屋敷に残る想い出 〜アーレアン〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月30日〜10月05日

リプレイ公開日:2007年10月08日

●オープニング

「いつになったらちゃんとした部署に配属されるんだろうな‥‥。一時期やさぐれてたからなあ〜。評判落としたんだろうなあ〜」
 冒険者ギルド前で青年ギルド員ハンスは箒を手にして周囲の掃除をしていた。
 すると遠くから見知った顔が近づいてくる。ロバに荷車を牽かせて歩く青年冒険者アーレアンだ。
「何してるんだ? 新しい商売でも始めたのか?」
「いや、ちょっとある一家の手伝いをしているんだ」
 アーレアンはロバを停め、ハンスの前で立ち止まる。
「アーレちゃん、ダメじゃない。まだ運ぶ物がたくさんあるんだから、いくよ」
 ハンスが声が聞こえた方向に見下ろすと、そこには女の子が腰に手を当てて立っていた。
「そういうわけで、またな」
 アーレアンはそういい残して遠ざかってゆく。
「‥‥そうか。あいつ、俺に借りた金返そうといろいろとやっているんだな。そんなに急がなくてもいいのに」
 ハンスは呟く。故郷の村を助ける依頼を出す際に、ハンスからアーレアンはお金を借りていたのである。
 ハンスはしばらくアーレアンが消えた方向を見つめていた。

 三日後、久しぶりに受付のカウンターに座らせてもらったハンスの元に、アーレアンが現れる。
「もう手伝いはやめたのか?」
「いや、今日はそのことで依頼を出しに来たんだ。代理でな。もちろん依頼人は俺ということになるのは承知しているよ」
 ハンスにアーレアンは依頼内容を話す。
 今、アーレアンが手伝いをしている一家は元々パリ郊外に住んでいた。七月の預言で屋敷がある敷地が戦いの場となり、脱出を余儀なくされた。現在はパリ市内で仮住まいをしている。
「郊外の屋敷がある敷地内に盗賊共が住み着いているようなんだ。元通りの生活に戻る為に追い出して欲しいというのが依頼内容だ。それと同時にあと一つ、お願いしたい事がある」
「なんだ?」
「昨日一緒にいた女の子。あの子は屋敷の一家とは違う。一家の使用人なんだ。どうやら脱出の際、両親を亡くしたらしい‥‥。両親が買ってくれたお気に入りの人形を、屋敷を逃げる際に忘れてきたらしくてな。盗賊共を追い出した時、人形を探してくれないだろうか。きっと後で取りに行ける程、あの子には自由な時間はないはずなんだ。その間に屋敷が建て直されたりしたら、二度とあの子の手には戻らないと思う」
「ああ、わかった。ちゃんと依頼書に書いておく。アーレアンも出向くんだろ?」
「もちろんだ。真っ赤な炎で追いだしてやるぜ!」
 アーレアンは依頼を出し終えると、すぐにギルドを後にした。

●今回の参加者

 ea7900 諫早 似鳥(38歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 ea8341 壬護 蒼樹(32歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 eb5266 フランシス・マルデローロ(37歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 eb6675 カーテローゼ・フォイエルバッハ(36歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ec3793 オグマ・リゴネメティス(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

