霧に潜むのは 〜アーレアン〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 48 C
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:10月19日〜10月25日
リプレイ公開日:2007年10月26日
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●オープニング
「これうまいな。なんの肉だ?」
「ガチョウらしいぞ。おい、残しているならくれ」
青年冒険者アーレアンとギルド員ハンスは、宮廷前広場のベンチに座ってたくさんの屋台料理をがっついていた。
今は収穫祭。様々な催しが宮廷前広場で繰り広げられていたのだ。屋台もたくさん並んでいた。
「誰があげるもんか。うまいもんは最後に喰う主義なんだ」
アーレアンが器を持ち上げ、ハンスに背中を向ける。
「人間、いつ、どうなるがわからんぞ。その主義、捨てさせてやる」
「あ〜、てめぇ〜」
ハンスがアーレアンの肉に一口かじりつく。
アーレアンがハンスの首を掴んで揺らしていると、ベンチの隣りに女性が座る。
女性はがくっと項垂れて大きくため息をついた。
「どうかなさったんですか?」
アーレアンの腕を振り解いたハンスが女性に声をかける。
「あの‥‥、冒険者ギルドというのがパリにあると聞いたのですが、どちらにあるのでしょうか?」
女性が項垂れていたのを少し持ち直してハンスとアーレアンに視線を向けた。
「俺はギルド員。こいつは冒険者」
ハンスが自分とアーレアンを指さす。
「あなた方がそうなのですか。わたしはモリーユといいます。実は集落への帰り道がとても憂鬱で‥‥。この際、思い切って噂の冒険者に解決してもらおうかと思いまして」
モリーユは自分が住んでいる集落への道のりについて説明を始めた。
集落に入るには、切り立った崖の間を通らなければならない。普段は問題ないのだが、冬の夜に霧が出た時にはデビルが出るというのだ。
「それはクルードだな」
ハンスがモリーユの説明からどのデビルなのかを推測した。クルードは霧の息を吐く大きなネズミのようなデビルで尻尾が長い。爪と尾で攻撃するという。水系の魔法を使う事もある。
「デビルか。今まで戦ったことがないな」
「銀製や魔力が込められた武器、もしくは魔法でしか倒せないぞ」
アーレアンとハンスはモリーユを冒険者ギルドに案内しながら話し合う。
「今日は休日なんだけど、これも縁だし俺、いやわたしが受け付けましょう」
ハンスはモリーユとアーレアンをギルドの片隅のテーブルにつかせると奥に消えた。すぐに依頼を受けるための筆記用具などを持ってくる。
「アーレアンは依頼に入るんだろ?」
「ああ、乗りかかった船だ。デビルがどんなものかよくわからないけど、やってやるぜ」
ハンスの言葉にアーレアンは自分の胸を叩く。
「アーレアンさん、よろしくお願いしますね。ハンスさん、ありがとうございます」
モリーユが順にアーレアンとハンスへ礼をいった。
●リプレイ本文
●出発まで
一日目の朝、冒険者達はギルドに集まっていた。
出発前にやっておかなければならない事があるからだ。
「‥‥デビルは正直知識がまったくないです、そこでハンスさんにクールドについてお聞きしたいと。資料とかないでしょうか?」
壬護蒼樹(ea8341)は今回の依頼書を作成したギルド員ハンスにデビルの詳細を訊ねる。あいにくと依頼書に書いた事がハンスの知るすべてであった。ギルドにある資料についてもあれ以上の内容は書かれてないようである。
「やっと集まった‥‥。足下見られちまったよ」
ギルド中を駆け回っていた諫早似鳥(ea7900)が仲間の元に戻ってくる。サポートの河童の早瀬から依頼中にジャパンの品物を預かろうとしたが、それはギルドのルール違反だとハンスに止められた。
