●リプレイ本文
●出会い
「涼しいです。ね、エミリオン」
エレシア・ハートネス(eb3499)は小川の側を愛馬エミリオンの手綱を持って歩く。
冒険者とちびブラ団の一行は森の中に流れる小川に沿って進んでいた。
「もう少しで、ちょうどいい場所があるのです」
アニエス・グラン・クリュ(eb2949)も愛馬テオトコスの手綱を持っていた。テオトコスとエミリオンはちびブラ団の荷物を半分ずつ載せている。
「森はいいですね〜。今回は野外講習ですね〜♪」
エーディット・ブラウン(eb1460)はちびブラ団達と手を繋いでスキップ気味だ。大きく深呼吸をしてみると、ちびブラ団もマネをする。
「誰か遊んでますよ」
ちびブラ団を見守る為に一番後ろを歩いていた壬護蒼樹(ea8341)だが、背が高いので真っ先に遠くの人影を見つける。壬護は中丹(eb5231)に頼まれて馬のうま丹を連れていた。
「確かにいるわね」
うま丹の上で休んでいたシフールのシルヴィア・ベルルスコーニ(ea6480)が羽ばたいた。
小川で遊んでいた森の子供達が気がついてアニエスに近づく。どうやら顔見知りのようだ。
「こちらの男の子がドニー。小柄な女の子がミィ。背の高い男の子がバズ。かっぷくのいい男の子がドクです。前に冒険者としてここに立ち寄った事があるのです」
全員を知るアニエスがお互いを紹介する。ちびブラ団に関しては本名で紹介した。
「あれ? 中丹さんは」
全員が周囲を見回す。
「中丹でおま〜。よろしゅうに」
「あっ!」
中丹は小川で仰向けになって泳いでいた。河童としては泳がずにはいられなかったようだ。エーディットのノルマンゾウガメも泳いでいる。
「ここで泳ぐのは浅くて辛いやね。少し下流ならちょうどいいとこあるのやけど」
中丹が小川からあがる姿に森の子供達は固まる。
「おいらは河童の冒険者や。モンスターやあらへんで! 東洋のオリエンタルな種族なんやで。ほら人魚っておるやろ、アレの遠い遠い親戚のようなもんや」
緑色の中丹は手振り身振りで自らの正当性を主張する。
「中丹さんはやさしいよ〜」
コリルが中丹の手を握ってにっこりと笑った。恐る恐る森の子供達は中丹に近寄る。
(「最初はこんなもんやろか‥‥」)
森の子供達にペタペタと触られながら、中丹は心の中で呟いた。
「どうしようか――」
森の子供達が円陣を作り内緒話を始める。
「一緒に来てみる?」
結論が出たようで、ドニーが一行を誘った。誰も異論はなく、一行は森の子供達についてゆく。
「‥‥木の上になんかある」
ちびブラ団達は見上げた。木漏れ日でキラキラと照らされる大木の上に造られた家を。
「これは『木の実の城』っていうんだ。ボク達の城なんだぞ」
森の子供達は胸を張る。
「すごいなあ。ぼくたちはちびっ子ブランシュ騎士団だけど、城なんて持ってないもん」
「ちびっ子なんとかってなに?」
アウストは訊ねられて説明する。森の子供達は興味深く聞いていた。
「そういう名前、かっこいいな」
ドクがいった言葉をエーディットは聞き逃さない。
「皆さん、お願いがあるのですが、ここにキャンプを張ってよろしいでしょうか?」
アニエスは訓練と勉強を兼ねて森にやって来た事を伝える。森の子供達は木の実の城へ登る事を禁止したが、その他は受け入れてくれた。
「さて、キャンプの用意を始めましょう」
壬護と一緒にちびブラ団が森の中に入ってゆく。
「また会えてとても嬉しいです」
アニエスは森の子供達としばらく再会を喜び合う。
「今日の所はおいらが釣ってくるんや」
自前の釣竿と寄せ餌を持って、中丹は小川に戻る。
