新たなる組織 〜サッカノ外伝〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:8 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月31日〜09月08日

リプレイ公開日:2007年09月09日

●オープニング

 斬りつけた剣が肉片を散らかす。桶で水を撒くように石床に赤き血がぶちまけられる。
 エドガ・アーレンスは、剣を手に古い石造りの屋敷を歩む。
 かつて悪魔魔崇拝集団の指導者だったエドガは、別組織の隠れ家に侵入していた。
「他愛もない」
 エドガに向かってくる教徒達も次第にいなくなる。石床にはただの肉塊が転がり、かがり火が暗い屋敷内を照らす。
「なにゆえに同胞を、手にかけたのだ!」
 剣と声が、闇からエドガを襲う。
「やっと出てきたか。まだ剣の腕は衰えてはいないようだな」
 何度かの剣の攻防の後で、エドガは襲う相手を見据えた。
 昔、袂を分かったかつての同志であった。考えの違いから互いに別の組織を作り、四年の間、会う事はなかった。
「この程度の実力しかもたない味方を集めた所で何か出来た? お前の組織も七月の預言の際、噂を聞いてパリへ侵攻したのだろう? まんまと敗走し、残った教徒と一緒にこんな屋敷へと逃げ込んでこれからどうする?‥‥笑う事は出来ぬがな。わたしも同じような憂き目にあった」
 エドガは転がる死体を蹴飛ばす。そしてまだ息がある者にデスハートンをかけ、掌に白き玉を手に入れてみせた。
「エドガ‥‥、デビノマニとなったのか!」
「そうだ。調べた所、お前はデビルの僕にすらなっていないようだな‥‥。そもそも、その理由でわたしの元を離れたのだから、道理ではあるが」
「デビノマニになり、その力を誇示する為に俺の前に現れたのか。こうして部下を殺し、俺も殺すのか!」
「違う。お前を連れに来た。ここに転がるような志の低い奴らなどには用はない。今こそ力が欲しいのではないのか? わたしはそう感じ、そして人を捨てた」
「信念を曲げて、俺にもデビノマニになれと‥‥?」
「お前ほどの悪行を持ってしても、まだデビノマニに足りぬ。わたしの元で契約せよ。遠くない日には完全なる力を手に入れられるであろう」
 エドガはかつての同志を誘い込もうとする。全員が確かな実力を持つ新たなる組織編成をエドガは画策していた。
「この屋敷も、近いうちにブランシュ騎士団黒分隊の手入れを受けるはず。ラルフ・ヴェルナーは本腰を入れて、悪魔崇拝者の殲滅を行っているからまず間違いはない。お前は信念と果たすべき目的とどちらが大切なのだ? 深き心の傷と同じものをノルマンに刻むのがお前の目的ではないのか? 方法は問うな。望むのならわたしですら利用すればよいのではないか?」
 エドガの甘言は続く。
 しばらくしてエドガはかつての同志を連れて屋敷を去る。数日後に現れた黒分隊は屋敷に散乱する死骸を発見するのだった。

 一週間後、冒険者ギルドの個室に黒分隊エフォール副長が現れる。お付きの者としてレウリー隊員の姿もあった。
「おかしいのだ。現在、黒分隊は悪魔崇拝者の洗い出しを行っているのだが、死骸だけが残る隠れ家がすでに五個所にのぼっている。剣によって殺害された形跡があった。そうでない悪魔崇拝組織もあるのだが、とても気にかかる‥‥」
 エフォール副長は困惑の表情で説明する。
「黒分隊が把握している悪魔崇拝組織の隠れ家は残り十個所。うち八個所を黒分隊が受け持つので、二個所を冒険者達にお願いしたい。どの組織も疲弊し、残った悪魔崇拝者は大した数でもないはずだ。ただ、トップに立つ者は力や魔法など、かなりの実力者なのはわかっている。この際、雑魚には構わずに、それぞれの組織のトップを一人ずつ捕まえて欲しい」
 エフォール副長が話す横で、レウリー隊員が資料を取りだした。
「一人はエルフの女性、水精霊使いのアリーセ。全員が女性の悪魔崇拝集団を束ねてきた者です」
 レウリー隊員が資料を読み始める。
「もう一人はドワーフの剣士、ステン。その力はすさまじいとの噂があります。盗賊行為をよく行っていますが、崇拝するのがデビルという変則的な悪魔崇拝集団を束ねてきた者です。どちらも七月の預言でのパリ侵攻に加担し、敗走をしました」
 レウリーは隠れ家を記した地図を含めた資料を受付の女性に渡した。
「すべてを黒分隊で行うつもりであったが、何者かに先手を打たれている事もあり、二個所を冒険者に任せ、早くに解決したい」
 エフォール副長とレウリー隊員は依頼を終えると、ギルド前にとめておいた馬に飛び乗る。そして討伐へと駆けてゆくのだった。

