黒分隊長を救え!ちびブラ団
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 72 C
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:11月06日〜11月13日
リプレイ公開日:2007年11月15日
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●オープニング
酒が入れば、辛かったことも悲しかったことも皆一様に忘れて、隣の人が何する人かどこの人かもわからずに肩を組んで和気藹々。神の前には皆平等。飯を食うのも皆同じなら、同じ屋根の兄弟よ。さてや、飲めや、歌えや、笑えと、それが収穫祭というかくも騒がしい祭である。
大人がそんなのだから、子ども達ももちろん同様で、星空よりも明るい祭の燭台の下で、人混みを駆け抜けていると、途中で顔をつきあわせた同年代らしき少年達と、言葉一つも必要とせず、それ今は鬼ごっこだぞ、おまえもついてこいよ、と誘って共に駆け出す。
ちびブラ団の仲間達も例に漏れず、大人達の喧噪豊かなメインストリートを少し外れた路地に、ほんの数刻前に出逢った数人の少年少女と今はもうすっかり打ち解けていた。鬼ごっこで跳ねた息をなだめながら、笑顔でようやく言葉を交わしあう。
「すっごい体力あるな。機転も利くし、チームワークもあるし、全然捕まえられなかったよ」
出逢ったばかりの少年に褒められて、ちびブラ団は一様に嬉しい顔をした。大変な目も苦しい思いもみんなで乗り越えてきたのだ。チームワークには自信があった。
「お前達も頑張れば騎士を倒せるぜ」
「騎士!?」
ちびっ子ブランシュ騎士団灰分隊長フランこと少年アウストが目を丸くすると、別の少年が得意げに笑った。
「実は、僕たちは収容所っていうところから来たんだ。収容所っていうのは国の都合の悪い人たちを閉じこめる場所なんだけど、僕もお父さんもお母さんもノストラダムス様を信仰しただけで捕まったんだ」
「ほら、ノストラダムス様がデビルの手先だとか言われてただろう? だから俺達やその家族もデビルの手先なんだって。預言で災害を知らせてくれたノストラダムス様が悪い者扱いしてるなんてどうかしてる。捕まった家族はみんなバラバラにされてひどい目に遭った」
「そこで捕まった人たちは密かに決起して、収容所の見張りである騎士を倒してその地獄から解放されたんだ」
得意げに笑う少年達の姿に、ちびブラ団は驚きの衝撃で言葉をうまく出せなかった。彼らの話が真実なら、目の前にいるのは脱獄した狂信者達なのだから。
「い、いいの? こんなところを歩いていたら見つかるんじゃ」
黒分隊長ラルフこと少年ベリムートの言葉に、少年達は笑った。
「大丈夫。収容所がそんなことになっているなんて思われないように、みんな普段は収容所で大人しくしているからさ。お父さんがいる収容所もお母さんがいる収容所もそうやって解放されたんだけど、また捕まらないようにって、みんな静かにしているんだ。だけど‥‥」
「だけど?」
「今度、ブランシュ騎士団が視察に来るっていってた。だから、こうやって収容所を抜け出して、ブランシュ騎士団のことを調べに来ていたのさ。お父さん達が居るところには緑隊が、お母さんとか女性ばかりいる収容所には黒隊が、そして僕たちのところには灰隊が来るんだ。
ブランシュ騎士団もまさか収容所が乗っ取られているなんて思っていないだろうから、不意をついてこてんぱんにやっちゃえば、ノストラダムス様の理想郷も早く実現できるよ」
少年達の言葉に、ちびブラ団はひどく動揺した。あの大好きなブランシュ騎士団が危機にさらされているのだから。だからといって、一緒に遊んだ時の気持ちが嘘や見せかけだったとは思えない。今、こうして話してくれるのも友情を感じてくれたからこそだ。
長い逡巡があったが、ちびブラ団の面々はそれぞれの目を見合わせて頷いた。
このまま放っておくわけにはいかない!!
