最後の晩餐 〜画家の卵モーリス〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 93 C
参加人数:5人
サポート参加人数:3人
冒険期間:11月01日〜11月08日
リプレイ公開日:2007年11月08日
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●オープニング
パリ北西にある古き街ルーアンには大聖堂がある。
ルーアン大聖堂と呼ばれる荘厳な施設は、ヴェルナー領における白教義ジーザス教の中心地だ。
大司教が治めるルーアン大聖堂から、ひとつの仕事が宗教画家ブリウに任される。それは画家の卵モーリスにとても重要な出来事であった。
「え?」
画家見習い青年モーリスは持っていたスプーンを床に落とす。
今は恋人のローズの家。師匠ブリウが訪ねてきて、ローズの家族と一緒に夕方の食卓を囲んでいた。
次の仕事についてを師匠ブリウから聞いた瞬間から、モーリスは大きく口を開けて震えていた。
ローズが床に落ちたスプーンを拾い、新しいものを手渡そうとするがモーリスは気づかない。
「す、すみません。耳がおかしいようで。もう一度いってもらえますか?」
「しょうがないの。ルーアン大聖堂内の壁画を任されることとなったのじゃ。ついてはこのブリウと共同で制作にあたって欲しいと頼んだのだよ」
「‥‥すみません。あの、『共同』って?」
「ふぅ〜。『共同』とは一緒にやることじゃ。つまりは師匠と弟子の関係ではなく、同じ立場の者としてやるつもりはないかと聞いたのだ。‥‥いやなら別に断ってもいいのじゃが」
「いえ、嫌だなんて! あまりにも突然だったもので‥‥」
モーリスはルーアンのカトナ教会司祭の言葉を思いだす。モーリスにしばらく絵の依頼ができないある事とはこれであったのだ。
「そんな大仕事‥‥宗教画家を志してまだそんなに経っていないボクでいいのでしょうか?」
「別に年月が決める訳でもあるまい。それに確かにモーリスはわしの弟子じゃが、あまり長く師弟でいるとクセが似すぎてしまう。そんなもったいないことはしたくはない。最初に鶏小屋を作らせて根性を試したのは確かじゃが、それだけの理由で弟子にしたわけではないぞ」
「では、なんで?」
「それはモーリスの絵が気に入ったからじゃよ。もっと自分に自信を持ちなさい」
ブリウの言葉に、モーリスは知らぬ間に涙を零していた。
ローズがモーリスに抱きつく。そしてローズの父母がモーリスを祝うのであった。
それから一週間、モーリスとブリウはモチーフについて議論を交わした。
様々な聖書の場面の中から選んだのは『最後の晩餐』である。今までにも、そしてこれからも多くの画家が描くであろう画題だ。
モーリスは代表して冒険者ギルドを訪れた。
「絵画のモデルを冒険者に探してもらいたいのです。聖書から最後の晩餐の場面を描く用意です。ジーザス様と12使徒以外にも、少し離れて食事をする者達も描く予定です。なので出来るだけ多くの人をお願いしたいと考えています」
「わかりました。ルーアン大聖堂の壁画とは大任ですが、がんばってください」
モーリスは受付の女性に依頼を出し終えると、急いでパリに借りたアトリエに戻る。
やらなくてはならない事はたくさんある。最近あまり寝ていないモーリスだが、元気で溢れていた。
「やるぞお〜!」
人の目を気にせず、走りながら大声を出したモーリスであった。
●リプレイ本文
●アトリエ
「ここが新しいアトリエですか☆」
クリス・ラインハルト(ea2004)が室内を見渡す。
冒険者達はパリに用意された準備用のアトリエを訪れていた。ブリウとモーリスが実際に壁画を描く作業に移るまでの準備の拠点である。
「いろいろとあるのだぁ〜」
玄間北斗(eb2905)は部屋の隅にあるいろいろな画材に目を見張る。大作の前の下準備がとても大変なのを感じさせる。小道具として鍵や貝殻などもあった。
「なるほどね」
ポーレット・モラン(ea9589)も小道具の銀貨が入った袋を手にして部屋を眺める。
