乗っ取られた教会

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月05日〜10月10日

リプレイ公開日:2007年10月12日

●オープニング

 静かに冒険者ギルドのカウンター席に座る男性が一人。
 十字架を手に持ち、その姿からいってもジーザス教の関係者だ。
 やつれた様子の男性はなかなか話を切りださない。
「司祭様でよろしいでしょうか? どうなさったのでしょう?」
 受付の女性から男性に訊ねる。
「‥‥はい。ある村で司祭をさせて頂いています。いや、させて頂いてました。乗っ取られたんです。教会を」
 うつむいたまま、司祭と名乗った男性は依頼を始めた。
 約一ヶ月前、村に二人の怪我をした黒教義クレリックが訪れる。教義は違うが助け合いは大切である。白教義の司祭は治療の為に泊めてあげた。
 最初はおとなしくしていた二人の黒クレリックであったが、怪我が治ると突然に態度を豹変させる。ついには司祭を追いだして、村の教会に居座ってしまったのである。
「白教義の他の教会に助けを求めるべきなのはわかっているのですが‥‥、なるべく公にせず、済ませたいのです。あのような者達だと村人も困っているはずです。その為に冒険者の力を借りたいと思います。よろしくお願いします」
 司祭は依頼を出し終えても、うつむいたままギルドを後にした。

●今回の参加者

 ec2152 アシャンティ・イントレピッド(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec2830 サーシャ・トール(18歳・♀・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ec3299 グリゴーリー・アブラメンコフ(38歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ロシア王国)
 ec3596 ロラン・コースト(24歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ec3891 セヴァ・ラクスタス(27歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

リュボフィ・ブリューソフ(ec3695

●リプレイ本文

●途中の集落
「あれが黒教義クレリックの二人がいた集落か。立ち寄るぞ」
 手綱を持つロラン・コースト(ec3596)は馬車の進路を少し変えた。
 乗っ取られた教会が建つ村はまだ先にある。その前に黒教義クレリックの二人がいたという集落に立ち寄る事が決まっていたのだ。
「先にどんな感じか見てくるね」
 愛馬デュブルデューで馬車に併走していたアシャンティ・イントレピッド(ec2152)は集落に向かって全速で駆けてゆく。頭上には茨の冠から薄い布を垂らしてハーフエルフの耳を覆い隠していた。
「助けてもらっておいて追いだすなんて、どんな理由があったのかね」
「何か、怒りに任せているような感じがありました。詳しく聞く間もなく追いだされてしまったのですが‥‥」
 サーシャ・トール(ec2830)は隣に座る依頼人の白教義司祭に視線を向ける。ここまで一緒に揺られながら様々な事を話してきた。司祭は魔法を使えないという。聖職者といってもすべての者が使える訳ではない。かなり少数である。そういう意味でも黒教義クレリックの二人は特別な存在であった。
「鬱屈した何かが奴等の中ではじけたのかも知れん。出来ればだ、穏便に済ませて奴等の将来の為にもこの件は外に漏れねェようにしねえとな」
「わたしもそうだと思っています。何かあるとは思うのですが‥‥」
 タロン神を信仰するグリゴーリー・アブラメンコフ(ec3299)も司祭に話しかける。
 アシャンティが戻り、ごく普通の集落だと報告した。馬車はそのまま集落内へと進んだ。
「それでは黒クレリックの事を訊いて回ろう」
 御者台のロランが仲間に一言かける。冒険者達は馬車や馬から下りると、司祭に留守番を任せて集落内に散った。
 聞き込みをするので、今日中に目的の村に着くのは無理であった。今夜はこの集落の片隅を借りる事となる。
 集落民から話を聞いてきた冒険者はたき火用の落ち木を拾い、テントを張って野営の準備をする。日が暮れた頃、たき火を囲んでの話し合いが始まった。
「熊が集落を襲ったみたいだね」
 アシャンティが話しの口火を切る。一ヶ月半程前、集落を一匹の熊が襲った。冬が近いので食いだめをしている内に山を下りてしまったようだ。
 その時、集落にいた旅の黒教義クレリック二人が立ち向かった。最初は順調であったが、問題が起きる。仕留める事が出来ずに、手負いの熊が大暴れし始めたのだ。
「俺もそれは聞いた。今は落ち着いたが、その時は大変だったそうだ。そして一部の集落の者が黒クレリックに逆恨みをしたらしい。助けてくれようとしたのにな」
 ロランが落ち木をたき火へと放り込む。怪我をしたままの黒教義クレリック二人はそのまま集落から消え去ったという。
「俺ッチが聞いた子供は二人とも優しい奴等だったといってたしよ。どうも、いい事をしようとして、逆に被害を増やしてしまったので自暴自棄になっちまったんじゃないかね」
 グリゴーリーはやりきれない瞳で保存食をかじる。
「熊の一件があるまでは、黒教義クレリックの二人はこの集落に住み着こうとまで考えていたらしい。とても残念な事だが、二人を世話していた集落の家族は熊に殺されてしまったそうだ。司祭様、この話しを聞いて何か思いつかないか?」
 サーシャはたき火で影が揺れる司祭を見つめた。
「二人の怪我は獣に引っかかれたようなものでした。それほど深い傷ではなかったので、熊の爪で出来たものとまでは思い至りませんでした。怪我をしたまま、この集落からわたしがいた村まで歩いて向かったのですね‥‥。助けられなかった悔しさを抱いたまま‥‥」
 司祭は胸元にぶら下がる十字架に手を触れる。
「教会を乗っ取った事は許される行為ではありません。ですが、あの二人が身体だけでなく心にも傷を負っていたのに気づいてやれなかったのはわたしの罪です」
 司祭は十字架を両手で強く握った。