「しばらく晴れのようね。さて、少し自信がないけどがんばるわ」
シルヴィアは天気を予報してから、料理の準備を始めた。中丹が釣ってくる魚をあてにして、ちびブラ団達が持ち寄ってくれた食材や道具を仲間の馬から降ろす。途中でアニエスと森の子供達が気がついて手伝ってくれた。
「これも使って下さい〜♪」
「採ってきました☆」
食料を探しにいっていたエーディットとエレシアはたくさんの野草を抱えて城に戻ってくる。二人はとても植物には詳しいので、ちゃんと食べられるものばかりである。
壬護がちびブラ団達と薪にする木ぎれを抱えて戻ってきた。壬護はちびブラ団を残して、森の奥に戻ってゆく。
アニエスが大きめの木を薪割りする。ちびブラ団と森の子供達にもやらせてあげるが、力が足りず難しいようだ。
石をみんなで運んで簡素なカマドを作り始めた。前にエーディットとアニエスは作った経験があるので、すぐに出来上がる。鍋を載せて小川から運んだ水を入れる。
アニエスは火打ち石を使っての枯れ草から薪に着火させるまでを子供達に教えた。ただ、大人がいない時はダメだよと注意もする。
カマドとは別に大きな石をたき火で熱くして料理を焼く用意も行われる。
しばらくすると壬護と中丹が獲物を持って戻ってきた。
「あまり得意ではないのですが、捕まえられてよかったです。昔を思いだしました」
壬護は処理した野鳥の肉を両手に持っていた。
「とってもうまいんやで〜」
中丹は蔓で繋げたたくさんの川魚を掲げた。
シルヴィアは鍋をかき回しながら、魚の下ごしらえをする子供達を監督していた。不器用な子もいたが、破滅的な失敗はないので口を出さずに黙っておく。怪我さえしなければそれが一番だ。
「スープもなかなかよ♪」
シルヴィアが湯気の立つ鍋から味見をする。
枝に刺された川魚が遠火で焼かれる。獣肉は手頃な大きさにして金串で刺し、石の上で焼く事となった。
美味しそうな音と匂いに唾を飲み込んだのは子供達だけではなかった。
少し遅くはあったが昼食の時間が始まる。一緒の食事をするだけで、結構人は仲良くなるものである。ちびブラ団達と森の子供達は笑顔でいろいろな話しを始めた。
「さっきはあんな事いったけど、ボク達がいない時、城に登ってもいいぞ」
ドニーは隣にいたアウストとアニエスにそう伝えると、焼けた川魚にかじりついた。
夕方前にアニエスはベリムートと一緒にドニーの家へと向かった。森の子供達と一緒にキャンプをする許可を得る為である。相談するとドニーの母親が他の子の親にも話しを通してくれるそうだ。
ドニーの母親はおぼろげながら、ベリムートの父親を覚えていた。子供の頃に遊んだ記憶があるという。
ドニーの母親が食材を二人に渡す。代金を支払おうとするアニエスだが、首を横に振られる。その代わり子供達をよろしくと頼まれた。
日が暮れても冒険者と子供達は森で楽しい時間を過ごすのであった。
●お勉強
「これは昨日食べたのですよ〜。こっちは毒なので食べてはいけないのです〜」
二日目、エーディットとエレシアが子供達と切り株に座り、採集してきた植物の説明をする。
「こちらは擦り傷によく効くのです。何かの時に役に立つので覚えておいたほうがいいのです」
「そうなんだ〜」
バズが感心して頷いた。
「ジャンジャジャ〜ン♪ 新しいお友達に私からプレゼント第一弾です〜」
突然、元気よく宣言したエーディットに子供達が驚く。
「森のみんなにも新しい名前を考えたのですよ〜。ドニーさんには『木の実の騎士』。ミィさんには『深緑の妖精』。バズさんには『思慮の巨人』。ドクさんには『大木の賢者』。どうですか〜?」