「ご無沙汰しております。仲間から御二人の事は伺っていました。今回の事は御二人の想いが育んできた結果ですね」
「これは懐かしいです」
十野間空(eb2456)はモーリスと握手を交わしながら挨拶をする。
「おかげ様で毛皮の手袋をモーリスにあげることが出来ました。ありがとう」
「これでモーリスお兄ちゃんも指先をいつも保護しておけるね」
モーリスの恋人ローズと明王院月与(eb3600)は二人で話す。
「これはこれは。よく集まってくれもうした」
少ししてブリウも現れる。モーリスがあらかじめブリウと相談して決めたモデルに関しての説明を行う。
ジーザスと12人の使徒については人間。周囲の人々については基本的にはいろいろな種族を配置する予定である。
「ふむふむ‥‥」
クリスが羊皮紙にメモを取りながら、話しを聞く。
「モデルさんの性別や、種族、年齢の制限は無いですよね?」
「そうさの。ハーフエルフについては最初から加工する予定になるが、モデルにするのは問題ないぞ。バレないように内緒にはなるがな。ワシ自身はハーフエルフに知人もおるし、妙な感情は持ち合わせておらんが、こればかりは教義に反するでの」
クリスの質問にブリウが髭を触りながら答える。それとジーザスと裏切りのユダに関しては特別な条件が追加された。
ブリウとモーリスの説明を熱心に聞いていた明王院だったが、今一要領を得ない部分があった。
「えーと‥イメージ的にはどんな感じの髪型なのかな?」
明王院が困っていると、ポーレットが非常に簡単なものならイメージ画を描いてくれるという。印象が固まってしまわない程度のものを。
「拘束する日数や、どれくらいのお給金がでるのだ?」
玄間も疑問をぶつける。
モーリスがジーザスと12人の使徒のモデルに関しては頼んだ時点から、依頼期間の最後までをお願いしたいと答える。依頼金は弾むし、休憩もちゃんと入れると約束した。
冒険者達は一日目の午前中をどんなモデルをスカウトするかの相談に費やす。そして午後になり、モデルを求めてパリの街へと飛びだすのだった。
●モデル探し
「こんにちは〜」
クリスがまず訪れたのはパリの一角にある画材店であった。かつて青顔料のラピスラズリを届けたことがあるブリウの懇意にしている店だ。これからモーリスも世話になるはずである。
「おや、お嬢さん、絵でも描いてみる気にでもなったのかい?」
「そうではないのです。一つ教えてもらいたい事があったので‥‥。皆さんモデル探しってどうされてますか?」
クリスはブリウとモーリスがモデルを探している事を切りだした。
「そうだねぇ。そこら辺の歩いている人に頼む場合もあるし、演劇役者の卵でも掴まえて、やってもらうこともあるようだがね。それにしても、あの絵の道具をあげたお弟子さんならともかく、ブリウ先生がそんな事で悩んでいるのかい?」
「い、いえ‥‥ちょっとだけ頼みたいモデルさんの数が多いのです。それで苦労しているのですよ」
「そうなのかい。後はブリウ先生なら宗教画だろうから、教会で信者達に声をかけてみるのもいいかも知れないな」
クリスは説明しながらも画題が『最後の晩餐』だというのは隠した。
店主にモデルをしたい人がいたら紹介して欲しいと頼んでクリスは店を後にする。
「お待たせです☆」
外で荷馬車に乗って待っていたローズと一緒に、今度は市場に向かう。
「そうかい。まあ、がんばれや。いろんな仕事があるもんだな」
市場の顔役に挨拶を通した後で、クリスはモデル探しを始めた。
まずは肝心なジーザスと12人の使徒のモデルを探さなくてはならない。特にジーザスと裏切りのユダに関しては注文が多かった。この二人に関してはブリウとモーリスの面接があり、イメージに合わないと断る場合もあるという。断ったとしてもちょっとした礼金を渡すので、なるべくたくさんの人を連れてきて欲しいと頼まれた。別のモデルとして採用する場合もあるそうだ。
クリスは通りすがる人と、メモと、絵を見るのを繰り返す。そしてそれらしい人を見つけると駆け寄った。
「ナンパではありません。絵のモデルを探しています。良かったら、話を聞いてもらえます?」