そこでハンスが出した代案の為に諫早は行動したのだ。ジャパンから来たばかりの冒険者と保存食を交換する。中に入っている味噌玉目当てだ。一対一の交換では受けてくれなかったので、諫早はかなりの保存食を放出してしまった。
地図をハンスから預かると諫早は壬護に文殊の数珠を貸した。
「クルードの事がわからないままですと大変です‥‥」
「クルードなら知ってますー」
壬護が困っていると、早瀬が手を挙げた。
「早瀬はよく知っているよ」
諫早に頷いた早瀬がクルードの特徴を詳しく説明する。おかげで対策が立てやすくなったと出発する冒険者達は早瀬に礼をいった。
外で待機していた依頼人のモリーユの馬車に全員が乗り込んだ。
馬車は一度市場に立ち寄り、諫早は干し魚や野菜、茸類を買う。フレイ・フォーゲル(eb3227)は買い忘れていた保存食を買いそろえる。
昼前頃、馬車はパリの城塞壁の外に飛びだした。
「物騒になったものですね」
フレイは馬車の中で仲間に話しかける。
「通常武器が利かぬ相手か。なかなか難儀な相手ではあるが、倒さなければ依頼人の集落の難儀が続く。少しでも力となれるよう全力を尽くそう」
フランシス・マルデローロ(eb5266)は御者をするモリーユの背中に視線を向ける。これだけの護衛がいても、どことなく怖がっている。
「デビルとはいえ、ようはお供兼ネズミ退治ってんだろ? まぁ、出来るだけ、さっさと片付けちまいたいなぁ‥‥」
ウィザードのキルリック・フィローウェル(ec3993)は馬車後部のスペースで防寒服を着たまま寝転がる。そしてフードを深く被り、耳を隠した。
「アーレアンさん、気をつけてくれ。デビルは強敵だ。くれぐれもと言付かって来たのでね」
「学者さんの代わりに頼まれたんだって? デビルには注意しないとな」
セルシウス・エルダー(ec0222)とアーレアンは会話を弾ませた。話題が広がり、仲間が参加してデビル対策の会議となる。様々な策が飛び出し、次第に作戦の流れが出来上がった。
●デビル出没の地
二日目の夕方、馬車は崖が両側にそびえる道に差し掛かって一旦停まる。
クルードと思われるデビルの出没地点だ。
冒険者達は馬車の窓戸を開け、顔を出して確認する。
目測だが崖の高さは道から平均して20メートル程度。西方面の崖の方が2、3メートルだけ高い。道には人の頭ほどの岩なら目につくほど転がっていた。落石にも注意しなくてはならない。
馬車は森の少し拓けた場所に停められていた。わざと夜間に馬車で通過してクルードをおびき寄せ、叩く作戦である。もし出没しなければ帰りの時にもう一度狙う段取りになっていた。
多めに落ち木を拾い、馬車内に貯めておく。どういう結果になるにしろ、後で野営はしなくてはならない。真夜中に落ち木を拾うのは危険も伴うので避けた方がいい。
諫早が鷹の真砂を飛ばし、自らも助走距離を設けた上で韋駄天の草履で崖下の偵察に向かった。馬車の中に半纏を置いて。
諫早に少し遅れてランタンの出来るだけ灯し、馬車は動き始めた。依頼人のモリーユが外では危ないので、セルシウスが御者台に座っていた。隣には遠くを見通せるフランシスが座る。
「霧だな」
フランシスは闇とはいえ、遠くに霞む景色を見つけ、馬車内にいる仲間に知らせた。
諫早が西の崖に沿って戻ってきた。途中が霧で酷く、かなり視力のいい諫早でも判別が不可能だと報告する。
「視力はそこそこですが、インフラビジョンが使えます。クルードを見つけたらその方向にファイヤーボムを撃ち込みますので、追従をお願いしますね」
「固まっていてくれれば、まとめて吹き飛ばすか」
「任せてくれ!」
フレイにキルリックとアーレアンが同意した。
フレイがフランシスと場所を代わる。冒険者達はいつでも馬車から飛びだす体勢をとった。諫早は愛犬小紋太と馬車の屋根の上で身構える。