アルシャイン・ハルベルド(ea8982)/ グリゴーリー・アブラメンコフ(ec3299

●リプレイ本文

●約束
「アーレちゃん、これみんなで仲良く食べてね。日持ちするから二日ぐらいは平気よ」
「すまないな。ミオーネ。ちゃんと人形をとってくるからな」
 パリ出発の際、使用人の少女ミオーネが冒険者の見送りに来ていた。アーレアンは弁当を受け取るとペットのロバに載せる。
「あれ?」
 ミオーネが突然日陰になったのを不思議に思って振り返る。
「僕もお手伝いしますので。ちゃんと人形を手に入れますよ」
「ありがと〜。あのね。お母さんが作ってくれた服を着せてあるんだ。でも無理しないでね。怪我をしたら大変だもの」
 ミオーネの言葉に、髪の毛で隠れる瞳が潤んだ壬護蒼樹(ea8341)であった。
「あたいは前もって調べたい事があるんで先に行くよ。屋敷から少し離れた辺りで合流だね」
 諫早似鳥(ea7900)はセブンリーグブーツで先に出発する。鷹の真砂が上空から、愛犬の小紋太は地上から諫早を追いかけてゆく。
「それでは私達も行きましょうか」
 カーテローゼ・フォイエルバッハ(eb6675)が愛馬の手綱を握って歩き始める。
「気を付けてね〜」
 ミオーネの姿が遠ざかり、冒険者達はパリ城壁の外に踏みだした。
「酒屋の娘を演じればいいのですね」
 オグマ・リゴネメティス(ec3793)は諫早から借りたふわふわヘアバンドをつけたまま歩く。これからを考えて既に耳を隠していた。
「私は護衛の使用人といった風情でやろうと思うわ。問題は身の危険を感じた場合ね‥‥」
「まあ、うまく外へおびき出してまとめて始末、というのが理想ですけど。すぐに襲われたら外で、侵入出来たのなら中で仲間を待てばいいでしょう」
 オグマとカーテローゼは細かい打ち合わせを行う。屋敷を占拠する盗賊共を油断させる為に、わざと迷い込んで酒を振る舞う作戦を立てていたのだ。もちろん大まかな作戦行動は仲間から了承済みである。
 諫早から預かったたくさんの『煎じたたんぽぽの根入りベルモット』はカーテローゼの愛馬に載せてあった。諫早の植物知識を生かした仕込みだ。
「まずは人形三体の確保を念頭にして仲間は動いてくれるはずだ。もちろんわしもだがな。手に入れたらアーレアンが持っていてもらえるか?」
「わかった。ミオーネの人形は俺が預かるよ」
 フランシス・マルデローロ(eb5266)はロバを連れる者同士、アーレアンと並んで歩いていた。人形を預けるのはアーレアンが暴走を牽制する意味もある。いきなりファイヤーボムで屋敷が燃え上がれば、すべての意味で大変だからだ。
 一行は夕方頃、屋敷近くへ辿り着く。
 夕焼け空を滑空する鷹の真砂を目印にして一行は先行していた諫早と合流した。さっそく屋敷から少し離れた場所で野営の準備をする。
 ミオーネが用意してくれた弁当を食べながら話し合いが始まった。
 まず、諫早が屋敷の周囲に住む者達から聞き込んだ内容を仲間に伝える。
 近くの集落や村では昨今の状況から警戒を強めていて、今の所はあの屋敷に住み着いた者達から受けた実質的被害はない。話しかけると、屋敷の新しい使用人だと言い張るそうだ。ガラは悪いが、買い物の支払いはちゃんとしているので今は静観しているのだという。
「きっと、屋敷に残った金や高価な物で買い物しているだけだ。無くなればきっと盗みや強盗を始めるに決まっているさ」
「あたいもそう思う。屋敷を勝手に占拠しているだけでも充分盗賊だからね。それと、保存がきく食料も貯め込んでいるみたいだし、本気で根城にするつもりだよ。門番をしている奴も見かけたよ」
 諫早はアーレアンに頷いた。
 すべては明日である。冒険者達は男女でテントを分けて就寝するのだった。

●作戦開始
「こちらに泊めては頂けませんか?」
 カーテローゼは愛馬を連れて、屋敷の門番である男二人に話しかけた。持っていたランタンを持ち上げると、馬に座るお淑やかなオグマの姿が浮かび上がる。
 すでに日が暮れようとして辺りは薄暗かった。ランタンの油はアーレアンが仲間にあげたものである。
「道に迷ってしまったのです。どうかお願いします。そうです、あれを‥‥」
 オグマは馬から下りてカーテローゼを促す。カーテローゼは馬の荷からベルモットを取りだした。
「お嬢様は酒屋の一人娘なのです。お酒を運ぶ途中なのですが、こんな状態ですし‥‥。差し上げますので、どうかよろしくお願いしますわ」
 カーテローゼとオグマは二人の門番を見つめて頼み込んだ。
 二人の門番はジロジロと眺めた後で内緒話を始める。そしてわざとらしい咳をしてから答えた。一晩の宿を提供しようと。
 片方の門番がカーテローゼとオグマを敷地に導いて屋敷奥に案内する。もう一人は残ってそのまま見張りを続けた。
 その様子を仲間達が物影に隠れて眺めていた。
「ん? なんだ、ねずみか?」
 諫早がねずみの鳴きまねをすると、残った門番がキョロキョロと探し始める。諫早が門から門番を引き離すように移動してゆく。
 フランシスが誰もいなくなった門から潜入に成功する。木に登ったアーレアンが手を振って、潜入成功の合図を出した。諫早は鳴きまねを止めて、いったん屋敷から遠ざかる。
(「こういう時は不便です‥‥」)
 壬護は葉のたくさんついた枝を頭の上に掲げ、門が見える藪の中に隠れていた。ジャイアントの巨体で何かをしようとしても目立って仕方がない。隠密の行動は仲間に任せて、じっとしていた。

