腐ったオーガ 〜アーレアン〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 24 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月12日〜11月18日

リプレイ公開日:2007年11月18日

●オープニング

「そんなにがっかりするな。もっといい娘が現れるさ」
 賑やかな夜の酒場の片隅。青年冒険者アーレアンは青年ギルド員ハンスと酒を呑んでいた。
「気になんて‥‥してねえよ」
 涙目のハンスがワインをカップから飲み干す。女に振られたハンスをアーレアンは元気づけていた。
「そうだ。そうだ、もっと呑め!」
 アーレアンはハンスのカップにワインを注いだ。

「アーレアン‥‥、ちょっと会ってもらいたい依頼人がいるんだが」
 翌日の冒険者ギルドで、ハンスは壁に貼られた依頼書を眺めるアーレアンに話しかけた。
 二人とも二日酔いで青ざめた顔をしているが、仕事を休む訳にはいかない。依頼に入ったとしてもアーレアンの出発は数日後だが、目の前の仕事をこなさなければならないハンスはとても辛そうだ。
「こちらの方が依頼人のラリースさん。墓守をしているそうなんだ」
 ハンスに紹介され、アーレアンは見かけ30歳前後の男性ラリースと握手を交わした。
「最近になって墓の周辺にオーガ共が出没するようになったのです」
「墓にオーガ? なんだか場違いな気がするけど、まあ、そういう事もあるのかな」
「それがただのオーガではなく、ズゥンビのオーガなのです」
 ラリースの言葉にアーレアンは驚いた。
「あの周辺には人家はありません。わたしは墓守といっても一月に一回、訪れる程度なのです。一週間前、墓に行って驚きました。うじゃうじゃとオーガのズゥンビが徘徊していたのです」
 アーレアンとハンスは青い顔をより青くしてラリースの話を聞いた。
「地面を掘ろうとした形跡もありました。もしも安らかな永遠の眠りについた方々がズゥンビになんてなったのなら‥‥わたしは墓守失格です。どうかズゥンビのオーガを退治して下さい」
 ラリースはアーレアンに強くお願いする。
「わ、わかったぜ。なんとかしよう‥‥」
 アーレアンは冷や汗をかきながら頷いた。

●今回の参加者

 ec0222 セルシウス・エルダー(23歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec1752 リフィカ・レーヴェンフルス(47歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ec3660 リディア・レノン(33歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec4095 ファキア・コルネア(28歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

篁 光夜(eb9547

●リプレイ本文

●集合
「やぁ、アーレアン君。久しぶりだね、先日は大活躍だったそうじゃないか」
 リフィカ・レーヴェンフルス(ec1752)は集合場所に現れたアーレアンに話しかけた。
「そんな事はないよ。学者さん、来てくれて助かったぜ」
 リフィカに駆け寄ったアーレアンは照れた様子だ。
 話す二人の近くの木の上でウイバーンのアイオロスが姿を隠している。さすがに街中では騒ぐ人もいるので、リフィカが隠れるように指示したのだった。
「俺もいるぞ。アーレアンさん、今回もよろしく。頼りにしている」
「セルシウスさん!」
 セルシウス・エルダー(ec0222)も現れてアーレアンは挨拶を交わす。
 三人が話しているところに、二人組が歩いて近づいてきた。一人は今回の参加者である。
「リディアはゲルマン語に不慣れなので俺が伝えよう。『地のウィザード、リディア・レノンです。よろしくお願いしますね』といっている」
 篁光夜がリディア・レノン(ec3660)の通訳をした。出来る限り、この場で作戦の概要を教えて欲しいと今回の仲間に語りかけた。
「まだ現地にいってみないとわからない点がありますが――」
 リフィカが大まかに考えてきた作戦を述べた。セルシウスとはここに来る途中で少しだけだが相談していた。
 簡単にいえば穴を何らかの方法で用意し、燃える物を入れておいて、オーガズゥンビを誘いだして落とす。そして火を点けて燃やし、弱った所を叩く作戦である。
 リディアも通訳を介して考えを述べる。自分の魔法も活用できるように作戦の変更を伝えた。
「お待たせしました」
 声と共に一両の荷馬車が一行の側に停まる。
「ラリースといいます。みなさんよろしくお願いします。ん? ギルドから聞いたより、お一人少ないようですね‥‥」
 依頼人であるラリースが荷馬車の御者台から下りて挨拶をした。しばらく待ったが、残る一人が来る気配は感じられなかった。
「こればかりはしょうがないね。残念だけど行こうか」
 アーレアンの一言で出発が決まる。見送りの篁光夜を残して全員が荷馬車に乗り込んだ。
 御者はセルシウスが務める。リフィカが作戦を練るために依頼人のラリースから情報を詳しく聞く為に引き受けたのだ。
 荷馬車は発車し、パリの城壁を抜けて大地を駆けた。目指すはオーガズゥンビの徘徊する人里離れた墓地であった。