壬護はセブンリーグブーツを履いて併走していた。馬車内から自分の巨体で飛びだすより、早い対応が出来ると踏んだのだ。
進んでゆくうち辺りは完全に霧に包まれた。周囲を確認できるのはインフラビジョンが使えるフレイのみとなる。
崖上からクルードに岩を落とされ、馬車の破壊、もしくは足止めをされるのが問題だと会議でも話題になった。特にフレイは崖の上に注意を向ける。
「あそこです! 二体確認!」
フレイの言葉で馬車が急停車した。そしてファイヤーボムが崖の上目がけて放たれる。
「落石なんかたまったもんじゃない! されてたまるか!」
「燃えやがれ!」
フレイと同じ軌道でキルリックとアーレアンがファイヤーボムも放つ。
ぼんやりと赤く輝く玉が冒険者達の上空に現れる。
冒険者達は馬車から飛びした。
「クルードを探して、後方でも正面でもなく側面を狙え。後、あたいに返事すんな。小柄を落とすからね。‥‥行け。どうした?」
諫早は愛犬小紋太が指示に従わず、ずっと吠え続けているのを不思議に思う。そしてすぐに頭を切り替える。
「小紋太が見つけた! 進行方向西壁寄り!」
諫早が愛犬の吠える方向を仲間に教える。
「ここからなら聞こえよう!」
フランシスはわざと目立つ場所に立ち、鳴弦の弓をかき鳴らした。囮役と同時に魔力の続く限りクルードの弱体をはかったのだ。
「クルード、覚悟を!」
壬護が魔力を帯びた槍を手に霧の中へ突っ込む。そして目撃する。耳まで裂けた大きな口の、ねずみに似たデビルクルードを。
呼吸する度に口から霧が吐きだされていた。尻尾を鞭のように攻撃を仕掛けてくるが、壬護には当たらない。槍の間合いと尻尾の間合いにほとんど差がないせいだ。
壬護は尻尾の攻撃に当たる覚悟で一歩を踏みだした。そして槍の一撃をクルードに食らわす。見事当たり、クルードがよろめく。フランシスの弓のかき鳴らしのおかげが、クルードはどことなく弱っていた。
止めを刺そうとするが、壬護はクルードの背後に何かいると気がつく。悪い予感がして急いで逃げだした。
案の定、近くの木が凍りつく。仲間のクルード二体が岩を落とすのに失敗し、崖下まで降りて参戦してきたのだ。放ったのはアイスコフィンであろう。
「任せろ!」
壬護が反撃する為に踏ん張って止まると、横ではセルシウスが構えていた。突きだした手からオーラショットが放たれて、壬護を追いかけてきたクルード共に一撃を加える。
周囲は霧でよく見えなかったが、それでも馬車に取りつけたたくさんのランタンのおかげで真っ暗という訳ではない。
立ち向かおうとするセルシウスと壬護の頬に冷たい触ったと思うと、突然の吹雪が襲う。クルード側がアイスブリザードを放ったのだ。
妙なクルードの鳴き声を聞いた諫早は悟る。この吹雪が逃げる為の準備であると。
「空に逃げるよ、アーレアン! 皆、退避しな!」
諫早が叫び、アーレアンが構えた。同等の魔法が使えるキルリックも横に並んだ。
可能な限りの強力なファイヤーボムを、二人がぎりぎりの近距離で重ならないように霧の夜空に撃ち放つ。
まるで太陽が現れたかと思うほどに一瞬辺りは明るくなる。そして暗くなり、しばらくすると霧も晴れた。
クルード一体の死体が突然冒険者達の足下に現れる。
虫に化けていたのが、死んで解けたようだ。元の姿に戻ってからさらに透明になってゆき、この世界から消え去る。
二体のクルードの死体も消え去る間際に確認できる。
諫早は手にしていた銀の礫を仕舞う。使わずにすべてが終わったようだ。
馬車に隠れていたモリーユが現れる。肩には鷹の真砂が乗っていた。
「あ、ありがとうございます! 集落の者達がどんなに喜ぶ事か」
モリーユは涙を流しながら喜んだ。
馬達が落ち着いた後で、もう少し移動して崖に挟まれる道を抜けだす。森の拓けた場所を探して、野営をする冒険者達であった。
●歓迎
「みんな、あの崖下のデビルが退治されたわよ!」
