エテルネル村の守り 〜デュカス〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月01日〜10月08日

リプレイ公開日:2007年10月08日

●オープニング

「兄さん、夕食の時間だよ」
 夕日の中、少年フェルナールは兄である青年村長デュカスの背中に声をかけた。
 二人が暮らすエテルネル村はパリから馬車で二日の場所にある。盗賊に襲われ、一度は壊滅してしまった村だ。
「フェルナール、どうすればいいと思う? エテルネル村は、村人や手伝ってくれる冒険者のおかげで形になってきた。春、夏、秋と汗を流したおかげで食料もそれなりに備蓄出来た‥‥。こうなったのは嬉しいが同時に不安もある。盗賊などに狙われないかという問題だ」
 デュカスが眺めていたのは村の周囲を囲む石塀であった。以前の村からあったものがそのまま放置されている。火事で煤けたり、崩れた場所もあったが、総じて無事であった。
「この石塀があり、しかも村人の監視が行われていても盗賊の侵入は防げなかった。石塀を直す必要もあるが、他にもっと策が必要なんだ」
「それについては冒険者からも聞いていて不安に思ってたんです。一つ考えた方法があるのですけど」
「いい考えがあるのか! 聞かせてくれ」
「エテルネル村には張り巡らされた素晴らしい用水路があります。おかげで水車も回せて畑が乾くこともなく、生活の水も楽に手に入る。ただ現在の村人の数だとかなり手に余る状態でもあります。そこで――」
 フェルナールは小枝を拾って地面に村の状態を書き始める。
「なるほど。ぼくにもわかってきたぞ」
「そうです。ほんの一部の用水路を閉鎖し、水の流れを無くせば、村のかなりの周囲に一瞬にして堀を用意出来る。もちろん浅くなっている部分もあるので掘り直したり、足りない部分を新たに掘らなければならないですが、それでもかなりの作業が簡略化出来るはずです」
「将来的には新たに用水路を確保しないといけないだろうけど、今は充分過ぎる程の水量は確保出来ている。良い考えだ。前に用水路直しを手伝ってもらったシルヴァさんにも声をかけた上で、冒険者ギルドに頼んでみよう」
「うまくいくといいのですけど」
「フェルナールの考えなら平気さ。おかげで大分助かっている。それと冒険者からもらった意見なんだが、犬を飼ったらどうだろうか? いろいろと役に立つはずだ」
「いいですね。なんとか冬までには最低限の用意をしないといけませんね」
 デュカスとフェルナールが話していると、近寄る影がある。
「冷めちまいますよってに。はよー戻ってきてくれんと」
 一緒に住んでいる仲間のワンバであった。二人の帰りが遅かったので呼びに来たのだ。
「ワンバ、いいところに。フェルナールがすごいことを考えたんだよ」
「何です?」
 デュカスは掘についての説明をワンバに始めるのであった。

●今回の参加者

 ea7256 ヘラクレイオス・ニケフォロス(40歳・♂・ナイト・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 eb2456 十野間 空(36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec0037 柊 冬霞(32歳・♀・クレリック・人間・ジャパン)
 ec2418 アイシャ・オルテンシア(24歳・♀・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

シルフィリア・ユピオーク(eb3525)/ チサト・ミョウオウイン(eb3601

●リプレイ本文

●移動
 馬車と荷馬車の二両は人里見えない草原を駆ける。パリを朝早く出発した一行はエテルネル村に向かっていた。
「ごくろうさま」
 仲間がコルリス・フェネストラ(eb9459)に一声かける。御者を石工のシルヴァと交代して馬車内に戻ってきたのだ。
「デュカスさん、エテルネル村に着いたら手薄な場所に柵を作りたいと思っています。木材やロープを用意してもらえせんか?」
「木材は何かと必要なのでいつも余分に用意してあるよ。ロープもかなりあるはずだ」
 コルリスはデュカスの横に座って相談を始める。
 一番後ろの席では柊冬霞(ec0037)とアイシャ・オルテンシア(ec2418)がまだ幼いボーダーコリーを愛でていた。
 豚は放し飼いにされているが、将来は監視も必要になるかも知れない。それに村の警備にも役に立つと、パリの知り合いからデュカスが譲ってもらった。
「まずはしつけからかな?」
 アイシャは馬の面倒なら自信があるのだが、犬は今一である。それでも最低限の言いつけは守れるように訓練するつもりだ。
「旦那様、村で使って欲しいとの事でロバを頂きました。ボネールを含めてロバ達はあちらの荷馬車にいます。馬車が休憩で停まったら世話をしてきますね」
「すまないね。頼んだよ、冬霞」
 柊冬霞(ec0037)はコルリスとの話しが終わったデュカスに笑顔で承諾を得る。荷馬車はワンバが御者をしていた。
「また来ましたよ。デュカスさん達は元気でしたか?」
 アイシャは冬霞の隣りで笑顔を並べる。
「みんな元気さ。豚もすごい勢いで走ってるよ」
「時間があったら観てみたいですね」
「村に行くのは初めてです」
「コルリス様はそうでしたね。エテルネル村はいい所ですよ」
 デュカス、アイシャ、コルリス、冬霞の話題は尽きなかった。
 馬車の外では御者台に座るシルヴァに愛馬ケイロンを駆るヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)が近づく。
「シルヴァ殿、久しいの。大水の際に堤を切って以来じゃな。その後奥方とお子さんはお元気かの?」
「やはりあの時のヘラクレイオス殿か。エーミィは元気にしているし、娘も無事に生まれた。あの数日間の出来事は今でも忘れてない」
 ヘラクレイオスとシルヴァは去年の冬に堤防切りを力を合わせてやり遂げた事がある。二人で懐かしむ。
 途中、休憩をはさみながらの旅路は順調であった。

