ちびっ子ブランシュ騎士団と命の恩人
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月09日〜10月13日
リプレイ公開日:2007年10月17日
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●オープニング
「危ない!」
少女コリルが叫んだ。
ちび猫メルシアを追って少年クヌットが飛びだした先には、土煙をあげた馬車が迫っていた。
クヌットはメルシアを抱きかかえるが動けなくなって立ちすむ。
少年ベリムートと少年アウストはコリルの叫びで振り向いて一歩を踏みだすが、クヌットは遠くにいる。
全速の馬車が通り過ぎ、周囲は一瞬土煙で何も見えなくなる。コリルは呆然としてその場に座り込んだ。
「あっ‥‥」
土煙が晴れて、転がる女性の姿が浮かび上がる。女性はクヌットとメルシアを抱きしめて倒れていた。
「大丈夫?」
女性の回りをコリル、ベリムート、アウストが取り囲む。どうやら二人と一匹は擦り傷程度で酷い怪我はしていなかった。
「お姉さん、クヌットとメルシアを助けてくれてありがとう〜」
「いいのよ。助けられてよかったわ。クヌット君、無茶したらダメよ。お姉さんも子猫は大好きだけどね」
ちびブラ団は女性にお礼をいう。
「そうそう、これをあげるわ。子猫につけてあげれば注意しやすくなるかも」
女性はクヌットに小さな鈴を渡す。そして手を振って去っていった。
「クヌット、ダメだぞ。飛びだしたら」
「そうよ。もしひかれた大変よ」
「注意しないといけないよね」
「そういうな。俺様もメルシアを助ける為に飛びだしたんだから‥‥。心配かけてごめんな」
ベリムートがメルシアの首に鈴をつけた。
「大きくなったら外してあげるから。メルシアがいなくなったら、俺達かなしいぞ」
ベリムートが抱き上げると、メルシアは小さく鳴いた。
「これって‥‥、さっきのお姉さんのかな?」
大きめの革袋が少し離れた場所に落ちていたのをコリルが発見する。
「うん、そうだと思うぞ。あのお姉ちゃんに助けられたとき、その革袋が空中に飛んでいるのを見た記憶がある」
クヌットが革袋を持ち上げた。
「まだこの辺にいるかも知れない。探そうよ」
アウストの発案でちびブラ団は辺りを探した。しかし夕方になっても、女性は見つからなかった。
翌日も翌々日も探したが、女性は見つからない。
「どうしよーか。このままだと‥‥。もうパリにいないのかな」
「あきらめるなよ。う〜ん、しょうがない。革袋の中を見てみよう」
ちびブラ団は革袋を開けてみる。すると金槌と釘が入っていた。
「重たいはずだ。もしかして大工さんかな?」
「かも知れないね。あのね、ぼくに考えがあるんだけど」
アウストの話しを他の三人は頷きながら聞いた。
この前、山にキノコ狩りに入ったとき、ちびブラ団もソルフの実をもらっていた。その実を報酬にして冒険者達に女性探しを頼んでみようという作戦だった。
「ぼくたちだと、貧民街には入っちゃいけないっていわれてるし、他にもたくさん入れない場所はあるだろ? やっぱり頼むべきだと思うんだ」
「そうだな。そうしよう」
全員で賛成し、冒険者ギルドに向かう。そして入り口近くで頼めそうな冒険者を探すちびブラ団であった。
●リプレイ本文
●説明
ちびブラ団は親切な冒険者達を空き地へと連れていった。そして先にお礼のソルフの実を渡す。
「飛びだして助けてくれたんだ。そのお姉ちゃんがさ――」
クヌットが冒険者達に手振り身振りで一部始終を説明する。終わると、少年ベリムートが女性の落とし物である革袋を開けた。中にはたくさんの釘と金槌が入っていた。
「失礼させてもらいます」
アニエス・グラン・クリュ(eb2949)が借りてきた手袋をはめて、釘を一本一本確認する。持っていた聖なる釘と、一般に使われているものと比較してゆく。
「不思議な話ですね‥‥。大工だというのであれば釘の量はもっと多いと思いますが」
クリミナ・ロッソ(ea1999)が革袋を覗き込んで首を傾げた。
「クリミナさんは絵心があるようだから、似顔絵を描いてもらえるかね?」
「引き受けさせてもらいますわ」
ファイゼル・ヴァッファー(ea2554)が頼むとクリミナは快諾する。
「クリミナさんとは別に、誰か絵描きさんに似顔絵を描いて頂きましょう。複数の絵がある方が比較出来ますのでわかりやすいからですわ」