三日目、集落に到着するなり馬車を停めたモリーユは御者台の上に立って叫んだ。
その言葉に集落の者が集まってくる。若き者も年老いた者も次々と。
喜び、そして泣いている者もいた。馬車から下りた冒険者達は全員が集落の者達に背中を押されて連れてゆかれた。
着いたのは集落の長の家。
「ありがとう御座います。まさかこの日が来ようとは‥‥」
集落の長が深々と冒険者達に礼をいった。
部屋に通された冒険者達は、後からやってきたモリーユに説明を求めた。あまりの歓迎ぶりであったからだ。
「それは――」
モリーユは失礼ながら本当に倒してくれるとは思ってなかったと答える。
過去に腕っぷし自慢の者達にデビル退治を頼んだ事もあるのだが、どれも成功しなかった。せいぜい昼間に通過しろとか、霧がでたら近づくなとか消極的な解決法を説教して金だけを持ってゆく者ばかりであったのだ。
いつもは団体で通過するのだが、今回は馬車とはいえ一人で集落に帰らなくてはならなかった。崖下の道を無事通過できればそれでいいと、モリーユはそう考えていたのだ。
「こんな事なら早く冒険者ギルドに頼めばよかったわ‥‥」
モリーユは冒険者達と握手をしてゆく。
「ありがとう。これでパリにいる恋人を呼べるわ。デビルの事で躊躇していたのよ」
モリーユと握手をしながらアーレアンは苦笑いをする。アーレアンはハンスがモリーユに一目惚れしたのを知っていた。
(「ハンスの奴、告白しても振られるな‥‥」)
友を思うと切なくなるアーレアンであった。
その日の夜は集落の人々が料理を振る舞ってくれた。
あまり裕福ではない集落であったが、心はとても伝わった。
心づくしの料理を腹一杯に食べた冒険者達は屋根のついた部屋でぐっすりと眠りに就くのであった。
●念の為
「さて味噌汁作ってやんよ」
四日目の夜、冒険者達は退治したはずの崖の近くで野営をしていた。
集落を朝出発したのだがわざとここで馬車を停めた。デビルのクルードがもう出ないか、念の為に一晩を過ごすのである。
「不思議な物体だな」
諫早が苦労して集めた味噌玉を、頼まれたフランシスがナイフの平面で潰してゆく。
「懐かしいな‥‥」
壬護は蕪や人参、茸などを適当に切った。ものすごい腹の虫を鳴らしながら。
諫早はたき火の上の鍋から干し魚を取りだしてダシを確認する。さすがに鰹節は手に入らなかったので代用であるが、結構いい味である。ダシをとった干し魚はペット達のエサになった。
「これがジャパンの料理ですか」
「おもしろい香りだな」
フレイとキルリックは食べるのにためらっていたが、壬護の大食いを見て食べ始める。早くしないと鍋が空になりそうだからだ。
「結構いけるものだな。世の中は広い」
ジャパン出身の者以外ではフランシスが最初に口をつけた。
「アーレアンさん、食べてみましょうか」
「そうだね。いっせいのぉ〜で」
セルシウスとアーレアンは一緒に味噌汁を飲んでみた。なかなか美味いとそれからは黙々と食べ続ける。
誰もが美味しく味噌汁を頂いた。モリーユも美味しく頂き、後は見張りを立てて睡眠という時間に霧が出始める。
冒険者達はもしやと戦闘の用意を行うが、心配は杞憂に終わる。
落石もないし、クルードも発見されない。自然の霧であった。30分程度で晴れて星空が現れる。
何事もなく、夜は過ぎ去るのであった。
●パリ
六日目の夕方に馬車はパリに到着した。
「依頼金の他にこの程度の物しか差し上げられませんが、どうかお持ちになって下さい」
モリーユは全員にブルー・スカーフをプレゼントする。頭に巻いてもいいし、使い道はいろいろである。
「ありがとうございました〜」
「何かあったらまた呼んでください」
冒険者達はモリーユと別れてギルドへ報告に向かう。みんな一緒にパリの通りを歩く。
(「どう話そうか‥‥。まあ、やけ酒につき合う覚悟だけは決めておくか」)
アーレアンは遅れていた歩みを速めて仲間に追いつくのであった。