「みんなよろしくなのだぁ〜」
「こちらを調べておきました。お使い下さい」
 一晩の野営を経て一行は二日目の夕方に村へ到着する。出迎えてくれたのは、セブンリーグブーツで先行した十野間空(eb2456)と玄間北斗(eb2905)である。
 半日程早く着いた二人は、村の用水路の測量を行ってくれた。その情報をヘラクレイオスとシルヴァに伝える。
「ふむ、細かい所を寝るまでに検討しておけば、翌朝から作業を始められるじゃろう」
「それがいい。作業出来る時間は短いしな」
 資料を持って先にヘラクレイオスが冒険者男性用の家屋に向かった。シルヴァはフェルナールに会っておこうと、デュカスと一緒に水車小屋へ向かおうとする。
「シルヴァさん、これも使って下さいね」
 コルリスはシルヴァを呼び止めると用水路の地図を渡す。
 この地図を描く為に一晩を馬車の仲間と過ごした翌日、空飛ぶ木臼で村へ先行したコルリスである。スクロール用の紙ではもったいないといわれて、デュカスから渡された羊皮紙に描いたものだ。
「これは助かる。壊れかけている個所も印があるな。ここも手を入れておこう」
 シルヴァはコルリスに感謝する。
「デュカスさん、あくまで私個人の意見ですが――」
 コルリスは空から観た上でのエテルネル村の弱点についてデュカスに知らせる。特に高低差における護りの死角についてであった。
「そうか‥‥。今回の事が終わったら手をつけてみるよ。ありがとう」
 コルリスは話し終えると冒険者女性用の家屋に向かった。
 シルヴァとデュカスは水車小屋を訪れ、フェルナールに会う。既に用意されている穴掘り道具類の搬送と荷車などの貸し出しを頼むのであった。

