もう一度あの島へ 〜トレランツ運送社〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:易しい

成功報酬:4 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:09月05日〜09月16日

リプレイ公開日:2007年09月13日

●オープニング

 パリから北西、セーヌ川を下ってゆくと『ルーアン』がある。セーヌ川が繋ぐパリと港町ルアーブルの間に位置する大きな町だ。
 セーヌ川を使っての輸送により、商業が発展し、同時に工業の発達も目覚ましい。
 ルーアンに拠点を置く『トレランツ運送社』もそれらを担う中堅どころの海運会社である。新鮮な食料や加工品、貴重な品などを運ぶのが生業だ。

「苦労したよ。出歩かないので有名な御仁だ。知り合いの絵師にそいつを観察させるのにどれだけの用意をしたものか」
「わかっている。見合った報酬は渡します」
 パリのある騒がしい酒場でトレランツ運送社の男性秘書ゲドゥルは、にやつきっぱなしの男と席を同じにしていた。
 ようやく男がゲドゥル秘書に一枚の似顔絵を渡す。男はゲドゥル秘書が差しだした革袋の中身を確認すると、残った酒を一気呑みして立ち去ってゆく。
「おい、待て!」
 似顔絵を観たゲドゥル秘書は男を捜すが見つからなかった。
「なんてことです‥‥。カルメン社長にどういえばいいのか‥‥」
 ゲドゥル秘書はもう一度似顔絵を眺める。
 ゲドゥル秘書は武器商人であり、グラシュー海運の女社長シャラーノと繋がりがある男性『メテオス』の似顔絵の入手を情報屋に頼んだのである。そこに描かれていたのはゲドゥル秘書の似顔絵であった。信用していた情報屋から騙されてゲドゥル秘書は落ち込んだ。

 ルーアンのトレランツ運送社に戻ったゲドゥル秘書は、包み隠さず女性社長カルメンに説明した。
「ふ〜ん。絵描きにはクセってのがあるのは承知しているが、これはゲドゥルじゃないんじゃないのかい?」
 社長室で椅子に座るカルメン社長が似顔絵を眺める。
「わたしではないと‥‥?」
「同じ系統の顔なのは確かだが、こっちの方がより引き締まっているね。まっ、好みの差程度かね。元々、優男系はあたしの趣味じゃないけどねぇ」
 カルメン社長はゲドゥル秘書がショックを受けているのも知らずに話しを続ける。
「そのせいか。前にシャラーノがおまえを引き抜こうとしたのは。この前の報告書によればメテオスはシャラーノの初恋の相手といっていい。おまえをかわりにしようしたのかも知れないね」
「そんな事わたしにいわれましても‥‥」
 カルメン社長の前でゲドゥル秘書はこれ以上ない程項垂れる。
「この間の奪った武器防具をよく調べたら、外国製の物も含まれていた。古い物もかなりあったはず。そうだね?」
「はい‥‥。そうです‥‥」
「真っ当に仕入れた物とは思えない物もあった。‥‥あたしが思うに前に向かってもらった無人島にセイレーンが難破させた船がたくさんあったんだろ? 難破船の貨物からよさそうな物を集めて、売りさばいているんじゃないのかね? セイレーンにやらせれば仕入れタダのようなものだし。そんなような事、冒険者もいっていたような」
「かも知れません‥‥」
「ゲドゥル、いつものようにパリにいってギルドに依頼を出してきな! もう一度、無人島を調べるんだよ!」
「はい‥‥」
 カルメン社長に命令されたゲドゥル秘書はふらつきながら社長室を出ていった。
「顔の事、そんなにショックだったのかねぇ?」
 カルメン社長は机に肩肘をついて呟いた。

●今回の参加者

 ea2037 エルリック・キスリング(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb2756 桐生 和臣(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb4840 十野間 修(21歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5324 ウィルフレッド・オゥコナー(35歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb5347 黄桜 喜八(29歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

