村に必要な職業 〜デュカス〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:4人
サポート参加人数:4人
冒険期間:11月03日〜11月10日
リプレイ公開日:2007年11月12日
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●オープニング
「ええもん、揃うてますでぇ〜」
青年ワンバは市場で声をあげて売り子をしていた。エテルネル村で収穫した野菜や小麦粉を並べ、商売に勤しむ。
元々行商をしていたワンバにとってはお手の物である。
「ふ〜ん。移住者を募集しているのね」
「お姉さん、どうだい? 結構いい村ですぜ」
常連といっていい客にワンバは答える。
品物を並べていた横には看板が立ててあった。『エテルネル村移住者募集』と書いてあった。もっとも読み書きが出来る者は少ないのであまり効果はないのだが。看板では応募者ゼロである。
「お〜い」
エテルネル村の青年村長デュカスが荷馬車に乗ってやって来た。ワンバが借りている場所の隣りに停める。
「アデラさんとこの郊外の畑に寄って来たんだ。結構いろいろあるよ」
「ほう、こりゃすごいですわ。これだけ売り物あるなら、『エテルネル村出張販売店』をパリに作りたくなってきましたわ」
ワンバの商売人の血が騒ぐが、今の所は実現の可能性は低い。品揃えを考えればまだまだ不安が残るからだ。
デュカスは豚の出資者でもあるアデラに頼まれて、パリ郊外にある畑から余分な収穫物を預かってきた。売り上げの一部を現金か、もしくは必要な品物でもらう約束である。
「森の放牧場の雌の豚も腹ぼてで、先は明るいよってに。後は雄の豚をいつ頃お肉にするかどうかですな」
「そうだね。出産まではもう少しかかるかな。単純にいって来年の一月末頃に子豚が生まれる計算か」
豚は一回の出産で一頭につき六から八頭を産むのが普通である。つがいが三組いるので生まれれば一気に豚の数は増えるはずだ。
デュカスとワンバが話していると客達が訪れる。
「これはかなり質がいいな。もらおうか」
「まいど〜」
客の一人が蜜蝋の塊に目を付ける。森の中でいくつかの蜂の巣を見つけ、その巣から取りだしたものだ。ワンバが代金を受け取り、品物を手渡す。
一緒にとれたハチミツはエテルネル村で保管されていた。
「あの‥‥」
「いらっしゃい。どちらをお買いあげで」
「いや、あの‥‥そこに書かれてある移住者についてなんですが?」
デュカスに声をかけた男はどことなく品がある。
「今でも募集中ですけど、もしかして‥‥」
「はい。まずはどんな村なのか知ってからですが、前向きに考えたいのです」
男の言葉にデュカスとワンバは驚いた。そして販売をワンバに任せて、デュカスが相談を受ける。
男は医者を生業としており、名をレナルドと告げた。パリの片隅で開業していたが、つい最近止めたのだという。
「前は地方のある村でやっていたのですが、そこが盗賊に襲われてしまってパリに来たのです。出来るなら、よりわたしを必要としている土地で生きていきたいと思ってます」
「はっきりいえばエテルネル村は、まだ村とはいえない程度の規模なんです。それでもいいのですか?」
「一度見せてもらいたいのですが、そうはいきませんか?」
デュカスは一度エテルネル村に戻るので、レナルドを連れてゆく事にする。
一週間後、デュカスはレナルドを連れてパリに戻ってきた。
「是非に移住させて欲しい。何人か一緒に連れて行きたいのですが良いでしょうか? 気のいい人達です」
レナルドにデュカスは頷いた。
あいにくと馬車と荷馬車のどちらかは行商で使わなくてはならない。荷物を運ぶ為の荷馬車はレナルドが用意するそうだ。
手伝いの都合がつくのはデュカスだけなので、レナルドの引っ越しは冒険者ギルドに頼む事となった。
デュカスがギルドを訪れて依頼を行う。ついでにエテルネル村の様子をギルドの受付嬢シーナに伝えた。彼女から出資者達に情報は伝わるはずだ。
「お医者様がくれば、とっても心強い」
デュカスは市場での行商を張り切るのであった。
●リプレイ本文
●荷物
晴れたパリの一角では人が集まりだす。
医者であるレナルドの引っ越し作業がもうすぐ始まろうとしいた。
「はお〜、暫く振りかねぇ?」
「レシーアさん! 来て頂いてうれしいです」