これを繰り返し、三、四人が集まるとローズに頼んで荷馬車でアトリエまで連れて行ってもらう。その間にまたモデル探しをするクリスであった。
「御世話になっている沢山の人達へのささやかで‥それで居て精一杯の御礼の気持ちなんだと、あたいは思うの」
「とても残念だけど忙しくて――」
明王院はシャンゼリゼに出向いてアンリに声をかけた。残念ながらモデルのOKは出なかった。
続いて店内でモデル探しをしてもいいかと、明王院はアンリに訊ねる。
シャンゼリゼの店員についてはアンリから訊いておくそうだ。客に話しかけるのは目立たないように、静かにしてやって欲しいとお願いされる。もっとも店内は賑やかで小さな声では聞こえないかもとアンリは笑う。
明王院は店内でモデル探しを始める。
「あの人なんかどう?」
同行してくれたシルフィリアが店内を見回してそれらしい人物を探してくれる。クリスが画題については教えない方がいいかもといっていたので、その点だけはぼかして明王院は特徴が合う人に声をかけていった。
「モデルになって貰えないかなって」
「へぇ〜、そりゃ大層な話だけど、俺でいいのかい? 自分でいうのもなんだが、大した顔じゃねぇぞ」
「たくさんの人物が出る絵なので、いろいろなモデルが欲しいの。‥‥そうはいってるけど、お兄ちゃんは結構いい男だよ」
「そっ、そうかい? いや、まいったなあ〜」
明王院はお世辞も忘れない。
何名かをアトリエに送り届けた後、今度はジョワーズ・パリ支店に向かう。これに関してはモデル探し以外にブリウとモーリスからある事を頼まれていた。
「マスター、あの‥‥お願いがあるの。少し時間もらえますか?」
「はい。なんでしょうか?」
明王院はマスターにブリウとモーリスから頼まれた事を詳しく説明するのだった。
「ということなのでよろしくなのだ〜」
玄間はリンカとシルフィリアと話し終えてから、パリの街に繰りだした。とにかく人の集まる所に出向いてスカウトをする。
「もしもし、寝ているところ、ごめんなのだぁ〜」
「ん? なんだい。俺に用があんのか」
「実はオイラ――」
玄間は広場、市場は元より、仕事にあぶれていそうな路地裏で寝ている人にも声をかけてゆく。モデルに相応しい容姿だけでなく、きっかけがあれば立ち直れそうな人を選んでいった。
ルーアン大聖堂の壁画といえばたとえ片隅であっても、とてもおおきな絵のはずだ。玄間は壁画作成に詳しくないがそれぐらいは想像できる。足場を組んだり、絵の具を混ぜたり、雑用といえる仕事もあるはずだ。顔を繋いであげて、そういう職になるきっかけになればと考える玄間であった。
「聖堂に飾られる絵を描くなら、救われるべき人達を救い、描かれた方がきっと良いのだ‥」
玄間はモデルをアトリエに送り届けた後で呟く。そしてもう一度探しに行った。
明日はクリスと相談し、市場内で区分けして探すつもりである。広場などでも大道芸人で良さそうな人がいれば頼むつもりだ。
「七日間は長いようで短いのだぁ〜」
玄間はあまり意味がないかも知れないが少しでも早くと、セブンリーグブーツを履いたままパリの街を移動するのであった。
「こちらがトレランツ運送社のパリ事務所でしょうか?」
十野間空はリンカと一緒に訪れる。大きな建物の一室に看板がかけてあった。
「はい。パリ営業所になります。お荷物のお届けでしょうか? それともお受け取りでしょうか?」
「こちらの方々の中からモデルを探そうと思いまして」
「モデル‥‥ですか?」
「実は――」
十野間空は今までの経緯を説明した。
「折角の機会ですから、お世話になった方々にも入って頂けたら‥と思いまして」
「残念ながらルーアンのカルメン社長は、こちらに来るのは適わないと思います。ゲドゥル秘書についても同じです。パリに在中の船乗りは休日の行動まで強制しませんので、ご自由にお声をかけて下さって結構です」
十野間空とリンカは許可をとり、船着き場に向かう。まずはトレランツ運送社の社章がついた帆の船を探しだす。そして休憩時間になるのを待って話しかけた。
訊くとアガリ船長のところの船乗りなのだそうだ。今日明日は無理だが、依頼期間の三日目から三日程度は休みになるという。船乗りの中でモデルをしてくれそうな人を選び出し、約束をして立ち去る。
