ミラのレッスン アロワイヨー
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:1 G 9 C
参加人数:5人
サポート参加人数:4人
冒険期間:11月17日〜11月26日
リプレイ公開日:2007年11月24日
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●オープニング
パリから北西、ヴェルナー領の北方に小さなトーマ・アロワイヨー領はあった。
トーマ・アロワイヨー領主となった青年アロワイヨーにまつりごとの他にもう一つ悩みがある。
パリ近郊の森の集落で出会った娘ミラのことである。今は城下の商家へと世話になり、城にいるアロワイヨーとは離れて暮らしている。互いに好意を持つ二人の間は接近していたが、それを快く思わない者もいた。
「アロワイヨー様。このままでは、取り返しのつかない事になります。出過ぎているのは重々承知しておりますが、お話をさせて頂けませんでしょうか?」
「どうしたんだ? かしこまって。顔をあげくれ」
城の一室。机に座り、書類に目を通していたアロワイヨーの前で執事が跪く。アロワイヨーは席から立ち上がり、執事の前で片膝をつく。
「ミラ様についてで御座います。お二人が惹かれあっているのは周知でありますが、それとご結婚の話は別で御座います。以前の富豪のままで居られたのなら、少々の反対を押し切られても問題はなかったやも知れませんが、今は一領主のお立場。好いた惚れただけではお相手を決めることは出来ませぬ」
「そんな事はいわれなくてわかっている‥‥」
「いえ、わかっておりません! 例えるならチェスのようなもの。先の先の先を読み、次の一手を考えた上で行動しなければ、ミラ様との結婚はとても困難なのです。今からでも遅いやも知れません」
「わたしも考えてはいる。この間の収穫祭でのマルピス爵との一件もあったしな。‥‥どうやら考えがあるようだな。聞かせてくれ」
アロワイヨーは執事に訊ねた。マルピス爵が自分の娘を強く薦めてきたのを、思いだしながら。
「とにかく、まずはミラ様のご教育で御座います。傲慢に聞こえるやも知れませんが、やはり領主の妻に相応しい振る舞いが出来なければなりません。そうでなければ、城の者達も、領民も納得しないでありましょう。こればかりは付け焼き刃でどうになるものではなく、時間がかかります」
「それが出来るようになれば何とかなるのか?」
「いえ、それだけでは不十分で御座います。ただ、これが出来てから次の段階に移りませんと、どうにもなりません」
「そうか‥‥。いわれて見ればその通りだな。ただ‥‥ミラがそこまでわたしの事を思っているかがな‥‥」
「もっと自信をお持ちになって下さいませ。ミラ様はわざわざ離れたこの土地に来られたのですぞ? 頼る者がアロワイヨー様しかおられぬのに。女の独り身でどれだけ心細いものか」
「わ、わかった。わたしが悪かった。ちゃんと話すよ。ただ、いきなりビシバシと教育されてはミラも困惑するだろう。本式の教育を受ける前に冒険者に頼んでみようか。予行練習的な内容をね」
「いい考えで御座います。わたくしがパリに出向き、依頼を出したいと思いますが、お時間を頂けますでしょうか?」
「よろしく頼む。冒険者が来るまでには、ミラをちゃんと説得しておくから」
アロワイヨーは執事と約束をする。
(「そうだよな。先を読んで積極的に行かないと、回りの策略に巻き込まれてしまう‥‥」)
アロワイヨーは執事が立ち去った後、心の中で呟くのだった。
●リプレイ本文
●船着き場
「今回の私はちょっとちがうのですよ〜。真面目モードで歌を頑張るのですよ〜」
「真面目にお仕事? 珍しいから見に行きたかったわ〜」
一日目の朝、パリの船着き場でリア・エンデ(eb7706)と見送りのスズカはお喋りをしていた。
「ねえ? 双樹もそう思うでしょ?」
「そ、そんな事はないと思いますけど‥‥」
その場にはもう一人、鳳双樹(eb8121)の姿がある。スズカに訊ねられた双樹は視線をそらし、冷や汗をかきながら空を眺めた。