●準備
 一行は二日目の朝早くに集落を出発した。
 このまま村に入ると黒教義クレリック二人に気づかれる可能性が高い。いったん村が望める離れた場所に馬車を停める。
「それではいってくる」
 司祭から教えてもらった知人を連れてくるために、サーシャが一人で村に向かう。隠密の技を持つサーシャが一番の適任者であった。
 約一時間後、サーシャは一人の女性を連れて戻る。
「司祭様、心配していたのですよ。他の村人もみんなそう思っているはずです」
「すまない。ちょっとパリの教会に呼ばれてね。‥‥教会の留守を黒教義のクレリック二人に任せたのだが、どうしている?」
「はい。神について話を聞いても、今まで司祭様が仰っていたのとは違うのでみんな困っていました。そのうち滅多に人前には顔を出さなくなり、たまに出したと思えば寄付だといって食料を奪っていく有様です」
「そうか、すまなかった。数日の間に何とかなるはずだ。ここにわたしがいるのは黙っておいておくれ」
「わかりました。司祭様がそう仰るのなら」
 司祭との話が終わると、女性は一人で村に帰っていった。
 二人の会話を聞いていた冒険者達はどうやって捕らえるかの相談を始める。
 寝ている所を狙う。落とし穴や、袋小路の部屋に追い込むなど案はいろいろと出た。それらを考慮に入れた上で、司祭に教会の構造を訊ねた。
 すぐに作戦は決まり、夜まで身体を休める冒険者達であった。

