兄妹の願い

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 46 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月14日〜12月17日

リプレイ公開日:2006年12月19日

●オープニング

「お兄ちゃん、足が痛いよお」
 テゥールが泣きべそをかきながらその場にうずくまる。
「ほら、おんぶしてやるから」
 クロードは屈むとテゥールが背中に被さった。
 十歳の兄クロードは六歳の妹テゥールを背負ったままパリ市街を歩く。二人が住んでいた村は水害の危険があった。多くの村人はパリやその周辺に避難誘導されたのである。
 兄妹は避難途中で地滑りに巻き込まれてしまった。幸いかすり傷程度で事なきを得たが、両親とはぐれてしまったのだ。仕方なく通りすがりの避難者達に混じり、パリへ来たのだった。
 パリでは様々な場所で避難者の為に炊き出しや宿の提供がされていた。兄妹はそれらを渡り歩いて両親を探そうとしていた。
「おなか空いた」
 背中のテゥールが耳元で囁くと、クロードは先ほどもらったパンを半分にちぎって片方を渡した。自分もパンをかじりながら空腹を紛らわす。何日もこんな状態が続いている。クロードはどこかの無料宿に留まり、両親が探してくれるのを待とうかとも考えていた。
「父さん、母さん、見つかるよね?」
 寂しげなテゥールの問いにクロードは「ああっ」としか答えられない。これだけ探しても見つからないのだからと、クロードの心の中も不安で一杯だった。
 通りがかった杉の木の植えられた広場では焚き火に大鍋がかけられて食事が振る舞われていた。クロードは焚き火に近づいてテゥールを降ろす。スープをもらって、焚き火にあたりながらテゥールと頂いた。
「キミたち、ご両親どうしたの?」
 女性が一人、兄妹に話しかける。テゥールがクロードの背中に隠れる。
「ひとさらいがいるから、知らない人とは話しちゃいけないんだもん」
「こら、そんな言い方したら――」
 テゥールをクロードがたしなめる。
「兄妹なのかな? お嬢ちゃんはお兄ちゃんのいうこと聞いていい子ね。お姉さんは冒険者ギルドで働いているの。聞いたことないかな」
 クロードは女性のいう冒険者ギルドを噂で知っていた。困り事を解決してくれる冒険者を紹介してくれるところだ。
「キミたちみたいな子供達の為にご両親を探す仕事もしてるのよ」
「‥‥でもぼくお金ないし」
「今はお国のおかげでお金はいらないの。安心して」
 クロードは女性を疑ったまま、逃げられるだけの距離をとってついてゆくことにした。道を歩く人に訊ねると、女性が入っていった建物は確かに冒険者ギルドだという。クロードは女性をようやく信じる気になる。
 冒険者ギルドに入るとクロードとテゥールはテーブルに案内された。女性はギルドの服に着替え、ペンと羊皮紙を携えて兄妹の前に座る。
「まずお父さんはどんな名前? 格好は?」
「レジスっていうの。お父さんはおっきいよ。お髭もあるんだ」
 受付の女性にテゥールが答える。
「じゃあお母さんの名前は? どんな感じのお母さん?」
「母さんはフローレル。やさしくて髪の毛はわたしとお兄ちゃんとおんなじ色だよ」
 テゥールは自分の髪の毛を摘む。兄妹共に茶色い天然のカールがかかった髪だ。
「あっそうだ。これお父さんが作ってくれたの。お兄ちゃんもおんなじの持ってるよね」
 テゥールは首に掛けられていた木彫りのリスを受付の女性に見せる。クロードは自分の木彫りのリスを外すと受付の女性に差しだした。
「これが役に立つかも‥‥お父さんお母さんも同じようなの持ってるはず」
 ホッとして泣くのを我慢しているクロードの手を受付の女性がしっかりと握る。
 他にも兄妹にいろいろと訊ねる受付の女性だが、父親が木こりをしていた以外にこれといった情報は得られなかった。
 受付の女性はギルド近くの無料宿に兄妹を案内する。両親が見つかるまで宿の主が世話をしてくれる約束になっていた。

