●リプレイ本文
●アイデア
「どうしよーか」
クヌット家に集まったちびブラ団は、何度も同じ言葉を口にする。書きたいものがないのではなく、たくさんありすぎて困っていた。
「主役はぼくたちだよね。その方が書きやすいよね」
「そうだなあ。とにかく冒険の話がいいよな」
「あたしも〜。メルシアも人間の女の子役で出してあげてね」
「俺は目的がある中身がいいな。ただ旅をしましただと、ダレちゃうよ」
冒険者達が集まって挨拶をした後でも、ちびブラ団四人で向かい合って考え続ける。
「橙飛行隊長は何かある?」
少女コリルがアニエス・グラン・クリュ(eb2949)に訊ねる。まずは空想物語のキッカケが欲しいようだ。
「英雄の話といえば竜退治‥‥でも反対に竜を助ける内容はどうでしょうか?」
アニエスはきっかけをちびブラ団に与える。
「面白そうだね。そこからいろいろ考えてみようかな」
ちびブラ団が話し合う姿をクリミナ・ロッソ(ea1999)は笑顔で眺めていた。
「あらあら、考えついたことはメモにとったほうがいいわ。つい、忘れてしまうものですよ」
クリミナはちびブラ団一人一人に用意されていたペンと薄い木板を手渡す。
「そうだね。クリミナ先生ありがとう」
ベリムートはさっそく意見を筆記してゆく。
クリミナは後でヒントをいってあげるつもりだが、今は黙っている事にした。ペットのキャットを膝にのせて撫でながら見守る。
「前にちびブラ団の皆がやった悪魔を退治する劇は評判がよかったみたいですよ〜。あれをうまく取り入れたらいいと思うのです〜」
エーディット・ブラウン(eb1460)は膝を揃えて椅子に座り、ちびブラ団に笑顔で首を軽く傾げる。窓にチラッと視線を向けると、ノルマンゾウガメがちび猫メルシアをのせて散歩をしていた。
「大筋はアニエスさんの提案で、行動を肉付けするのですよ〜。そうすれば自然と生き生きすると思うのです〜」
「名誉顧問、わかったよ。やってみるね」
アウストが両腕を組んで考える。
エーディットはポーム町にいるアウラシアことシスターニーナにちびブラ団の近況を知らせる為、これからの九日間をまとめた日記風の書き物を用意するつもりでいた。
ちびブラ団四人で手分けしたとしても、一冊の本には文字数が足りないかも知れない。その時は自分の書き物も追加すればなんとかなるはずだ。エーディットは子供達の行動をメモにとる。
「竜の鳴き声か。こんな感じかな」
諫早が声色を使って、ちびブラ団の前で竜の咆哮を披露する。クリミナとエーディットの意見を聞きながら。
親竜の咆哮だけでなく、子竜のかわいい鳴き声に笑顔になったちびブラ団であった。
「なんか湧いてきたぞぉ〜」
ちびブラ団は四人で絵を描いてイメージを固めてゆく。
その時同じ部屋にいたが、一人離れてダレている冒険者がいた。
「やっぱおいらには不向きやわ‥‥」
用意した水桶に足の先を突っ込んで仰向けに万歳で寝る河童。お腹にはペットのうさ丹をのせ、寝転がる頭の側には開かれた本が置かれてあった。クヌット家にあった本を数頁読んであきらめた中丹(eb5231)である。
「お、なんやねん」
クヌットが中腰になって中丹の顔を眺める。
「本、嫌いなんだ」
「そんなことないがな。華国を代表する河童はとっても知的なんや」
中丹は起きあがり、勉強用のテーブルについた。
「あ、おいらのことは気にせんといて」
水掻きのある手で無理矢理にペンを握り、机に上半身を伏せるような体勢で書いてゆく。ちびブラ団が隙間から覗くとキュウリについてが記されていた。
『キュウリはおいしい。ポリポリおいしい。キュウリが一本あったれば、もっと食べたい河童やね――』
