そこに林檎がある限り〜シーナとゾフィー〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月25日〜10月28日

リプレイ公開日:2007年10月31日

●オープニング

「シーナ、どうしたの?」
 冒険者ギルドのゾフィー嬢は、シーナ嬢に声をかける。
 休みの日、二人で注文した服を取りに行く途中であった。
 シーナはじっと壁に貼られた一枚の募集を見つめていた。
「なになに、『収穫祭記念リンゴ大食い大会挑戦者募集。優勝者にはレストランジョワーズ一年分タダ割り符プレゼント』ね。こういうの見ると秋を感じるわね〜。シーナ、行きましょ」
 ゾフィーはポンと背中叩いて歩きを促すが、シーナは立ち止まったままだ。
「シーナ? もしや」
「ゾフィー先輩、ここはやらねば、女がすたりますよね」
「いや、誰もシーナにそういうの求めてないと思うわ」
「早食いはダメなんですけど、大食いなら‥‥」
「シーナ、聞いてる?」
「一年分の下に小さく書いてありますけど、一ヶ月単位で分けてもいいみたいです〜。一人で一年タダでも、十二人で一ヶ月タダでもいいってことですね〜」
「‥‥シーナ、もう優勝した気?」
「これはチャンスですよ。ゾフィー先輩!」
「いや、だからね‥‥。そっ、そうよ。これから服を取りに行くところでしょ。そんな事したら新しい服がすぐに着れなくなっちゃうわよ。もったいないし」
「チーム戦もあるのですね。わたしとゾフィー先輩でとりあえず二人と‥‥」
「何勝手に決めているのよ! わ、わたしはぜっ〜たいやらないわよ!」
「何人でやるかは別にして参加申し込みしてきます〜☆」
「や〜めぇ〜て〜〜!」
 ゾフィーの悲鳴が空しく、パリの秋空に響くのだった。

●今回の参加者

 ea7780 ガイアス・タンベル(36歳・♂・ナイト・パラ・イスパニア王国)
 ea8341 壬護 蒼樹(32歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 eb7706 リア・エンデ(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)
 ec2472 ジュエル・ランド(16歳・♀・バード・シフール・フランク王国)

●リプレイ本文

●お気楽チーム
「はう?」
 リア・エンデ(eb7706)は『食べ放題』との言葉に往来で立ち止まる。壁の貼り紙を見ている男達の会話にエルフの長い耳をそばだてた。
 肩に乗るフェアリーのファル君も耳を向ける。
(「収穫祭のお祭りでリンゴが食べ放題なのですか〜」)
 貼り紙を読まずに、リアは男達の会話だけで決めつける。それがリアにとっての地獄の始まりであった。
「美味しそうなのです〜。私も食べに行くのですよ〜」
 リアはファル君に話しかけてスキップをする。男達が話していた王宮前広場に向かって。

「リンゴ大食い大会、挑戦です」
 エフェリア・シドリ(ec1862)は会場前で風にはためく旗を見上げていた。
「エフェリアちゃん発見です〜」
 声をかけられてエフェリアは振り向く。そこにいたのはいつも元気いっぱいのリアだ。
「エフェリアちゃんもリンゴ食べに来たのですか〜?」
「はい。そうです。エンデさん、一緒に食べましょう」
「それじゃ〜一緒に食べにいきましょ〜なのですよ〜」
「そして、一番で‥‥」
 言い終わる前に、エフェリアはリアに腕を引っ張られて会場内に入る。
 エフェリアが調べたところによれば、3人のチーム戦が層の薄さからいって勝ちやすそうであった。誰か入ってくれそうな人はいないかエフェリアは辺りを見回した。
「美味しくリンゴを食べられれば、それでいいんやけど‥‥」
 シフールのジュエル・ランド(ec2472)が受付前で右へ左へ、腕を組んで空中を漂う。
「もしもし」
 悩んでいる様子を見て、エフェリアがジュエルに訊ねる。一緒に大会に参加しないかと。
「3人の方が心強いわ。ウチも混ぜて」
 ジュエルが笑顔で頷く。こうしてリア、エフェリア、ジュエルの『美味しい林檎チーム』が完成した。
「はう? リンゴを食べる人は名前書かなきゃいけないですか? しかたないです〜」
 リアは係員にいわれた通りに参加名簿に名前を書いた。なぜそんなものを書くのかは訊ねずに。
 ジュエル、エフェリアも書き終わる。
「えと、あのテーブルに座るですか〜? それじゃ〜私達も行くのですよ〜」
 リアを先頭にジュエル、エフェリアと、美味しい林檎チームは向かった。大食いという戦場に向かって。