続いて衛士詰所も訪ねてみた。残念ながら、やってはみたいのだが忙しくて無理だと断られる。パリを護ってくれる衛士に感謝して十野間空とリンカは立ち去った。
十野間空は三日目からやってきてくれる船乗りと、仲間が集めるモデル達の変装の準備をしようと動き始めるのだった。
「ブリウ師匠、ご相談が‥‥」
「なんだね?」
夜のアトリエ。伏し目がちのモーリスはブリウに相談する。ポーレットについてである。
ポーレットはいろいろと尽力してくれていた。教会を回り、信者の中からモデルもちゃんと探してくれる。だが彼女の方から友人の間柄を解消したいといわれたのをモーリスは悩んでいた。
「そうか。これから話すのは一般論としていうのじゃが‥‥。ライバルというのにもいろいろとある。確かに火花を散らすように作品をぶつけ合う関係もライバルであろう。だがな、酒を酌み交わし、いや‥‥別に本当に酌み交わす必要はないのじゃが、まあ一晩中、絵のついての議論をし、お互いの成果を讃え合ったり、ダメな点を気兼ねなく言い合う仲もまたライバルだといえると思うぞ。相手が望まぬなら、それは仕方ない。だがな、モーリスの方からもう一度声をかけてみるべきではないか? 鐘も打たなければ響きもせぬぞ。いや、鐘に例えるのは失礼か‥‥。どうも説教じみた事は慣れてないのでのう」
「いえ、ありがとうございます。とにかく話してみます」
「彼女の実力にはわしも一目置いておる。もう一度話し合ってみなさい」
モーリスはブリウに礼をいった。
●絵
二日目からさっそくモデルを前にしてブリウとモーリスは描き始める。冒険者達はまだ足りないモデル探しをしたり、変装させたりと駆け回った。
一人につき一枚を描くというものではない。何枚も何枚も描いてゆき、羊皮紙が山のように重なってゆく。冒険者達が持ち寄った巡礼者の杖なども小道具として使われた。
明王院はローズと一緒に料理を作ったりもする。持ってきたマタタビを使って滋養を考えた。ここで体調でも崩されたら大変である。
ジーザスと12人の使徒のモデルも決まり、順調に日々が費やされてゆく。周囲の人物モデルもたくさん集まり、ブリウとモーリスはすごい勢いでペンを滑らせた。冒険者五人もモデルとして下絵が描かれる。
「甘ったれるなといわれそうですが、ボクはまだ未熟で覚えなくてはならない事がたくさんあります。それには絵がうまい方の側にいるのが一番いいと思うのです。時間がある時でいいですから、壁画を描く手伝いをしてもらえませんか?」
モーリスはポーレットと二人の時に話しかける。返事は次の機会があればと。
とりあえずといったポーレットは五日目から準備の下絵描きに参加した。
最終の七日目の夜、ジーザスと12人の使徒のモデルと、来られるだけの周囲の人物モデルはジョワーズ・パリ支店に集められた。
もちろんブリウ、モーリス、ローズ、冒険者達もである。
テーブルの決められた位置にモデルが座る。普段ではだされない特別製の魚料理がテーブルに並べられた。
「うわぁ〜。本物の最後の晩餐が目の前で繰り広げられているようなのです☆」
「これはすごいのだぁ‥‥。ジャパン生まれのオイラでもゾクゾクとくるのだ」
「一つの世界がそこにある。そんな感じがします」
「ブリウお兄ちゃんとモーリスお兄ちゃんから頼まれたのは、こういうことなのね」
冒険者達は感嘆の声をあげた。そしてモーリスに呼ばれてモデルのポーズをとった。
ジョワーズの店内に最後の晩餐の場面が現れた。燭台が移動させられ、光と影のバランスが変えられてゆく。
決まるとさっそく絵筆をとって三人の画家が描き始める。絵の具が乾く時間を考えれば大したものが描けないのは誰もがわかっていた。それでも貴重な目の前の情景を少しでも写し取るように筆を走らせる。
このまま使う訳ではないが、壁画作りにとって大きな参考となるはずだ。
「ありがとうございました。気持ちですので受け取って下さい」
描き終わったモーリスが冒険者達に小袋を手渡す。
依頼期間終了ギリギリの時間に冒険者達はジョワーズを後にした。どんな最後の晩餐が出来上がるのかを楽しみにしながら。