●今回の参加者

 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea5808 李 風龍(30歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea8988 テッド・クラウス(17歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb3781 アレックス・ミンツ(46歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

朧 虚焔(eb2927

●リプレイ本文

●二つの行き先
 ブランシュ騎士団黒分隊が用意した馬車二両には御者と保存食が用意されていた。冒険者達はさっそく乗り込んで出発する。
 パリの城壁門を抜けて二両の馬車が大地をかける。
 冒険者達は二組に分かれて、それぞれの悪魔崇拝者のトップを捕縛する事を決めていた。
 互いの健闘を願いながら、ゆっくりと、しかし確実に、別の行き先へ御者の手綱が動かされるのであった。

●水精霊使いのアリーセ
 一日目に森の外縁部に到着し、一晩を過ごした四人の冒険者は歩いて森に踏み込んだ。
「拝借した資料によれば、おかしな点が数々と。悪魔崇拝者への攻撃とはいえ、教会や騎士団の攻撃ならば遺骸の放置はしない筈。組織のトップのみ行方不明といい、ただの仲間割れでなくば或いは、何者かが無理矢理組織の統合を?」
 フランシア・ド・フルール(ea3047)が歩きながら仲間に話しかける。
「トップが行方不明なのですか。そうなら、部下のほとんどを使い潰したあの男の関与が疑われますね」
 シクル・ザーン(ea2350)は脳裏にエドガ・アーレンスを浮かべる。
「七月の予言で、多くの勢力を削ったと思ったが。組織の再編だとすれば、そんな事をさせる訳には行かない」
 レイムス・ドレイク(eb2277)は勢いをつけた右の拳を開いた左手で受け止める。
「エドガが動いているとすれば、とにかく迅速な移動が大事だな。ん? 湖が見えたぞ」
 李風龍(ea5808)が指さした木々の隙間には湖が広がっていた。
 二日目の昼過ぎに四人の冒険者は湖の畔に到着した。地図を広げて隠れ家を確認する。
「あそこか」
 風龍は湖の畔に集落を見つけた。中央にある石造りの遺跡らしき塔はかなりの大きさだ。
「湖側の入り口から攻め込めば、水中に逃げる事は難しくなります」
 シクルの意見に仲間は同意する。
 本来ならば周辺の状況を調べてから踏み込むべきだが、依頼書から猶予はないと冒険者達は判断していた。
 目指すは集落中央の塔とする。他の建物はあまりにこぢんまりとしていて、とても組織のトップが住む場所とは思えなかったからだ。
 シクル、レイムス、フランシアは集落と湖の間にある出入り口から攻め入るよう、移動を始める。風龍は三人の位置とは集落を挟んで反対側となる森近くの出入り口を担当した。
 合図は風龍のペット、鷹の蒼風である。
 頃合いをみて風龍が大空に蒼風を放つ。これが突入の合図であった。
 天空で蒼風が鳴く声を聞きながら、四人の冒険者は一斉に踏み込む。集落を囲う塀はせいぜい矢の盾にする程度のもので、四人の冒険者は簡単に飛び越えた。
「遅い!」
 森側出入り口の風龍は大錫杖を振り回し、詠唱をする教徒達に一撃をくわえてゆく。高速詠唱も出来ないようで一人でも倒してゆくのは容易い。うまく詠唱を終えたとしても風龍に当たる事はほとんどなかった。
 風龍は教徒を排除しながら徐々に塔へと近づいた。
 一方の湖側出入り口の三人はより目立つように教徒達と戦っていた。
「護りは確かです。ご存分に」
 フランシアが後方でホーリーフィールドを展開し、いざという時の盾を用意する。すでに色水を弾いて、周囲に透明化したデビルがいない事は確認済みである。
「術は使わせません!」
 シクルはミミクリーで腕を伸ばし、広い間合いで教徒達の腕を狙う。自らにはレジストマジックを使い、魔法が切れるまでの短期決戦に望んでいた。
