●リプレイ本文
●救いの手
「お祭りといえば屋台。困っている人を助けるのが冒険者ですし。リボンや布で出来た花を取り付けられるかな?」
「キレイだとお客さんも喜ぶよね。そしたらおじさんも〜」
ミラ・コーネリア(ea4860)は少女コリルに話しかけながら屋台を眺める。ギルド前でちびブラ団に声をかけられ、仲間と一緒に屋台を手伝う事にしたミラであった。他の仲間達も、それぞれに状況を確かめていた。
「こちらの屋台主かしら? お名前は?」
セレスト・グラン・クリュ(eb3537)は自ら名乗った後で、冒険者達に驚いている中年の男に話しかける。
「え、あの、ボードスといいます。よろしくお願いしますわ‥‥。それにしてもこんなにたくさんの人達を連れてこれるなんて、あの子達は一体‥‥」
帽子をとったボードスはちびブラ団に感心する。
「利き腕が使えないとなると不便だわね。治療をしておくわ」
挨拶をした後でポーラ・モンテクッコリ(eb6508)はボードスの首から吊られた右腕を眺める。腕へ巻かれている布に血や膿は滲んではいない。重度のヤケドではなさそうだ。
「治療はポーラさんにお任せするわ。あたしは調理道具を見させて頂きましょう」
セレストはラーバルトが窯の調整をしている屋台へと向かう。ポーラは丁寧にヤケドを覆っていた布をとるとピュアリファイで浄化し、リカバーで回復させた。
「ソーセージはうまいよな。小腹が空いたときにいい」
「うまいよな。俺様もすげー好きだぞ」
屋台の横に積まれた木箱をサーシャ・トール(ec2830)と少年クヌットは覗き込む。たくさんのソーセージが詰まっていた。これらが売りさばけないとすれば屋台主のボードスは大変な損失のはずだ。
「まごころがこもったソーセージを全部売り切ろう!」
「おう!」
サーシャはクヌットとがっちりと握手をする。
「ちびブラ団の諸君、何をしているんや?」
「あ、河童の中丹さん! あのね〜」
屋台の近くを通りすがろうとした中丹(eb5231)は立ち止まり、少年ベリムートと少年アウストから説明を聞く。
「それなら客寄せや売り子でもやらせてもらうんや。そうそう、このたびおいらはオーラテレパスで動物とのお話も出来るようになりました〜わ〜ぱちぱち〜」
中丹は自分で拍手を始めたが、子供達は本気で握手をする。邪魔にならないようにちび猫メルシアを連れて来るので会話して欲しいと子供達に頼まれると、くちばしを輝かせて胸を叩く中丹であった。
「ほっほっほっ」
中丹が胸を叩いたその時、笑い声が響いた。
両手に鉄人のナイフ二刀流、背中には鉄人の鍋を背負う髭のパラが一人現れる。
「わしが小丹厨師じゃ」
小丹(eb2235)はドジョウ髭の先をナイフを持ったまま器用に摘む。
「‥‥って、まあ、いいか。ちびブラ団の坊ちゃん、嬢ちゃん、久しぶりじゃのう」
「こんにちは〜。なんかすごい格好だぁ〜」
子供達が小丹に挨拶をする。小丹は中丹と一緒に歩いていたが、瞬時に物影に隠れて子供達の説明に耳をそばだてた。自分も手伝おうと決め、変装したのだった。
屋台は再開に向けて、急ピッチで作業が開始される。
「使いやすいように‥‥」
アニエスはトンテンカンと硬貨を区分けできる木箱を作った。そしてソーセージを刺す木串にアタリの猫マークを金串で焼き付ける。アタリ付きについては母のセレストがボードスから許可を取った。
「これは俺もがんばらないとな」
「お待ちになって」
休んでいたボードスが立ち上がろうとすると、セレストとポーラが止める。ヤケドは大丈夫のはずだが、今回は集まってくれた者達に任せて休んで鋭気を養ったほうがよいと説得する。セレストは身体が冷えないようにと毛皮の外套をボードスに貸しだした。
鍋の湯が沸いて、屋台再開の目処がつく。
今日は夕方まで三時間しか残っていない。かがり火が焚かれるので宵の口までは賑やかなはずだが、今まで通りのソーセージを出すことにする。様々な工夫などは明日からだ。
宣伝担当の者達が動き始めた。
「この棒をよく見ていてくれよ。投げて小紋田が取ってくるとなぜか――」
変装をした諫早は愛犬と一緒に手品を始める。もちろんソーセージの宣伝をしながらだ。
「これでいい」