(「アーレアンによればこっちに‥‥」)
 フランシスは盗賊達に見つからないよう、物影に隠れながら敷地内を進んだ。本邸の一部に林がかかっている。その林の中に使用人の建物があるという。
 屋敷の窓から灯りがもれていた。盗賊共の騒ぐ声も庭まで聞こえてくる。
 カーテローゼとオグマの二人がうまくやってくれているのだろうとフランシスは考える。ただ冒険者とはいえ、女性をいつまでも盗賊共と一緒にさせておく訳にはいかない。星明かりを頼りにフランシスは急いだ。
 林の中にあった使用人の建物から使われている気配は感じられなかった。フランシスは中に入ってからランタンを灯す。
 建物内は荒らされていた。盗賊共が家捜しをしたのだろう。
 奥に進んで二階への階段を登る。そこにミオーネが家族と過ごした部屋があった。
「これだな」
 フランシスはランタンで棚を照らして人形三体を発見する。幸いな事にこの部屋は大して荒らされていなかった。
 木材と布で作られた父親の人形、母親の人形、そして女の子の人形。
 フランシスは大事にしまう。
 話しこそしなかったが、出発時のミオーネの事を思いだすと切ない気分になるフランシスである。
「さてと」
 フランシスはこのあと屋敷内を調べるだけにするか、それとも盗賊共を追いだす作戦を実行するかを考える。
 状況を確認出来るフランシスに一任されていた。
 あくまで途中で見かけた盗賊共の印象だが、あまり強くはなさそうだ。奥に控えているはずの盗賊の上の者はわからないが、少し脅してやれば尻尾を巻いて逃げだしそうな気配である。
「決めた」
 フランシスは一度、外の仲間と示し合わせてある塀を挟んだ待ち合わせ場所に向かった。

「酒を持ってきてくれたんだと。こりゃ、べっぴんさんだのお。今夜は楽しめそうだ。‥‥いろいろとな。野郎共、一杯やっていいぞ!」
 カーテローゼとオグマが通された部屋に盗賊の首領がやってきて叫んだ。呼応した手下共は雑に盛りつけられた食事と一緒に酒に手を付ける。
(「しょうがないわ。時間稼ぎをしないと‥‥」)
 カーテローゼは酒を手にして盗賊の首領に酌をしに向かう。性に合わないのはわかっている。すぐにボロが出るかも知れない。ばれそうになればいつでも武器を手にするつもりであった。
「よー、そっちの姉ちゃんもこっちに来てきてくれや」
「はい。お待ち下さい」
 オグマも呼ばれて首領に近づく。カーテローゼと一緒に首領を捕まえるチャンスが到来した。
 部屋の中には首領を合わせて十二人の盗賊がいる。さすがにこの人数を二人だけで一気に倒すのは困難である。オグマが見た限り、首領もぼんくらではなさそうだ。必要以上にカーテローゼを近寄らせていない。タイミングを計る必要があった。
 カーテローゼとオグマは首領の酒の相手をしながら仲間の到来を待つ。
「なんだかちけーな」
 ベルモットを呑んだ盗賊達はよく用を足しに出かける。タンポポの根が効いているようだ。
 出入りが激しくなり、部屋には盗賊が六人になった。
 その時、戸が開けられたままの窓から、強い赤い輝きが部屋の中に飛び込んでくる。
 カーテローゼとオグマはアーレアンのファイヤーボムだとすぐに気がついた。外にいた盗賊共をまとめて狙ったのだろう。
「どうした!」
 首領が立ち上がって叫んだ。その時、カーテローゼとオグマは好機だと感じる。
「なにを!」
 オグマが首領の足を蹴飛ばした。がたいのいい男とはいえ、酔っぱらいを転がすのは容易である。
「静かにしたほうがいいわ」
 カーテローゼは横たわる首領の喉元にナイフを当てた。
「近寄れば、そのようになります!」
 オグマが放ったダーツで盗賊の一人が倒れ込んだ。部屋に残る四人の盗賊を牽制したのである。
 ドアが壊れるかの勢いで開いた。背を屈めながら入ってきたのはナ・ギナータを手にした壬護であった。
「退け!」
 ドアの近くにいた盗賊が壬護に向かって剣を振りかざす。壬護は慌てずにタイミングを合わせて盗賊の剣を槍で破壊した。
「おとなしく捕まるべきです!」
 投降を呼びかける壬護に恐れをなした者もいたが、二人の盗賊が隙を見て窓から外へ飛びだした。
「なんだ。この犬は!」
 窓から飛びだした盗賊二人に諫早の愛犬、小紋太が吠える。
 フランシスの矢と諫早のダーツが空気を切り裂くかのように二人の盗賊に放たれた。突き刺さった二人の盗賊は悲鳴をあげる。
「もういっちょ!」
 アーレアンの怒りのファイヤーボムが暗闇に赤く輝いた。庭で巻き込まれた盗賊共は戦意を喪失するのだった。