●今回の参加者

 ea5808 李 風龍(30歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3512 ケイン・コーシェス(37歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb8864 ヒノ・トルヴィオ(19歳・♀・クレリック・シフール・ノルマン王国)
 eb9004 セッツァー・ガビアーニ(29歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb9005 マリアローズ・クローディア(17歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb9253 スケマチカチ(21歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

●宿へ
 冒険者達はギルドに集合してから無料宿に向かった。
「そう気を落とすな」
 ケイン・コーシェス(eb3512)は李風龍(ea5808)の肩を叩く。依頼を受けたはずの一人が来ずに李が残念がっていたからだ。
「これから幼い兄妹を助けるという時だ。力をいれないと。よろしくお願いする」
 李が合掌礼をして気合いを入れる。全員が笑顔で挨拶をし直すと、兄妹の泊まる部屋を訪れた。
「お兄ちゃん来てくれたよ。お父さん、お母さんを見つけてくれるんだよね?」
 部屋に入るなり、妹テゥールが冒険者達に近づいて見上げていた。
「そうですよ。お二人ともよく頑張りましたね! これからは私達がお手伝い‥え?」
 見上げるのを止めたテゥールが、話すアニエス・グラン・クリュ(eb2949)を不思議そうな目で眺める。アニエスに比べてテゥールは頭一つ分だけ低いだけだ。
「わ、私も冒険者ですよ! そんな頼りなさげな目で見ないで下さい」
 アニエスは頭の上で激しく両手を交差させながら汗をかいた。
「みなさん、ありがとう」
 兄クロードも冒険者に近づいて感謝を言葉にする。
「ご両親を‥探します。きっ‥と‥ご両‥親も‥必死に‥探して‥いるでしょうから」
 スケマチカチ(eb9253)がアニエスの後ろから顔を出して兄妹に話しかけた。
「子を想わない親はいないよね」
 マリアローズ・クローディア(eb9005)が背を屈ませて兄妹の視線に合わせる。
「避難ではぐれた人も多いはず。しかし必ず見つかるだろう」
 セッツァー・ガビアーニ(eb9004)は兄妹の前で片膝をつけた。
「妹を守って、兄貴はよく頑張ったな‥」
 ケインは少しでも早くいい形で会わせてやりたい、と願いながら頷いた。
「家族というのはやはり何物にも代え難いものだ。何としても、親を見つけてやらないと」
 李は決意をより強くするのだった。

「この中で父に近い大きさの者はいるだろうか?」
 ケインは兄妹に訊ねる。
「えっと、この人ぐらいかな」
 クロードはセッツァーを指差した。セッツァーは身長175センチ、普通の体型だ。
「お母さんとおんなじくらいの人はいないよー」
 テゥールがケインの横で全員を眺めていた。
「お母さんはぼくよりもう少し高い感じです」
 クロードの説明からすれば母フローレルの身長は150センチ前後だ。
「あ、テゥールさん? このサンタクロース人形と‥‥」
 アニエスは言いかけて気がつく。あげようと思って持参した焼き菓子を、つい食べてしまっていた。刻み干し杏入りで美味しかった味の思い出が悔しさを倍増させる。
「あっ後でお菓子もお渡ししますね。で、その代わりといっては何ですが‥髪の毛を一房頂けませんか? ちょっとだけ木彫りのリスを貸してもらえませんか?」
 テゥールは頷いてアニエスに木彫りのリスを渡した。髪の毛も少し切らせてくれる。アニエスは宿の主人に頼んで薪をもらってレプリカを彫り始めた。時間がないので荒削りな物になるだろう。
 ケインはクロードの木彫りのリスを借りる。セッツァーが少々絵心があるので、宿にあった使い古しの布に暖炉に転がる炭で描いてもらった。
 他の冒険者達も木彫りのリスをよく眺める。
 夕方には兄妹への報告も含めて無料宿に集まるのが決められ、冒険者達はそれぞれの考えで捜し始めるのだった。