ちびブラ団は互いに顔を見合わせる。後でまとめて読ませてもらう事にして元の席に戻る。
アニエス、エーディット、クリミナと意見を聞いて、四章仕立ての構成が決まった。細かい内容は受け持った子供の自由だ。
タイトルは『親子竜とパリの子たち』。
第一章はアウストの担当で、エーディットが補佐。
第二章はベリムートの担当で、クリミナが補佐。
第三章はコリルの担当で、アニエスが補佐。
第四章はクヌットの担当で、中丹が補佐。
「ちょっと待ってや。おいらがやるのはまずいと思うのや。せいぜい教えられるのは、船と動物の知識ぐらいやからな」
中丹が皿の端をかきながら困った表情をする。
「活躍するシーンがたくさんあるはずなのですよ〜。中丹さんの演出でよりかっこよくしてあげて下さいです〜」
「中丹さん、よろしくお願いします」
「それが適材適所だと思いますわ」
「そっ、そうやろか」
仲間にいわれてクチバシを天に向け胸を張る中丹であった。
●アウストとエーディット
「それがいいのですよ〜。この子竜との出会いはメルシアを拾った所を思いだすといいのです〜」
エーディットはアウストと会話しながら細かい内容を決めていった。
「そうだよね。あのときのメルシアは特にかわいかったなあ」
アウストは箇条書きに付け足してゆく。そのごちゃごちゃな状態はアウスト以外の者には読み解けないだろう。
「竜の親子の触れ合いは、お母さんに甘える時を思いだすといいですよ〜」
「ぼっ、ぼく、もう甘えたりしないもん」
顔を赤くしたアウストが下を向く。エーディットは微笑ましく思いながら、次の話題を振る。
「大体が出来上がったら書いてみるのです〜。いつでも質問を受け付けるのですよ〜。一枚出来上がったら、続きを楽しみに読ませてもらいますね〜♪」
エーディットは日記風の読み物を少しずつ書き進めながら、アウストの質問に答えるのであった。
第一章 竜親子との出会い 要約
少年ベリムート、クヌット、アウスト、そして少女コリルは、山の祠があるという洞窟で一匹の子竜と出会う。そのかわいさに喜んでいて、背後にいた大きな影には気がついていなかった。
「そういえば、悪竜がいる噂があるんだよな。この洞窟」
「この子が悪竜なのかな?」
「どうみてもそうは思えないぞ。まだまだ母ちゃんと一緒に寝てそうだもの」
「‥‥そうだね。普通に考えれば、親がいて‥‥とうぜん‥だ‥‥よね」
アウストが背後にいた竜に気がついた。ドラゴンは大きく首を動かすが、それ以上は動かなかった。いや、動けなかったのだ。
親竜は一生懸命に子竜を自分の元に引き寄せる。どうやら何かの病気にかかっているらしい。衰弱して立つこともままならないようだ。
「大丈夫だ。俺様たちはなんにもしないぞ」
クヌットが近づこうとするが、仲間の三人が止める。温厚なドラゴンだとしても、病気で気が立っているかも知れない。お腹も空いているはずだ。
「これ‥‥、食べるかな」
アウストはたくさん釣れた魚を急いで親竜の近くにおいて遠くから確認する。最初は警戒していたが、少しずつ食べ始めた。
子供達は山で仲良くなった少女メルシアに、時々洞窟に繋がる穴に魚を投げ入れてくれと頼んだ。そして医者を探す為に、急いで山を下りるのであった。
●ベリムートとクリミナ
「そうです。薬を作る為には何が必要?」
「やっぱり、竜が治るんだから特別なものだよな」
クリミナはベリムートが作った箇条書きを読みながら、一つずつ質問をする。ベリムートがそれに答えてゆく事で細部が決まってゆく。