●覚悟のチーム
「会場に来れば、なんとかなると思ったのです〜。よろしくお願いしますです☆」
 シーナは会場内のテーブルであらためてチームの仲間に挨拶をした。会場周辺で冒険者と思われる人達に声をかけたのである。
「商品がジョワーズのタダ割符で林檎食べ放題なら参加するしかないですよね。シーナさんお誘い有難うございま‥‥」
 ガイアス・タンベル(ea7780)がシーナの右隣に座っていたが、椅子から転げそうになった。
「だ、大丈夫ですか?」
 ガイアスを支えたのはジャイアントの巨漢、壬護蒼樹(ea8341)だ。
「昨日から何も食べないようにしてたので‥‥。もうすぐたくさん食べられるので平気です」
 ガイアスはテーブルに伏せるようして待つ。
「あ、僕もちゃんと挨拶しないと。シーナさん、ガイアスさん、今日はどうか宜しくお願いします。噂ではシーナさんは大抵ゾフィーさんという受付さんと一緒だと聞いたのですが」
「ゾフィー先輩は応援席で待ってます〜。お二人が参加してくれてホッとしているみたいですよ。参加しなくてすんで」
 壬護はシーナが指さした方向にゾフィーの姿を見つけた。
「あ、そうです。これだけは確認しておかないと‥‥」
 ガイアスは起きあがると、通りすがる係員を掴まえてルールについて質問をした。
 係員は丁寧に教えてくれる。
 食べるリンゴの大きさ重さは大まかであるが、同じぐらいの物が選別されていた。
 チームに2人ずつ判定員がついてちゃんと食べたかを判定してくれる。芯や種は食べなくてもいいが、あまりに実が残っていると食べた個数に数えられない。
 食べた個数についてはリアルタイムで背後の木板の数字を入れ換えてゆくので、観客にもわかりやすく、インチキがすぐに発覚するよう配慮されていた。
 係員にお礼をいって『大食い大王チーム』は待機する。シーナ、ガイアス、壬護のチームの事だ。
 司会から12チームの出場が発表される。
(「あれはもしかして‥‥」)
 壬護は遠くのテーブルに座る3人の子供達が手を振っているのに気がつく。
 よく知るちびブラ団の男の子三人だ。彼らも出場しているとは考えもしていなかった壬護であった。

●戦いの直前
「あ、知ってる人達発見なのですよ〜。シーナ様こんにちはなのです〜。リンゴ食べに来たですか〜?」
 テーブルに着こうとしたリアは隣りが大食い大王チームだと気がついた。
「シーナさんも出るのですね。大食い大会」
「はう?」
 エフェリアがシーナにかけた言葉に、リアが驚く。
「この集まりは『収穫祭記念リンゴ大食い大会』なのですよ」
「いっぱい食べなきゃ駄目ですか! そんなにいっぱい食べれないのです〜」
 この時点でやっとリアは大食い大会と気がついた。どっと冷や汗をかき、周囲をキョロキョロ見回す。
(「こんなはずではなかったのですよ〜。あれはなんなのです〜。そろそろ肌寒い季節だというのにものすごい薄着の筋肉ムキムキの三人組は〜」)
 リアは目立たないように静かに座っている事にした。
「それでは3人チーム戦、間もなく開始です」
 司会の喋りに合わせてテーブルにリンゴが運ばれてくる。2個のリンゴが置かれた皿がそれぞれの前に置かれた。仲間同士は助け合っても構わないので、3皿をチームで食べ終わると、次の皿が用意される。
「ここの所ずっとおなか一杯食べれて幸せだなぁ!」
 壬護は前髪に隠れた瞳をギラギラと輝かせた。
「誰にも負けないですよ〜」
 シーナはリンゴを見つめる。
「リンゴって美容にもいいんですよね。たくさん林檎食べて綺麗になるって一石二鳥ですよシーナさん」
 ガイアスはぺったんこのお腹を軽くさすって、ごくりと唾を呑み込んだ。
「食事はゆっくり、良くかんで、です」
 エフェリアはマイペースだ。
「楽しくいきましょ。盛大に」
 シフールのジュエルには、どうみても不釣り合いな大きさのリンゴである。
「はう〜。凄く大きいリンゴなのですよ〜。美味しそうだけどひとつ食べたらおなかいっぱいになりそうです〜」
 リアは涙目であった。
「それではスタート!」
 司会の合図と共に勝負が始まる。
 最初から飛ばす大食い大王チーム。
 ゆっくりと食べ始める美味しい林檎チーム。
 これから一時間。リンゴとの格闘が始まるのであった。