「七月の残党ども、お前達の悪事もこれまでだ!」
 レイムスは剣に勢いをつけてソードボンバーを放つ。前方の教徒五人がよろけたり、倒れる。あらかじめオーラ系の魔法をかけているのも役に立つ。
 真っ先に塔へと辿り着いたシクルは、デティクトライフフォースで内部を探る。人の大きさの生き物が一ついるのは確かな事だ。二度確認すると地下に向かったようだ。
 風龍も塔前に合流する。考えていた通り、周囲の建物に黒分隊からもらったアリーセの似顔絵に似た人物はいなかった。
「塔の地下へ向かったとなれば‥‥、もしや塔の下に湖と繋がる地下湖があったのなら!」
 フランシアの考えを聞いて、仲間は一気に塔へ侵入した。
 塔には地下へと向かう螺旋階段があり、冒険者達は降りてゆく。フランシアの考えの通り、かがり火で照らされた小さくはあるが地下湖が広がっていた。
 誰の姿もなく、水面は波紋が出来ていた。
「どうにかして水中の穴を塞ぐ方法は‥‥」
 フランシアの考えに仲間は言葉ではなく行動で答える。
 シクルはミミクリーをかけ直し、腕を伸ばして周囲の壁面を崩す。レイムスはわずかに水面に出ていた岩をいくつも飛び越えて、一番奥の壁面にソードボンバーを放った。
 風龍とフランシアは二人で地下湖の手前に飛び込んだ。水中からアリーセを探すが、発見出来ない。
 壁面は脆く、地下空間が埋まるかの勢いで崩れていった。
 風龍とフランシアが水面にあがる。
 逃がしてしまったと考えていた仲間にシクルが答えた。一瞬だが、人の大きさの生命をデティクトライフフォースによって感じたと。
「巨大な魚の可能性もありますけど、まずアリーセだと思われます」
 シクルの視線が地下湖に注がれる。
 かがり火が消えかけていたので、冒険者達はランタンとたいまつを灯した。
「魔力が持つ間は、水の中に潜っているつもりだろうか?」
 風龍がランタンに油を入れる。これで三つ目になった。
「そろそろ夜が訪れる頃‥‥、足音?」
 フランシアが螺旋階段の方向に振り向いた。
 冒険者達が身構えた時、黒い固まりが突然に姿を現す。グレムリンの群れであった。まるでコウモリのように地下の空間に広がって冒険者達を襲う。
 フランシアは咄嗟にホーリーフィールドを張り、仲間はその中で戦いの準備を行う。
「先客がいたようだが、失礼するよ」
 ゆっくりと階段を降りてきたのは、エドガ・アーレンス。冒険者達もよく知る人物である。
「しばしの時間を稼ぐのだ。グレムリンよ」
 エドガの言葉に呼応してグレムリン共は冒険者達を襲い始める。ホーリーフィールドもお構いなしに突撃しては弾き飛ばされてゆく。
「水中のアリーセよ。聞こえるか? 今一度手を組もうではないか」
 エドガの口から放たれた言葉で、水面が波打つ。水面から何かが飛びだして岩場に立った。女性のエルフであった。
「どの口でそれをいうのか!」
 アリーセはウォーターボムをエドガに向けて放つ。しかしエドガはそれを避けた。
 機を感じ取った風龍がフィールドから飛びだして、エドガの足を払おうとする。逃げられるが、エドガの体勢を崩すには十分であった。
「今のうちに早く!」
 風龍の言葉にシクルを先頭にしてレイムスもフィールドから飛びだした。グレムリンを払うように二人でアリーセに挑む。
 アリーセはウォーターボムを二人に放つが、シクルの盾に阻まれる。
「ならば!」
 アリーセのアイスコフィンがレイムスを捉えた。だがフランシアがすかさずニュートラルマジックを唱え、解除に成功する。
「アリーセ、大人しく裁きを受けろ!」
 すぐに元に戻ったレイムスは、水面に露出する岩を飛び越えてゆく。そして再び水中に逃げようとしたアリーセの腕を掴まえた。魔法を唱えられない精霊使いなど、取るに足らない存在であった。風龍から借りたロープで後ろ手に縛り上げる。
「アリーセ、その程度のつまらぬ奴に成り下がっていたのか。まあいい‥‥。その女はお前達にくれてやろう」
 エドガは風龍に強い一撃を打ち込むと後はグレムリンに任せる。
 冒険者達はすぐにグレムリンを排除して塔から出るが、エドガの姿は消えていた。