ちびブラ団は城に向かった。
門番に話して分隊長への面会を頼むが、今回は断られる。正確にいえば分隊長達は現在不在だといわれてしまう。
諦められなかったちびブラ団はそれぞれの親の元に走る。そして再び空き地に集まった。
「そりゃそうだよな‥‥」
親達は誰も信じてくれない。
何カ所もの収容所が囚人達によって内緒で占拠されて今も稼働し、そして視察に訪れようとしているブランシュ騎士団を狙っているなんてあまりに突拍子もない話だ。
『冒険者ギルドに依頼を出して』と頼んでも、笑っているだけで本気にはしてくれなかった。
四人で落ち込んでいると、空き地に現れる影が一つ。
「ちびブラ団のみなさん〜。お久しぶりです〜。本の完成はもう少し待って下さいね〜」
よく知る声に全員が顔を上げた。
側に立っていたのは前に助けたシスターアウラシアであった。本名はニーナだが、記憶喪失中につけられた名前でちびブラ団とは接している。
ヴェルナー領にあるポーム町に住んでいるアウラシアだが、用事があってパリを訪れていた。
「あのね――」
ちびブラ団はアウラシアに事情を話す。『うんうん』と首を縦に振りながらアウラシアは聞く。
「パリ、いやノルマンの一大事ではないですか!」
アウラシアはちびブラ団の言葉を信じる。もし間違っていても構わない。ちびブラ団に大きな恩を感じていたアウラシアであった。
幸いな事に貴族向けに作った写本の納品が最近あり、その一部をアウラシアもこづかいとしてもらっていた。三つも依頼を出すとなれば、その金額はかなりのものであったが、へそくりも足せばなんとかなる。
「とにかく冒険者ギルドに行きましょう〜」
アウラシアと一緒にちびブラ団は冒険者ギルドに向かった。
依頼を出し終わり、ちびブラ団はアウラシアに礼をいう。
アウラシアが手を振りながら去り、ちびブラ団はもう一度話し合った。
「そうだよな。少しでも早く知らせなくちゃいけない。俺はラルフ黒分隊長を助けに行く」
ベリムートは空き地に隠していたリュックを取りだして背負う。家に戻ってきた時に用意しておいたものだ。ちび猫メルシアはクヌットに任せる。
「やっぱ俺様も行くわ!」
「いや、ジュリアちゃんと約束あるんだろ。クヌットはパリで待っててくれ」
ついて来ようとするクヌットをベリムートは止めた。
クヌットの幼い妹ジュリアは怪我をしていた。昼間は母親がジュリアを看ているが、夜中に眠る時、クヌットのおとぎ話を聞かないとなかなか寝付かないらしい。
「どっかの馬車に潜り込んで、なんとか辿り着いてみるよ。じゃあな〜」
ベリムートは夕日の中、仲間と別れて停車場に向かって駆けだした。
「主に女性が収容されている施設なのか」
「そうです。ごく一部ですが、囚人の赤ん坊や子供もいます。一歳を過ぎると教会などに引き取られますが、それまでは」
馬車の中、ブランシュ騎士団ラルフ黒分隊長は部下のレウリー隊員からこれから向かう収容施設について説明を受けていた。
馬車内にはラルフ黒分隊長とレウリー隊員。馬車に併走して騎乗する隊員二人。
御者二人は黒分隊ではない。エフォール副長を始めとする他の黒分隊員はノルマン国内に散らばって様々な調査に出かけている最中だ。
「見えました。もうすぐです」
御者の声が馬車内に届く。
レウリー隊員が窓の戸から顔を出す。夕日の逆光のせいで、巨大な影が荒れた土地に佇んでいた。
●リプレイ本文
●疑問
朝早く、用意された馬車を目印として冒険者達は集まる。その場には依頼者であるシスターアウラシアの姿もあった。