●美味しい林檎チーム
「エフェリアちゃんはいっぱい食べれるですか〜?」
 リアは一口リンゴをかじる。
「‥‥食事、遅いほうかもしれません。でもがんばってみます。ジョワーズのタダ割り符、興味があります」
 エフェリアは服が汚れないようにゆっくりと食べ始める。一時間もあるので、急いでも仕方がない。
「蜜が多くて美味しいわ」
 ジュエルもゆっくりと味わってシャリシャリとリンゴを食べていた。
 シフールのジュエルにとって食べきれるのは一個が限界だろう。それも少々無理をして。食いかけにするのはもったいないので、一個は食べきるつもりのジュエルであった。
 ジュエルは普段の食事を思いだす。保存食はシフールでもちゃんと食べきらないと一日の活動に支障が出る。酒場のメニューなどは注文時に一言添えれば、食べきれる量に減らして持ってきてくれる場合がほとんどだ。何もいわなければ大抵普通の量が運ばれるので仲間にあげたりしていた。
「お腹いっぱいなのです‥‥」
 リアは一個目を食べ終わり、お皿に残ったもう一個を見つめた。美味しかったので、ここで止めたいリアであった。だが今は居るのは大食い大会の会場。ここで止めてはならないともう一個に手を出す。
「はう〜。もう駄目です〜」
 リアが2個目を食べ終わった時には、すでに30分を経過していた。パタリとテーブルに伏せて、降参のリアである。
「1個頂きます」
「お願いするわ」
 2個目を食べ終わったエフェリアは、ジュエルの皿に残った1個をもらう。
 エフェリアはあくまでマイペース。周囲を見ながらゆっくりと食べ続ける。
 壬護と知り合いらしい子供達はすでに降参していた。5個までは食べたようだ。
(「優勝候補さん‥‥みなさん、すごい方たちです」)
 エフェリアはかじりながら周囲を観察した。
 マッチョマンチームと名乗っている優勝候補筆頭の3人は、ものすごい勢いでリンゴを食べまくっていた。
 よく知るシーナが加わっている大食い大王チームも負けてはいない。皿がどんどんと積み上がってゆく。エフェリアは心の中で応援を送った。

