で発見した隠し通路に潜んでいた。ただ途中が土砂で崩れていて、外に出るのは無理な状態である。
「アロワイヨーさん、どうしてるかな?」
双樹は森にいる者達を心配した。
とても涼しく、今日一日はここに隠れる事が決まる。
「‥‥ちょうどいいかも知れないね」
エルが通路を塞ぐ土砂を見て呟いた。
森の奥。日が落ちてランタンで照らす中、アロワイヨーは奮闘していた。
最後の藁束を屋根に葺いて、丸太小屋は出来上がった。
窓も出入り口も開けられていなかったが、それはわざとである。半年程乾燥させて、住む時に開けた方がより長持ちする丸太小屋になるからだ。
「ちゃんと完成したのです♪ アロワイヨー様すごいのですよ〜」
「リアに助けてもらったおかげさ。あり‥が‥‥」
階段から降りてきたアロワイヨーが突然草むらへと伏せた。
「アロワイヨー様!」
驚いて近寄るリアだが、すぐに安心する。疲れが極限にまで溜まったようで、いびきをかいてアロワイヨーは寝ていた。
「こんな事だと思ったわ」
ミラが台車を牽いて現れる。なんとか二人でアロワイヨーを乗せて集落まで運ぶ。
「アロワイヨー、領主になったみたいね‥‥」
「そっそうなのです。‥‥ミラ様はどうするのですか?」
「どうするもなにも、この集落を大切にしてゆくつもり。アロワイヨーとも、そう約束したの」
「そうなのですか‥‥」
リアは残念に思いながら、二人が決めた事なので受け入れる。本当ならベゾムを使い、夜間でも強行して新領地に向かうべきなのだが、しばらくアロワイヨーを休ませる事にした。今のままだと掴まっているのも無理だろう。
「夜明け前に出発すれば、何とかなる‥‥はずなのです〜。皆様の思い、無駄にはしないのですよ〜」
リアは覚悟を決めるのだった。
●就任式
「アロワイヨー様にしっかりつかまって下さいです〜」
六日目のまだ太陽が昇らない頃、リアはアロワイヨーをベゾムに乗せて大空を飛翔する。セーヌ川を目印にし、まずはルーアンに向かってそれから新領地に向かう。
鳥を追い抜き、全速力で飛んでゆき、ルーアン大聖堂が見えると方向転換をする。この勢いならばお昼前に到着するはずである。
「私は‥幸せを呼ぶ‥‥吟遊詩人なので‥‥す‥‥」
誰かの涙が空に散る。強い風にさらされながら、リアは速度を緩める事はしなかった。
新領地の城近くまで辿り着いたリアとアロワイヨーだが、一旦離れた空き地に降りる。
城は厳重な警戒で潜入できる状態ではなかったが、テレパシーで仲間と連絡をとった所、この場所を教えてくれた。
小さなほこらがあり、奥に隠し扉があった。たいまつが置いてあり、それで照らして隠し扉の奥に広がる通路を進む。
しばらく進むと、エルとエフェリアの姿がある。二人は城側からエルのアースダイブで崩れた部分を潜り抜けてきた。
エフェリアも一緒なのは、少々水泳が得意だからだ。もしもの事を考えてエフェリアがアロワイヨーの手を引いて導く。
「はう〜、もう駄目なのですよ〜」
城の部屋に着いた途端、リアがパタリと倒れたんだ。リアは休ませてあげるとして、大急ぎで交代が始まる。
「双樹さん、助かったよ」
「いえ、これからが本番です。アロワイヨーさん、がんばってね」
アロワイヨーと双樹は服を着替えた。突然現れる事になる双樹とリアだが、就任式に紛れれば中から外に出るのは簡単なはずだ。こういう場合、外から入るチェックは厳しいが、その逆は案外簡単なものだ。もしもの時はアースダイブがある。
部屋から出てゆく間際、アロワイヨーが冒険者達一人一人にお礼のハンカチーフを渡す。
就任式が始まった。王宮からの使者から様々な品を賜り、そして大きなテラスにアロワイヨーは足を踏み入れた。
眼下手前には貴族達の姿があったが、奥には領民の姿もある。
鐘の音が鳴り響く。
発布された領地の名前は『トーマ・アロワイヨー領』。
アロワイヨーはパリの方角をしばらく眺めた後で、領民に手を振った。
冒険者達も城の中から望める場所で、アロワイヨーの姿を眺めるのだった。
●パリ
アロワイヨーの就任式を見届けた後、冒険者達はすぐに馬車に乗り、ルーアンに向かった。執事が用意してくれた宿に泊まり、七日目の朝にパリ行きの帆船に乗り込む。
八日目の昼頃にはパリに到着する。
冒険者達はアロワイヨーがいい領主になると話題にしながら、ギルドに向かうのだった。