ルーロ・ルロロ(ea7504)/ パール・エスタナトレーヒ(eb5314)/ ブリジット・ラ・フォンテーヌ(ec2838

●リプレイ本文

●あの島
 鉛色の空に海も少しだけ荒れていた。
 四日目、アガリ船長が指揮するトレランツ運送社の帆船は目的の島から少しだけ離れた海上にあった。
「もし見つけたら、オイラだけじゃなくてみんなにも教えてくれな」
 黄桜喜八(eb5347)はセイレーン姉妹の監視としてヒポカンプスのエンゾウを海中に放して警戒した。
「黄桜さん、会議が始まります。行きましょう」
 コルリス・フェネストラ(eb9459)は甲板から船室への扉前に立つ。
 コルリスには心残りがある。ルアーブルに立ち寄り、グラシュー海運を調べようと考えていたが、既に引っ越ししていた。現在、ヴェルナー領とは違う別領地にあるそうだ。トレランツ運送社の対岸で少しパリ寄りに。
「パールさんから出航前に聞きました。入江の一箇所からしか上陸できない感じですね」
 桐生和臣(eb2756)を含む冒険者、アクセル、フランシスカ、アガリ船長はある船室に集まり、相談を始めた。
「島でグラシュー海運側と接触したのなら、同業の代表者会議への報告の為の追跡調査を理由に詰問したら、どうでしょうか?」
 十野間修(eb4840)の提案に意見が出る。最初はグラシュー海運側との接触を避ける。それが無理ならば調査を理由に行動しようと決まった。
 具体的な移動方法は黄桜の偵察後に決めるとして戦闘が起きた場合の対処も話される。
「戦闘になったら、希望する仲間にサイレンスを掛けて歌を聞こえなくするのだね」
 作戦の肝はウィルフレッド・オゥコナー(eb5324)のサイレンスであった。効果の間、セイレーンの魅了を排除出来るからだ。
 聞こえない状況の為に、簡単なサインをいくつか決めておく。
(「船員さん達の護衛はどうしよう‥‥」)
 アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)はみんなの意見を聞きながら考える。この周辺の深さだと空飛ぶ木臼では海中に没するので役に立たない。
「ブリジットとやらが出航の時、手伝ってくれたのが助かったな。んっ? どうかしたのか?」
 アーシャは近くにいたアガリ船長に相談した上で仲間と島に向かう事に決めた。黄桜のヒポカンプスが警戒してくれれば、もしもセイレーンが帆船を襲おうとしても逃げ切れるとアガリ船長がいってくれたからだ。
「不幸にして戦闘になり、怪我人がでた場合はみなさんを治します」
 エルリック・キスリング(ea2037)は仲間から耳栓は魅了を遮断出来ないといわれて、少し残念がっていた。
「実は今回、特別なものを用意したの」
「フランシスカ、アレを使うのか? 本気で?」
 元気なフランシスカと比べると何故かアクセルは意気消沈している。
「‥‥証拠だ」
 意見が出尽くした時、エメラルド・シルフィユ(eb7983)が呟く。
「相手がグラシューの者だという証拠。それと強奪品の物証を掴むんだ。それがすべての成功に繋がるはずだ」
 エメラルドの意見に全員が同意して、会議は終わった。