レシーア・アルティアス(eb9782)が手を振りながらデュカスに近づいた。抱きついたりはしなかったが、それでもくびれた腰に手を当てセクシー全開である。デュカスが少し視線をそらすほどに。
「あら、早いわね。冬霞〜はお〜」
「レシーア様、よろしくお願いします。来ていただいて、きっと村の子供達が喜びます」
しずしずと歩いてきた柊冬霞(ec0037)とレシーアは挨拶を交わした。
「旦那様、この度のお引っ越しはお医者様だとお聞きしたのですが」
「ああ、レナルドさんっていうんだけど、あちらから乗り気でね。とっても助かるよ」
デュカスはこれから荷物を運びだすレナルドが住んでいた家を見上げた。すると視界の隅に一人のシフールが空から降りてくるのが映る。
「シフールのアリアだね。よろしく。そうそう、先に荷物を荷馬車に載せさせてもらったよ。重いったらありゃしない」
アリア・ラグトニー(ec1250)は窓枠の出っ張りにストンと座る。
嘶きが聞こえ、集まっていた者達が振り向く。青年が元気よく馬から下りようとしていた。
「ファイターのロラン・オラージュと言います。宜しくお願いします!」
ロラン・オラージュ(ec3959)の挨拶が建物の狭間で反響する。
これで全員が集まった。デュカスは冒険者達を連れて階段を登り、レナルドの仕事場兼住居であった部屋に入る。
「引っ越しをよろしくお願いします。それと彼女の名はクラーラといいます。背負えるだけの荷物で構わないそうなので一緒に連れて行ってあげて下さい」
レナルドは紹介するが、隣りには誰もいない。近くの椅子に座ったまま、器用に寝ている女性がいた。レナルドはため息をつくと、女性の肩に触れて軽く揺すった。
「‥‥あ、クラーラといいます。ついどこでも寝てしまうクセがありまして。特技はアイスコフィンが使えることです。それ以外は‥‥、えっと‥‥とにかくこれからよろしくね」
目を手の甲で擦りながらクラーラは立ち上がる。一行はクラーラとも挨拶を交わし、さっそく引っ越しの作業が始まった。
家具の数は少なく、テーブルが一番大きな荷物である。問題は焼き物の容器や細かな医療用用具の扱いだ。
容器には薬が入っていて割れないように運ばなくてはならないし、用具は小さいながら刃物もある。それらを丁寧に梱包しなければならなかった。
デュカスはあらかじめ枯れ草と藁を用意していた。それと木箱と革袋もある。
枯れ草を緩衝に使って革袋や木箱に詰めた上で、さらに荷馬車に敷かれた多めの藁の上に載せれば、割れたり破損する可能性をかなり低く出来るはずだ。
まずは家具を運び始める。デュカスとロランが持ち、アリアが空中から衝突しないように声をかける。レシーア、冬霞は梱包の準備を行う。
家具が運び終わり、全員で細かい品物の梱包を始める。
「これらはどんな時に使うものなのですか?」
「この小さな布は傷口にあてるものですので、汚さないように運んでもらえますか?」
ロランはレナルドに訊ねながら品物を丁寧に扱う。
「この小さなナイフ、すごく斬れそう‥‥。こっちは何だか変な形の瓶」
アリアは興味深く品物を眺めては、袋に収めてゆく。
「あたしは細かいものに触るのはやめておくわぁ〜。アリア、お願いねぇ」
そういってレシーアは比較的大きめの薬瓶などを箱に詰めていった。枯れ草をばさっといれて、たくさん瓶を入れすぎないように適度な重さで運びだす。
「レナルド様で御座いますね。冬霞と申します。宜しくお願い致しますね」
冬霞は改めてレナルドに挨拶する。
「これはご丁寧に。‥‥あまり無理をなさらない方がいいですね。重たい物があれば、わたしや他の人に任せた方がいいでしょう」
「何でもありません。ただ少々疲れやすい体質なもので‥‥」
見透かされたと冬霞はレナルドに取り繕う。最近は調子がいいのだが、やはり医者の目は誤魔化せない。
しばらくすると、今まで世話になったといって近所の人達も集まってきた。タダで看てくれた事もあったといって、せめてこれぐらいはと手伝ってくれた。
多くの人達の手で次々と梱包も進み、午後過ぎにはすべての荷物が荷馬車に載せられる。
「先生、今までありがとうなぁ〜」
「何かあったら、紹介した新しい医者のところに行ってくださいね。さようなら〜」
レナルドが近所の人達に手を振る。徐々にだが確実に、レナルドの住み慣れた建物が遠ざかってゆく。