スズカは双樹にそっと耳打ちする。リアが歌ったあと、飲み物でも用意してあげてくれと。頷く双樹にスズカがウインクをした。
その頃、エフェリア・シドリ(ec1862)は甲板にあったベンチに座り、聖書を読んでいた。ミラにラテン語を教えるための予習をしていたのだ。
「みんなで楽しく勉強です。少し、楽しみです」
聖書を閉じたエフェリアはセーヌの揺らめく水面の輝きをしばらく眺める。
「絵も用意した方がいいかも知れません」
呟くと、エフェリアは立ち上がって甲板を見回す。
「そうなのかい。詳しいことは領地に着くまでによろしく頼むよ」
「はい。なんなりと」
甲板にいたシルフィリア・ユピオーク(eb3525)は領地に同行する執事との会話を終える。アロワイヨーとミラの領内での立場はあまり芳しくないようだ。
「執事さん、羊皮紙を持っていませんか?」
船室に入ろうとする執事にエフェリアが声をかけた。いつも持ち歩いているので、後で差し上げましょうと執事は笑顔で答える。
「黒龍もハヤオウも積み終わりました。シルフィリアさんのアルボルもついでに積んでおきましたよ」
「すまなかったね」
船底から現れたアーシャ・ペンドラゴン(eb6702)はシルフィリアに近づくと、船縁から港を見下ろす。
「もうすぐ出航って、船員さんがいってましたよ〜」
アーシャはまだ港にいるリアと双樹に声をかける。二人は大急ぎで帆船と港の間にかけられた板を渡った。リアが落ちかけたが、何とか持ち直して無事帆船に乗り込む。
帆船はまもなく出航した。
「お船はらくらくなのです〜」
リアはフェアリーのファル君と一緒に肩を左右に揺らす。
スズカに見送られて、帆船はセーヌを下り始めるのだった。
●トーマ・アロワイヨー領
帆船は二日目の昼頃ルーアンに入港し、一行は馬車に乗り換えた。夕方にはトーマ・アロワイヨー領に到着し、そのままミラが世話になっている商家に向かう。
「みなさん、アロワイヨーから聞きました。しばらくよろしくお願いしますね」
ミラが冒険者達を出迎える。執事は挨拶を終えると城へ帰っていった。
「ミラ様元気でしたですか〜? 応援に来たのです〜」
「ミラさん、お久しぶりですね」
「お元気でしたか?」
「お手伝いにきました。きっと、大丈夫です」
ミラは笑顔でリア、双樹、アーシャ、エフェリアと握手を交わす。
「さっそくなんだけど、人前に出る事も増えるだろうしさ。お古で悪いけど良かったら使っておくれよ」
「ありがとうございます! いいんですか? こんなにもらって」
ミラはシルフィリアから理美容用品一式と羽根付き帽子を受け取った。すぐに帽子を被ってみせる。
ミラが冒険者達を部屋に案内する。荷物を置いて少しくつろいだ頃に晩餐の時間となった。
広間でミラと冒険者達が食事をしていると、ひょっこりとアロワイヨーが顔を出す。
「ミラをよろしくお願いするね。全ての日は無理だが、なるべくわたしも顔を出すようにするので」
挨拶だけでアロワイヨーは城へ帰る。時間がないのにお忍びでやって来たようだ。ミラが心配なのだろう。
その日の夜、冒険者達はふかふかのベットで就寝するのだった。
●ラテン語
「それではラテン語、教えます」
エフェリアが自分の聖書を手にして立ち上がる。ミラだけでなく、仲間全員が勉強のテーブルについていた。個人的興味もあるし、ミラを緊張させない為でもある。誰が講師をしたとしても、全員で参加する事をここまでの旅路の間に決めてあったのだ。
聖書は商家の人が貸してくれたおかげで、とりあえず全員が手にしていた。
「絵を描いておきました。こんな感じのお話です」
エフェリアは立て掛けた板に羊皮紙を貼り付けてから、聖書の朗読を始める。ラテン語がわからない双樹とアーシャでも、なんとなく内容がわかった。ノルマン王国に長くいれば、聖書の人物の名前ぐらいはどこかで聞いた事もあるし、聖書の逸話も同じくである。
「なるほどね‥‥」
アーシャは自分なりにわかった事を箇条書きにしてゆく。筆記用具なども自ら用意してやる気まんまんである。
「はう〜、なかなか難しいのですよ〜」
それなりにラテン語もわかるリアだが、こうやって本を手にして向かうと目玉がグルグルと渦巻きになっているような気分になる。