森の子供達はエーディットがつけた名前を気に入る。喜んで互いに呼び合った。
「どうかしたの?」
ミィがちび猫メルシアを膝に乗せてキョロキョロしているエレシアに話しかける。
「いえ、お花がたくさん咲いている場所はないかと‥‥思いまして」
「なら、こっちにあるよ」
ミィがエレシアの手を引く。10分程歩くとピンク色の花が咲き乱れていた。
「わぁ〜。ありがとう〜」
エレシアは女の子二人にせがまれて花の冠を作ってあげた。大喜びするコリルとミィだが、男の子達の反応は今一である。
城まで戻り、エレシアは仲間と相談する。そして午後は子供達の乗馬練習をしてあげる事にした。
「ゆっくりね♪」
子供達を馬に乗せ、冒険者達は手綱を引いてゆっくりと歩かせる。ミィは馬でなく、カメが気に入り、喜んで乗っていた。
●水泳
「やっとこの日が来たんや!」
三日目、中丹は小川の近くにある岩場に立つ。
自然の岩が水に削られてなめらかになり、滑り台のようになった個所があった。子供達も中丹に続いて小川に飛び込んでゆく。
「お姉ちゃん、冷たいよお〜」
「ばしゃばしゃは得意なのです〜♪」
エーディットは子供達と水のかけっこをして遊ぶが、基本的には小川の近くで、子供達の様子を眺めていた。近くではペットのカメが日向ぼっこしている。ロープも用意してあるし、いざという時の備えは万全だ。
「楽しそうです♪」
エレシアはちび猫と一緒に足だけを水につける。
アニエスは水辺にはおらず、明日の訓練に備えて城近くで準備をしていた。
子供達が遊び始めて少し経ち、中丹による水泳教室が始まった。
「脱力して浮いてみよか。それから、ゆっくり腕を動かして進んでみよか」
子供達は中丹のいうままにやってみる。普段から遊んでいるせいか、森の子供達はかなり泳げる。ちびブラ団も次第に泳げるようになってきた。
「あん? 素潜り対決?」
ドニーに勝負を挑まれた中丹はクチバシキラ〜ン☆とさせて受けて立った。負ける要素がないと思われたが、伏兵が存在した。水底であぐらをかいた中丹の足の裏を他の子供達が潜ってくすぐる。
「それって卑怯やで〜」
思わず水面に顔を出した中丹は叫んだが、怒った訳ではない。みんなで笑ってドニーの勝ちが決まる。
泳ぎ疲れた後は釣りをした。中丹が撒き餌を用意してくれたおかげが、いつもより多くの魚を釣り上げる。
全員が城に戻り、夕食の時間になった。
シルヴィアがチーズと合わせて蒸し焼きにした川魚料理を振る舞う。みんなお腹一杯になって木の実の城でお昼寝タイムとなった。
(「ちびブラ団大食漢怪力長は名乗らないでおきましょう‥‥」)
壬護だけは食べ足りなかったが、我慢する事にした。本気になればそれこそ底なしかも知れない。ちょっと森の中で食材探しをする壬護である。
日が暮れて、中丹が用意してくれたランタンが灯る。いつものたき火ではないのには理由があった。
「ジャパンでは怪談ちゅうのがあるんや。恐い話をして涼もうっていう風流なもんなんやで〜」
中丹が両手をブラブラさせながら話し始める。
「つい最近、パリに流れた怪談『セーヌ川の緑のこあくま』って知っとるか‥‥」
子供達が中丹に知らないと答える。
「それはやなぁ〜‥‥」
ランタンの灯りで影が強調された中丹はゆっくりと話し始めた。
「――で、この話を20歳までに忘れんと水の事故に遭うらしいんや〜」
中丹は出した舌をウェーブさせる。
「で、でもな『亀の甲羅磨き』って言葉を覚えてると、防げるらしいんや。か、かぱぱぱぱぱ‥‥」
不気味に笑う中丹は薪に火を点ける。ランタンは虫除け用に離れた場所に置き直す。
