【収穫祭】 ワインの香り漂う結婚式

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月16日〜10月21日

リプレイ公開日:2007年10月25日

●オープニング

「確か去年の今頃だったね」
「そうね」
 青年シモンと娘エリーヌは王宮前広場を歩きながら眺める。大道芸などの見世物や、食べ物を売るお店が並ぶ。
 思いだせば一年前、シモンはエリーヌにプロポーズをした。エリーヌはそれを受け入れたのだが問題があった。
 エリーヌの父親である。
 娘の幸せを考え、二人の仲を認めたものの、心の中にはわだかまりがあった。ずるずると時間だけが過ぎた頃、ノストラダムスの預言による厄災がノルマン王国を襲った。
 パリも否応もなく巻き込まれてしまうが、人々を助ける為に何度かシモンは炊き出しを行った。その事がエリーヌの父親の心を震わせて、二人の仲は完全に許される。
 今ではシモンはエリーヌの父が経営するワイン問屋で働いていた。収穫祭に向けて大忙しの時期であった。
「冒険者ギルドに来るのは久しぶりだわ」
 シモンとエリーヌは仕事の合間をぬって冒険者ギルドを訪れた。
「おかげさまでワインを卸す仕事は繁盛させてもらっています。今日はその‥‥、けっけけけっこんしきの準備を冒険者にお手伝いしてもらいたくて」
 シモンが緊張気味に受付の女性に依頼を始める。
 農家や修道院を回ってワインを買い付けて、飲食店や小売店に卸す仕事がとても忙しく、結婚式の準備が間に合わない。そこで冒険者にお願いしたいという依頼内容であった。
「時期をずらすことも考えたのですが、冒険者のおかげで我々に進展があったのが一年前なのです。二人で結婚するならこのタイミングでと話し合ってきました。‥‥正直ここまで忙しいとは思わなかったのですけど、二人の夢でしたのでこの時期に結婚したいと思います。冒険者にも出席してもらいたく考えています。どうかよろしくお願いします」
 シモンとエリーヌは依頼を出し終えると、急いで仕事場に戻るのであった。

●今回の参加者

 ea1999 クリミナ・ロッソ(54歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb5314 パール・エスタナトレーヒ(17歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 eb5486 スラッシュ・ザ・スレイヤー(38歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●大忙し
 リュートの調べが冒険者達の心浮き立たせる。まるでシモンとエリーヌを祝福するかのように、窓の外から聞こえてくる音楽は楽しげであった。
 パリは収穫祭の真っ盛りである。
 花嫁となるエリーヌの家に冒険者達は集まっていた。花婿のシモンももちろん一緒だ。
「羨ましいもんだぜ、一生の思い出だ。何時までも色あせねぇ式に仕立ててやるぜ」
 椅子には座らず、スラッシュ・ザ・スレイヤー(eb5486)は柱に寄りかかりながら葉巻をふかす。エリーヌの父親も嗜むというので何本か頂いていた。
「おめでたい席です、精一杯お祝いしようじゃないですか。これだけはお聞きしておかないといけませんね。当日お二人の衣装なのですが――」
 クリミナ・ロッソ(ea1999)は衣装の話題を持ちだした。訪れる途中に仲間とも話したが、二人を結びつけたワインから連想される薔薇に纏わる色はどうかと提案した。
 花嫁は花の鮮やかさ。花婿は茎の力強き。つまりは薔薇色と緑色に決まる。
「しふしふ〜♪ お二人と会った去年の収穫祭、懐かしいです。すぐにもご一緒になったのだと思ってましたが、随分と道は長かった模様ですねー」
 シールのパール・エスタナトレーヒ(eb5314)は椅子の背もたれに座る。シモンとエリーヌに微笑みかけた。
「シモン様、エリーヌ様、おめでとうございます。それにしても、どうにも人手が足りませんね‥‥」
 アニエス・グラン・クリュ(eb2949)は決心をする。今までの人脈を使ってなんとかしようと。
「こちらの空き部屋を準備などにご自由にお使い下さい」
「時間に余裕があまりなくて申し訳ないのですが、よろしくお願いします」
 シモンとエリーヌが深々と冒険者達にお願いをする。
 さっそくクリミナが二人の採寸を急いで行う。アニエスとパールは数字を書き留めたり、長さを測る為の糸を押さえたりと手伝った。
(「ビシッと決めてやらねぇとな」)
 スラッシュはじっくりと二人を眺めて、結婚式当日の姿を想像した。
 測り終わり、資金を冒険者達に渡すと二人は馬車で出かけてゆく。ワインの納品をこれからしなくてはならないからだ。
 馬車に乗って仕事に出かける二人を冒険者達は見送った。
 冒険者達はさっそく用意すべき物をあげてゆく。
 衣装についてはクリミナが引き受ける。アニエスも様々な物を用意するつもりだ。
 一番の問題はコサージュを初めとする様々な飾り付けに使う花である。
 アニエスは結婚式の出席者名簿を確認するが、これといって生花を扱う商売人はいない。
 クリミナが市場に買い物に行くので、その時一緒に探す事にする。
 大まかな作業分担を決めると、それぞれに行動を開始した。