「四種類あるのなら、一人一種類、探しにいった方が効率的ね」
「そうだね。手分けする事にしよう。誰にどれを探させよう」
ベリムートの箇条書きの書き直しは十回に及んだ。テーブルの上にはクリミナが描いたイメージの絵も置いてある。
クリミナはベリムートが熱中している間にお茶の用意をした。
「あまり集中しすぎるのもよくないのよ。みんなでティーブレイクにしましょう」
クリミナは全員で休憩をとる。素直なちびブラ団だが、やはり子供である。クリミナは飽きないように注意をするのであった。
第二章 薬草を探せ 要約
「そうだね。この村の伝説なのだが、竜を治す為にはある四種類のものが必要なんだ」
麓の村にいたエルフの医者から子供達は必要な物を聞いた。
四人で分かれ、それぞれに探す事となる。
ベリムートが受け持ったのは、朝露を受けた四つ葉のクローバーを100本用意する事であった。困難の末、一面のクローバーが広がる草原を見つける。ベリムートは朝の短い時間に一生懸命摘むがなかなか集められなかった。
草原に来てから三日目の朝、ベリムートは驚く。途中で知り合った人達が集まり、手伝ってくれたのだ。
「ありがとう〜。これで親竜は助かるはずだよ」
ベリムートはお礼をいって、竜親子のいる山の麓に戻った。仲間も必要な物を手に入れてきた。薬にしてもらう為に、子供達はエルフの医者の家を訪ねる。
エルフの医者は快く引き受けてくれた。明日には出来上がると聞かされた子供達は期待しながら宿で眠る。
しかしその夜、エルフの医者の家には竜を嫌う者達が近づこうとしていた。
●コリルとアニエス
「やっぱりどこかに脱出の穴が欲しいよね」
「そこにはどうやって行くのでしょうか?」
コリルが受け持った部分をペンを片手に考える。アニエスは側でいろいろとアドバイスをしてあげた。
ちびブラ団の家を日替わりで巡る案を出したアニエスだが、残念ながら一部の家では用事があるようだ。今回はクヌット家で世話になる。
「そうです。あの先には――」
数枚、描き終わるとコリルは声を出して読んで推敲する。アニエスも読んであげて、コリルに印象を変えてあげた。そうする事でおかしな個所がわかる場合もある。他のちびブラ団もマネして声を出して読んでいた。
一通り書き終えた後でも、何度も読んでは直すコリルであった。
第三章 竜を狙う者 要約
「君たち、これを持って逃げなさい」
エルフの医者が子供達を起こして一人に容器を手渡す。真夜中に突然宿にやって来たエルフの医者に子供達はしばし呆然とした。
「あの竜親子を病気にした奴らが、わたしを襲ったのだ。救おうとしている話がどこからか洩れらしい。幸い逃げだせたが、奴らは今度こそ直接竜を狙うだろう。病気で放置して殺そうとしていたのに、助けられたら元も子もないからな」
エルフの医者は残念そうな表情をする。極一部の近隣の者達が竜を嫌っていた。
「お医者さんありがとう」
四人の子供達は真夜中の道を急いだ。エルフの医者から洞窟までの近道を教えてもらったおかげで、竜を嫌う者達より早くつけるはずだ。
「これを‥‥飲んで欲しいの」
洞窟に入り、コリルが怖々としながら容器を親竜に差しだす。親竜は子竜を翼で包みながらじっと子供達を見つめていた。
親竜がコリルの目の前で大きく口を開ける。固まるコリルであったが、親竜は口を開けたままだ。自分を食べようとしているのではないとわかったコリルは、容器を開けて薬を口に注いであげた。
「なんとかしなくちゃいけないぞ」
洞窟に竜を嫌う者が来るのは時間の問題である。全快にはほど遠いが、親竜は立ち上がる事が出来た。