●情報
「それでは別の質問を――」
 揺れる荷馬車の荷台でリフィカはラリースから墓地周辺について訊いていた。
 墓地の規模自体は大きく、かなりいびつな直径150メートル程度の円である。墓の数は約100。墓石は整然と並べられているが、初期に作られた場所は雑多な感じだ。
 戦う場所は墓地ではない方がよいとリフィカは考える。穴を用意するにも、その方が都合がいい。
 墓地周辺の地形には高低差があり、それをうまく利用すれば特別に穴を掘らなくても良さそうだが、同時に自分達の身の危険も感じさせる。慣れない複雑な地形で迷ってしまったのなら、逃げ道を失う可能性も高い。その点についてはよくよく考えておかなければならなかった。
 その他としてはオーガズゥンビの一部は金棒を持っていたようだ。注意が必要である。
 後は現地を確認をした上で、細かい作戦を決めなくてはならない。それまでの間、どんな状況にも対応出来るように、いろいろな想定を考えておく必要があった。
「今回は特にきつそうだよ‥‥。前衛がセルシウスさんだけだし、気をつけてね。できるだけフォローはするけど」
 アーレアンは御者をするセルシウスの横に座っていた。
「任せておけ。死者を冒涜する奴らは許せない。なんとかなるだろうさ」
 セルシウスは荷馬車を操りながら、アーレアンに微笑んだ。
 夕方に差しかかり、一行はよさそうな場所を見つけて野営の準備を始めた。
 テントは収容に人数分の余裕がある。しかしリディアが寒さ対策の用意をしておらず、リフィカが毛布を貸しだした。
 テントがあるとはいえ、この季節の野外は寒い。リディアはリフィカに片言ながら礼をいうのだった。

●現地
 二日目の昼頃、荷馬車は墓地までは行かずに手前で停まる。
 さっそく準備としてリフィカが調査を開始し、他の者達は落ち木、枯葉などの燃える物の収集を始めた。
「学者さん、がんばってね」
「任せてくれ」
 アーレアンがリフィカに手を振る。
 リフィカは空からの索敵の為にアイオロスを飛ばした。調査の際にはどうしても周囲への注意が散漫になる。アイオロスなら死角からオーガズゥンビが近づいてきても知らせてくれるはずだとリフィカは信頼していた。
 依頼人のラリースのいう通り、墓場の周囲は高低差が大きい。大きくくぼんだ場所もあり、穴として活用出来そうである。
 問題はオーガズゥンビの分布だが、こればかりは現状では調べる術はない。無理に調べても、明日には移動しているかも知れないし打つ手なしだ。
「遠くからみても不気味だ。人里離れた墓地だからか、それともズゥンビが徘徊しているのを知っているからなのか‥‥」
 拾った落ち木を肩から降ろすと、セルシウスは墓地の方角を望んだ。カラスが鳴き、木々のシルエットが揺れたような気がした。
「こっちに小川があって流木がたくさん流れ着いている場所があるんだ。一緒に行こう」
 アーレアンは身振り手振りをしながらリディアに話しかける。頷いたリディアはアーレアンの後をついてゆく。
 完全に日が暮れる前に、全員が荷馬車周辺に集まる。
 明日一日かけて穴に罠を仕掛け、明後日にまとめてオーガズゥンビ退治をしようと決まった。
「リフィカ、気をつけろ」
「セラ、大丈夫。アイオロスを上空で待機させるしね」
 今日は墓地周辺を調べたリフィカだったが、明日は墓地である。オーガズゥンビの分布は無理でも、せめて正確な数だけは把握しておきたいと考え直した。その為にはどうしても前もって墓地まで行かなくてはならなかった。
 夜も更け、大分冷え込んでくる。見張りはたき火を絶やさぬようにして二日目の夜は過ぎていった。