●アニエスの人集め
 アニエスは貧民街の教会を訪ねた。依頼人二人と面識のある母から教えてもらった教会である。
「これは、かわいらしい冒険者ですね。どうかなさいましたか?」
「お願いしたいことがありまして――」
 出迎えてくれたピュール助祭がアニエスの事情を聞いてくれた。ここの子供達に聖歌を歌ってもらいたいとアニエスは頼んだ。
 笑顔で頷いたピュール助祭が、教会の責任者である司教に話しを通してくれるという。まもなく司教が現れて承諾してくれる。寄付についてもアニエスは忘れなかった。
 アニエスは教会の奥に入れてもらい、子供達に挨拶へ向かった。みんな快く受けてくれるが、残念ながらお揃いの服は持っていないとの答えをもらう。
(「う〜ん‥‥」)
 アニエスは考え込んだ。これ以上アニエスがおば様と呼ぶクリミナに衣装作りの負担を増やさせる訳にはいかない。とにかく自分なんとかしようと心に決めた。
 翌日の二日目、今度はちびブラ団を探しにアニエスは出かける。
「やっぱりここにいましたね」
 アニエスはちび猫メルシアの頭を屈んで撫でてあげる。ちびブラ団の四人はいつもの空き地で遊んでいた。
「アニエスちゃん、どうしたの?」
 アニエスが事情を話すとちびブラ団は大乗り気だ。礼服の事を訊ねると、どうやら四人は持っているようだ。アニエスはほっと胸を撫で下ろす。
「そういや、父ちゃんなら似たような服なら用意出来るぞ」
 アニエスが教会の子供達の衣装で悩んでいる事を聞くと、クヌットが解決案を出してくれた。さっそく全員でクヌットの家に向かった。あいにく夕方にならないとクヌットの父親は戻って来なかったが、無事に衣装の手配を終える。待つ間、どんな風に結婚式を盛り上げるかアニエスはちびブラ団と相談した。
 仲間の準備の手伝いをしながら、結婚式前日の教会前に大きな木の板のメッセージボードをアニエスは用意した。葡萄と蔓で枠を飾り付ける。
 ちびブラ団と教会の子供達とも再度確認を終え、明日に思いをはせるアニエスであった。

●スラッシュの思いやり
「という訳で、頼むわ」
 スラッシュは結婚式後の食事会の会場探しを真っ先に行っていた。
 王宮前広場近くにあった空き地の持ち主と交渉し、場所を借りることにする。テーブルや椅子も近場のレストランに頼めば用意してくれるはずだ。
「目出度い料理ねぇ〜‥‥」
 スラッシュが空き地を眺めながら考える。自分も何品か料理の腕を奮うつもりなのだが、いい料理が思いつかなかった。
 すると、王宮前広場から仲間のパールがやって来た。
「ここに決めたのですねー。ちょうどいいです」
 パールは空き地の上空を大きくぐるっと回る。その後ろをスラッシュのフェアリー・アンジェラがついてゆく。
 スラッシュとパールは料理の話題になる。
「お目出度い料理ならごく普通ですが、ポトフがいいと思います。その他にも炊き出しも二人をより近づけたみたいでですから、豚一匹を使ったメイン料理もいいですね〜」
「奇をてらうよか、それがいいか。よし、決めぇたぞ!」
 スラッシュは下拵えに時間がかかる料理については早くから用意するつもりである。
 着付けやメイク、ヘアメイクがスラッシュの本領発揮だが、それは結婚式当日にとっておく。
 夜になってもやる事が山積みで作業部屋には全員が残っていた。
「ほら! 静かにしてやがれ」
 スラッシュは口は悪いが、大忙しのクリミナの肩を揉んであげる事も忘れない。
「奴の事はち〜ぃとばかり知っているぜ」
 スラッシュはピュール助祭の話をアニエスから聞いた。
 仲間と情報を交換しながら、スラッシュは煮込み料理の鍋をゆっくりとかき回すのであった。