アウラシアと冒険者達は挨拶を交わした後、質問と答えのやり取りをする。ラルフ黒分隊長、そして話題は情報提供者であるちびブラ団にまで及んだ。
「アウラシアさん。気になる事が――」
セレスト・グラン・クリュ(eb3537)は首を軽く捻る。ちびブラ団と仲がいい自分の娘も含めて心配になったのだ。そういえばとアウラシアはここ数日ちびブラ団と会っていないと答える。
「何か、あるわね‥‥」
セレストはすぐに戻るといってベゾムに跨って大空に舞った。
「これを読んでもらえれば、接触した時に楽に信じてもらえると思います」
護堂熊夫(eb1964)は一番自由に動けそうなジュエル・ランド(ec2472)に手紙を渡した。レオパルドが書いたもので、内容はラルフ黒分隊長宛てである。
「便利そうやけど、敵に見つかったら大変。どこに隠しておこうかな‥‥」
ジュエルは愛馬ナヴィの背に座りながら考える。もう一頭の愛馬は牽引役として既に馬車へ繋げてあった。
「それにしても、囚人纏めて敵ってのはえろぅ怖い話ですなぁ」
ルイーゼ・コゥ(ea7929)は腕組みをし、右へ左へと空中を漂う。頭数からいっても作戦をうまく立てなくては誰も救えない。
「囚人もどうやら、ノストラダムスの狂信者達‥‥。いまだ尾を引きますか」
整った顔立ちのリディエール・アンティロープ(eb5977)も考え込む。すぐに気を取り直し、他の仲間の馬と一緒に愛馬クラウディアを馬車に繋げた。
「突拍子も無い話ですが、本当だとしたら大変なことです。急ぎましょう。馬の扱いは慣れていますのでお任せを」
ブルー・アンバー(ea2938)は御者台に飛び乗った。すぐにセレストも戻り、馬車は発車する。
「分隊長さんらをよろしくお願いします〜」
アウラシアに見送られて一行は出発した。目指すは女性囚人収容所。
「どうやらベリムートさんも向かっているようなの」
揺れる馬車の中でセレストが知らせると仲間は驚いた。愛馬で併走するジュエルにもすぐに伝えられる。
ブルーは強く手綱をしならせ、馬車の速度をあげるのだった。
●収容所
一晩の野営を過ごし、二日目も収容所を目指す。馬車に乗っている間に細かい相談を終え、そして準備を整える。
夕方頃、一行は収容所を望んだ。遠くから見る限り、ただの大きな建物である。周囲は塀で囲まれていた。
一旦停まり、離れた場所から出来る限りの情報集めをする。
護堂はテレスコープとエックスレイビジョンで収容所の壁の向こう側を調べる。囚人らしき者達が活動しているが、それが占拠と繋がっているかまではわからない。
大きな門を見張っている門番はすべて鎧姿の女性である。護堂が仲間に伝えるとセレストは大きく頷く。
それから何度も護堂は周囲を眺めてみるが、黒分隊の者達やベリムートの姿は見つからない。
「夜の方がウチが侵入しやすいのだけど、夜を待ってもらってええかな?」
ジュエルのいうことはもっともである。今夜は収容所に向かわず、離れた安全な場所で野営をすることになった。
護堂がウェザーコントロールで天気を曇りにする。星明かりの下でも、移動するものは結構目立つ。シフールの小ささでも例外ではない。
完全に日が暮れて、ジュエルは侵入を決行した。地をはうように飛び、塀にそって昇り、収容所内部に入る。
中は静かであった。かがり火で照らされる場所を避けながら、音を立てないように気をつけてジュエルは飛翔する。
(「見覚えあるわ。あの子」)