●大食い大王チーム
「あ‥‥あとは、任せたのです‥‥」
 シーナは皿3枚。つまり6個を食べ終わった時点でギブアップとなった。
 勝負の行方は仲間二人に託される。
「これぐらい‥‥」
 お腹が空いていたガイアスは初っぱなから飛ばしてリンゴを食べていた。なるべく小さいのを選ぶつもりだったのだが、皿に2個ずつではどうしようも出来ない。とにかく食べるのみと奮闘する。
(「まさかリンゴで朦朧とするはめになるなんて」)
 7個目を食べた頃から意識が途切れ始める。8個目を食べ、9個目を手にしてから記憶がない。
「あ、後は頼みました‥‥」
 なんとか10個目を食べ終わったところで、ガイアスは目を回して倒れた。
 残るは壬護一人のみである。
「がんばって〜!」
 観客席からゾフィーの応援が届く。
 壬護は黙々と食べ続けた。蜜の多いものや、酸味の強いものなどリンゴと一口にいっても様々な味がある。1個をわずかな時間で食べ終える壬護であったが、味もちゃんと楽しんでいた。
「ぐわっ!」
 派手な声をあげて、アピールポーズをした後でマッチョマンチームの一人が倒れる。
 大食い大王チームは壬護しかおらず、現在合計67。マッチョマンチームは二人残って、現在合計79。3位のチームは42個で止まっているので、この2チームでの優勝争いとなった。
 残り20分を切った所でマッチョマンチームの二人目が食べられなくなる。後は壬護とマッチョマンチームのリーダーとの一騎打ちだ。
 黙々と、しかし確実に壬護は追いつめてゆく。90個を越えてからマッチョマンチームの食べるスピードが鈍った。
 観客からの声援は会場を包む。
 教会の鐘が鳴り始めた。終わった時が終了である。
 スパートをかけて壬護が食べてゆく。最後の一口はまるごとリンゴを放り込んだが、ちゃんと呑み込んでカウントされた。
 結果、マッチョマンチーム合計100。大食い大王チームは合計101。
 大食い大王チームの優勝であった。

●割り符
 すべての戦いが終わった後、表彰式が始まる。
 意識を取り戻したガイアスとシーナは壬護と一緒に賞品のジョワーズタダ割り符と賞金ももらった。
 ジュエル、エフェリア、リアはゾフィーと一緒に拍手を送っていると表彰に呼ばれる。なんでもビリから二番の特別賞があるという。わずかだが賞金をもらう。
 壬護は表彰式が終わった後、ちびブラ団を探したがどこにもいなかった。すでに夕暮れだし、家に帰ったのだろうとあきらめる。
「割り符はみなさんで分けようと思いますけど、どうですか?」
 壬護が一枚一ヶ月の割り符を36枚持っていた。チームで一年分と思っていたが、1人につき一年分の大盤振る舞いであったのだ。
「それがいいと思います」
「シーナも賛成です」
 ガイアス、シーナも賛成してみんなで分ける事となる。
「わたしは参加していないし、それに太ってしまいそうだから遠慮しておくわ」
「レウリーさんの為に健気なのです〜☆」
 ゾフィーをシーナがからかった。顔を真っ赤にするゾフィーの様子がみんなの笑顔を誘う。
 1人半年分のジョワーズタダ割り符を壬護から受け取る。お店で割り符を見せて宣言した日から一ヶ月有効になる。一枚で1人有効なので、その点は注意が必要だ。
 大会主催者から壬護は耳打ちされていた。あまり食べ過ぎると店が潰れるのでほどほどにと。
 潰れてしまっては元も子もない。せいぜい一度の入店で3人前程度に押さえようと考えた壬護である。
「そうだ。チームになってくれた人にあげようと思って持ってきたのです〜」
 シーナはローズキャンドルを取りだすと、一人一人に手渡した。
「さすがに帯がきついなあ。でもまだいけるかな?。どうでしょう? さっそくジョワーズで祝勝会でもあげませんか?」
 壬護の言葉に全員が固まるのだった。

 帰り道を全員で一緒に歩く。
「はう〜、美味しいものは程々になのですよ〜」
 リアはちょっと叫び気味にみんなに話しかけた。
「たくさん食べたら大きくなれるでしょうか? ジョワーズに時々通いたいと思います」
 エフェリアは抱えていた猫のスピネットの頭を撫でる。
「シフールにはちょっときつかったわ」
 ジュエルはぐるりと空中を一回転する。
「またこういうのがあるといいです。楽しかったですから」
 ガイアスはタダ割り符を見ながら、ジョワーズの料理を思いだす。
「誰か僕をまるんまるんに肥らせて食べようとしているのかなあ。こんな幸せならそれも良いかも」
 壬護は特にご機嫌な様子だ。
「よかったわね。シーナ」
「はいです☆」
 ゾフィーにシーナは頷く。
 途中で一人ずつ抜けてゆき、最後はシーナとゾフィーの二人だけになる。
 星が瞬く夜空の下、二人は家路を急ぐのであった。