●パールのお願い
「しふしふ〜♪ お話いいですか?」
「なんだい? シフールさん」
 王宮前広場では様々な大道芸が披露されていた。その中で物を出したり消したりする奇術師にパールは声をかけた。
「四日後のスケジュールは空いてますか? よかったらお願いしたい事があるのですー」
 パールは結婚式の後で行われる食事会に奇術師に芸を披露してもらいたいと頼んだ。シモンは奇術が好きなので、お祝いにちょうどいい。
 近場にいたスラッシュに聞いた所によれば、王宮前広場近くにある空き地で食事会をするのだという。それならば奇術師だけでなく、他の考えも実行に移せそうである。
 パールは奇術師に前金を渡して約束すると、今度は屋台探しに向かう。これもシモンが甘い物好きなのを知っているパールならではだ。
 売っていた蜂蜜入りの焼き菓子を買い、味を確かめた後で屋台の店主に相談した。食事会の時、空き地に屋台を出してくれないかと。
 店主は了承してくれた。その他にも果物を扱う屋台もあったので同じようにお願いしておいた。

 二日目の朝早く、パールはエリーヌの祖父がいる村に向かった。
 エリーヌの祖父もエリーヌの父親でもある息子が馬車で迎えに来るので、結婚式の為にパリへ向かうという。
 エリーヌの祖父にエリーヌの元婚約者について訊いてみると、どこか遠くに旅立ってしまったそうだ。残念と思いながら、これも人生とパールは納得した。

●クリミナ奮闘
「あまり濃い色ではないほうがよろしいでしょう」
 愛馬を手綱を持ってクリミナは市場を歩いていた。布や染料を買って積み込んでゆく。秋口だというのを考慮して、暖かそうな結婚衣装をイメージする。
 濃い色にしないのは染める時間が少ないせいもあるが、二人の若々しさを表現する意味もある。仲間の意見も採り入れて、良い物を作ろうと買い物にも気合いが入った。
「お花も売っていらっしゃるのですね」
 たまたま野菜などを売る商人がセージの花を扱っていた。クリミナはその他の花についても訊ねる。いくつかの種類なら用意出来るというので、前金を払って頼むことにした。
 結婚式前日の四日目と、当日の五日目に分けて運んでもらう事にする。
 花はいくつあっても華やかなので、今度は薔薇を扱っていた若い女性にも注文をした。万が一、花が届かなければ結婚式は台無しだ。二個所に頼めば、どちらか問題が起きても対応出来る。
 買い物を終えると、クリミナは鍋で一日目のうちに染めを行う。
 何度も繰り返さなくてはならないので、二日目の日中までは染めだけで終わる。裁縫はその後だ。布地を乾燥させる間に花を飾る為の花瓶や、細かな物の買い出しに向かう。
 二日目夜からクリミナは大急ぎで衣装作りに取りかかった。
 花嫁と花婿用の二着。丁寧に、それでいて早く仕上げなくてはならない。
 結婚式当日の相談の為、三日目にパールが教会の司祭を連れてくる。失礼と断った上で、裁縫をしながらの相談となる。
 貧民街の子供達やちびブラ団も結婚式に駆けつけると聞いたので、お揃いの飾りも用意しようとがんばるクリミナであった。

●結婚式当日
「これからが俺の腕の見せ所だぜ」
 スラッシュは理容の道具を自分の指先のように扱い、エリーヌの髪を整えてゆく。すでにクリミナが作った衣装を着ていたエリーヌはとても綺麗であった。
 ワインを思い起こさせる薔薇色の衣装はとても映える。
「ほーら、静かにしろよ。お互い百年の恋をしたのかも知れねぇが、それを千年の恋にしてやるぜ」
 化粧も施し、一通り仕上げ終わる。生花もポイントで使われていた。
 クリミナが作り終えたコサージュもスラッシュが花嫁に引き立てるように取りつける。
 パールもアニエスもエリーヌの美しさに目を見張った。
 エリーヌが扉の隙間から廊下の父親を見つける。冒険者達は入れ替わりになり、エリーヌと父親を二人きりにしてあげた。
 今度は花婿だとスラッシュは張り切ってシモンの控え室へと向かうのだった。