子供達は風の流れを感じ、竜親子と一緒に洞窟の奥へと進む覚悟を決めた。
●クヌットと中丹
「いや〜、強かったで、おいらの技は決まれば防げないんや。それをあのブロアはんは、おいらたちの言うところで『浮身』ってヤツで衝撃を和らげたんや。ああゆうのを『達人』いうんやろな」
中丹は散歩の途中で子供達に自分の冒険話を聞かせていた。全員の口には菓子パンがくわえられている。
あまり根を詰めると、書く作業にも影響が出てくる。気晴らしも必要であった。
家に戻り、クヌットは第四章の仕上げにかかった。あと一息で書き上がる所まできていたのだ。推敲が残っているものの、ここまで来ればゴールはすぐそこだ。
クヌットは瞼を閉じかけながらもアドバイスをしてくれる中丹を味方に集中するのだった。
第四章 飛翔する竜 要約
「もう少しだ!」
クヌットは叫ぶ。
子供達は親竜のお尻を一生懸命押す。洞窟には反対側にも外へと通じる穴があった。穴の側面にひっかかり、なかなか親竜は出られない。小竜が鳴いて応援する。
足音が近づいてくる。竜を嫌う者達はすぐに迫っていた。
洞窟の途中には謎かけをする不思議な門番がいたが、子供達は知恵を絞って答えを導きだした。竜を嫌う者達もどうやら通過したらしい。
「抜けた!」
親竜がついに洞窟から抜ける。子供達も続いて飛びだす。
洞窟をさまよって一日が経過していた。昼の時間は過ぎ去り、すでに夜になっている。飛び出した場所では、月光に照らされる花々が咲き乱れていた。
親竜はやさしく子竜を口にくわえる。そして翼を広げて夜空に舞う。体調はかなり戻っているようだ。
月夜に竜は飛翔する。崖を爪でひっかき、岩を落として洞窟の穴を塞いだ。これで竜を嫌う者達は引き返すしか手はないだろう。
子供達に礼をいったのか、子竜をくわえたまま小さく鳴き、夜空の向こうに消えていった。
「助けられてよかったな」
子供達は落ちてきた竜の鱗を拾う。そして眼下の町の灯りを目指して帰路に着いたのだった。
●まとめ
「海老ゆでて、蟹ゆでて、犬ゆでて、猫ゆでて、熊ゆでて‥‥」
中丹は最後の九日目、華国の河童をノルマン王国に知らしめる原稿のラストスパートに入っていた。
『最強の矛と盾』『切り株に兎が当たってぽっくりこ』『華国じゃ4つ足は机以外は食べる。机になる前は食べてそうやけど』とサブタイトルが並ぶ。
ヘンテコな原稿が出来上がる。それでも中丹はやり遂げた気分で一杯になった。
「一生分の読み書きを、この短い期間でしたかもしれへん‥‥」
最後はバタンキュ〜と聞こえそうな格好で机に伏せる中丹である。
「ちびブラ団の日記風の読み物もできたのですよ〜。『親子竜とパリの子たち』の原稿写しもなんとかなったのです〜」
エーディットは日記風の読み物はアウラシア宛てにして、原稿の写しはカメと自分の荷物とした。演劇をしているヨーストに届けるつもりのエーディットである。
(「あの子供達にやってもらえるといいのですけど〜」)
エーディットは密かに何かを計画しているようだ。
「すごい量ですね‥‥」
アニエスは積み上がった原稿を見上げる。木板は薄いものだが、かなりの量になった。
(「本になったらラルフ卿もお読みになってくれるな‥‥」)
アニエスは心の中で呟く。
「皆、がんばりましたね。一つの事をやり遂げるのはとてもいい事です」
クリミナは優しく子供達を褒めてあげる。
「ちゃんと届けさせてもらいますから、ご心配なく」
クヌットの父親はお礼だといってハーブティーを冒険者達に渡した。
「まったね〜。ありがとね〜」
夕日の中、ちびブラ団に見送られながら、冒険者達はギルドに向かうのであった。