「ミラさん、わかりますか?」
「ラテン語はわたしも初めて。でも覚えないといけないですね」
双樹とミラは二人でエフェリアに質問をしてゆき、単語の意味を教えてもらった。
「一人で勉強って言うのは結構心細いもんだからねぇ〜」
シルフィリアも会話には困らない程度にはラテン語を理解出来る。簡単な事ならわかるので、仲間に聞かれると教えてあげた。
「それでは、賛美歌を唄います。一度唄ってみるので、みなさん、後に続いて一緒に唄ってください」
勉強も佳境に差しかかり、全員が席を立ち上がる。
リアがお手伝いとして妖精の竪琴で伴奏をする。滞在日数に余裕があるので、リアの音楽鑑賞は別の日に用意されていた。
歌声が室内に響く。最初はバラバラであった歌声が徐々に合っていった。
最後にエフェリアがゲルマン語での意味を教えて、ラテン語の勉強は終了した。
●オシャレと貴族
「まずは変身さ」
四日目はシルフィリアの担当である。
昨日渡したものや、持ってきた服飾品でミラにオシャレをさせてゆく。
ミラを椅子に座らせて化粧の仕方を実践しながら教える。
今回の参加は女性ばかりであった。自分がしている普段のオシャレの仕方を教え、逆に教えられていくうちに時間が過ぎてゆく。
「ミラさん、お肌きれいですね♪」
アーシャが感心しながらミラを眺めていた。髪型が整えられ、化粧をされて、着替えが終わる。
「ちょっと作ってきたので、つけてみて下さいね」
最後に双樹が持っていた香水を手首の裏につけてあげた。
「ミラ様、きれいなのですよ〜」
「キレイです」
リアとエフェリアはじっとミラを見つめる。
「こんなのわたしじゃないみたい‥‥」
「あたいにはあたいの、ミラさんにはミラさんの一番輝ける姿があるのさ。元が良いんだから自信を持ちな」
ミラの変身具合にシルフィリアも満足げであった。
「こ、これは! アロワイヨーさんに見せないと! あっ!」
「みなさん、何をしているのですか?」
アーシャがあたふたしていると、本当にアロワイヨーが現れる。
「アロワイヨー‥‥どう?」
「えっと、‥‥あのそのだな‥‥」
アロワイヨーが恥ずかしそうに困っているので、冒険者達は部屋を出て二人っきりにしてあげた。
しばらくして全員が部屋に戻る。
それからは談笑混じりに貴族の接し方について話題が弾む。
「相手の面子を潰さないようにするのも大切だよ」
シルフィリアはなるべく丁寧に説明する。
「私は目を見て判断する事が多いですね‥。作り笑いを浮かべていても目は笑っていないという事も往々にありますから‥」
双樹も話題へ積極的に参加した。
貴族は表の顔と裏の顔を使い分ける。権謀術数が特に激しい世界と考えてもいい。それとなくシルフィリアと双樹はミラに教えた。表面的な言葉の意味だけでなく、相手の本音がどこにあるのかを常に考えておかなくてはならないと。
あまり怖がらせないように話す二人だが、こればかりはちゃんとしておかないと、とんでもない策略がかかってしまうかも知れない。
アロワイヨーが帰るまで、話しは夜にまで及ぶのであった。
●作法
「今日と明日はアーシャさんとご一緒に礼儀作法をお教えいたします」
「私も教えることで貴族の礼儀作法を再確認をしようと思っています」
五日目と六日目は、双樹とアーシャが共同で礼儀作法の講習である。まずはジャパン式の作法を双樹が教え始める。
「畳というものがジャパンにはあります。それには靴を脱いであがるのです」
「わざわざ、ベットに入る訳でもないのに靴を脱ぐんですか?」
双樹の説明にミラは驚く。
「お辞儀はこうやってやります。真似してみてください」
双樹はお辞儀をしてみせた。
ノルマン王国とジャパンは密接な関係にある。領主の妻となればいつかはジャパンの侍特使などと接する機会があるかも知れない。ジャパンに行く事もあるかも知れない。覚えておけば、将来役に立つはずである。
月道で繋がってはいるが、本来は遙か遠くの異国だ。文化風習は明確に違う。双樹の行動で時々目にしていたが、あらためて説明を受けると目から鱗の仲間であった。
「私の家では、女の作法は殿方を立てるため‥と教えられました。自分の好きになった方に恥を欠かせないようにするため‥と理解しております。一緒に頑張りましょうね♪」
