故郷の村 〜アーレアン〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月12日〜09月19日
リプレイ公開日:2007年09月19日
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●オープニング
「どれどれ‥‥?」
青年ウィザード、アーレアンはパリの市場を散策していた。装飾品を扱う一角で立ち止まり、いろいろと手に取ってみる。
「これは高いし、こっちは派手すぎだな‥‥」
アーレアンは姉のイレフールに渡すプレゼントを物色する。田舎に帰る事があれば、姉にあげようと考えていたのだ。手持ちの金と相談しながら探してみるが気に入った物はなかなか見つからない。
「恋人にあげるのかい?」
「い、いや、その‥‥さいなら!」
アーレアンは何だか恥ずかしくなり、手にしていた宝飾物を返すと足早に立ち去る。
「もしかしてアーレアンかい?」
通り過ぎようとするアーレアンに声をかける男がいた。
「‥‥コストンか。こりゃ、久しぶりだ。市場でも商売してたんだな」
アーレアンは立ち止まった。
アーレアンがコストンと呼んだ男はたくさんの羊皮紙を並べていた。少し前まで羊飼いをしていたアーレアンの知り合いである。たくさんの村を渡り歩いて羊皮を買い付け、なめして羊皮紙にし、得意先に納品する商人だ。
「まっ、市場で売るのはおまけなんだがね。在庫のほとんどの羊皮紙は直接届けているからね。ちょっと多く持ってきすぎたので、試しにこうしてるって寸法だ」
「へぇ〜、いろいろやってんだ」
アーレアンは屈んで羊皮紙を眺めた。
「それはそうと、アーレアンはパリでなにしてるんだ? あっわかった。冒険者ギルドに依頼をしに来たんだろ?」
「いや、違うけど‥‥。どうしてそう思ったんだ?」
コストンがアーレアンの故郷のアレイユ村について話す。放牧された羊がゴブリンの群れに襲われて、今大変なのだという。
「手に負えなくて依頼をしにきたんじゃないのか。まさかアーレアンが冒険者になっているだなんて考えもしなかった」
「俺が村にいた頃はゴブリンなんかいなかったぞ。ごくまれに狼が現れたくらいで」
「そんな事、わたしにいわれてもな。ついこないだパリをオーガ族も襲っただろ? 大敗して適当に逃げたせいで、ゴブリンの生息地に変化があった‥‥と勝手にいっている村人はいたけどな。わたしはそんな話、信じちゃないが。おい、アーレアン!」
アーレアンは話しの途中で駆けだしていた。急いで冒険者ギルドを訪れる。
「ハンス、調べて欲しい事があるんだ!」
「なんだよ、突然。どうしたんだ?」
アーレアンは青年ギルド員ハンスを見つけて説明をする。アレイユ村に関わる依頼がここ最近で出ているかどうかを調べて欲しいと頼んだ。
「ないな‥‥。成立したもの、しなかったもの、現在進行のも含めて過去三ヶ月の間にアレイユ村が関連した依頼はない」
「コストンは嘘をつくような奴じゃない‥‥。なら今でもアレイユ村はゴブリンの恐怖に晒されている事になるぞ‥‥」
「おい! 待てよ!」
ハンスが椅子から立ち上がったアーレアンの肩を掴んだ。
「もし一人で村に行こうと考えているんならやめとけ! 少しぐらいは強くなったかもしれないが、かけだしウィザード一人向かった所で、どうにも出来るもんじゃない!」
「俺がいかないでどうする! 姉ちゃんが大変かも知れないんだ!」
「すぐにアーレアンが村救援の依頼を出すんだ! そりゃ時間はかかるかも知れないが、その方が確実だ!」
アーレアンは奥歯を噛んでうつむいた。
「‥‥そうできるならしたいが、そこまでの金はないんだ‥‥」
ハンスはしばらくアーレアンを見つめると革袋を差しだした。
「貸しておく。これで依頼を出せ」
「ハンス‥‥」
アーレアンはさっそく依頼を出す。アレイユ村周辺を襲うゴブリン退治の依頼を。
夕方、仕事からあがったハンスがアーレアンの住処を訪れた。
「アーレアン、どうしても先に行くのか? 集まった冒険者と一緒に行ったほうがいいぞ」