●ドワーフの剣士ステン
 二日目の朝、セイル・ファースト(eb8642)は、森に入る前にダウジングペンデュラムを黒分隊から預かった地図の上に垂らす。ステンが目的地にいると、しっかりと指していた。
「ステンは隠れ家に必ずいるはずだ」
 セイルは時々、木に登って遠くを望む。前もって調査をしたかったのだが、道も存在しない森の中を進むのは非常に困難である。諦めて仲間と一緒に進んでいた。
「兵は巧遅より拙速を尊ぶという。まして今回は裏で動いている者がいるというなら、まさにスピード勝負だな」
 デュランダル・アウローラ(ea8820)は先頭を歩きながら警戒をする。敵教徒の罠や斥候には特に注意していた。
「それにしても、ここまでに鬱蒼としているとは」
 テッド・クラウス(ea8988)も周囲の警戒を怠らない。敵は悪魔崇拝者にして、盗賊でもあるという。姑息な戦い方にはかなり慣れているはずだからだ。
「やはり強襲しかないだろう。裏で動く者よりも‥‥」
 アレックス・ミンツ(eb3781)は到着にかかる時間を気にする。
 その時、森を歩く冒険者達を高い木の上から見下ろす少女がいた。枝に座って微笑む。
「エドガ様が来るまでの時間稼ぎが必要ね。あら、もしかして‥‥」
 少女コンスタンスは木の上に登るセイルと目が合う。気づかれたのを知り、フライングブルームで飛び立った。
「グレムリンにも活躍してもらいましょう」
 少女コンスタンスは目配せをすると、森に潜んでいたグレムリン次々と集まる。
「ダメ元で私がステンを説得してみますわ。その間、冒険者達と遊んでいてね」
 少女コンスタンスが命令を出すとグレムリンの群れが森に向かってゆく。
 ステンの隠れる集落が間近であるにも関わらず、想定外の戦いが始まった。
「このまま突っ切りましょう!」
 テッドは走りながら仲間に話しかける。グレムリンもさすがに多すぎる樹木の枝葉に遮られて思うように攻撃を仕掛けられないようだ。
 冒険者達は森の拓けた場所に飛びだし、荷物を放りだして武器を手にした。
「任せろ!」
 アレックスが槍を手に振り返ると空を見上げる。見えない衝撃が翼に穴を開けてグレムリンの一匹が落下する。まずはソニックブームで迎え撃ったアレックスはグレムリンとの戦いを開始した。
「教徒は僕が!」
 仲間三人で門を突破すると、テッドは足を止める。スマッシュを多用して次々と教徒達を倒す。殆どがドワーフで、どれがステンなのかよく分からない。取り巻きの態度から判断するつもりがそれも無理なようだ。
 テッドは敵の実力を計り、ソードボンバーを放つ。数は多いが、襲ってくる教徒達からは手応えを感じなかった。
 集落奥に潜入したセイルとデュランダルは一旦立ち止まる。
「あの奥まった崖近くの家にいるはずだ。俺は道をつける!」
「セイル殿、助かる。任せた!」
 セイルが指した家屋をデュランダルが目指す。ステンは地形からいってもそこにいるはずだと。もし違ったとしても出入り口さえ押さえれば袋小路の地形に集落はあった。
 セイルは飛びかかってくる教徒を倒しながら門に戻る。
「セイルさん!」
「ここを死守さえすればステンは逃げられない」
 セイルとテッドは一度背中を合わせて言葉を交わした。
「混ぜてもらおうか」
 アレックスも合流する。敵はドワーフの悪魔教徒とグレムリンであった。

