スポーツの秋 〜シーナとゾフィー〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月03日〜10月06日

リプレイ公開日:2007年10月11日

●オープニング

「美味しいです☆」
「ホントに、美味しいわ。もう一度食べたくなるお味」
 冒険者ギルドの受付嬢、シーナとゾフィーは最近パリに出来たレストラン『ジョワーズ・パリ支店』を訪れていた。
 二人でテーブルに並んだ料理を頂く。
 つい最近、冒険者に教えてもらったレストランである。チーズと豆を主体にした様々な料理がとても評判のようだ。昼間からとても賑わっていた。
「ハーブワインもいけますよ。ゾフィー先輩」
「いいわね。時間がとれたらレウリーさんと一緒に来ようかしら」
 レウリーとはゾフィーの恋人である。ブランシュ騎士団黒分隊に所属していて、何かと忙しい。
「でも最近たくさん美味しいもの食べ過ぎのようで‥‥、ちょっと太っちゃうかな?」
「う〜ん。最近運動しないですし。そうだ! 久しぶりにラ・ソーユでもやりませんか? 先輩」
「いいわね。楽しくやりましょ。シーナ、今回は競ったりする?」
「どうしようかな。遊ぶだけがいい人もいるし、試合をしたい人もいるだろうし‥‥。希望でやりましょか。ちなみにシーナは試合をしたいです☆」
 二人はラ・ソーユの話題で盛り上がる。
 ラ・ソーユとは羊皮で出来た球を掌で弾き返して遊ぶ球技だ。主に修道院で行われているが、好事家によってパリ市内にコートが作られている。
 家に帰ると、シーナはさっそくラ・ソーユで遊ぶ募集の貼り紙を用意する。そして自宅とゾフィーの家の外壁に貼るシーナであった。

●今回の参加者

 eb7706 リア・エンデ(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)
 ec2838 ブリジット・ラ・フォンテーヌ(25歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●ハイテンション
 その日のパリは快晴のラ・ソーユ日和であった。
「そうです。ちょっとだけ腰を屈めて流れるように振り抜くといいですよ」
 ラ・ソーユ専用コートでは鳳双樹(eb8121)が集まった仲間に基本を教えていた。初心者もいるし、久しぶりで勘を取り戻そうとする者もいる。
 シーナとゾフィーの二人は壁を挟んだ隣りのコートで軽く流しているようだ。
「ラ・ソーユ、やったことないです」
 エフェリア・シドリ(ec1862)は試しにサーブを打ち上げてみる。屋根の上を転がり、相手側コートへとポトンと落ちた。
 ワンバンドしたところを、さっそうと現れたリア・エンデ(eb7706)が大きく振りかぶった。双樹に教わった通りに勢いをつけて振り抜く‥‥が、空振りだ。
「はう〜!」
 リアはぐるぐると回ってパタリとコートに倒れる。
「リアさん‥‥」
 双樹はデジャヴに襲われた。以前の経験はどこへやら、リアは初めからやり直しのようだ。
「久しぶりのラ・ソーユは‥‥目が回るのです〜」
「大丈夫ですか?」
 ブリジット・ラ・フォンテーヌ(ec2838)が肩を貸してリアをコートの外に移動させる。
「それでは私が。たまには乗馬以外の運動も面白そうです」
 ブリジットがコート反対側のエフェリアと視線を合わせた。
「‥‥楽しみです」
 エフェリアが再びサーブをあげて、相手コートに落とす。ブリジットは打ち返し、エフェリアも追いつく。
 ラリーが続く様子にコーチ役の双樹も笑顔で頷いた。
「皆、すごいのですよ〜。負けてられないのです〜」
 回復したリアが立ち上がると、突然辺りが薄暗くなる。
「やり残した事を片付けにきた‥‥」
 一陣の風が吹いて、枯葉が舞う。遠くから聞こえた声と近づいてくる影が一つ。
「はう‥‥緑ちゃん?」
 リアが呟いた通り、声と影の正体はエメラルド・シルフィユ(eb7983)であった。
「ラ・ソーユを極めるも厳格なローマの国では発揮する事が出来なかったシルフィユ家の秘奥の数々見せてくれよう!」
(「緑ちゃん、なんだかものすごく適当な事をいっているのです〜」)
 エメラルドの口上にリアが心の中で突っ込んだ。双樹、ブリジット、エフェリアもエメラルドの様子に驚いていた。正確にいえば、エフェリアはいつもよりほんの少し瞳を大きく開けた程度であったが。
「こんにちは。遅くなりました〜。あれ? どうかしたんですか?」
 現れた少女ファニーが一人だけ別空間の空気を漂わせているエメラルドを見上げた。リアがファニーの手を引っ張ってエメラルドから引き離す。
「ちょっと、緑ちゃん、ラ・ソーユに燃えちゃっているのですよ〜。触るとヤケドするので遠巻きから観てるのが一番です〜」
 リアに耳打ちされたファニーはコクコクと頷く。
「みなさん、秋のラ・ソーユで遊ぼう大会、集まってくれてありがとなのです☆」
「よろしくね」
 しばらくすると、シーナとゾフィーが隣りのコートから移動してきて全員に挨拶をした。試合を希望する者が募られ、全員が手をあげる。
「誰と試合をやるのでしょう」
 ブリジットはドキドキしながらトーナメント表が決まるクジを引く。六番の数字が出てシーナに伝える。
「これで決定です〜」
 シーナが木板にトーナメント表を書き上げた。
 第一試合 リア対エメラルド。
 第二試合 双樹対シーナ。
 第三試合 エフェリア対ブリジット。
 第四試合 ゾフィー対ファニー。
 第一と第二の勝者が戦い、第三と第四の勝者が戦う。最後残った二人で決勝となる。
 全員が革手袋をして、余計な武器防具を外した。
 本気モードで試合は開始されるのであった。

