ウーバスの妹 〜ツィーネ〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 9 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月27日〜10月03日
リプレイ公開日:2007年10月03日
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●オープニング
リュートの調べが流れるパリにある酒場。
小さな酒場であったが、その奥には個室がある。
エルフの少年ハインツ・ベルツは、傍らにいた護衛の男を廊下に出させた。個室ではハインツと女性冒険者ツィーネのふたりきりとなる。
「これから話す内容のほとんどが、この日記によるものです」
「誰の日記だ?」
ハインツが古びた厚い革製の日記をテーブルに置く。ツィーネは視線をハインツから外さない。
「亡くなった父、エリク・ベルツの書いた日記のうちの一冊です。質問もあるでしょうが、まずは聞いてください」
ハインツは語り始める。
100年以上も昔、ハインツの父エリクと、後に殺人鬼レイスとなったウーバスとは親友であった。
だがある時、エリクは気がついてしまう。ウーバスが正気を無くして殺人鬼になった事を。それについては自分に原因があるとだけエリクは書き残している。
エリクは説得しようとウーバスを探したものの、発見する事は適わない。生まれ育った家にウーバスが戻る事はなかった。
三年の時が過ぎてウーバスは捕まり、当時の憲兵によって処刑される。自分の妹を殺した事から発覚し、捕まったと記録にはある。
これで事件が収まると誰もが考えたのだが、ウーバスはレイスとなって蘇り、恐怖は続いた。
この時になって、エリクはかつての親友ウーバスの愚行を自らの手で止めようと行動を開始した。一年を待たずしてエリクは殺人鬼レイス、ウーバスを古代遺跡に封印する事に成功する。親友であった者をレイスとはいえ、消滅させる事に躊躇したのである。
それから約六十年という年月が経つ。
エリクはウーバスと親友同士であった頃、既にエルフの女性と結婚をしていた。ハインツが生まれて10年が過ぎ、初めてコールス町で年に一度レイスによる殺人が起きている事をエリクは知る。
「はっきりとは書かれてませんが、きっと、父エリクはレイスのウーバスがなんらかの方法で古代遺跡から逃げだしたのだと考えたのです。それから捕まえるのと脱出されるのを二度繰り返します。父はその途中で負った怪我が原因で亡くなりました。時代を計算すると、二度目の脱出と三度目の封印の間に鞍職人の一件は起きたようです。そして三度目の封印も空しく、再びウーバスは地上に‥‥」
ハインツは乾いた喉を潤す為にワインを口にする。
「抜け落ちた事実。そして間違った解釈の出来事‥‥。それらが事実を曇らせているのだな。コールス町で遭遇したあの女性レイスは一体何なのか‥‥。今の話で出てきた女性といえば、ハインツの母とウーバスの妹の二人だな」
「母の名はデリアといいましてエルフです。存命ですが、人と話せる状態ではなく‥‥。いえ、歳をとれば誰もがなる事です。とにかく母がレイスという事はあり得ません」
「なら、ウーバスの妹は?」
「ウーバスの妹の名はエフーナといいます。兄のウーバスに殺された事と、人間だった事以外の情報は日記にはありませんでした。‥‥正確にいえば日記には破られた個所がいくつかあります。もしかするとエフーナの事が書かれていたのかも知れませんが、今となっては知る由はありません」
「あの女性レイスはハインツの父であるエリクの名を呟いた。ウーバスの妹であるエフーナである可能性は高いな」
「そこでです。次の依頼をギルドにお願いしておきました。コールス町からそれほど離れてない場所に捨てられた町マオークがあります。父エリクと母デリア、そしてウーバスとエフーナが若い時期を過ごした町です。人の住んでいない廃墟の町に、ウーバスの屋敷が未だ残っているようなので、調べて頂けませんでしょうか? 特にエフーナの事がわかる何かを手に入れて頂きたい」
「わかった。失礼する」
ツィーネはテーブルに並んでいた酒と料理に手を付けずに席を立つ。そして馬車で送るというハインツを誘いを断り、自らの足で冒険者ギルドに出向いて依頼に入るのだった。
●リプレイ本文
●準備
「自分が御者をやります。出発しましょう」