鉄格子の隙間から覗いた部屋に一人の男の子がいた。リンゴ大食い大会に出たとき、別の参加チームに混ざっていた子だ。アウラシアがいっていたベリムートの特徴にそっくりである。
ジュエルは石ころを軽く投げてベリムートを起こす。
「ウチは冒険者や‥‥。アウラシアさんの依頼でやってきたんやけど」
ジュエルはベリムートを安心させて話を聞く。どうやら収容所近くを歩いていたら、巡回していた衛兵に捕まったようだ。
「黒分隊長とはまだ会ってないんだ‥‥。捕らえたっていう話は聞いたよ。どうやら、ホンモノのここの人達を人質にされて、ラルフ黒分隊長は仕方なく捕虜になったみたいなんだ‥‥。俺、もっと詳しく調べるつもりだ」
ベリムートとの話を終えるとジュエルは脱出する。戻るとさっそく仲間に話し、作戦の修正をするのだった。
●収容所内へ
三日目、セレストがリディエールに化粧を施し、準備は万端整った。戦いに役に立ちそうもないペット達は穴を掘ってどこかに行かないように隠しておく。
馬車に乗った一行は収容所の門へと出向いた。
「何処の者であるか?」
門番の偽衛兵達が停まった馬車を取り囲んで問う。
「王宮の使者として参りました。戦乙女隊のリディエールと申します。所長とのお目通りを」
「女か‥‥」
偽衛兵に向かってリディエールは緑分隊長との関わりがある集団の名を使う。
「王宮の使者代理の護堂です。私達二人を除き、御者兼兵士一名、兵士一名、そして犯罪人のシフール一名。通過を願います」
「ジャパンの者? また変わってるな」
護堂も周囲の偽衛兵に話しかける。顔を見合わせて相談する偽衛兵達だが門は開かれ、中には通してくれた。ルイーゼは護堂の影に隠れてブレスセンサーを使って確認する。ベリムートは元気でいるようだ。
「ちょっと待てや〜」
馬が叫びながら駆けてくる錯覚を偽衛兵達は起こす。よく見るとそうではなく、馬に乗ったシフールであった。
「毎度おおきに。いつもニコニコ迅速配達シフール便です〜。所長宛に手紙があるので通させてもらいますわ」
ジュエルは偽衛兵達があっけにとられている間に閉じようとする門の中に入ってしまう。愛馬を茂みに隠すとそのまま飛んでゆく。一応の許可はとった。短い時間なら言い訳も出来るはずである。
もっとも、どの時点で収容所の狂信者達が牙を剥くのかはわからない。敵も無意味に被害を出したくないはずである。自分達が有利な場所や時間を用意するだろう。
とにかく相手のペースに乗らないのが一番であった。ある程度はどこに何があり、誰がいるかの目星をつけてある。後は時間が勝負であった。
「手紙を運ぶんは、シフールの性分やぁ〜。それにノストラダムス様の手紙を運んで何が悪いんや。あのお方はノルマンを救ってくれたのかもしれへんのやでぇ〜」
ルイーゼの叫びが暗い石作りの通路内に響く。女性偽衛兵六人がブルーとセレスト、ルイーゼを取り囲みながら歩く。
馬車を降りた一行は強制的に二手に分かれさせられた。二人の王宮からの使者は所長と会うため。残る者は犯罪者を牢に連れてゆく役目として。
道案内としては多すぎる偽衛兵達にブルーとセレスト、そしてルイーゼも覚悟を決める。
「そのシフールはノストラダムスの考えに賛同して、ここに連れて来られたのか?」
「その通りです。物騒な内容の手紙を運んだようです」
衛兵の一人にブルーが答える。
「それなら、別の場所にある牢に入れなければならないかもな。ここの牢はお前達‥‥グッ」
お喋りの偽衛兵の腹にセレストが棍棒をめり込ませる。
「女性の血は見たくありませんからね‥」