「いや、姉ちゃんが心配だしな。近所の人が途中まで馬車で送ってくれるんだ。依頼に入ってくれた冒険者も後で運んでもらえるように頼んである」
馬車に乗り込んだアーレアンをハンスは見送るのであった。
●リプレイ本文
●村へ
馬車は揺れる。冒険者達を乗せて、向かうはアレイユ村。
「僕も同じような状況なら落ち着いていられないだろうけど、無茶しすぎ‥」
壬護蒼樹(ea8341)は垂れる前髪の隙間から、馬車の窓を流れる風景を眺める。先に向かったアーレアンが気がかりであった。
「なるほど‥‥。たくさんの丘があって視界が悪いのね」
ウェルキナ・マニエル(ec1727)はギルドからもらった数枚の資料に目を通す。時間があればもっと調べるつもりであったが、出発を考えればこれが精一杯である。
(「出発前に挨拶した仲間もいるし、大丈夫だな」)
フランシス・マルデローロ(eb5266)は仲間の姿を順番に見てから瞳を閉じ、楽な姿勢をとる。今は少しでも体力を温存しておいた方がいい。
「アーレアンってどんな奴だろう」
ロラン・コースト(ec3596)は御者の横に座り、進行方向の空を見続けるのであった。
馬で先行する冒険者もいた。
「アーレアンも大変なようやな。故郷なんやろ? これから向かう先は」
「家族が、故郷が危機に晒されていると知った彼の心労は如何ばかりか‥」
ジュエル・ランド(ec2472)とリフィカ・レーヴェンフルス(ec1752)は併走しながらアーレアンを心配する。
リフィカが跨る馬はジュエルから借りたものだ。ペットの風精龍アイオロスも後方の空を飛んでいた。村に着いたのなら、村長にアイオロス滞在の許可をとるつもりのリフィカである。
アシャンティ・イントレピッド(ec2152)も愛馬デュブルデューで先を急ぐ。
「どうやら追いつくのは無理のようだね」
ハンスという名のギルド員に聞いた所によれば、アーレアンは三日前に出発していた。仲間を乗せている馬車は、アーレアンを村周辺まで届けてパリに戻っている。無事ならばアーレアンは徒歩で村に到着しているはずだ。
思いはそれぞれであったが、全員がアレイユ村に心の視線を向けていた。
夕方、馬車を下りた四人はその場所で野営を行う事にした。御者は六日目の昼過ぎに、この近くを通るという。近くにある三本の木を目印にと御者は言い残し、馬車は夕日に消えていった。
宵の口に馬で先行した三人はアレイユ村へ到着する。アーレアンは掠り傷を負っていたが無事であった。
●アレイユ村
「みんな助かるよ」
二日目の昼、アレイユ村に到着した仲間をアーレアンが出迎えた。壬護はセブンリーグブーツで徒歩の者より早く辿り着く。
村に到着して誰もが思っていたのは、通過してきた丘の状態だ。ギルドからの資料にあるように丘がたくさんあり、そのせいで死角がある。幸いな事にどの冒険者も辿り着くまでの間、ゴブリンとの遭遇はなかった。
「みなさん、アーレアンがお世話になっています」
アーレアンの姉イレフールが挨拶する。一軒の空き家を冒険者達に提供してくれるそうだ。先行組は一晩を既に過ごしていた。
「羊は非常に狭い範囲の村に近い場所で草を食べさせています。もう、草を食べ尽くしてほとんどなくて‥‥」
空き家に着くと、イレフールとアーレアンがアレイユ村の生活状態を説明した。
先行組のアシャンティは村人による見張りの状況を確認してきて空き家に戻る。
一日中の体制で見張り台での監視はされ、元々作られてあった塀のおかげで防御もある程度だが期待出来る。問題は村人の疲労だ。既に困ぱいしながら見張りをしている村人もいた。
「もしもの時用に、ある程度大きな家になるべく固まって避難してもらうと守り易いんだよね」
「それなんだけど――」
残念ながらアシャンティの考えに適う大きな建物はアレイユ村にはない。アーレアンとイレフールは申し訳なさそうに答えた。
リフィカも村の状況を調べて戻ってくる。村人からゴブリン目撃の証言を集めてきたのだ。
「出没時刻はバラバラですね。ただ4グループあると思われるゴブリンの集団ですが、それぞれにテリトリーがあるようです。重なった部分もかなりありますが、それぞれが村を中心にして決まった方向に出没しているようです」