馬達を馬車に繋げるとブリード・クロス(eb7358)は御者台に座る。
朝早く冒険者一行は馬車に揺られ、まずはコールス町を目指す。
「ツィーネ、この間の女性のレイスこと、詳しく話してくれる?」
「わかったよティア。あれは――」
リスティア・バルテス(ec1713)に訊かれたツィーネは、前回の事と合わせてハインツからの情報も話した。他の仲間も静かに耳を傾けていた。
「珍しくレイスと戦う依頼ではなさそうだな、と。関係はしてるとしても。‥‥向こうで出てくるって事ないといいが」
ツィーネの話が終わると、一言いってからヤード・ロック(eb0339)は寝てしまう。
「これを渡しておく。使ってくれ」
「感謝する。探索についてだがウーバスの屋敷だけでなく、隣りの古いベルツの屋敷はどうするかみんなの意見を聞きたい」
エイジ・シドリ(eb1875)はリンカ・ティニーブルー(ec1850)から借りた手裏剣を懐にしまいながら考えを述べた。
時間があれば探る事に決まる。続いて班分けが決められた。
「ヤードさんが触れたようにコールス町を拠点にして調査する廃墟のマオーク町にはアンデットが住み着いているようです。注意しなければいけません」
御者をするブリードがちらりと馬車内を振り向いた。
「子守唄が見つかるといいのです〜」
リア・エンデ(eb7706)はアンデットに聞かせる為の、地元に残る古い唄を探すつもりであった。コールス町で時間がとれそうだからだ。メロディーが精神を持たないアンデットに効かないのは、国乃木めい(ec0669)とリスティアから教えてもらっていた。それでも機会があるなら鎮魂の唄として子守唄を歌うつもりのリアである。
「エイジさん、マオーク町で道返の石の発動を手伝ってもらえるかしら?」
「了解した。少しでもアンデットより有利な状況を作った方がいいからな」
国乃木とエイジは軽く頷きあった。
一晩の野営を経て、二日目の昼頃に馬車はコールス町に到着する。
国乃木の保存食が一日分足りなかったので、リスティアがパリで買う値段で譲った。
廃墟のマオーク町に向かうのは明日からである。その間に冒険者達は準備と休息をとる。
「お年寄りさんから、教えてもらったのですよ〜」
「話すわね」
夜になり、コールス町の空き地で野営をする仲間の元にリアとリスティアが戻った。
マオーク町は約100年前、村長などのお偉方が愚行をおかして、人の住まない廃墟の町となった。犯罪の取り締まりもせず、最後は町民が逃げだすように去っていったそうだ。残念ながらウーバスとエフーナ、ベルツ家についての話は聞けなかった。
リアは子守唄を教えてもらったので、仲間から離れて練習を始めた。
「もの悲しいな」
聞こえてくるリアの子守唄に、ツィーネは言葉をもらした。
●マオーク町
二日目の夜明け前に一行はマオーク町へ出発する。
ブリードは愛馬に跨り、持っていたセブンリーグブーツをヤードとエイジに貸しだす。他の者は自前のセブンリーグブーツを履いていた。
空は白んでいたが、まだ暗いのでランタンを灯しながら進む。屋敷内の探索でもランタンは必要になるだろう。
暗くて全速では移動出来なかったが、一時間半程度でマオーク町に辿り着いた。
「これは本当に廃墟の町ですね」
国乃木はマオーク町の状況に哀れみを感じる。まだ石造りや煉瓦造りの建物は建っていたが、木造のほとんどは全壊している。手入れもされていないので道にも雑草が生え、様々な物が辺りに転がっていた。
「‥‥何かいるな。注意したほうがいい」
リンカは弓と矢を手にして一歩下がる。代わりに前衛のツィーネ、ブリードが武器を手にして前進した。ブリードは自らにレジストデビルをかける。
エイジは借りた手裏剣を構えた。
リスティアはレジストデビルをツィーネにかける。
ヤードはムーンアローのスクロールを取りだした。
リアは耳を澄まし、サウンドワードでかすかな物音の意味を知った。歯を噛み合わせた音であるのを仲間に教える。
国乃木はデティクトアンデットで敵を探った。二度目に使った時、近づいてきた敵を探知する。
「一匹だけど、かなり大きいですわ。今はあの壁の裏です」
国乃木が言葉でブリードとツィーネが壁に向かって走る。壁の裏側には巨体のアンデットの姿があった。
「速い!」
ツィーネが牙の攻撃を剣で受け止め、ブリードがハンマーを敵の横っ腹に打ち込んだ。
「それはグールよ! ズゥンビに似てるけど、強いし素早いわ!」