●捕縛
 深夜になってから冒険者達と司祭は村へと入り、教会へ向かった。
 教会から洩れる灯りはなく、どうやら黒教義クレリック二人は寝ているようだ。
 司祭によれば二人は魔法によって物を破壊した。司祭の視界も暗くしたらしい。ディストロイとダークネスだと聞きかじりの知識をグリゴーリーは仲間に伝える。
 司祭が裏口の戸を開け、冒険者達は教会内に侵入した。
 奥にある司祭が使っていた寝室が怪しいものの、他にも空き部屋はいくつかある。どこで黒教義クレリック二人が寝ているかはわからない。油断は禁物だ。
 暗闇を夜目がきくサーシャを先頭にして進む。ランタンは事が起きる直前まで点けない方針だ。
 突然、灯りが現れる。何者かがランタンを持って廊下に出てきたのだ。
「おう、起きていたのか‥‥いや、誰だ貴様らは!」
 仲間と一瞬見間違えた黒教義クレリックには油断があった。冒険者はすでに司祭から特徴を聞いているので躊躇がない。
 走って向かったグリゴーリーの鉄拳が黒教義クレリックの腹をえぐる。くの字に曲がった所をアシャンティの蹴りが顎を捉えて跳ね上げた。
 黒教義クレリックは廊下に倒れる。
「きぃ、しゃあまあらあぁぁ! うぐっ」
 サーシャが持っていたロープで黒教義クレリックを縛り上げ、猿ぐつわを噛ませた。
「止まれ!」
 ロランは剣を抜いて威嚇する。もう一人の黒教義クレリックが仲間とは別方向の廊下に現れたのだ。物音で起きたのだろう。
「もしやあの司祭の差し金か!」
 黒教義クレリックはディストロイを放つ。暗くて定まらなかったのか、ロランではなく壁の一部を吹き飛ばし、破片が飛び散る。
「くそ!」
 黒教義クレリックは背中を見せて一目散に逃げだした。
 ロランとアシャンティが追いかける。アシャンティは司祭が直前に点けた教会内のランタンを受け取っていた。
「我々はこちらに」
 司祭の導きでサーシャとグリゴーリーは別の廊下を走る。教会の事は誰よりも司祭が詳しい。逃げた黒教義クレリックは挟み撃ちとなった。
 黒教義クレリックは魔法を使おうと構える。
「弱い己の部分と向き合う覚悟がねぇ奴はタロンを奉じる資格なしだ!」
 グリゴーリーが叫ぶと黒教義クレリックは後ずさって背中を壁に押し当てた。
 司祭が一歩、冒険者より前に出た。
「集落が熊に襲われた一件を聞きました。教義の違うわたしとあなたたちでは、考え方、ものの捉え方がかなり違うのでしょう。ただ、教会を乗っ取っただけでは何も解決しないはず。あなたたちも気づいたはずです。もう無駄な事は止めましょう。とにかく話し合いませんか?」
「‥‥もう、我々は魔法が使えるだけの‥‥クレリックとは名ばかりの者。道は閉ざされたのだ」
「わたしにはわかりません。ですが、本当にそうなのか、今一度確かめるべきです」
 司祭の説得は続いた。冒険者はそれを見守る。
 しばらく経つと黒教義クレリックは両腕を広げて司祭に近づいた。アシャンティが腕が動かないようにロープで縛り上げる。
 教会の礼拝場に蝋燭が灯された。司祭と黒教義クレリックの二人、そして冒険者が椅子に座る。
 朝日が昇る頃まで話し合いは続けられた。

●和解
 三日目、四日目も司祭と黒教義クレリック二人の話し合いは続けられる。冒険者達は見張りも兼ねて順番に立ち会った。
「もう一度やり直す為に、その教会にいってみます」
 黒教義クレリック二人は反省した上で、パリにある黒教義の教会に行く事が決まった。
 ロープはもう必要ない。黒教義クレリックは散らかった教会内を掃除する。
「村人にもバレないで済んだようだしよ。己を磨くんだな」
 最後の晩、グリゴーリーは酒を提供する。黒教義クレリック二人も混ぜて仲間と呑んだ。馬車には余裕があるので明日一緒にパリへ向かう事となる。
「ご迷惑をかけました」
 翌日の五日目、黒教義クレリック二人は祈りを捧げ、司祭にそう言い残して馬車に乗った。
「冒険者のみなさん、ありがとうございました。この教会を建てる時の残り物ですが、何かの役に立つかも知れません。お持ちになって下さい」
 司祭は冒険者一人一人に聖なる釘を手渡した。
 ロランの手綱がしなり、馬車は駆けだす。騎乗するアシャンティもついてゆく。司祭に見送られて一行は村を出発した。
 帰り道は何事もなく順調に進み、夕方にはパリへ到着する。
 ロランが黒教義の教会の前で馬車を停めた。
「ここでやり直そうと思います。いろいろありがとうございました」
 黒教義クレリックの二人が下りて最後の挨拶をした。
「話しが大きくなったら、これではすまなかったはず。あの司祭様に感謝するんだね」
「もうだめだからね。司祭様に感謝のお手紙でも送ったほうがいいよ」
「俺が説教する事なく解決したようだが、いいか? もうやるんじゃないぞ。威嚇するだけでは済まない事もあるぞ」
「完全なる父タロンの教え、もう一度勉強しなおせよ。ノルマンにはただでさえ黒信者は少ねぇんだからな」
 サーシャ、アシャンティ、ロラン、グリゴーリーと話しかけた。
 黒教義クレリックが教会内に入るのを見届けてから、馬車は動き始める。向かうは冒険者ギルド。報告が終われば依頼は終了であった。