 李は韋駄天の草履で近隣の村の一つに辿り着く。村にある酒場と市場で聞き込みをしようと訪れるが、閑散とした雰囲気だった。
 李は考えを変えて教会を訪ねる。多くの避難者と支援者でごった返す中、情報を拾い集める。しかし、これといった話は聞けなかった。
 李は夕方までにいくつも村を訪ねるつもりでいた。再び韋駄天の走りで次の村へ向かうのだった。

 アニエスは馬テオトコスにスケマチカチと一緒に乗っていた。カポカポと石畳の上を馬で歩く。
「アニエスさん‥は‥私より‥年下なのに‥騎士さんで‥パリ‥でも‥名前が‥知られる‥実力者ですね‥」
 スケマチカチは前に座っているので顔だけを振り向かせていた。
「格好‥いいな‥‥いつか‥私も‥アニエスさん‥みたいに‥なれるかな‥‥?」
 スケマチカチは話した後で恥ずかしくなって俯いた。アニエスも恥ずかしがったが、まんざらでもない様子だ。
 二人は木工職人の寄り合いに着いた。木こりであるレジスについて何か情報はないかと考えたのだ。
「私が話しを聞こう」
 一人の寄り合いの職員が対応してくれた。
「ふむ。少し待っててくれ」
 職員は寄り合いの人達に訊ねてくれる。
「レジスの名を知る者はいるが、ここ最近は会ってないそうだ。しかし子供と離ればなれとは大変だな。何かわかれば知らせよう」
 アニエスとスケマチカチは礼をいうと建物を後にするのだった。

 ケインはセブンリーグブーツで少々パリから離れた村を訪れる。李、セッツァーとかち合わないようにある程度、向かう方角は決めてあった。
 絵が描かれた布を拾った棒きれに旗のようにつけて肩に担ぐ。水浸しになった村にはあまり人がいないが、それでも訊いて回る。
 道すがら野宿している避難者達と出会う。両親、兄妹の名を告げて訊いてみるが誰一人として知らない。しかし、避難者を受け入れているパリ周辺の村についての情報を得られた。ケインは先を急ぐ。夕方までに出来るだけ回るつもりだった。

 マリアローズはパリをさまよいながら聞き込みをしていた。セッツァーについていこうとしたが歩きでは無理ある。馬に二人乗りしようとしたが暴れたので断念せざるを得なかった。
「杖、持ってきたかったけど、重たくて置いてきたし‥‥」
 ついていないマリアローズだったが、気を取り直して聞き込みを続ける。
「どっかで見かけたよ」
 ある子供がマリアローズが木彫りのリスを知っているという。だがどこで見たのかは覚えていない。曖昧に答えられた場所をマリアローズは捜すが見当たらなかった。
 暮れなずむ頃、早めに無料宿へと戻る。兄妹が寂しがっていると考え、そして木彫りのリスについて訊きたかったからだ。
「家近くの木に親リス二匹と小リス二匹の巣があったんだ。うちの家族と一緒でしょ? で、テゥールが家族をなぞらえて、お父さんにねだったんです――」
 クロードの話をマリアローズは頷いて聞いていた。

 セッツァーは水害の危険があった村に向かうように馬に乗っていた。本道の他にあえて脇道を通り、通りがかる人々に声をかける。両親が途中の道筋で兄妹を捜している可能性が高いと考えたのだ。
 両親は見つからないものの、兄妹と同じように家族と生き別れた人達と出会う。冒険者ギルドに行けば情報が得られるかも知れないと教えて、次の村へと向かう。
 途中に焚き火をした跡があれば、灰をひとつまみずつ手に入れた。マリアローズに頼まれたのであった。