リスティアが叫んだ。冒険者達は逃げ場を作らないように一気に攻め立てる。遠隔の手裏剣と矢が突き刺さり、グールはその場に倒れ動かなくなった。
今の戦いには間に合わなかったが、国乃木はエイジに道返の石を発動してもらい、愛犬にぶら下げてこれからに備えた。
「屋敷の場所はわかっているが、それまでにどれだけのアンデットがいるものか。思ったより苦労しそうだな」
仲間に話したツィーネの予感は当たる。屋敷までの距離は大してないはずが、襲ってくるアンデット共のせいでなかなか進まない。
次々とズゥンビ共が冒険者達を襲う。時折、飛んで攻撃してくるジャイアントクロウも厄介であった。
屋敷が見えるようになった時には、空は赤く染まり始めていた。仕方なくアンデットを倒す事に専念し、屋敷の捜索は明日に延期となる。
帰り際、リアは倒したアンデットの為に子守唄を歌う。幼子が母の乳房を探すが、見つからずに泣いてしまう。そんな詩で綴られていた。
冒険者達がコールス町に戻ったのは真夜中であった。
●ウーバスの屋敷
四日目、昨日と同じようにマオーク町に到着した冒険者達はウーバスの屋敷に急いだ。
途中でズゥンビに襲われたが、昨日の退治が効いたのか足止めを喰らう程の状況には陥らなかった。
昼過ぎにはウーバスの屋敷前に辿り着く。かつては立派な煉瓦造りの建物だったろうが、今は一部が崩れたり、蔦が絡まったりしている。庭も雑草で酷い状態だ。
冒険者達は二組に分かれた。
A班がヤード、エイジ、国乃木、ブリード。B班がリンカ、リア、リスティア、ツィーネである。
外から見た限り、三階建ての屋敷である。一階は共同で探し、二階はA班、三階はB班が受け持った。
一階は荒らされてはいたものの、それらしき物は何も見つからない。いたのは六匹の狼ズゥンビだけである。すぐに倒し、冒険者達は階段を踏みしめた。
●二階
「ほいよ。エイジ、これを使え、と」
「これを頼んだ」
ヤードはクリスタルソードを作りだしてエイジに手渡す。反対にエイジからヤードにランタンが渡される。
ヤードはランタンで二階の廊下を照らした。
「しかしほとんど男ばっかりでちとつまらんな、と」
呟いたヤードは国乃木と目が合う。
「いやまあ、手は抜かないけどな、と。日記とかそういったものでもあればいいのだが‥‥時間が立ってるし風化してる可能でもあるかね、と」
ヤードはそそくさと廊下を歩いていった。仲間は後をついてゆく。
あまり荒らされていないのは何故かと考えながらブリードは進んだ。
「やはり‥‥」
廊下の途中で折り重なる白骨の山に遭遇する。つまり、ズゥンビか何かがこの二階に登った者を片っ端から倒している。だから人が家捜したような惨状にはなっていないのだとブリードは考えた。
「いるはずです。敵が。しかも強力なのが」
ブリードは戦いの準備を始めた。
国乃木も準備を始める。レジストデビルなど出来る限りの魔法を仲間にかけた。そして連れてきた愛犬シロの頭を撫でる。
「シロ、護衛を‥お願いしますね」
エイジが発動してくれた道返の石をシロは首からぶら下げている。シロの周囲ならアンデットに対して優位に戦えるはずである。
「今、リア・エンデからテレパシーで連絡があった。それらしき個室を三階で見つけたそうだ。今から探索するようだ」
エイジが仲間に知らせると同時に大きな物音がする。
「敵は二体。この大きさは‥‥グールです!」
国乃木がデティクトアンデットの結果を知らせた時、一つの大きな影が冒険者達に迫ってきた。
ブリードが回転するようにルインハンマーを振るう。クリスタルソードを手にしていたエイジも加勢した。
「昨日も思ったが、こいつはいくら傷付いても怯まない」
エイジは消えてしまったので、新たなクリスタルソードをヤードから受け取った。
「もう一体に気づかれる前にこいつを倒さないと、やっかいだな、と」
ヤードは離れた位置でムーンアローを唱える。
「残る一匹はもう近くにいます」
国乃木の言葉を聞いてエイジは近くにあるドアを開けようとするが、びくともしない。開錠している暇はなかった。
「なら!」
エイジはバーストアタックでドアを破壊する。そして仲間を部屋の中に呼び込んだ。グールも冒険者達を追って部屋に入ってくる。
廊下を駆けてくるもう一匹のグールを部屋に入らせない為、今度はドア横の煉瓦壁を破壊した。古い建物で脆くなっていたのか壁が連鎖して一気に崩れてゆく。
「今のうちに最初の一匹を!」
エイジも酷い埃の中でグールへの攻撃を再開した。稼げた時間は二分程度だが、最初のグールを倒しきる。