一行を乗せた馬車と荷馬車はエテルネル村への道のりを走り始めた。
●道中
「冬霞、大丈夫かい?」
馬車を操るデュカスが、荷馬車に併走して冬霞に話しかける。
「旦那様、申し訳ありませんが不慣れな所はご容赦を‥‥。ボネールと翔、どうかお願いしますね」
冬霞が御者をする荷馬車はとても変則的である。借りた馬一頭、ロランの愛馬一頭、そして冬霞のロバであるボネールと翔が牽いていた。
牽引のリーダー格はボネールだ。
速度はいつもより遅いが、破綻なく馬車と荷馬車の二両の旅は続く。
「その戦いが終わった後は村の再建が始まったってわけ。あたし達が最初に手伝いに来た時は人も少なかったし、家も数件、水車小屋もなかったわねぇ〜」
「そうなんだ。村は大分変わったのかい?」
「変わったってもんじゃないわぁ〜。もっとも変わったのは村だけじゃないけどねぇ? そうでしょ? デュカス。冬霞をもっと幸せにしてよね。そうしないと、盗っちゃうわよぉ」
アリアからの問いに答えていたレシーアが、途中からデュカスに絡む。デュカスは咳をして恥ずかしそうに『します』とだけ答えた。
アリアは、レシーアの話にはかなりの脚色がありそうだと気がついた。後で冬霞にも聞いてみようと考える。
夕方になると二両は野営に適した場所に停車する。
「お医者様がおられる所までは距離がありましたので、これで村の皆様も安心出来ます」
一行は拾った枝などでたき火をして囲む。
冬霞はレナルドと以前にいた地方の村などの話を聞く。大変な怪我や病気から患者を助けられた時もあれば、薬が足りなくて無理だった時もある。
「地方の村は未だ大変なのですね‥‥。どうか旦那様のお力になって下さいませ」
冬霞はレナルドに深くお辞儀をする。
夜も更け、一行はデュカスと冬霞のテント、そして馬車内に分かれて夜を過ごすのだった。
一行がエテルネル村に到着したのは三日目の暮れなずむ頃であった。
「村長おかえり。ワンバは帰ってるよ」
「冒険者さん達、よろしくね」
「お医者さん、本気で住んでくれるんだね」
すれ違う村人達が馬車や荷馬車に声をかけてゆく。
レナルドに用意された家屋の前で馬車と荷馬車は停車する。
「お疲れさまです。荷物を降ろすのは、ぼくたちがやりますので」
デュカスの弟であるフェルナールと青年ワンバが、馬車から下りたレナルドに話しかける。村人も集まり、医者レナルドの新たな家に荷物を運び入れてゆく。
クラーラにも一軒の家が与えられた。村人の頑張りで今では家に余裕がある。
その日の晩は旅での疲れをとるために、ゆっくりと眠る冒険者達であった。
●村の様子
四日目の午前は荷物の梱包を解くことに費やされる。細かく配置するのは医者であるレナルドしかわからないので、午後からの冒険者達は暇になった。
「ここはいい村です」
ロランとデュカスは空き地で子供達と遊んでいるレシーアを眺めていた。楽しそうな声が聞こえてくる。
「この前来た時もとても楽しかったです。変わらない」
「ロランさんにも気に入ってもらえて嬉しいですよ」
出来たばかりのパンを二人は食べる。まだ温かく、ふわりとした食感が口の中に広がった。
「あぁ〜やったわねぇ〜」
レシーアが笑いながら走る子供達を追いかけた。どうやらレシーアは遊んであげているというより遊ばれているようだ。
「はぁ、はぁ〜‥‥。散歩していたらいきなりイタズラ坊主達に捕まっちゃったわぁ。大分家は増えたし、もうすぐ冬だから土のままの畑もあるけど、なんか潤っている感じね。近くの森でブタも飼っているってほんとぉ?」
レシーアが子供達から逃げてきてデュカスとロランに話しかける。
「ええ、本当ですよ。レシーアさんもパンをどうです?」
「落ち着いたら食べるわぁ〜。水車小屋からコトンコトンといい音鳴っているし。周囲の堀と石壁による守りも、かなり出来上がってる感じじゃない?」
「おかげさまで、いろいろな冒険者達の方々に手伝って頂いて、形になってきました。あ、忘れてました! 今朝、手紙が届いたんです」
デュカスが一通の手紙を取りだす。
「ガルイからの手紙です。といっても誰かに代筆してもらった手紙ですけど。もう少ししたら一度、エテルネル村に立ち寄るとありましたよ」
「元気にやってるようだねぇ〜」
レシーアは手紙を読んだが、すぐにデュカスへ返す。デュカスのいった通りの内容しか書かれてなかったからだ。実にガルイらしい。