 夜になり、偵察に向かった黄桜がグリフォンのタカシに乗ったまま帆船に戻った。
 結果が報告される。
 グラシュー海運の帆船が入江周辺で碇泊していた。入江にある小舟は全部で25艘。
 多すぎると冒険者達は首を捻る。前に上陸した時には備え付けの小舟などなかった。新たに用意したとしても、そんなに必要な理由が見つからない。
「船の墓場の近くにはたくさんの人がおったぞ。たき火を囲んで仲良く歌っていたな。船乗りっぽいのもいたけど海賊には見えなかったし、なんだろな」
 黄桜の言葉でみんな考える。
「‥‥セイレーンの魅了で騙されている者達がいるのかも知れないな」
「その通りです。その可能性は高い」
 エメラルドと十野間の考えによれば、難破させられた人々が魅了によって働かされている可能性がある。
「それなら小舟の数についてもわかります。たくさんの魅了された人々を使っているのでしょう」
 桐生も疑問が解ける。
「やはり別の難破した船から宝物を強奪しているんですね。しかも、盗まれた人達に運ばせるなんて‥‥」
 コルリスは握り拳をつくり、怒りをあらわにした。
 入江から上陸する為にはどうしてもグラシュー海運の帆船とすれ違わなければならない。作戦を立て、明日に備えて早めに寝る冒険者達であった。

●上陸
 五日目の夜が明ける前に、冒険者達は二艘の小舟に分かれて島に上陸した。黄桜は夜に備えて帆船に待機。フランシスカも帆船に待機。アクセルは冒険者と一緒だ。
 グラシュー海運帆船の見張りが小舟に気がついて騒いでいたが、構いはしなかった。グラシュー海運の所有する島ではない。奴らに止める権利はなかった。
 一行を下ろすと、小舟はトレランツの船乗りによって戻ってゆく。
「待て!」
 上陸した一行を呼び止める者がいた。グラシュー海運のマークをつけた船乗りだ。
「何者だ? どうして勝手に来たんだ。ただちに――」
「我々は――」
 敵の船乗りがごちゃごちゃと言い出すが、十野間は予定した内容で適当に返す。どうやら大した事は知らない下っ端のようだ。
 偉そうな態度の敵にコルリスは出かかった言葉を飲み込んだ。セイレーンがグラシュー海運社長シャラーノとの関係を口にしたのを聞いたのは海賊の格好をしていた時である。
「仲間はいないのだね」
 ウィルフレッドはアーシャに小声で話しかける。ブレスセンサーによれば、目前の船乗り以外に敵側の者は近くにいない。
 順々に仲間へと伝わる。
 冒険者達は敵の船乗りを無視する。
「おい、こら、待て!」
 敵の船乗りがしつこく追いかけて来ると、冒険者の犬達が興味を持ち始める。
「なっなんだ。来るな! 俺は苦手なんだあ〜!」
 犬達が敵の船乗りを追いかける。しばらくすると犬達は服の端切れを口にくわえて戻ってきた。
「急ごうか」
 エルリックは地図を手に船の墓場への先頭を歩くのだった。

 岩場にはたくさんの難破船が無惨な姿を晒していた。
 一行は草木に隠れて眼下にある船の墓場周辺を覗く。たくさんの者達が難破したばかりの破壊された船から荷物を運んでいた。笑い声も時々聞こえてくる。
「どうみても一般の方々ですね。魅了されていると考えていいでしょう」
 十野間が呟いた。
 難破させた者達の為に、させられた者達が喜んで働く。一行は哀れみと同時に背筋を寒くさせた。
「一人だけ違う男の人がいるのだね」
 ウィルフレッドが指さした男の表情はとても嫌がっているようだ。
 一行はその男だけを気づかれないように連れだす。他の者がいない場所までいくと、男は勝手に喋りだした。
「綺麗な歌声が聞こえてきたら、みんなおかしくなったんだ! 乗客も船乗りもとにかく俺以外全員だ。そして航路を変えてこの島の岩場に突っ込んだんだよ。驚いた事に乗客だった二人の若い女性が指示を出して荷物を運び出し始めやがった。同じ事をしないと何かされると考えて、みんなに合わせてたんだが‥‥助かったよー。あんたらマトモだろ?」
 男の喋る内容に納得がいく一行である。男は歌声が聞こえてきた時、船尾で涼んでいたという。そのおかげでたまたま効果の範囲から外れたのであろう。
「荷物を運ぶ所を押さえれば、グラシュー海運側と一戦しても正義は我々にあるのでは?」
「いや、上陸したのを知っている以上、グラシュー海運側が余程オバカでない限り、新たに船へ略奪物を運びはしないはずだ」
 アクセルとエメラルドが意見を出し合う。
「既に船に運んである物を、この方に確認してもらえばいいと思います」
 アーシャの考えに一行は同意した。
 小舟での帰りに何かあるかと思ったが、グラシュー海運側は何も仕掛けてはこなかった。一行は男を隠して無事に帆船へと戻るのだった。