さらにもう一匹のグールと対決し、冒険者達は傷つきながらも勝利した。
戦いが終わって、国乃木のリカバーで治療が行われる。その後、二階を探るが何も発見出来なかった。
●発見
「ファル君も手伝って下さいですよ〜」
ぷち本気なリアは肩に乗せたフェアリーの愛称ファルに声をかける。リアもファルもサウンドワードを扱える。妙な音がしたら、すぐに仲間へ知らせるつもりだ。
二階でA班と離れ、B班は三階まで登り詰めた。
国乃木から借りたランタンで照らしながら三階の廊下を進む。
「どうやら当たりのようだ」
ツィーネは廊下に繋がるすべての部屋のドアを開けてみる。私物がたくさん置かれた部屋が二つ見つかった。
リスティアとリンカ、ツィーネとリアで分かれて二つの部屋の捜索が始まった。
「女性の部屋のようね」
「そうだな。これは‥‥?」
リンカが壁に掛かった板絵を手に取る。四人が描かれていたが、その内の一人の顔が何かで乱暴に削られていた。
「かなり若い人間の男女とエルフの男が一人ね。顔が削られているのは服装からいって女性のようだけど」
「ツィーネがハインツから聞いた話と符号する絵だな。若い人間の男女がウーバスと、エフーナの兄妹。若いエルフがハインツの父エリクだとすれば、顔が削られているのはハインツの母のデリアだろう。この部屋の持ち主をエフーナと仮定すれば、つまり、エフーナはデリアをかなり嫌っていたことになる」
リスティアとリンカは絵の他にいろいろと探ったが、これ以上の物は出てこなかった。そこでツィーネとリアがいる部屋に向かう。
「日記が見つかりましたです〜♪ さっそく二階の仲間にも知らせますね〜」
リアがやって来た二人に革表紙の日記を見せた。
「どうやらウーバスの日記のようだ。これを読めば何かわかるはずだ」
ツィーネはリアから日記を受け取った。
それから担当する部屋を入れ替えて調べたが、絵と日記以外にそれらしき物は出てこなかった。
A班とB班は合流する。一階へ降りて庭に出ると沈みかけた太陽があった。
隣りの旧ベルツの屋敷を調べる時間はなさそうである。
「レイスさんは出てこなかったですけど‥‥コールス町で一年に一度現れる女性レイスさんは今どこにいるんですか? もしかして‥‥」
去り際にリアが旧ベルツの屋敷を見上げた。
「さっきまでいた屋敷にいそうだが、そうでなければ、このベルツの屋敷にいるのかも知れないな。もう調べている時間は残っていないのが残念だ」
ツィーネはリアの肩を軽く叩いた。
●絵と日記
夜にコールス町へ着いた冒険者達は一晩を過ごす。
翌日の五日目にパリへの帰路につき、六日目の昼頃に到着した。
「この絵はウーバスとエリク、エフーナ、そしてデリアで間違いないんだな」
冒険者ギルドで待っていたハインツに、ツィーネが絵と日記を手渡した。
「少なくともエルフの男は父エリクに間違いはありません。その推理は当たっていると思います。コールス町で見かけた女性レイスはこの人間の女性でしたか?」
「かなり似ていた。もっともレイスはおぼろげな姿だから断言までは出来ないが」
「それで充分です」
「あとウーバスの日記も読ませてもらった。といっても参考になるのは後半の極一部のようだが‥‥。簡単にいえば、人間のエフーナはエルフのエリクに恋をした。経緯はわからないがエフーナは振られ、エリクはデリアと結婚する。そしてエフーナはおかしくなってしまう。そうなってしまった事に、ウーバスはかなり怒っていたようだ。そこで日記は終わっている」
「なるほど‥‥。父の日記には自分に原因があるとだけ書かれていましたが、そういう‥‥いや‥‥、正気を無くしたのはウーバスだと父の日記にはあったはず」
「順番はわからないが、ウーバスとエフーナ兄妹は二人とも、そう、なってしまったと考えるべきだろう」
「父エリクによって、二人が狂気の世界に踏み込んでしまったと‥‥、ツィーネさんはそう仰るのですか?」
「残念ながら、そう考えると筋が通る」
ツィーネの言葉にハインツはしばらく黙り込んだ。
「とにかくありがとうございました。絵と日記をよく調べてみます。これを今回の仲間とお分け下さい」
ハインツは革の小袋をツィーネに渡し、護衛を呼び寄せるとギルドから立ち去ろうとする。
「‥‥どうやら、悲しみからすべてが始まったようだな」
ツィーネはハインツの背中から仲間に視線を移す。そして駆け寄り、知った内容を話すのであった。