 無料宿に戻った冒険者達は情報を持ち寄った。
 両親に直接繋がる情報はない。マリアローズがアッシュワードで灰と会話するが、これといった情報は得られなかった。
 アニエスは途中で買った焼き菓子を兄妹にあげる。
「ありがとう」
 兄妹は同時にお礼をいう。
「お二人の受け答えからして立派な方々なのでしょうね。ご両親は」
 兄妹の部屋から出たアニエスは冒険者仲間に話しかけるのだった。

●手がかり
 指先が宙を滑らかに舞う。動きの見事さに周囲の注目を浴びる。スケマチカチは避難者達の前で踊っていた。
 集めてもらった避難者達にアニエスが荒削りな木彫りのリスを見せて回る。誰か知っている者はいないか訊ねていた。
 炊き出しの方なら多くの人に接触していると思い、訊いてみたが手がかりは掴めなかった。今は子供か、兄妹に似た子連れの女性を当たる。しかしまだ何も得られてなかった。衛兵に教えてもらった避難所をすでに何カ所か回っていたが、どこも梨のつぶてである。
「次にいきましょう」
 アニエスはスケマチカチと一緒に馬に乗ろうとする。
「自分で‥言い‥出した‥けど‥やっぱり‥は、‥はず‥かしい‥です‥。でも、‥お二人‥の‥ためだから‥頑張‥ります‥」
 スケマチカチの言葉にアニエスは笑顔で答えた。
「おおっ、もしかしてあんた達、昨日の!」
 通りがかった男に声をかけられる。昨日木工職人の寄り合いで応対してくれた職員だ。
「無料宿に行くつもりだったがちょうどいい。レジスと最近パリであった奴がいた。子供を捜しているが見つからないので、周辺の村に行ってみるといってたらしいぞ」
 アニエスとスケマチカチは職員にお礼をいって別れる。
「今から‥だと‥郊外は‥無理だから‥炊き出し‥を‥手伝って‥訊きます‥」
 スケマチカチは馬に乗るのを止める。
「わたしは無料宿で早く戻ってきた仲間と伝えます。あとでね」
 馬で去るアニエスにスケマチカチは手を振った。

「それは本当か?」
 ケインは旗を見て声をかけてくれた者と話していた。彼女によれば今いる村の市場で見かけたそうだ。
 礼をいうとケインは急いで市場に向かった。言われた通り、市場のある店先に木彫りのリスが置かれていた。兄妹のとそっくりである。店主に訊いた所、レジスの特徴にそっくりな男に子供の事を訊ねられ、もしこの木彫りのリスを知る者がいたら知らせて欲しいと頼まれたそうだ。
 しかし残念な事に、店主は連絡する場所を忘れていた。何日かしたらまた来るといっていたので、その時伝えればいいと考えてしまったらしい。ケインは店主に無料宿の場所を記憶に残るように教える。
 とにかくレジスとの接点は見つかった。ケインは無料宿へと急ぐのであった。

 李は今日三つ目の村の教会を訪ねていた。
「これは!」
 礼拝所の棚に木彫りのリスが置かれていた。李は司祭に訊く。髭のある男がやってきて木彫りのリスを手に子供の事を訊ねられた。だが避難者への対応が忙しい時であり、大した事をしてやれなかった。そして木彫りのリスだけが残されたのである。
 李は教会の避難者達を訊ね回る。話を繋げると、足に怪我をしてしまった母親の側を父親は離れられず、結果、兄妹と生き別れてしまったそうだ。母親を預かってもらえる場所を見つけてから、血眼になって兄妹捜しているらしい。
 母親が預けられている場所とかの細かい情報は得られなかった。避難者達の疲労の色は濃く、きっと父親も必要以上の負担をかけるのをためらったのだろう。李も同じ印象を持ったのだった。
 李は司祭に経緯と無料宿の場所を伝えた。そして木彫りのリスを譲り受けた。兄妹が見れば力づけられるはずだ。李は無料宿へ駆けるのだった。