「エドガだと? あの若造と今更何を話すっていうんだ? 俺の三番目の女を見殺しにした奴だぞ。それにこんな子供を‥‥。まさにガキの使いをよこしやがって」
「‥‥せめてお話をお聞きになられるつもりは御座いません?」
 髭を蓄えたドワーフのステンが斧を手に、少女コンスタンスと話していた。何か言葉が交わされる度にステンのこめかみがピクピクと小刻みに動く。
 突然、ドアが吹き飛び、ステンの足下に倒れる。一緒に飛んできたグレムリンが崩れるように消えてゆく。
「ここにいたか、ステン。探したぞ」
 デュランダルは家屋に一歩踏み入れて、ステンを睨んだ。資料にあった似顔絵そっくりである。
「ほぉ〜。少しはやるようだが、エドガからの刺客か?」
 ステンに視線を向けられた少女コンスタンスが首を横に振る。
「おとなしく捕まるがいい‥‥といっても聞くつもりはなさそうだ」
「ふん!」
 ステンはすでに斧を構えていた。
「‥‥これはもう無理なようね。ご機嫌よう」
 少女コンスタンスは諦めたようで、フライングブルームに跨ると窓から外へと出ていった。
 ステンの斧がデュランダルをかすめた。斧はそのままテーブルを叩き割る。
 家屋に入る直前にデュランダルは様々な魔法を自らにかけていたが、それでも注意が必要だと感じた。長い剣を持つデュランダルは構え、勢いをつけて振るう。周囲の物は戦う二人によって破壊されてゆく。
「お主は面白い! おっ?」
 ステンが呟くと同時に、窓から光が室内に射し込む。まるで地上に太陽が現れたかのように。
 デュランダルはそれが何なのか気がつく。少女コンスタンスの特大ファイヤーボムに違いなかった。
「あのガキ、なんて事をしやがる!」
 集落の小屋が破壊されたのを知り、ステンは叫ぶ。そしてデュランダルに向けて大きく斧を振りかぶった。
「おとなしく捕まるがいい」
 デュランダルは瞳を閉じ、剣を振るう。
 互いに捉えるものの、より手応えがあったのが、デュランダルの剣であった。
 依頼は捕まえる事なので、デュランダルは近くにあったロープでステンをきつく縛り上げる。ステンを運ぶのは何かと苦労しそうだとデュランダルは心の中で呟いた。
「ご無事でしたか」
「捕まえたようだな」
「これがステンか」
 テッド、セイル、アレックスが怪我を負いながらもデュランダルの元にやってきた。大体のグレムリンと教徒を倒したところで、ファイヤーボムが上空で弾けたという。すでに怪我を負っていた教徒やグレムリンはひとたまりもなかったと三人は説明した。
 冒険者達はリカバーポーションで自らの怪我を治し、教徒のいなくなった集落で一晩を過ごす。
 三日目には破壊を免れた小屋を調べ、いくつかの悪魔崇拝に繋がる物品を押収する。残念ながらエドガとの繋がりを示しそうな物は見つからなかった。
 四日目の朝、集落で唯一残っていた馬に縛ったステンを乗せて、手綱を引きながら集落を後にした。森は馬を連れてだと余計に時間と労力が必要であった。

●パリ
 ステンを捕まえた冒険者達がパリに到着したのは五日目の夕方である。既にアリーセ側は到着済みで冒険者達はギルドで再会した。
 互いに状況を話していると、エフォール副長と部下三名が現れる。
「二人の確保、ご苦労様でした。せめてものお礼です」
 部下の一人であるレウリー隊員が冒険者達に追加の謝礼金を手渡す。そしてアリーセとステンは別の部下によって連れて行かれる。
 エフォール副長によれば、黒分隊も踏み込んだすべての組織のトップを捕まえたという。
「冒険者にはいつも助けられている。本当に済まない。ありがとう」
 そうエフォール副長は冒険者に言葉を残して去っていった。