ほとんど同時にブルーも日本刀を抜き、別の偽衛兵に峰打ちを喰らわせた。
ブルーとセレストに偽衛兵達の注意が向いている間に、元々緩く縛ってあったロープをほどき、ルイーゼは詠唱する。
一人の偽衛兵が気がついた時はもう手遅れだ。数えていたセレストとブルーは床に伏せる。
「おねんねしといてや!」
輝くルイーゼの手から稲妻が放たれた。通路の中心を貫くようにライトニングサンダーボルトが一直線に伸びる。それは衛兵の身体をも貫く。衝撃を与えるのに充分な威力であった。
「作戦の順番が変わったけどしょうがないわね」
セレストは一人の偽衛兵の装備を剥いで着替える。他の者も偽衛兵達の服を脱がして何かの排出口に投げ捨てた。これで目を覚ましてもすぐには敵の戦力にならないはずである。
「‥‥これです」
ブルーは気絶している衛兵から鍵の束を奪い取るとルイーゼに渡す。どうやらどの牢も鍵は共通のようだ。
ブルーが通路入り口を見張る間に、セレストとルイーゼは牢が並ぶ奥へと向かった。
セレストは物影から金の腕輪をわざと床に転がし、牢の門番達の隙を誘う。そして死角からスマッシュで棍棒を叩き込んだ。
ルイーゼもヴェントリラキュイで残った門番の注意をそらして隙を作り、縛り上げる。
後は囚われている所員達を開放するだけである。
「あなた方が忠誠を尽くすべき方の名は?」
セレストが牢の中の者に問うとウィリアム3世の名を叫んだ。ルイーゼは確認がとれた牢の鍵を開けてゆく。
女性収容所だけあって女性の数もかなりいるが、男性所員も少なくない。もちろん兵士もいる。武器倉庫と食料庫を狙ってから脱出する事が決まる。
「ラルフ黒分隊長はどこや!」
ルイーゼは叫ぶ。だが期待する返事はどこからも聞こえなかった。
「うおおおおっ!」
「凍りなさい!」
牢で仲間が所員を開放している頃、護堂とリディエールも偽衛兵達や囚人女性と戦っていた。所長に面会させるといわれて連れて行かれた先での出来事である。
塔内部の螺旋階段を護堂とリディエールは登ってゆく。
ついさっき現れたジュエルによれば、ベリムートが黒分隊の居場所を教えてくれたそうだ。ちょうどこの塔の上で囚われているらしい。塔の小窓から飛びだして確かめにいったジュエルが戻ってくる。
「塔の一番上の部屋にラルフ黒分隊長が閉じこめられていたわ! 手紙渡しておいたんで、今向かえばすぐに信用してくれるはずや。ウチはベリムートを助けに行ってくるんで、またな」
ジュエルはベリムートを助けに再び飛んでゆく。
ラルフ黒分隊長と三人の部下も加われば形勢を逆転出来る。仲間がここの所員を助けられれば、ラルフ黒分隊長らに手枷足枷はない。そうリディエールは魔法を使いながら考えた。
女性の狂信者達を払いのけ、押しのける。転ばせ、凍らせて進路を拓いた。
「今のうちに!」
螺旋階段が終わり、リディエールが階段下方に向かってアイスブリザードを放つ。多くの女性囚人がバランスを崩して階段を転げ落ちる。
「ふんっ!」
護堂は武器をしまい、扉の両側に飾ってあった石像を持ち上げるとスープレックスをかけた。石像が当たって扉をぶち破る。中にはラルフ黒分隊長と三人の部下の姿があった。
「助かった。冒険者か?」
「はい。脱出しましょう」
護堂は一度扉の外に出て、かかっていた梯子で塔の屋上まで全員を誘導する。空飛ぶ絨毯を取りだして脱出を図るが、さすがに一度で全員は無理である。
まずは黒分隊の部下三人を降ろした。そして自分とリディエール、ラルフ黒分隊長が降りる。このまま収容所外へ脱出するのも手であったが、強くラルフ黒分隊長に頼まれたのだ。