●作業開始
 三日目の朝から作業は始まった。
 ヘラクレイオスとシルヴァの検討によれば、十メートル程度の新しい迂回用水路と、二個所の埋め立てをすれば、村外縁の堀に水が流れなくなる。大雨の場合でも、ある程度までなら自然に水が逃げて溜まらないという。
 まずは先に迂回用水路作りが始まった。
 ヘラクレイオスとシルヴァは仲間に指示を出しながら、自らも汗と土にまみれる。
 十野間空、玄間、フェルナール、ワンバも道具を手に穴を掘った。村人達も手伝う。
 冬霞はデュカス達の溜まった洗濯や掃除に手を付けるので、家屋が集中する場所に残った。食事作りも担当する。
 アイシャは幼いボーダーコリーのしつけをし、それが終わったら冬霞の家事を手伝う予定だ。
 コルリスは護りが薄い周辺の柵作りに手をつけた。後で村人が堀と石塀を作り上げるだろうが、それまでをしのぐ為の柵である。
「お食事をお持ちしました」
 冬霞がロバのボネールに荷車を牽かせて作業現場を訪れる。昼食用の食事を持ってきたのだ。
 専門家がいるだけあって、すでに大まかな穴は掘り終わっていた。後は側面部分の水漏れを防ぐ為の石組みなどが残っているものの、村人によって石も運ばれてある。その逆に掘られた土は明日の埋め立てに使う為に、午後から運ばなくてはいけないが。
「十野間さん、お食事の時間ですよ」
「あ、はい。今行きます」
 十野間空は目盛りのついた長い棒で新しい堀全体の深さを調べていた。キリのいいところで止めてみんなと食事を始める。
「玄間さん、冬霞から聞きました。ロバをありがとうございます」
「気にする事ないのだぁ〜。おいらじゃもう世話し切れないから、必要な人が居ないか探していたのだ。温和で力持ちな良い子だから、良かったら村で使っておくれなのだ」
 玄間はパンをかじりながらデュカスに答えた。
「私からもあらためてお礼を。ありがとうございました」
「どうせなら、気心知れた人の元に‥なのだぁ〜」
 玄間は冬霞に笑顔で答えた。
 昼食の配布が終わると、冬霞は家屋に戻る。洗濯を終えたアイシャと、柵作りから一旦帰ってきたコルリスが待っていた。
「では、頂きましょうか」
 冬霞が用意した食事を女性三人で食べ始めた。
 庭ではそよ風に洗濯物がなびき、ボーダーコリーが二匹でじゃれていた。遠くからロバ達の啼き声も聞こえてくる。
「洗濯って結構大変ですよね。これを簡単にやっちゃうなんて感心しちゃいます」
 アイシャは首をぐるっと回す。軽くポキッと骨が鳴る。
「こうして旦那様や皆様の世話をするのは楽しいですから、苦になりません。旦那様とこの村が今の私の全てですから」
「そう言い切っちゃうなんて冬霞さんすごいです」
「アイシャ様には洗濯や食事をしてあげたい気になる殿方はおられるのですか?」
「え〜と‥‥、コルリスさんにパス」
「わっ、わたしですか? それはずるいです。わたしもパス」
 たわいもない会話をしながら昼食の時間は過ぎていった。
「さて、柵には泥を塗って、火矢で燃えにくくしないといけませんし、がんばらないと」
 コルリスは柵作りの場所に戻ってゆく。
 冬霞とアイシャは家の掃除とロバの世話、そして夕食作りが待っていた。
「皆様、いい子ですね」
 冬霞が家にやって来た村の子供達の頭を撫でる。各家の水瓶を満たすのは子供達の役目であった。
 夕方には迂回用水路が出来上がる。作業をしていた者達は水浴びをして家に戻った。
 夕食までのわずかな時間、ヘラクレイオスは村を見て回る。
 豚を届けに来た時に傷んだ建物の修理をしたが、今回は出番はなかった。鶏小屋も大丈夫である。
 近くの森にある豚用の柵も気になったが、もうすぐ日が暮れる。後の機会にするヘラクレイオスであった。

●堀と塀
 四日目の朝から用水路の水を塞き止める作業は開始された。
 掘るより簡単な作業だが、容易には元に戻せないようにしなければならない。敵が簡単に水を引き込めたのなら、底に仕掛ける罠の意味がなくなってしまうからだ。石塀と合わせての見かけ上の高さも稼げなくなってしまう。
 埋め立てる地点は二個所あるので二手に分かれた。
 ヘラクレイオス組には十野間空とフェルナール。
 シルヴァ組には玄間とワンバとデュカス。
 石や土の搬送は村人達が手伝ってくれる。
 まずは大きめの石を放り込んで徐々に水流を緩やかにしてゆく。
 丸太を組んで作られた遮蔽板が岩の隙間に何枚か差し込まれると水の流れは急激に少なくなる。さらに小石と粘土質の土が入れられて、昨日の迂回用水路作りで掘られた土も使われる。昼を待つまでもなく用水路の二個所は塞き止められた。
「ここからが本番じゃな」
 ヘラクレイオスとシルヴァは水が抜けた用水路に沿って歩いた。浅い場所を探しだし、掘り直しを指示する。
 掘った土を運ぶ為に馬やロバも動員された。
 まだ乾いていない用水路だった底を堀始めればすぐ泥だらけになる。特別な技量はいらないが、かなりの重労働だ。
 それを見越して冬霞は昨晩の内にデュカスに頼んだものがある。森に罠をかけて獣肉を調達してもらった。その肉を少々塩味を効かせて料理に仕上げる。
 昼にしては豪華な食事を頂きながら、デュカスは思いだしたように話し始めた。
 謝肉祭をエテルネル村で行う予定だという。飼い始めた豚や鶏はまだ潰す訳にはいかないので肉の調達には不安が残る。だが、とにかくやってみようという話が決まっていた。デュカスは冬霞に他の冒険者にも知らせて欲しいと頼んだ。
 昼食が終わり、ヘラクレイオスとシルヴァは側面の補強を始める。集めてもらった石を器用に組み合わせてゆく。
 どのみち期間内ではすべては終わらない。そこでヘラクレイオスはデュカスやフェルナール、他にも手先が器用そうな村人を順番に呼んで作業の仕方を教えた。
「石塀の丈夫な積上げ方と道具の手入れを教えておく故、空き時間に少しずつ進める事じゃ」
 重要な個所は堀の上にある石塀に繋がるように石を組まなくてはならない。石塀の組み方も教えるヘラクレイオスであった。