ラーバルトが作ったばかりの可愛らしい河童が踊る絵付き看板を屋台前に置いた。王宮前広場でミラと中丹が呼び込みをしてくれる。この看板があれば屋台を探す客の目印になるはずだ。
「♪ほんのり辛いマスタード♪ 塗ってホットなソーセージ♪ ぱきりと音たて食べましょう♪ ほら幸せお口に広がるよ♪」
屋台間近の王宮前広場で、ミラが自らの竪琴に合わせて歌う。
中丹が両手に串付きソーセージを持ちながら、ミラの竪琴のリズムにのる。右右、左左、くるりと回ってぱっと笑顔でおどけてみせた。
「うま〜い♪」
ぱくりと時折食べておいしさをアピールする中丹だ。
屋台の裏で子供達はソーセージに串を刺していた。
セレストはソーセージに切れ込みを入れて熱が通りやすく、そしてかみ切れやすくしてゆく。
「はい。熱いので気をつけて持ってね」
ポーラは串付きソーセージを茹でながら客の注文を受ける。すぐに熱が通るので急な注文にも対応しやすいが、ある程度は先読みが必要である。アウストが客とのお金のやり取りをして手伝ってくれた。
「14本届けるので茹でて欲しい」
「あ、俺様も手伝うぞ」
サーシャは布に宣伝を書いて被り、王宮前広場を回って注文をとってきたのだ。忙しくなったのでクヌットが同行して手伝う事となる。
「これでは子供には辛すぎるじゃろう」
小丹は窯の火加減を見ながら、マスタードソース作りをしていた。本日分は作り終えている。今からは明日から使いたい、子供向けの試作ソース作りだ。
夕方には子供達を家に帰すが、冒険者達は宵の口まで手伝う。
冒険者達は明日も来ることをボードスと約束をし、屋台を後にした。
●工夫
「♪お湯からあがったソーセージ♪ つやつやほかほかぴっかぴか♪ 今日はお祭り楽しいな♪ ほら食べれば心も踊り出す♪ 出来上がり♪」
二日目の昼前、ミラによる屋台の飾り付けが終わる。華やかになって、これで他の屋台より目立つはずだ。
仲間もいろいろな面で工夫を凝らしている。
「林檎をすりおろしたものを少量加えた、辛味を押さえたマスタードソースを作ってみたんじゃ」
小丹はボードスに味見をしてもらう。興味津々のちびブラ団にもなめてもらう。
「あんまり辛くないけど、刺激は残っている。こりゃあ、いい」
ボードスのお墨付きをもらい、小丹はレシピを教えておく。
「さすが小丹厨師だね」
「そうじゃ。ソースは厨師にお任せじゃ! ‥‥あ、厨師はもういいわい。とにかく地道に仕事でもするんじゃ」
小丹はスコーンスコーンと薪を割り始めた。
「小丹大兄の作ったソースをちょっともらうんや」
中丹は客寄せでなめさせる為に小さな器にソースをもらう。比較の為に通常のソースも頂いた。
「あ、かわいい〜 もしかしてモデルはメルシア?」
セレストが持ってきた組み紐付香り袋を見てコリルが喜んだ。巾着袋の中から白い子猫が顔と両前足を覗かせている。串にアタリが出たら、ソーセージもう一本か、このにゃんこサッシュのどちらかをプレゼントのようだ。
ハーブを含む材料はボードスが用意してくれた。自前で揃えようと思っていたセレストだが、せっかくなので受け取る。その他にもセレストはクレープ生地とザワークラウトを配達用に用意した。
ポーラも新メニューを考えていた。パンにソーセージと野菜の酢漬けを挟んだものだ。
新しいメニュー二品については限定発売の形をとる。しばらく経てばボードス一人で屋台を切り盛りする形に戻る。その時に手間がかかり過ぎるのは問題だ。
それでも限定商品が飛ぶように売れるようなら話は変わる。その為に新メニューについてはちゃんと手間がかかった分の値段を上乗せしておいた。
人の往来が増えてきて、二日目のソーセージ売りは始まった。
セレスト、ポーラ、小丹は屋台で調理を行う。お金のやり取り全般はアウストが受け持つ。
ミラと中丹は王宮前広場に向かった。昨日と同じく歌と踊りで宣伝である。
サーシャとクヌットは試食を持って一緒に注文取りをする。大道芸などの出し物を観ていて動きたくない人もたくさんいた。結構な数の注文が舞い込み続ける。
コリルとベリムートはミラから教えてもらった歌をいろいろな場所で口ずさむ。なんとなく聞いた人達がフレーズを覚え、そしてソーセージが食べたくなれば成功だ。
ボードスは屋台とは別に、ロバに荷車を牽かせてソーセージを運んできた。それ以外は屋台の後ろでゆっくりと休んでいる。疲労が溜まっているようで、うつらうつらしている事が多かった。