 セッツァーは昨日に引き続き、往来の街道で捜していた。しかし兄妹に繋がる話しは聞けなかった。
「そうならば」
 セッツァーは考え方を改めて灰をたくさん集める。何かわかる事があるかも知れないと。
 馬で駆け、できる限りの村を回り、焚き火の跡を捜すと灰を手に入れる。ギリギリの時間まで集めるとパリへの道を急いだ。

「お帰りなさい」
 マリアローズは無料宿に戻ってきた仲間に声をかける。市街を捜し終わった後で、早めに無料宿に来て兄妹の世話をしていた。
 全員が集まって話し合いが行われる。初日とは違って様々な情報が集まった。父親が自分の彫ったリスを訊ねた場所に置いていきながら兄妹を捜している事。母親が怪我をしている事。一度はパリを訪れたが、今は周辺の村を捜している事などだ。
「お父さん、お母さん‥‥」
 テゥールが李が持ち帰った新たな木彫りのリスを抱えて泣いていた。クロードはテゥールを慰めている。アニエスは返してもらったサンタクロース人形を握りしめた。
「見つかりましたデス!」
 マリアローズが大声を上げ、部屋にいる全員が眼を大きく見開いた。
 ある灰が元は木彫りのリスだと話してくれたそうだ。セッツァーはもちろん灰を拾ってきた場所を記憶している。捜す途中で彫った可能性もあるが、アニエスは余程の腕でない限り、落ち着いた場所でやらないと仕上げられない出来だといった。母親を介護しながら作った失敗作を焼いた後の灰である可能性が高かった。
 明日みんなで灰があった村に出向く話が決まる。
「テゥール殿、泣いちゃいけない。この木彫りのリスは希望のリスなのだからな」
 李の言葉にテゥールは顔を上げ、大きく頷くのだった。

●再会
 ケインの馬に兄妹を乗せて冒険者達は灰のあった村へと出かけた。
 村に着いて訊ねると、村の長の屋敷で避難者の世話しているのがわかった。
 屋敷に着いて事情を説明するとある部屋に案内される。扉を開けると茶色い髪の女性がベットに横になっていた。
「おかーさん!」
 母フローレルにテゥールが駆け寄る。クロードも堪らずに走った。
 フローレルは兄妹を胸に抱き締める。むせび泣き、何度も我が子の頭を撫でていた。親子だけにしてあげようと冒険者達は部屋には入らずに扉を閉める。
 廊下の角から一人の男が現れた。
「もしかして‥‥」
 兄妹がいっていたレジスの特徴そのままの人物だ。
「クロードさんとテゥールさんのお父さん、レジスさんですか?」
 アニエスが訊ねると男は「はい」と答える。
「もしかしてあなた達が? 木彫りのリスを置いてもらった店主から教えてもらって宿にいったのですが、出かけたと聞きまして。そこでフローレルの所に戻ってきたんです。クロードとテゥールはどこに?」
 スケマチカチは部屋の扉を開けた。レジスは部屋を覗く。
「お父さんだ!」
 兄妹一緒に、今度は父親レジスに抱きついた。
「すまなかった。ごめんなあ――」
 レジスは何度も兄妹に謝る。冒険者達は再び扉を閉めると庭に出た。
「あ、あの‥その‥‥私‥この後‥ここの‥手伝いを‥しよ‥うと‥思うん‥です‥けど‥‥よろ‥しかったら‥手伝って‥欲しい‥なって‥」
 涙目のスケマチカチは真っ赤な顔で全員に話しかける。
「そうだな。夕方になる前まではここを手伝っていこう。まだ兄妹とさよならの挨拶もしていないし」
 セッツァーが答え、全員が同意した。
 空は晴れていた。しばらくは雨が降る度に災害を思いだすだろう。だがいつかは思い出になるはずだ。そう思いながら冒険者達は手伝いを始めるのだった。