リフィカの説明のすぐ後で、ジュエルも戻ってきた。
「うち、空から見たけど結構ゴブリンうろついておるわ。ちゃんと誘導せな、あかんやろね」
ジュエルは主に村の周囲を飛び、ゴブリンの状況について話してくれた。視界の悪い起伏の多い地形といい、戦う際の監視は必須だ。
今日の所は夕方まであまり時間がない。全員で手分けして、村の周囲に簡易な罠を作る。といっても、尖った小石をばらまいたり、草を結んで足を引っ掛ける程度のものだ。後々の始末の事を考えれば、強力な罠を設置する訳にはいかなかった。
夜を前にして、たくさんのかがり火が村の外周を沿うように用意された。
監視を代わろうと考える冒険者もいたが、それは断られる。その代わりゴブリン退治を、と監視の村人達に強く頼まれた。
もし、ゴブリンが村を襲うようなら連絡をもらえるように頼んで、冒険者全員が空き家に戻る。
冒険者達は明日からのゴブリン退治に備えて、早めに就寝するのであった。
●退治
「任せろ」
「あたしもやるわ」
アーレアンとウェルキナが先制攻撃としてファイヤーボムをゴブリン共に叩き込む。魔法の火球が現れては弾け、ゴブリン共を包み込んだ。
三日目の昼過ぎ、村に急接近したゴブリン1グループに対し、冒険者達は攻撃を開始した。
「今の所は他のグループはいないようやね」
上空から監視していたジュエルは木の枝に留まり、ムーンアローで仲間の援護をする。ちょうど前衛の壬護とアシャンティ、ロランがゴブリン共と対峙しようとしている時である。
フランシスとリフィカは遠方から遠隔攻撃で支援する。フランシスは弓をひき、リフィカは小石を飛ばす。
連携して戦ったおかげで、すぐに3匹のゴブリンを倒しきる。味方にこれといった被害はなかった。
「残り3グループか。今のようにグループひとつごとと戦えるよう心がけたいな」
フランシスは大事な矢を回収しながら呟いた。
最初の戦いが終わってから一時間後、ジュエルが重要な情報を得て村に戻ってきた。ゴブリンが棲む丘に掘られた横穴を発見したのだ。
「問題がある。もう1グループがおる岩場の窪みもすぐ近くなんや。計画なしで近づいて戦こうたら、もう1グループにまず気づかれる。そしたら負けることはないやろけど、こっちの被害も増えるはずや」
ジュエルの意見に仲間はしばし考え込む。そうこうしているうちに、リフィカのアイオロスが冒険者達の側に下りてきた。
ある方角を向いて騒ぐ様子から、念の為にジュエルが調べに向かう。すると2グループとは別のゴブリングループを発見して戻ってきた。
まずはこちらが先として、冒険者達は駆けつけた。夕方から夜にかけての非常に視界の悪い戦いであったが被害もなく、無事にゴブリン共をねじ伏せる。
その夜、冒険者達は住処の近い2グループに対しての作戦を練るのであった。
●囮
丘の上に白い何かがある。一匹のゴブリンが発見し、仲間に知らせる。
よく観るとそれは一匹の羊であった。
仲間のゴブリンが最初に羊を発見したゴブリンの背中を叩いて指し示す。
反対方向の丘にも羊が一匹いる。
自分共と違うグループが片方の羊に気がついて向かっていった。そこでもう一匹の羊を狙う事にし、ゴブリン共は丘に向かって走りだした。
「アーレアン、舌噛まないように気ぃつけてや!」
「ジュエル、頼んだぞ」
四日目、ジュエルは愛馬で駆けながら、後ろに跨る白羊に声をかける。白羊の正体は羊皮を被ったアーレアンであった。
もう一匹の囮の羊は本物で、今頃仲間が戦っているはずだ。その戦いが終わるまでの時間稼ぎとして、ジュエルとアーレアンは囮役を買って出た。
ゴブリン共が丘を登り切るまでに、次の丘まで馬で移動する。丘の天辺で再びアーレアンが白羊のふりをしてゴブリン共を引きつけるのを繰り返す。
なめらかな円を描くように移動し、ジュエルとアーレアンは仲間と合流する。既にもう一方のグループは仲間が倒していた。追ってくるグループが最後である。
「ゴブリンは逃しませんよ」