岩に座り、子供達と視線の高さを合わせていたポーラ・モンテクッコリ(eb6508)が提案する。クリミナにも異論はない。絵には描く者のクセが足される。別人が描く事で共通する特徴が浮かび上がる事も多い。
「僕も二人に描いてもらうのに賛成します。似顔絵描きさんを探しましょう」
壬護蒼樹(ea8341)もなるべくちびブラ団を見下ろさないように岩に座っていた。
空き地からクヌット家に移動するのは、似顔絵を描くクリミナと、ファイゼル、アニエスの三人。ちびブラ団からは少年クヌットと少女コリルの二人だ。
似顔絵描きを探しに行くのはポーラ、壬護の二人。ちびブラ団からはベリムートとアウストの二人である。
冒険者達の予定をつき合わせると四日間の猶予があった。今日の所は似顔絵を作り上げようと決まり、さっそく行動が開始された。
●似顔絵と釘
「一番印象的だったのは?」
「あたしは目かな。大きかったよ」
「俺様は髪の毛のカールを覚えているぞ」
クリミナの質問にコリルとクヌットが次々と答えてゆく。クヌット家の部屋を借りて似顔絵描きは続いた。
「耳はこう長いものだったかな?」
ファイゼルが自分の耳に指を足してエルフのポーラを真似てみる。
「うううん。あたしたちとおんなじ感じだったよ〜」
コリルは首を横に振る。
「絵とは別だが、声はさっきまで一緒だったポーラより高いか?」
「ちょっと低かったと思うぜ」
ファイゼルはクヌットの前で探す女性を想像してゆく。
「ん?」
コリルとクヌットがファイゼルの肩をじっと見つめていた。そこにいたのはフェアリーのレイミ、シーラだ。
「遊んであげてくれ」
「わ〜い☆」
ファイゼルはレイミとシーラに二人と遊ぶように声をかけた。クリミナもすでに質問し終わっているので問題ない。
「これはなんだろ‥‥?」
一人、釘を調べていたアニエスが腕を組んで考えていた。革袋の中にあった釘はほとんどが未使用だが、二本だけが使われた形跡がある。一本には付着しているものがあった。
「蜜蝋だと思うのですが。ファイゼルさん、クリミナおば様、どう思いますか?」
アニエスは二人に近づいて訊ねる。
「俺もそう思うな。垂れてくっついた感じか」
「蜜蝋といえば、祭壇で使う蜜蝋燭。何かに釘を打ち付けて蜜蝋燭を立てる場合もありますよ。ただ、蜜蝋燭は高いものなので、普通は燭台を使うはずですが」
二人の意見を聞いてアニエスはさらに考え込む。その間にクリミナが似顔絵を完成させた。
「うん。こんな感じだったよ」
コリルとクヌットのお墨付きをもらってから、クリミナは人数分プラス1の枚数を描き上げた。
「こんな女性なのか。明日は忙しいそうだ」
クリミナから一枚を受け取ったファイゼルが眺めていると、ちび猫メルシアが足下に寄ってきた。
「あらメルシア、いい鈴ね。ちょっと見せてもらってもいいかしら?」
クリミナはメルシアを抱き上げて鈴を眺める。細工からいってかなりの職人の手によるものだ。アニエスとファイゼルにも伝える。
「蜜蝋燭を釘に立てて使い、そして持っていた鈴はいい品物‥‥」
三人の冒険者は考え込んだ。
●絵描き探し
「実は心当たりがあるんだよ」
「そうさ。前からこういうのを集めていたんだ」
ポーラと壬護はアウストとベリムートに木片を見せてもらう。タロットカードに似たものだ。
線描で肖像画が描かれていた。オベル藍分隊長とラルフ黒分隊長のものだが、国王などパリで有名な人物のもあるそうだ。
「本物の黒分隊長を見たことあるけど、そっくりだったよ」
「うん。この絵描きさんなら、似顔絵なんて簡単のはずさ」
二人の強い勧めに、ポーラと壬護はその絵描きにお願いしようと決めた。
「ではあらためて。ポーラ・モンテクッコリよ。よろしくね」
「えっと、アウストといいます」
ポーラははぐれないようにアウストと手を握る。
「ではいきますよ」
壬護がベリムートをひょいと持ち上げると肩車をした。
「すごーい。空を飛んだ事もあるけど、それとはまた別だ」
ベリムートが喜んでくれて壬護も満足げな顔をする。
四人は裏通りに入った。小さな空き地に子供達が集まっている。絵描きが木片を並べて商売をしていたのだ。
「似顔絵描きですかい? お受けしますよ」
絵描きは気さくな男ですぐに引き受けてくれる。持ってきた木片の八割が売れた所で店じまいになった。
「で、どんな感じだったんだい? そのお姉さんっていうのは?」