「こわ〜い」
「おっ、俺は平気だぞ‥‥」
反応はそれぞれであったが、子供達も恐怖で涼んだ様子である。
その日の夜、子供達は昼間と同じく木の実の城で一緒に寝る事となった。アニエスとシルヴィアも一緒であった。
「あの星座は夏だけのものなのよ」
シルヴィアは夜空を見上げて子供達にお話をしてあげる。怪談で怖がっていた子供達も星座にまつわる物語に耳を傾けるのであった。
●訓練
「遊ぶのもいいですが、騎士の本分として身体を鍛えましょう! 残暑にも負けない体力を作るのです!」
四日目、アニエスが率先して体力作りを宣言した。
「やあー!」
藁人形は新たに作られたのと合わせて四体ある。木の棒を削って作った剣を持って子供達は藁人形に挑む。
「もっと踏み込んで腰をいれて打つと、しっかりした手応えがありますよ」
アニエスに教えられ、叩く音も力強いものになってゆく。
続いてはクライミングの練習だ。
木の実の城にはロープを何本も垂らしてあった。昨日のうちにアニエスが用意したのである。結び目を所々につけて登りやすくしてあった。
「よ〜い。どん!」
男の子達が一斉に登ってゆく。こういう展開になると例え小さくても男は燃えるものだ。クタクタになるまで、勝負を繰り返した。
「僕もそろそろ鍛えないとまずいかな‥‥」
がんばる子供達の姿を見て壬護は自分のお腹を眺める。
「最後の夜になるし、豪華になるよう獲ってきます」
「おいらも釣ってくるんやで」
壬護と中丹が料理担当のシルヴィアに声をかけて森に消えてゆく。
「夏の想い出の夕食か」
シルヴィアも早い時間から食事の用意に取りかかった。
「探してきましょう」
エレシアが食べられる野草を採りに出かけた。
「出来ましたです〜♪」
エーディットは明日渡す予定の物が出来上がるとシルヴィアの料理作りを手伝う。
訓練が終わり、小川で水浴びをしてきた子供達が城に戻ってくる。
「特にすごくないか!」
切り株のテーブルに並んだ食事は豪華で量もたくさんあった。
「はい♪」
ミィとコリルが壬護に大きなお肉を渡す。
「‥‥もしかして足りていないのばれてましたか?」
二人の女の子は笑顔で頷く。
「食うぞぉ〜」
男の子達は競って食べ始める。喉を詰まらせたベリムートにシルヴィアは水の入ったコップを持ってきてあげるのだった。
「待てよ〜‥‥むにゃ」
子供の誰かが寝言を呟く。
その夜、子供達は夢の中でも森と小川で遊んでいた。
みんなが寝静まった頃、シルヴィアはこっそりと羽ばたいて大木の天辺に立つ。月光の下、シルヴィアは枝に飛び移りながら踊る。
踊りの修行も森の中だと何かが違う。まるで精霊と一緒に踊っているような、そんな気がシルヴィアはしたのだった。
●お別れ
「プレゼント第二弾です〜♪ また会えることを楽しみにしていますよ〜」
五日目、エーディットが森の子供達に木の実で作ったペンダントを渡してゆく。
「また会いに来るからな。その時まで勝負はお預けだ!」
「ふふん。今度こそ引き離して勝ってやる!」
ベリムートとドニーはおでこをぶつけていいあった。どういう線引きなのかわからないが、勝負は引き分けで終わったようだ。
「またな〜」
最後は全員が笑顔で別れた。
二時間程で一行はパリに到着する。
向かったベリムートの家では子供達の親が待っていた。
お土産として壬護と中丹が森から持ってきた肉と魚を親達に渡す。クヌットの父親が保存食をお返しする。
「無理をいったのに、連れていってくれてありがと〜」
去りゆく冒険者達にちびブラ団の四人は手を振りながらお礼をいうのだった。