 夕方になり、今日の作業は終了になる。
 各々が夕食までの時間を過ごしている時、村に一匹のフロストウルフが襲来した。
 もっとも十野間空が玄間の求めに応じてテレパシーを使い、ペットの希望を潜入させたのだが。
「雪狼だから‥って訳じゃなく、狼や野犬でもこの位の事はやってのけるのだ。だから、この場合はこう言う手段で守る必要があるのだ」
 玄間は村人に説明する。あいにくと訓練をする時間はないが、投石用の石をあらかじめ用意しておくなどの自衛策を伝授した。それに加えて、チサトとシルフィリアが送ってくれたモンスターの見分け方指南と罠の作り方の手紙をワンバに預ける。あまりに強敵なら冒険者ギルドに頼むべきだと言葉を添えて。
「ああやって侵入してきたら、吠えないとダメよ」
 アイシャは屈んでウルフの希望を指さすと、幼いコリーに言い聞かせるのだった。

「フェルナールさんは測量に興味ありますか?」
「はい。まだまだ村には手を入れなければなりませんし、出来れば覚えておきたいです」
 十野間空は食事の時間にフェルナールへ話しかけた。作業が忙しく、空いた時間は少ないが出来る限り教えようと約束をする。
 コルリスが黄金の竪琴を取りだして奏で始めた。奏でている時、水難に遭わないという言い伝えがある竪琴だ。コルリスは無事作業が終わるように祈りを込めて奏でるのだった。

●追い込み
 五日目の作業は昨日と変わらぬ内容だが、作業の最終日だけあって全員に気合いが入っていた。
「がんばるのだぁ〜」
「ここは大変なので終わらせておかないと」
 玄間と十野間空は土袋をぶら下げた棒を担ぐ。
「適当に見えて、ちゃんと法則があるんですね」
 石の組み方教えてもらったフェルナールは感心する。
 出来る限りの技術を吸収しなければ、これからの村の発展には繋がらない。教えてもらうのも真剣であった。
 夕方にはエテルネル村総出で作業が行われた。
 冬霞とアイシャはロバに繋いだ荷車で土を運ぶ。コルリスも堀を深くする為に泥まみれになった。子供達も土を積むのを手伝う。
 用意されたかがり火が消えかかる頃になって作業は終了する。
 ほとんどの者は水浴び場で泥と汗を流し、家屋に戻って食事をすると疲れで倒れるように眠りにつく。
「あまりがんばり過ぎないで下さいね」
 深夜、村の見張り台を冬霞が訪れる。デュカスが一人で警戒していた。
「今夜ぐらいはみんなを休ませてあげたいし。これぐらいしか出来ないからね」
「旦那様が倒れたら、それこそ村の一大事です」
 冬霞はデュカスに寄り添った。
「‥‥願わくば、平和な時がずっと続きますよう‥‥」
「そうだな。この村には争い事を持ち込みたくはない。だが、その為にも守りをしっかりしないと」
 冷たい夜風が二人の髪を揺らした。
(「何があっても、たとえこの身に代えようとも、私は旦那様をお守りいたします」)
 心の中で呟くと冬霞は星に祈りを捧げた。

●出発
 六日目の朝早く、冒険者達は豚が放し飼いにされている村近くの森を訪れた。
 子豚を含む豚達は元気に柵の中を駆け回る。ぐるっと一周してみるが、補修の必要な個所はなかった。
 変に興奮した様子はなく、豚も新しい生活に馴染んでいるようだ。豊富に落ちている木の実を食べて子豚も順調に育っている。
 安心した冒険者達は各々の方法でパリに向かって出発した。
 七日目の夕方に一行はパリに到着する。
「本格的な冬までには、堀も石塀も形にするつもりです。やり方を教わったので、おかげでなんとか完成までたどり着けそうです。ありがとうございました」
 デュカスとワンバは冒険者達に村で作られたたいまつを渡した。そしていつものように村の収穫物を販売する為に市場へと消えてゆく。
「これをお持ちになって下さい。デュカスさんとフェルナールさんにも差し上げたものです」
 コルリスがシルヴァにボーダーコリーの木工彫刻品を手渡す。
「ありがとう。よく出来ているね」
「私がいうのもなんなのですが、村に何かあった時はお手伝いをお願いします」
 コルリスはシルヴァと約束を交わす。
「それではいきましょうか」
 十野間空が仲間に声をかける。
 冒険者達はシルヴァとも別れて、報告の為にギルドへ向かうのだった。