 式は司祭の特別な計らいでクリミナが祭壇に立って仕切っていた。
 アニエスが用意したヴェールをつけてゆっくりと入場するエリーヌ。
 誰よりも緊張しているカチコチの花婿のシモン。
 子供達の聖歌隊による歌声が教会内に響く。
 ちびブラ団の四人も指輪を運んだり、衣装を持ったりと活躍していた。
 シモンがエリーヌに指輪を指にはめてあげる。キスをする二人。
 二人が神に、そして参列者にも祝福される瞬間が訪れた。
「おっととと!」
 ベリムートとアニエスがフライングブルームに乗って、教会の外に出た二人を空から出迎える。
 ベリムートが箒を制御する間に、アニエスが花を撒いてゆく。
 コスモスや薔薇の花びら、セージの花が二人の世界に舞った。箒は大きく空に円を描いてゆく。
「ブーケは誰が取るんだろうな」
 スラッシュが呟いた矢先、肩にポトンと落ちるものがある。
「俺かよ! 普通、女にだろうが」
 肩に載っているブーケを手にとったスラッシュはばつが悪そうな顔をした。だが、観客の顔にはより笑顔が広がった。

 結婚式は終わり、その後の食事会となる。
 空き地近くの近くのレストランの料理も並ぶが、式が終わってすぐに駆けつけた冒険者達の料理もテーブルに並んだ。
 あちらこちらに用意された花が飾られていた。もちろんテーブルの上にもだ。
 エリーヌの父親がワインの卸しをしているので、選りすぐられた逸品が樽ごと用意されていた。開けられた樽からワインのよい香りが漂う。
「そうか。これは炊き出しの料理だね」
 シモンが気がつく。わざと簡素な料理を最初に出したのはクリミナの提案であった。
 それからスラッシュが腕によりをかけたポトフが出される。その暖かさと味に出席者の表情が綻んだ。豚を丸ごと使ったメインもこの後に控えていた。
「それではお見せしましょう。この玉がわたしの身体を逃げ回るのを追いかけさせて頂きますよ」
 パールが呼んだ奇術師がさっそく技を披露する。他にも甘い物が食べられる屋台が開店する。
 収穫祭時の王宮前広場近くだけあって、とても賑やかだ。
 誰も頼んではいないのだが、道化師が現れてシモンとエリーヌの結婚を祝う。
 道化師の他にも楽器を奏でる人達も現れる。出席者の中から踊り出す者が現れ、その輪が広がってゆく。
「おめでとう。黒派のボクですが祝福させてください。それでは♪」
 パールは目立たないようごく簡単にシモンとエリーヌへ祝福を授けた。
「ところでよぉ、ちぃ〜とばかり幸せのお裾分けって奴をしてやがれてんだ。なあ、新郎新婦さんよ」
 スラッシュはシモンの肩に腕を載せる。元々気の弱いシモンは少し緊張していたが、隣りに座るエリーヌの方は笑顔のままだ。
「さてさてお二人さん、相手のどこに惚れたんだい?」
 恥ずかしさでしばし言葉に詰まるものの、二人とも小さな声でスラッシュに答える。
「いつも支えてくれて‥‥、そんなところかな」
「シモンは優しいの。ずっとそうよ」
 もちろんスラッシュだけでなく、出席者全員が二人の言葉に耳を傾けていた。
「か〜っ、やってらんねえぜ!」
 ワインをがぶ飲みをするスラッシュ。大いに沸き上がる出席者。
 楽しい食事会は夕方まで続けられるのであった。

 すべてが終わり、冒険者達はとっておきのワインを頂いてギルドに報告へ向かう。
「そういや、今回の参加者は俺以外は女って‥‥」
 スラッシュはエリーヌの父親からもらった最後の葉巻をくわえながらキョロキョロと見回す。
「ガキにばぁさん‥っと危なねぇ、少女に熟女じゃねぇかよ」
 スラッシュはため息の代わりに煙を吐く。
「今度はスラッシュさんの番ですね。花嫁は似合うかしら」
 スラッシュの隣りを歩くクリミナが笑顔で反撃する。
「冗談じゃねぇぜ!」
 大きく葉巻をふかしたスラッシュの姿に、パールとアニエスも笑う。
「二人が幸せでありますように」
 振り返って祈るクリミナの言葉に合わせて、仲間もそれぞれのやり方で二人の幸せな未来を願うのであった。