●リア対エメラルド
「はう! 緑ちゃん? 目が恐いのですよ〜、なんか凄いオーラが出てるのです〜」
 リアはくじ運のなさを嘆きながらコートの中に入り、エメラルドと向かい合う。
「リア‥貴様、この私とやろうというのか?」
「もちろんですよ〜♪ ちゃんと3回に一回くらいは前にボールが飛ぶようになったです〜」
 笑顔でエメラルドに答えるリアだったが、内心は違っていた。ちょっとだけと思っていた嫌な予感が膨らんでゆく。
 リアのサーブから試合は始まる。エメラルドが打ち返し、リアも追いつく。
「リアさん、がんばるのです〜」
 シーナの応援が飛ぶ。へろへろの返球が功を奏してなんと一点目はリアがもぎ取った。
「貴様ごときに不覚をとるとは!」
「だから、緑ちゃん‥‥恐いです〜」
 二回目のサーブが放たれると、エメラルドは大きく振りかぶって全身のバネを溜め込んだ。
「シルフィユ家奥義、風林火山陰雷! 動くこと雷の如し!」
「えっ! どこに?」
 エメラルドが打ったかと思うと、観客のゾフィーは球を見失う。他のみんなもキョロキョロと見回すがどこにも見あたらない。
「あそこです〜」
 シーナが指さしたのはリアのおでこであった。へばりついていた球がストンとコートに落ちると、リアは右へ左へふらふらと千鳥足に歩いた。
「はう〜、いたいのです〜、目がちかちかするのですよ〜」
 正気に戻ったリアは大粒の涙を零す。おでこを手で押さえ、コートの外に消えてゆく。
 リアのリタイアで早めの決着となり、エメラルドの勝利が決まった。

●双樹対シーナ
「お肉の友よ。今ばかりは真剣勝負です〜」
「シーナさん、いきます!」
 双樹のサーブで試合は始まる。
 跳ねるようにコートを移動するシーナ。
 ふわふわとドレスの裾を揺らしながら打ち返す双樹。
「長いわね‥‥」
「ほんと、二人とも粘ります」
 ゾフィーとファニーが球を追って、同じように左右に首を振る。
 もつれにもつれて、5ゲームをお互いがとっていた。
 現在、シーナ2点、双樹3点。
 4点になれば1ゲーム取得になり、勝負が決まる。
「おぉにぃくうのとも‥‥、強いのです‥‥」
「シーナさん、ね、ばりますね‥‥」
 運動神経のいいシーナにも弱点はある。
 普段デスクワークの仕事をしていて、特別な事はしていないシーナはスタミナ不足であった。その点については確実に双樹の方が上だ。
 双樹の返球に追いつけずに、シーナはコートにへたり込んだ。
「シーナさん、平気?」
「お肉の友よ、シーナの代わりにがんばるのですよ〜」
 シーナは笑顔で双樹にエールを送った。
 表面には出していなかったが、並々ならぬ決意で今回のラ・ソーユ大会に望んでいたシーナである。それを知っていたゾフィーには主催者が優勝してどうするつもりだと突っ込まれていたが。
 トーナメント表に新たな線が引かれる。激闘の末、双樹の準決勝進出が決まった。