「そうそう、ロランの料理の腕、ちょっとしたもんだって聞いたわぁ〜。今夜の宴会でも腕を奮うんでしょ? 見学させてもらえないかねぇ?」
「はい。僕のでよろしければどうぞ」
レシーアがロランに頼んでいる様子を、デュカスはドキドキしながら聞いていた。どうやらレシーア自身は料理を作らないようである。心の中でほっとするデュカスであった。
「研ぎさえすればなんとかなるね。腕のいい人が面倒みてくれているように感じるな。こんなによくしてもらえるなんて、エテルネル村は幸せな村だよ」
アリアは小さい身体なのに、木の棒や簡易に組みあげた枠を使って鎌を研ぐ。
村人はその様子に驚いていた。
「あら、アリア様、研いで頂いてありがとう御座います」
通りがかった冬霞がアリアに声をかける。
「このくらい仕事の内に入らないね。それより、医者の家から出てきたようだけど、まだ片づけがあったのかい?」
「‥‥いえ、夕食にどのようなものが良いか聞きにいっただけです。アリア様も何かお食べになりたいものはありますか?」
冬霞は誤魔化す。本当は薬をとりにいったのだが、仲間に知られないように、特にデュカスには知られないように嘘をついたのだ。
現在、冬霞の体調は悪くはない。ただこの薬を飲み続ければ、食欲が出てさらに体調が良くなるとレナルドからいわれたのだ。
「そろそろ、調理の支度にかかりますので」
「そうか。もう少し研いでおくよ。お腹空かせておくためにもね」
家に戻ってゆく冬霞にアリアは軽く手を振った。
●宴
「エテルネル村に幸あれ! 医者のレナルドさん、新たな村人クラーラさん、そして冒険者に幸あれ!」
村人の誰かが叫んで、全員が乾杯する。
夜になり、村で一番大きな家屋に暇な者達が集まって歓迎会を催した。
村で穫れた麦から作った発泡酒をみんなで呑む。作り方もよくわからずに、初めて作ったものなので、たいしてうまくなかったが誰もが笑顔で飲み干した。この際、酔っぱらう事の方が大事である。
冬霞のノルマンの料理もかなりのものだ。食材も豊富になり、レシピも増えた。
ロランが焼いた野鳥の丸焼きが人気で、誰もが手にしてかぶりつく。
アリアは木製の食器を眺めて、金属製のものを作りたくなった。こればかりは鍛冶屋の性である。
「ふむふむ‥‥」
レシーアは冬霞の作った鍋の味を確かめた。入れた食材も覚えている。分量も大体であるが隠れてメモを取ってあった。
「今度、ガルイが帰ってくるっていうなら驚かさないとぉねぇ〜」
レシーアの呟きが耳に入ったデュカスは何かを企んでいると勘違いをした。
(「そろそろカオスな鍋も二番煎じだし、ね」)
とうのレシーアは珍しく、いたって真面目であった。
「医者がいると本当に助かります。何か足りない物があればいって下さい」
デュカスはレナルドに近づいて両手で握手をする。
「それと‥‥、冬霞の体調の事、よろしくお願いします」
デュカスは他の誰にも聞こえないように小さな声でレナルドに話しかけた。
「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ」
返事をしたレナルドにデュカスは大きく頷いた。
「ロランお兄ちゃん、一緒に踊ろ〜」
「えっ! あ、ちょっと!」
子供達に押されてロランは踊りの場に立つ。女の子と踊り、そして村の娘ととも踊る。
村人の奏でる踊りの曲は夜遅くまで続けられた。
●パリへ
五日目の昼頃、念の為いつもより早く出発する事になる。
「そうそう、荷物の中にこんな物があったのです。良かったら使って下さい。わたしが持っていても仕方がないので」
レナルドは冒険者達にファー・マフラーをプレゼントした。
村人に見送られて、冒険者達を乗せた馬車はエテルネル村を出発する。その後ろを冬霞が御者をする荷馬車がついてゆく。
帰りの道中も順調で、七日目の夕方にはパリに到着した。
「レナルドさんだけでなく、クラーラさんも村に来てくれました。あと二人ぐらいはレナルドさんの知り合いが来てくれるそうなんだ。少しずつ人が増えていって村が賑やかになってゆく。焦らず、でも着実に本当の村になっていると思う」
デュカスは冒険者達にお礼をいうと馬車に乗り、市場の方角へと消えていった。
「皆様、まずは荷馬車を返しに行きましょうか」
冬霞が手綱をしならせる。夕日に照らされたパリの街中をゆっくりと荷馬車は走るのであった。