●そして
二日目が無事に終わる。三日目、四日目も過ぎ去った。
五日目になり、全員が慣れた様子で切り盛りをする。
「大人やったらピリッとしたマスタード、辛いのはちょっと‥‥というならこっちの甘めのソースはどうや?」
王宮前広場で中丹はいつものように子供連れの親になめてもらう。これなら安心と親に屋台の場所を教える。河童のマークの看板が出ている屋台だと。
「♪ほら幸せお口に広がるよ♪」
竪琴を手に歌うミラと、広場に集まる何人かの子供達が一緒に歌う。中丹とずっと宣伝をしてきたが、その間にチップがそれなりに飛んできた。大道芸と勘違いされたようだ。せっかくなので、仲間で分けようと考えるミラであった。
「ほら、うまいんやで〜」
また中丹はソーセージをパクリとクチバシで食べる。かなりのソーセージを食べて、さすがにムネヤケ気味である。それでも顔で笑って心で泣いて、中丹は宣伝を続けた。
「おまちど〜です」
クヌットが客にソーセージクレープ巻きとパン挟みソーセージを渡す。クヌットとサーシャは一緒に王宮前広場を駆けめぐる。
「あ、かわいい〜♪」
サーシャがフェアリーのシーリアに親子連れの子供から代金を受け取らせる。子供客へのサービスであった。
「はい。注文ですか。このようなソーセージがありますが」
サーシャは被っている布に描かれた絵を指さして、どの品物がいいのかを訊ねる。最初はメニューも持ち歩いていたが、文字の読める人は少なくてこの方が手っ取り早い。それだけたくさんの注文があったという事でもある。
屋台前にもかなりの人が並んでいた。
「箱一つ分のソーセージ、刺し終わったよ〜」
宣伝が終わったコリルとベリムートが戻り、串刺しを手伝う。
「はい。おまちどおさま」
ポーラはソーセージを次々と茹でては客に渡してゆく。こうなると、どれだけ茹でることが出来るかの勝負となる。
「全部で15Cになります」
最初はぎこちなかったアウストも、お金のやり取りに慣れた様子だ。
「もう少し香り袋のサシェを作れればよかったのだけど‥‥しょうがないわね」
セレストはソーセージの加工は元よりポーラと入れ替わったり、補償金で戻ってきた串をピュアリファイで清めたりする。
「ここに置いておくのじゃ。坊ちゃん、嬢ちゃん達」
小丹は新たな水を汲んできてくれる。マスタード作りは元より、薪割り、水汲み、窯の火加減などの裏方を引き受けてくれたのが小丹であった。
「あ、おじさんいいのに」
アウストが手伝い始めた屋台主のボードスに話しかける。
「明日からは一人でやらなくちゃあならないしな。おかげで大分休ませてもらったから元気元気!」
ボードスは張り切って仕事を再開し始めた。さすが本職である。たかがソーセージ売りと侮るなかれ、その動きは見事なものであった。
夕方になり、これでちびブラ団と冒険者達の手伝いは終わる。特に今日は盛況だったのですべてのソーセージが売り切れたのだ。
ボードスからの給金とチップが合わさり、当初よりちょっとだけもらえる金額が多くなる。もちろん雑費も引かれてだ。
みんなでハーブティを飲みながら雑談を交わす。
「中丹さん、メルシアが俺達のことをどう思っているのか教えて〜」
ベリムートがちび猫メルシアを中丹の前に掲げる。
「そうやな〜。ちょっと待ってや」
中丹はオーラテレパスを使い、メルシアと会話してみた。
「ちびブラ団のみんなと遊んどるときが一番楽しいそうやで。なんと、食べてるときより楽しいそうや。こりゃ大変な好かれようやないか」
「そっか〜。これからもメルシアと仲良く遊ぶね。ありがと〜」
ちびブラ団は中丹にお礼をいう。
「手伝ってくれてとっても助かりましたわ」
ボードスは給金の他にこいつも持っていってくれといくつかの保存食を冒険者達に渡す。
ちびブラ団はボードスが残しておいた串付きソーセージを冒険者達に手渡した。
コリルからミラとセレストに。クヌットからサーシャに。ベリムートからポーラ、小丹に。アウストから中丹に渡される。
みんなが美味しいと食べる最中、中丹だけが遠くの夕日を見つめていた。カラスがカーと鳴いている。
お別れの挨拶をし、冒険者達とちびブラ団はそれぞれの家路を辿るのであった。