「ラルフ黒分隊長〜!」
ジュエルに連れられたベリムートがラルフ黒分隊長に駆け寄る。
「この子が知らせてくれなかったら、ウチらも来なかったかも知れないんやで」
「そうか。だが、ベリムート君、危険だから先に脱出しなさい」
ラルフ黒分隊長のいう事をベリムートは聞き入れ、護堂の空飛ぶ絨毯に乗る。そして先に収容所の外へ脱出した。
「黒分隊長、ウチの馬つこうてや」
ジュエルは連れてきた馬の手綱を預けると飛び立つ。そして女性囚人が集まる場所の木の枝に立って唄った。メロディーが込められた歌だ。敵は強烈な眠気に誘われて眠ってゆく。
ラルフ黒分隊長は素手で敵衛兵を気絶させると剣を手に入れる。ジュエルから借りた馬に跨り、道を拓く。
黒隊員三名も武器を手に入れて敵を蹴散らす。下がった位置でリディエールも魔法を奮う。
セレスト、ブルー、ルイーゼが誘導する所員達も合流し、偽衛兵や囚人達を寄せ付けずに門へ直進した。
進行方向の斬り込みはラルフ黒分隊長、レウリー、そして二人の黒分隊員に任せ、冒険者達は殿を務める。
ブルー、護堂、セレストが盾となり、リディエール、ルイーゼ、ジュエルによる魔法のサポートが入る。
敵の体制が崩れている今が仕掛け時であった。この機会を逃せば全員の脱出は無理だとラルフ黒分隊長は心の中で呟く。
黒分隊によって門の偽衛兵達は一気に瓦解される。
門の扉がこじ開けられて、一斉に所員達が飛びだした。門近くには厩舎があり、馬なども一緒に連れだされる。
「こちらを」
衛兵の姿をしているセレストは誤解されないように二つの記念メダルをラルフ黒分隊長に見せた。そしてベリムートを抱きしめながら訴える。
「貴方とこの子が! 傷つくと悲しむ子がいるの!」
セレストは追撃を押さえる為に残るというラルフ黒分隊長の言葉を聞いていたのだ。
「時間が稼げたら必ず撤退しよう。民を護るのもブランシュ騎士団の役目。そしてここでのたれ死ぬならばそれも適わぬ。無事帰る為にも冒険者達に手を貸して欲しい。頼めるだろうか?」
セレストは頷き、ベリムートに囁いた。そして仲間に知らせた。
●そして
収容所から編成された敵が現れ、黒分隊と冒険者の連合はすべてをはね除ける。ベリムートの保護は強く優しそうな所員の一人に頼んだ。
追撃と戦いながら、全員が夜通し歩く。馬や冒険者達の馬車には怪我人や病人を優先的に乗せていた。重傷者のみにリカバーは使われる。どんな攻撃があるかわからないので、魔法や物資の余力をとっておかなければならなかったからだ。
警備がしっかりしている町に収容所から脱出した全員が移動するまでに二日が費やされた。
「ありがとう。ここまで来れば安心だ。先に戻って応援をお願いしたいのだが――」
ラルフ黒分隊長に感謝された冒険者達は、ベリムートを連れて馬車でパリへ戻ることにした。シフールが一日で辿り着ける距離までパリに近づくと、ルイーゼが救援を呼ぶ為に先に向かってくれた。
途中の道で馬車は王宮の救援部隊とすれ違う。
七日目の夜、一行はパリに到着する。
ベリムートを家に送り届けてから、冒険者達はギルドへ向かう。
「分隊長さん達は? ちびブラ団のみんなは無事ですか?」
心配してギルドに待機していたアウラシアに冒険者達は説明する。ラルフ黒分隊長と部下、そしてベリムートは無事だと。
のちに冒険者達にはラルフ黒分隊長からお礼の手紙と品が届けられる。アウラシアには、手紙の他にかかった依頼費用すべてと功績に見合う礼金も支払われるのだった。