壬護はアーレアンに一声かけて六尺棒をぐるりと回し、戦闘態勢をとる。
「遅い!」
丘の上に現れたゴブリン目がけてフランシスが矢を放つ。
「これを喰らいなさい!」
リフィカも石を飛ばしてゴブリン共を牽制する。上空から現れたアイオロスがウインドスラッシュを放ち、一匹のゴブリンが丘の上から転げ落ちてきた。
「燃えちゃって!」
ウェルキナのファイヤーボムが丘の上に残る二匹のゴブリンを包み込む。日中であるのに関わらず、その輝きはとても眩しいものであった。
「壬護さんロランさん、行くだよね!」
アシャンティは槍を手に転げたゴブリンに駆け寄る。壬護、ロランも参戦し、一気に叩きつぶした。すぐさま二匹のゴブリンが丘を下りてくる。それぞれに壬護とアシャンティが対峙する。ロランはアシャンティを援護した。
アシャンティが槍の長さを理由してゴブリンを突き放す。そこに仲間が遠方からの攻撃を仕掛けた。弱った所をアシャンティの槍がゴブリンの喉を突き通した。ゴブリンは力無く倒れて動かなくなった。
残るは壬護が戦う一匹のみとなる。すでに壬護のがんばりで弱っていたゴブリンを倒すのは容易だ。
最後の一匹が大地に倒れ、ゴブリン退治は終了した。
●確認
五日目の朝から昼にかけ、冒険者達は念の為に村周辺を手分けして調べた。ゴブリンがいない事が確認されると、羊の放牧が再開される。
羊飼いが犬と一緒に羊の群れを誘導してゆく。
「姉ちゃん、俺さ‥‥」
放牧されている羊の群れを眺めながら、アーレアンとイレフールは草の上に座っていた。
「わかっているわ。冒険者を続けたいのでしょ?」
「うん。俺、まだまだひよっこだけどさ。なんていうか‥‥」
「頑張りなさい。わたしは平気だから」
「姉ちゃん、ありがと」
アーレアンとイレフールはしばらく二人だけで話し合うのであった。
その夜、アレイユ村では冒険者達へのお礼の会が開かれた。
「これを使って欲しいのだね」
アシャンティは村長に今回の依頼金分をそっと渡す。被害を受けた修理などに使って欲しいと。
「みなさん、アーレアンをこれからもお願いします」
「やめてよ。姉ちゃん、恥ずかしいってば」
イレフールがアーレアンと一緒に冒険者達に何度もお願いする。
(「仲がいいのが一番だ」)
姉弟の様子を摘みににして、ロランはおいしい酒を呑む。
「続けるんやね。アーレアンは冒険者を。‥‥何か一曲演奏します」
ジュエルは元々アーレアンに冒険者を続けるのか訊くつもりでいた。姉弟の会話から続ける事がわかり、これからを祝して竪琴を奏で始めた。
「そうか。それならば何もいう事はないんだ。アーレアン君、これからも頑張れよ」
「おー、学者さんも一緒に頑張ろうな」
リフィカとアーレアンは互いに笑う。アーレアンが冒険者を続ける事に、イレフールが反対ならば、いろいろとお願いしようと思っていたリフィカだった。しかし杞憂に終わったようだ。
「もうだめですよ。一人で無茶しては」
「わかったよ〜。きっとギルドでもハンスに同じ事、いわれるんだろうな‥‥」
壬護は依頼書を読んだ時からアーレアンの事を心配していた。アーレアンは村が安全になって冷静になったのか、非常に恐縮する。
「うまく遂行出来たようだ」
フランシスは食事を口に運びながら、村人の笑顔を眺める。
「馬車との待ち合わせを考えると、明日あまり遅くに出発はできないわね」
「そうだね。日が昇ったら向かったほうがいいか」
ウェルキナは挨拶に回るアーレアンを掴まえた。馬車の心配から始まって、ファイヤーボムの活用方法といろいろ話すのだった。
●パリへ
六日目の昼前に冒険者達はアレイユ村を出発する。
せめてこれぐらいはといって村長がいくつか保存食を冒険者達に渡した。
約束通り、アーレアンの知り合いは三本の木が生える場所で待っていてくれた。みんな馬車に乗り込んで、パリへと向かう。一晩の野営を経て、七日目の夕方にパリに到着した。
「冒険者をやっていてよかったと思ったよ。いろいろあるけどさ。人を救える力があるのはいいもんだよな」
ギルドへの報告が終わると、アーレアンはそう呟いた。そしてハンスに駆け寄ってお礼をいうのだった。