●エフェリア対ブリジット
「するからには、本気です。エンデさん、お願いします」
「スーちゃん、確かに預かりました〜。頑張って〜です〜♪」
 エフェリアはペットの猫スピネットをリアに預けて、コートに足を踏み入れた。
「エフェリアさん、よろしくお願いします。楽しくやりましょう」
 ブリジットが笑顔で握手を求める。エフェリアは握手を握り返す。
 試合が始まり、二人とも初心者とは思えない動きで進行する。
 エフェリアはトコトコとコート内を歩くように移動するが、先読みしているのかちゃんと球に追いついている。読みが外れた時はあきらめてすぐに定位置へ戻った。
 ブリジットはパワープレイである。力ずくでねじ伏せるように返球してゆく。もっとも、あさっての方向に飛んでゆき、たまに照れ笑いをする事もあった。
「ブリジット選手、5ゲーム。エフェリア選手、3ゲーム」
 審判のゾフィーが宣言した。あと1ゲームをとればブリジット選手の勝ちが決まる。
 それからも激しい試合が繰り広げられた。ラリーが続き、なかなか決まらない。
 ブリジット、エフェリアとも汗だくになりながら白球を追う。
 観客するリア、双樹、シーナは拳を握って応援する。エメラルドは鷹の目のような鋭さで二人の動きを観察していた。
 結果、6ゲームを先取したブリジットの勝ちとなった。

●ゾフィー対ファニー
 二人の試合はゾフィーの一方的な勝ちで決まる。ストレートでゾフィーが6ゲームを取ったのだ。
 ゾフィーの実力が飛び抜けていたのではなく、ファニーが花を持たせた感じであった。観ていたシーナはそう思ったが口にはしなかった。
 とにかくゾフィーが勝ち抜いて準決勝にコマを進めるのだった。

●中間報告
 勝ち抜いたもの同士で準決勝は始まった。
 エメラルド対双樹とブリジット対ゾフィーである。
 初戦をリタイヤで勝ち抜いてスタミナを温存できたエメラルドと、シーナとの戦いですり減らした双樹とでは、始まる前から勝負は決まっていた。こればかりはくじ運が勝負を決した形となる。二人が同条件であったのなら、いい勝負になっただろう。結果はエメラルドの勝ちで終わった。
 ブリジットとゾフィーの戦いはすぐに勝敗が決した。一回戦とは逆にゾフィーがストレートで負け、ブリジットの勝ちだ。
 一時間の休憩が挟まれた後、決勝戦のエメラルド対ブリジット戦が始まった。