●戦闘
 三日目の準備も無事に終わり、四日目となる。
 調べた所、オーガズゥンビの数は12。罠を仕掛けた穴は二個所。
 囮役としてリフィカが墓地へと向かう。
(「出来れば半分ずつが望ましいのだが‥‥」)
 リフィカは大きな墓石の裏に隠れてタイミングを計る。墓地は死臭に満ちていた。たくさんのオーガズゥンビが徘徊しているせいだろう。
 さすがに12匹がまとめて来てしまうと捌ききれない。広い墓地なので、一カ所にまとまってはいないものの注意が必要だ。姿を晒しさえすればオーガズゥンビはついてくるはずである。
 リフィカはスリングで一発を当ててからオーガズゥンビに姿を晒す。声をあげなかったのは、遠くまで聞こえて全部が来るのを避ける為である。そして何匹かの視界に入るようにして逃げだした。
 道さえ確保してあれば、動きが鈍いズゥンビなので逃げるのは容易い。リフィカはたまに振り向いて、振り切らないように注意をする。ついてくるオーガズゥンビは5。まずまずの数である。
 リフィカは完全に立ち止まり、オーガズゥンビに近づくのをじっと待った。
 すぐ側の穴の中からの熱気がリフィカの顔を熱くさせる。いろいろ考えたが、前もって燃やしておかないと強い炎は得られない。そこでオーガズゥンビを炎の中に叩き入れる作戦へと変更したのだ。
「いくぜ! リディアさん」
 アーレアンとラリースが詠唱を開始する。二人が唱えているのはファイヤーボムとグラビティーキャノンだ。
 リフィカが詠唱中に退く。
 襲いかかろうと向かってくるオーガズゥンビの頭の上で火球が膨らんで弾ける。続いて次々と急な転倒を起こしていった。結果、オーガズゥンビの3匹が穴へと転げ落ちてゆく。
 残った2匹は立ち上がると、一行に向かって牙を剥き、金棒を振り上げた。
「任せろ!」
 セルシウスが魔剣を手にしてオーガズゥンビに斬りかかった。すでにオーラパワーは付与してある。
 腐っているだけにオーガズゥンビの身体はスルリと切り裂けた。セルシウスは跪くと水平に剣を振る。膝から下が切断されたオーガズゥンビが転げる。
 セルシウスはオーガズゥンビの横っ腹を蹴飛ばして、燃えさかる穴に放り込んだ。
 その間、リフィカはスリングで石を当てて、もう1匹の気を逸らしていた。リディアもサイコキネシスで岩を飛ばして当て、同じ1匹を翻弄する。
 セルシウスが駆けつけて残る1匹と対峙する。半分腐って崩れかかったオーガズゥンビのおかげで比較的楽に倒しきった。
 穴から這い上がろうとしたオーガズゥンビもいたが、アイオロスがウインドスラッシュを放ち、再び炎の穴の中に叩き落としてくれた。
「まずは5匹‥‥」
 アーレアンは燃える穴の炎を見下ろして呟いた。