絵描きは特徴を訊きながら、木の枝で砂地に似顔絵を描いてゆく。
「こんな感じでいいかな?」
「うん。このお姉さんだよ!」
絵描きにちびブラ団の二人が頷いた。
その砂絵を元に、絵描きはポーラと壬護が道すがらで購入した安価な羊皮紙に枚数分描いてゆく。線画だけの簡素なものであったが、似顔絵には充分である。
夕方になって、ポーラと壬護はちびブラ団の二人を家に送り届けるのだった。
●捜索
二日目から、冒険者達とちびブラ団はパリ市街を探し回る。
何組かに分かれた捜索が始まった。
●おいしい捜査
「なかなか見つからないね〜」
「そうですね。でもがんばりましょう」
建築現場の石材に座って壬護とベリムートがパンを食べていた。小腹が空いたので休憩に合わせておやつの時間である。
釘と金槌ということでまずは建築現場を調べてみたが、似顔絵にそっくりな女性は見つからない。
「それでは女性が消えた方向に歩いてみましょうか」
「うん。それがいいね」
再びベリムートを肩車した壬護は歩き始める。ベリムートは時々壬護に似顔絵を見せながら周囲をキョロキョロと見回す。
「壬護さんも命を助けられたことあるの?」
「恩人ならいますよ。お寺の御師様。ここまで育ててもらった恩がありますね」
ちょっとした話しをしながら二時間が経過する。
「もう肌寒い季節‥‥いろいろおいしい季節ですよね‥‥」
「もしかして、もうおなかすいたの?」
肩に乗るベリムートには、はっきりと壬護の腹の音が聞こえた。ぐ〜〜と鳴り響く。
壬護が見つめていたのは収穫祭の屋台。
「この丸焼きとかおいしそう。ちょっと食べますか」
壬護はベリムートを肩から降ろすと、さっそく注文する。
「秋はなんでもおいしいね」
なんだかんだいって、ベリムートも美味しそうに頂いた。
三日目までは、市街を歩く人を中心に探す壬護とベリムートであった。
●女性は冒険者?
「それではお願いするよ」
「お願いしまぁ〜す」
冒険者ギルドを訪れたファイゼルとコリルは受付の女性にある事を頼んだ。釘と金槌が入った革袋を探しに来た女性がいたら、よろしくと。
先程まで現場の周囲を調べたが、これといった情報は得られなかった。近所の人達には革袋を探している女性が現れたら、ギルドを訪ねるようにいってくれと頼んである。
「その女性が冒険者と踏んで探すとしようかね」
「うん。よく見るとたくさんいるんだね」
二人はギルド内にいる冒険者に訊いて回った。『似顔絵に似た外見特徴を持つ女性』と『猫好き』『道具が入った革袋』をキーワードにして。
シーラとレイミが二枚の似顔絵を持ってゆっくりと冒険者の目の高さぐらいを飛んでくれる。
残念ながら目的の女性、情報も得られなかった。
「ちょっと一人で行く場所があるんだ。シーラ、レイミとクヌットの家で遊んでもらえるかな? 仲間が戻って来たのなら一緒に出かけても構わないよ」
「うん。わかったよ〜」
ファイゼルとコリルはギルドの前で別れる。
「さて、酒場を回ってみるか」
ファイゼルはまだ日が高い時間から酒場へと足を運ぶのであった。
●釘の正体
ポーラとアウストは木工ギルドで一本の釘を見せていた。
「その情報は助かるわ」
「おじさんありがと〜」
中年男性が大きさ、そして蜜蝋燭がついていたものもあるという情報から、シャンデリアに使われていた釘ではないかと教えてくれる。
ポーラはすでに同業の知り合いへ似顔絵を回し済みでもあった。
「シャンデリアといっても木製のものから、銀で出来た高価なものまであるようね」
「貴族のお屋敷くらいかな? あと、一部の教会とか?」
「広間があるならシャンデリアがあってもおかしくはないわ。ただ、そんな家はパリでも限られているはずだわ」
会話しながらポーラは感心する。アウストの知識と頭の回転の良さに。
「それではまず、調べやすい現場近くの教会を回って聞きましょうか?」
「うん。さっそくいこう」
ポーラとアウストは教会回りをする。道すがら大きなお屋敷を見つけると、似顔絵を手にして訊いてみる。
三日目の夕方、ポーラは似顔絵に見覚えのある者を発見する。誰とは知らないが、ある周辺で見かけたというのだ。その場所とは貴族などの裕福な者達が住む一角であった。
●黒分隊
二日目の夕方、クリミナとアニエスは貧民街からクヌット家に戻った。メルシアと留守番をしていてくれたクヌットに状況を話す。