●証拠
「本当に行くのか? その格好で‥‥」
「うん。平気だから」
 アクセルとフランシスカの会話が聞こえてくる。冒険者達はかがり火が照らす甲板で待っていた。
「おまたせ〜」
 現れたフランシスカに一人を除いて全員が驚く。
 頭の上取り付けたお皿。黄色いクチバシ。緑色のぴっちりとした服。足の部分だけ魚の尾になっても平気なように腰からずんどうになっている。
 フランシスカはジャパンの河童に化けていた。
「尾の問題があるけど、セイレーンは河童さんの事は詳しくないから平気のはず。海の中ならきっとばれないわ。それにね。泳ぐのマーメイドの方が速いし大丈夫よ」
 フランシスカは元気に話すが、アクセルは落ち込んでいた。気持ちを察した十野間がアクセルの肩を叩く。
「なかなかだぞ。行くか」
「うん。みんな、待っててね」
 黄桜とフランシスカは二人で夜の真っ暗な海に飛び込んだ。グラシュー海運の帆船に向かって。

「俺のです。名前書いてありますよ。ほら!」
 男が黄桜とフランシスカが持ってきた品物を手にして叫んだ。その他には『メテオス』の会社からの武器も箱詰めされてあったそうだ。
「これで決まりですね」
 コルリスも品物の一つを手にして眺める。しかし十野間が首を横に振る。
「証拠にはなりません。盗んできたものですから、出所がはっきりとしない」
 呟いた十野間にその場にいた全員が振り返る。
「しかし、これで正義が私達にあるのがわかりました。戦いましょう。敵船を押さえれば、完全なる証拠がいくらでもあります」
 十野間の言葉はとても力強かった。