(「まずいか?」)
 アーレアンはファイヤーボムを立て続けに撃ち込んだ。すぐ隣りでリディアもグラビティーキャノンを放ち続ける。
 リフィカの囮で残り7匹がまとめてやって来た所まではよかった。ただ最初に燃える穴へ落とす事が出来たのが、3匹のみであったのが誤算であった。
「セラ!」
 戦うセルシウスを見てリフィカが叫んだ。髪の毛が逆立ち始めていたのを見かけたからだ。
(「このままでは‥‥」)
 セリシウスにもわかっていた。かなりの興奮状態に自分が陥ってゆくのを。
 たった一人の前衛でセルシウスには極端な負担がかかっている。
 仲間は少しでもオーガズゥンビを分散させようとがんばるものの、うまくはいかなかった。
 しばらくしてリフィカは息を呑む。振り向いたセルシウスの瞳は赤く輝いていた。それは穴の中の炎が瞳に映った訳ではない。ハーフエルフの狂化である。
「みんな登ってくれ!」
 リフィカが叫びながらリディアに駆け寄って、高台の上を指さす。見境なしに戦うセルシウスと同じ場所にいては仲間も危険であった。
「アイオロス、なんとかあの穴の中にオーガズゥンビを落として数を減らしたいんだ。頼めるかな」
 リフィカは頭上の崖上に待機するペットのアイオロスに話しかける。言葉は通じないが、きっと応えてくれるはずだとリフィカは信じた。
 リフィカは高台には登らず、その場でスリングで石を飛ばした。そして少しでもオーガズゥンビの注意をひきつけて燃えさかる穴へと誘導する。リフィカが連れてきた1匹のオーガズゥンビに向けてアイオロスがウインドスラッシュを放つ。体勢を崩したオーガズゥンビは炎の穴へと転がってゆく。
 一瞬、セルシウスの周囲に誰の姿もなくなった。
 周囲を見回したセルシウスは高台の仲間を見つけ、崖を登り始める。
「セラ、だめだ!」
 リフィカが叫ぶ声は届かずにセルシウスは登り続けた。目標をリフィカからセルシウスに変えた最後のオーガズゥンビも崖を登り始める。
「セルシウスさん! そっちにはラリースさんが!」
 アーレアンは叫ぶが、セルシウスには届いていなかった。
「すまない。セルシウスさん‥‥」
 アーレアンは一番小さなファイヤーボムを素早く唱える。
 セルシウスとオーガズゥンビはボムに巻き込まれ、崖表面が少し崩れて落下する。その際、落下こそしなかったもののラリースもボムの炎に巻かれた。
 地面に叩きつけられたオーガズゥンビは起きあがると、木々の茂みに向かって逃げてしまう。
 セルシウスは落ちたショックで気絶をしていた。
「大体倒しは‥‥したけど‥‥」
 酷い惨状にリフィカは呟く。誰もが混戦の中でケガをしていた。特に依頼人のラリースにケガをさせてしまった。
 一行はオーガズゥンビの肉片を燃えさかる炎の中に放り込み、そして治療を行う。
 念の為に頑丈そうな蔓でセルシウスを縛っておいたが、目を覚ました時には狂化は消えていた。

●帰り道
 一晩を野営で過ごし、五日目の朝頃、一行は墓場を探索する。
 オーガズゥンビの姿は見られなかった。逃げたオーガズゥンビ1匹はどこかに逃げたのだろう。
 一行は昼頃に荷馬車に乗り込み、パリへの帰路についた。
「ごめん。本当にごめんよ」
 アーレアンはセルシウスに謝り続ける。
「アーレアン君、気にしなくていいよ。な、セラ」
「お互い様だから気にするな。気をつけていたんだが、狂化するとは」
 リフィカとセルシウスはアーレアンを励ました。
 リディアは意味はわからなくても何となく状況は理解できる。仲間の側で耳を傾けた。
 六日目の夕方、一行はパリに到着する。
 ラリースは大部分のオーガズゥンビを倒してくれた事に礼をいって立ち去った。ただ、それは社交辞令であるのが誰の目にもあきらかであった。