双樹の言葉にミラは強く頷く。
続いてはアーシャの騎士の作法である。
「こんな感じですよ。やってみて下さい」
「はい」
まずは基本の挨拶の仕方、言葉遣いなどをミラに教えた。
「正式な場などでのマントの着用は認められていませんので特に注意をして下さいね。それから――」
細かいことを思いだしてはアーシャが伝える。それをミラはメモしていった。
昼食時にはテーブルでのマナーについてが講義された。
「背筋はぴんと伸ばしてください。顔がこわばらないように〜」
午後にはアーシャが男性役となり、ホワイトドレス姿のミラと社交ダンスを踊る。
髪型や化粧はミラ自身がやってみたものである。いつかは侍女に任せるようになるのだろうが、最低限の事はわかっていた方がよい。
「うふふふ、素敵ですよ、とてもよくお似合いです」
アーシャに褒められてミラは顔を真っ赤にした。
あいにくとアロワイヨーは忙しくて顔を出せなかったが、踊る二人の姿をエフェリアが絵に留めておく。いつかはアロワイヨーとミラが踊る姿を描くことを思いながら。
乗馬の時間が用意されてミラにアーシャが教える。今の時代、どんな事態が起こってもおかしくはなく、馬に乗れるということは貴婦人であっても損になる事はない。
愛馬を貸してアーシャはミラに上手な操り方を教えるのであった。
●音楽鑑賞
「ふふふ〜私の本領発揮なのですよ〜。でわでわ準備してくるのです〜」
七日目、リアは不適な笑みを浮かべると、隣りの部屋に向かった。エフェリアも、トコトコと長い髪を揺らしながらついてゆく。
「真面目にやるといっていたけど‥‥」
双樹は心配気味にリアの登場を待つ。
アロワイヨーも時間の都合をつけて、みんなと一緒に席へ座っていた。
「皆様、お待たせ致しました。では早速始めさせてもらいますね」
ドアを開けて部屋に入ってきたリアは礼服に着替えていた。お淑やかに、流れるような立ち振る舞いで用意を終える。エフェリアも礼服に着替え、サポートとしての準備を整えた。
リアをよく知る者達は口を大きく開けて驚く。手伝っているエフェリアも驚き気味である。
「それでは」
リアは自ら妖精の竪琴を奏でながら唄う。
一同は次第と唄に引き込まれてゆき、驚きから感心に変わり、そして音楽に身を委ねる。
リアは、トーマ・アロワイヨー領内で調べてきた歌を唄う。そしてパリで知ったノルマン王国の歌、故郷のイギリスの歌、エフェリアの協力を得てラテン語の賛美歌も唄った。
「〜〜♪ ‥‥皆様ご清聴いただき、有難うございました」
歌が終わり、一同から拍手が巻き起こった。リアは一礼してエフェリアと一緒に隣りの部屋へと消えた。
「はう〜」
再び現れたリアはいつものリアであった。へろへろと歩きながら、椅子に座り、テーブルへ上半身を伏せさせる。
「真面目モードは疲れるのですよ〜。おなかすいたのです〜」
さっきまでキリリとしていた瞳と眉もトロンと下がっている。
「はい。リアさん、お疲れさまでした。エフェリアさん、お疲れさまです」
双樹がアロワイヨーにもらった紅茶を煎れて真っ先にリアとエフェリアに出した。
お菓子も用意されて、お茶会が始まる。
「お茶が美味しいのです〜♪」
リアは美味しく紅茶とお菓子を頂く。
勉強の時間は終わる。それから夜遅くまで一同はゆっくりとした時間を過ごした。
●パリへ
「みなさん、ありがとうございました」
「ありがとう〜。勉強がんばります〜」
八日目の朝、アロワイヨーとミラに見送られて一行は馬車で出発した。誰もがアロワイヨーからもらったシルバーリースを手にしていた。
昼頃ルーアンに到着し、執事とお別れた後で冒険者達は乗船する。
九日の夕方にはパリの地を踏んだ。
「ミラが身を守る術を身につけてくれるといいのだけど」
「ラテン語、きっと覚えてくれます。アロワイヨーさんと大丈夫です」
「ミラさんのダンスステップ。最初から結構いけてましたよ」
「歌を楽しんでもらえたのなら、真面目になったかいがあるというものです〜♪」
「ミラさんは、きっと領主のいい妻になれますよ」
冒険者達はミラを話題にしながら、ギルドへの道を歩くのであった。