●戦い
 六日目の昼、トレランツ運送社帆船は入江に向かった。
「みんないるぞ。お〜い。正気を取り戻せ!」
 男は呼びかける。入江奥の砂浜に難破した者達の姿がある。
 入江の入り口付近にはグラシュー海運帆船が碇泊する。グラシュー海運の船乗り達がじっとトレランツ運送社帆船を睨んでいた。
「どこにいます? 一緒に船に乗っていて、その後みんなに指示を出していた若い女性二人は」
 物影に隠れたコルリスが男に訊ねる。
 男はあちらこちらを眺めた。遠すぎて自信はないが砂浜にはいないようだ。今度はグラシュー海運帆船をよく眺める。
「あいつが片割れです」
 男が物影からチラチラと顔を覗かせている娘の位置を説明する。
(「間違いありません」)
 コルリスにも見覚えがあった。確かにあれは人に化けたセイレーンである。
「ウィルフレッドさん、必要な人にサイレンスをかける用意をお願いします」
「わかったのだね」
 コルリスはウィルフレッドに話しかけた後、物影に隠れたまま、弓を引く。
 徐々にグラシュー海運帆船に近づいた。射程距離に入り、射掛けて命中する。
 矢が肩に刺さった娘は文字通り牙を剥く。
「アガリ船長!」
「わかってるさあ!」
 トレランツ運送社帆船はグラシュー海運帆船に接舷した。直前にウィルフレッドは仲間にサイレンスをかけ終わる。
 冒険者達は手の合図で確認を取りながら、グラシュー海運帆船へと乗り込んだ。無用の攻撃を避けるために一旦トレランツ運送社帆船は離れる。
「影縛!」
 十野間はシャドウバインディングとシャドゥボムで仲間の支援に徹するつもりでいた。
 アーシャの盾が火花を散らして敵の斧を受けきる。次の瞬間、エメラルドの剣が敵の急所を捉えた。
 アーシャとエメラルドはコンビとなって敵に斬り込んでゆく。サイレンスが効いている間に事を終わらせなくてはならない。時間は少なかった。
(「いける!」)
 エメラルドはセイレーンとの戦いに手応えを感じる。接近戦ではエメラルドにかなりの分があった。
 稲妻が走る。エメラルドと連携したウィルフレッドのライトニングサンダーボルトだ。
 セイレーンを直撃し、さらにサイレンスをかけようとした時、敵船乗りがウィルフレッドの視界を遮った。即座にエルリックが排除するものの、セイレーンは海中に消える。
 もう一体の矢が刺さったセイレーンは桐生が追っていた。捕まえるつもりのなかった桐生だが、魅了の効果がないセイレーンは思いの外弱い。
 チャンスと思いながら、二名の敵船乗りにわずかだが時間をとられる。
(「待て!」)
 桐生は心の中で叫ぶが、咄嗟の事に間に合わなかった。セイレーンは海に飛び込もうとしていた。
 突然、上空から網が投げられる。しかしセイレーンは捕らわれる事なく海中に逃げおおせてゆく。
 上空にいた黄桜はタカシから飛び降り、そのまま海中にダイブした。今度はエンゾウに掴まってセイレーンを追いかける。
 矢の刺さったセイレーンに急接近し、黄桜は槍の一撃をくわえる。しかし次の瞬間、黄桜はエンゾウごと飛ばされた。
 海中でのアイスブリザードを近接距離で受けたのだ。もう一体のセイレーンが助けにきていた。
 黄桜が気がついた時にはニ体のセイレーンの姿はなくなっていた。

●始末
 七日目、エルリックのおかげで傷を負った者も全員が回復していた。
 逃がしたとはいえ、セイレーン二体にかなりの傷を負わせた事は冒険者達の自信に繋がる出来事であった。
 魅了は大抵一週間程度で治る。それ以上の場合もあり得るが、難破した者達の状態からいっても深刻ではなさそうだ。
 冒険者達はグラシュー海運帆船を破壊する。セイレーンとの共謀による海賊行為に対してはトレランツ運送社側に正義があったからだ。

 八日目、ギリギリではあったが難破した者達全員を乗せ、トレランツ運送社帆船は島を離れた。
 グラシュー海運の船乗り達はわざと島に残す。カルメン社長にヴェルナー領主と相談してもらい、後で逮捕してもらう算段だ。
 九日目にルアーブルの近くを通過し、セーヌ川に入る。
 そして十日目にルーアンへ寄港した。
 冒険者達はカルメン社長に事情を説明し、島に残したグラシュー海運の船乗り達の逮捕を願った。そして一部始終をまとめた書類を渡す。感謝として追加謝礼金がゲドゥル秘書から冒険者に手渡される。
 難破した者達はルーアンで下ろされた。
 用事の為、ゲドゥル秘書もパリ行きの帆船に乗り込む。帆船はすぐに出航する。
「ありがとう。大切にするね」
 フランシスカはコルリスからもらったブラギの竪琴を胸に抱きながら、アクセルと一緒にパリへと向かう帆船に手を振るのだった。

 十一日目の夕方に帆船はパリの船着き場に入港した。
「ヴェルナー領とは仲が悪い領地内に新しいグラシュー海運はあります。前のわたしどもと同じように領主から海賊行為の許可を得ていたのかどうか。その上であった場合、どこまでの罪が問えるかどうか。我が社だけの問題ではなくなってきました。きっとこれからもお手伝いをお願いすると思います。よろしくお願いします」
 別れ際、ゲドゥル秘書が冒険者に感謝してパリのどこかへと消える。
 冒険者達は夕日に染まりながらギルドへと向かうのであった。