貧民街ではそれらしい人物を見かけたという情報は得られたものの、かなりあやふやであった。何か貧民街でやっていたのかも知れないが、住んでいるとは考えにくい。
革袋には印らしきものはない。どうやら手作りの品だ。
「クヌットさん。明日、王宮の門番さんに黒分隊のラ‥‥いえ、エフォール副長と会えないか相談してみましょう」
「アニエスちゃん、それはいい。とてもいいぞ!」
アニエスは女性の正体がブランシュ騎士団の団員ではと考えていたのだ。
「わたくしもおつき合いしますわ」
クリミナも一緒に訪ねる事が決まった。
翌日の三日目、アニエス、クリミナ、クヌットの三人は王宮の門番に面会を頼んだ。
王宮内には入れてもらえないが、門近くにある衛兵用の休憩部屋に通される。犬のペテロは外で待っていてもらう。
休憩部屋にまで足を運んでくれたエフォール副長が丁寧に挨拶をする。
「すでにパリの一般の方にまで話が広まっているのか。ラルフ黒分隊長は大丈夫だから安心してくれ」
「え!」
訪れた三人は声をあげる。特にアニエスは大きく。
「ラルフ様がどうかなさったのですか!」
「その事でやってきたのではないのか。実はラルフ黒分隊長がルーアン近郊で大きな負傷をなされたのだ。すぐに治療されたようで大事はなかった。安静にすれば治るという話だが、情報が錯綜していてね。天使様が出たという噂まである」
アニエスはエフォール副長の説明で頭の中が真っ白になるが、出されたハーブティーを飲んで心を落ち着かせる。
知り得た情報と似顔絵を見せて、ブランシュ騎士団の誰かではないかと訊ねる。疾走していた馬車も、その女性が関係しているのではないかと付け加えて。
「似顔絵を借りてもいいかな? 黒分隊の隊員でそれらしき者はいないが、聞いてみよう」
三人はエフォール副長に任せて休憩所を後にする。
「ラルフ黒分隊長、ほんとに平気かな」
「ラルフ様‥‥」
「高度な魔法で治療されたようですので大丈夫ですわ」
三人は帰り道を話しながら歩くのだった。
●最終日 氷解
四日目の昼前、冒険者達とちびブラ団はクヌット家で話し合った。
釘はシャンデリアに使われたものとポーラが説明する。似顔絵に似た人物が裕福な土地に出没するとの情報も語った。
それらしい人物が酒場周辺で聞き込みをしていた情報をファイゼルは得ていた。
貧民街にも現れた様子だが、かなり以前のようであるとクリミナは話す。
小耳に挟んだ事として、暴走していた馬車は窃盗事件に関連していたと壬護は伝える。
アニエスはクヌット家に来る前にエフォール副長と会ってきた。黒分隊隊員がある貴族の屋敷で開かれたパーティで似顔絵に似た人物を見かけたという。その屋敷の者ではないが、どうやら近所に住む者のようだ。
ポーラとアニエスが得た女性が見かけられた地域は一致する。
全員で調べる事と決まり、さっそく急行した。
アニエスはペテロに革袋の臭いを嗅がせて探らせる。
ファイゼルはフェアリーを飛ばして周囲を探らせた。
クリミナはクヌットとベリムートと一緒に似顔絵を持って各屋敷を回った。
ポーラはアウストと一緒に道行く人に似顔絵を見せて訊ねた。
壬護はコリルを肩に乗せて、高い位置から調べて回る。
「あら、クヌット君だったっけ? 奇遇ね」
「お姉ちゃん、見つけたぞ!」
クヌットが振り向くと、そこには探していた女性が立っていた。ベリムートが大きな声で仲間を呼び集める。
「これを返す為に、探してくれたの!」
女性は非常に驚いた。そして自宅の屋敷に冒険者とちびブラ団を招待する。
「推察の通り、釘と金槌はシャンデリアを直す為のものよ。壊れてしまったので、わたしが修理した事があるの。そういうの好きなのよ。それをわざわざ持ち歩いていたのは、仕事で金槌が必要だったからなの」
女性の名はディーリといった。テーブルには紅茶とお菓子が並ぶ。
「お姉さんの仕事はなんなの?」
「王宮のある騎士団勤めよ。あの時は盗賊団の流通を押さえようとしていたのよ。金槌は細工をする為に持っていったの」
「ブランシュ騎士団?」
「いえ、ブランシュ騎士団ではないわ。あそこは入りたいけど、なかなか難しいのよね」
ちびブラ団の質問は続く。騎士団団員と聞いてとても興奮していた。
「本当にありがとう。道具は気に入ったものが一番なので結構落ち込んでいたの。さようならー」
「さようなら〜」
ディーリに見送られて、冒険者とちびブラ団は屋敷を後にするのだった。