●そして
 冒険者達が倒した盗賊は抵抗をした三人。
 捕まえたのは首領を含めて五人であった。屋敷に残っていたロープで縛り上げ、冒険者達は順番に見張る。
 三日目の朝が訪れ、冒険者達はあらためて相談する。
「このような賊が消えることがないのは残念ながら事実だ。しかし、被害を受ける方が少しでも減るよう努力したい」
 フランシスの意見に仲間は賛成し、五日目の朝までは屋敷に留まる事となった。逃げた盗賊共の行動が気になったのである。
 冒険者達の読みは当たった。のこのこと戻ってきた盗賊がいたのだ。
「懲りないわね」
 三日目の夜、ラハト・ケレブを手にしたカーテローゼが塀をよじ登ろうとしていた盗賊を叩きのめす。
 同じ時刻の別の場所で諫早と壬護は共同して一人を捕まえた。
「おとなしくしていなさい」
 四日目の昼にはオグマとフランシスが遠隔で追いつめてさらに一人を捕まえるのだった。
 結果、合計七人が捕らえられる。
 五日目の朝早くに冒険者達は屋敷を後にした。
 七人の盗賊を引き連れての道中は衆人の注目となる。恥ずかしがる冒険者もいたが、アーレアンはご機嫌であった。もっともそれは無事に人形を手に入れたせいかも知れないが。
 一行は夕方にはパリへ到着した。衛兵に盗賊共を引き渡すと冒険者ギルドに向かう。
「冒険者のみんな、人形ありがとう」
 ギルドにはミオーネの姿があった。アーレアンから人形三体を受け取ると、一粒の涙を流す。ミオーネはつけてあった名前で人形を呼んだ。
「アーレちゃん、もうお屋敷では働かないの?」
「ああ、ごめんな。俺はやっぱり冒険者だからな。でも、たまに顔出すから」
「うん☆ あ、まだ仕事が残っているの。じゃ、またね〜」
「またな!」
 アーレアンは出入り口にかけてゆくミオーネに手を振る。
「願わくば、大事な思い出が出来るだけ早く良い思い出に変わってくれれば良いのですが‥‥」
 壬護はその様子を眺めていた。
「涙を流した後は、いい笑顔だったじゃないか。きっとあの少女は平気だ」
 フランシスが壬護に答えるように呟く。
「うまくいってよかったです」
「いろいろあったけど、これでいいと思うわ」
 オグマとカーテローゼは話し合う。
「あれだけ捕まえたり倒したりしたら、他の盗賊も戻ってこないだろうさ。屋敷の使用人の家を見た限り、扱いも酷い訳じゃないし、あの子も平気じゃないかな」
 諫早が少し落ち込んでいるアーレアン話しかける。
 そうこうするうちにハンスがやって来た。
「さあ、どんな事があったか話してくれないか?」
 冒険者達はテーブルについて報告を始めるのだった。