●決勝戦
「タイ〜ムです〜」
 審判をするシーナが試合を中断させる。
 エメラルド対ブリジット戦が始まって三度目である。
 一度目は球の破裂。二度目はブリジットの革手袋が完全に破ける。三度目の今はエメラルドの革手袋が破れたので交換だ。
 シーナはついでに球も交換しておく。頑丈なはずの羊皮製の白球もボロボロになっていた。その原因は二人のパワーだ。
「緑ちゃ〜ん、ブリジットちゃ〜ん、頑張って〜ですよ〜♪」
 おでこに自分で探してきた治療効果のある葉っぱを貼り付けたままでリアは応援する。
「迫力があります。ねこさんもそうおもうでしょうか?」
 エフェリアはスピネットを抱きかかえて観戦していた。
「お二人ともがんばりますね」
 双樹は破れた球と革手袋を手にとって眺める。
「せっかくの決勝ですし、出来る限りの事はしてみましょう」
 ブリジットは負けている自分を奮い立たせる。どうやらエメラルドは真剣勝負を望んでいるようだ。この場合、真面目にやらなければ失礼に当たる。
 現在、ブリジットは4ゲームを取り、エメラルドは5ゲームである。
 ラリーが再開された。空気を切り裂くように球が左右に弾け飛ぶ。
「私の打球は貴様のそれより三倍迅いわ!」
 エメラルドがコート奥から全力で駆けだす。
「迅きこと風の如し!」
 そしてワンバウンドした球を右の掌で押し出すように弾いた。ブリジットの頬をかすめるようにコートに叩き込まれる。
 ブリジットは左右に打ちわける作戦に出た。それでもエメラルドは追いついて打ち返してくる。
 勝負は5ゲーム対にまでもつれ込む。
 だが、突然の終わりが訪れた。
 6ゲーム目最初のブリジットのサーブが相手側のコートに落ちた時、その近くにエメラルドの姿はなかった。
 エメラルドは倒れていた。どうやら脚の使いすぎで動けなくなったようだ。
「お、おのれ‥あと少しというところで‥‥!!」
 パタリとエメラルドが伏せる。
 この瞬間、優勝はブリジットに決定した。

●お疲れ会
「ブリジットさんの優勝、おめでとうです〜」
「優勝できるなんて思ってませんでした。ありがとうございます」
 シーナの拍手にみんなが続いた。ブリジットは照れた様子だ。
 場所は夜のレストランジョワーズパリ支店。一行は店内ではなく、通り沿いのスペースに作られた屋根のあるテーブルについていた。ここならペットがいても誰も怒られはしない。
「賞品の授与です〜」
 シーナが読み上げてゾフィーが賞品を渡してゆく。今回は全部指輪である。
 一位のブリジットにはピグマリオンリング。
 二位のエメラルドにはブラック・リング。
 同率三位の双樹とゾフィーはブラッドリング。
 残念賞はローズリング。
 全員がとりあえず指にはめてみた。
「おもしろいでしょうか?」
 エフェリアはラ・ソーユの球で遊ぶスピネットの頭を撫でてあげる。注文したばかりなので、食事が運ばれるまでは少しかかるようだ。
「雲母ちゃんっていうですか〜。うちのファル君とも仲良くしてくださいなのです〜♪」
「外だけど、お店だからあばれちゃだめよ」
 リアと双樹はフェアリー同士を挨拶させる。リアのおでこにはもう葉っぱはなく、ほんの少し赤くなっている程度だ。
「はう、ちっちゃい雪ちゃんはボールじゃないのですよ〜、投げちゃ駄目なのです〜」
 いたずらっ子のフェアリーのファルと雲母は不思議な雪玉を投げっこする。慌ててやめさせるリアであった。
 フリフリのフリル付きウェイトレスとぴしっと決まったウエイターによって料理が運ばれてきた。
 チーズの匂いが漂い、喉を鳴らす食いしん坊もいる。豆とチーズを主体とした料理がテーブルいっぱいに並べられた。
 それぞれにお祈りなどの儀式をしてから食事が始まった。
「ん? どうした? みんな怖がっているようだが‥‥。それとも私の顔に何かついているのか?」
 エメラルドが笑顔で食事をしていた。ついさっきまでのエメラルドとは大違いだ。全員が合わせるように顔を横に振った。
「そうか。美味しいぞ。このシチューなんて絶品だ」
「そ、その通りです。頂きましょう」
 エメラルドが普段の様子に戻った所で、全員が食事を楽しむ事にした。
 ある程度食べ進めるとリアがアイの竪琴を取りだして演奏を始める。かがり火が用意された通り沿いのテーブルではやさしい時間が流れた。
 シーナはあいかわらずの食いしん坊ぶりだ。ゾフィーの横にはちゃっかりファニーが座っている。
 楽しい時間は終わった。帰り際にエフェリアは店の入り口近くの看板を眺めていた。
 ウェイトレスによれば、開店当時に冒険者が作った看板なのだそうだ。
「ちゃんと出来てます。わかりやすいです」
 エフェリアには兄が作ったものを確認して満足そうな顔をする。
「それではまたあったらよろしくなのです☆」
 シーナの一言でお疲れ会はお開きになる。おしゃべりをしながら途中まで一緒に帰る冒険者達であった。